【コラム】中国単信(93)

中国茶文化紀行(30)花茶は昔の風流な遊び?

趙 慶春

 「窨花」と「提花」の工程は花茶製造での最も核心部分と前回紹介したが、「窨花」と「提花」の技術、いや「窨花」と「提花」という発想はいつからだったのだろうか。今回は花茶の歴史について少し触れることにする。

 『花茶品鑑』によれば、工場を作り、「窨製」技術によって大規模に花茶を作り始めたのは清王朝咸豊年間(1851~1861年)からである。ただし、それ以前から「窨製」花茶を記録した文献は複数存在している。時代順に見てみよう。

 ① 明代宋詡の『薫花茶』
 「用好浄錫打連盖四層 盒子一個,下一層装上号高茶末一半,中一層低透作数十個箸頭大竅,薄紙襯,松装花至一半,盒蓋定,紙封縫密。経宿開盒,去旧花換新花,如此一両次。湯点,其香拂鼻可愛。四時中但有香頭皆可為之,只要晾乾,不可带潤,若紙微潤,非徒無益,而又害之也。」
 (「純度の高い錫で、蓋を含めて四層構造の箱を一つ作る。下の層に上等の茶末を半分程度入れる。真ん中の層の底に数十個の箸先端サイズの穴を開けておき、薄い紙を敷く。ぎっしり詰めないように半分ほど花を入れる。蓋をして、紙で隙間をしっかり封する。一晩経て、蓋を開け、古い花を取り除いて、新しい花に換えることを一回か二回行う。その茶を湯で点てると、その香りが鼻に突いて可愛らしい。一年中花さえあればこの茶が作れる。日干しで乾燥すればよいが、湿気を帯びてはいけない。もし紙がすこしでも湿気を帯びたら、無益だけではなく、却って茶を害することになる」)

 ② 明代顧元慶が編纂した『雲林遺事』
 「蓮花茶:就池沼中――早飯前,日初出時――択取蓮花蕊略破者,以手指撥開,入茶满其中,用麻糸扎縛定,経一宿,明早連花摘之,取茶紙包晒。如此三次,錫罐盛扎以收藏。」
 (「蓮花茶:池や沼に赴き――朝食の前、日が出たばかりの頃――蓮の花蕊の僅かに破れたものを選んで、指で開けて、満杯に茶をいれ、麻の紐でしっかり縛る。一晩経て、翌朝花と一緒に摘み、茶を取りだして、紙で包んで晒す。上記の手順を三回繰り返して、錫の缶に入れて密閉して保存する」)

 ③ 南宋時代趙希鵲の『調燮類編』
 「用磁罐一層花一層茶,投間至满,紙箬扎固,入鍋隔罐湯煮。取出待冷,用紙封裹,置火上焙乾收用。」
 (「磁器の缶を用いて、一層の花に一層の茶を繰り返して、隙間なく満杯まで入れる。紙や竹の皮、あるいは大きい竹の葉で堅く縛って密閉し、缶ごと鍋の中に入れて煮る。鍋から取り出し、冷ましてから、茶を紙で包んで、火の上に置いて焙る。乾燥したらいつでも使えるように保存してよい」)

 また、同じ南宋時代の施岳の『茉莉』詞に「玩芳味,春焙旋熏」(芳しい味を弄び、春焙の後、すばやく薫花を行う)とある。「薫花」の詳細は記されていないが、茉莉花茶の製造を文学作品として詠んでいる。

 上記の記録によると、「窨花」の方法は南宋時代にすでに出現し、明代に引き継がれていたことが分かる。また、史料が少ないため断言できないが、商品としての大量生産、販売という痕跡は確認できない。恐らく南宋時代、明代の花茶製造、飲用はあくまで個人的趣味にとどまり、知識人の風流な遊びだったと推測できる。そして、花を取り除く「提花」の記述がないことは興味深い。

 繰り返すが、茶生産販売業界では「窨花」と「提花」の工程を経た花茶が正真正銘の花茶とされている。つまり、花の香がしっかり吸収されていて、花が取り除かれたものこそ花茶の王道というわけである。勿論、一部消費者の需要を満たすため花入りの花茶もある。
 しかし、利益追求のあまり一部の業者は「窨花」に使われ、すでに香を失った花を茶にブレンドして、「花茶」として販売している。これは詐欺行為であり、その茶も花茶とは言えない。したがって、花茶を購入する際には花の量ではなく、花の香がしっかり、かつ均等に茶に染み込んでいるかを判断基準としなければならない。

 ここでもう一つの問題がある。つまり、前述の『品読中国茶文化』が言及していた「香料が入っている茶」は花茶かという問題だ。香料は多種に及ぶが、天然、人工いずれもある。その詳細は省略するが、花以外の香がついている茶は花茶だろうか?

 中国では茶に香料を入れる歴史は決して浅くない。
 宋代の蔡襄(1012~1067年)が著した『茶録』の「香」条には、次のようにある。

 「茶有真香,而入貢者微以龍脳和膏,欲助其香。建安民間試茶,皆不入香,恐奪其真。若烹点之際,又雑真果香草,其奪益甚,正当不用。」 
 (「茶に真の香(植物の天然香)がある。しかし、宮廷に貢ぐ場合、茶の香りを助長しようとして、微量だが龍脳を以て茶膏を調和する。建安民間闘茶の場合、皆香料を入れない。茶の真の味を奪うことを恐れているからである。茶を点てる際、また珍しい果実や香草を混ぜるような作法は茶の味を奪うことがより顕著で、正しい作法として用いるべきでない」)

 「龍脳」(りゅうのう)は、龍脳樹という木からしみ出た樹脂が結晶化したもので、無色透明で顆粒状結晶体の香料である。この『茶録』によれば、中国の宋代にすでに茶に香料を入れることがあったが、茶本来の味を損なうため茶人には敬遠されてきたのだった。
 この捉え方は現在でも継承されていて、「香料入り」は喫茶では邪道とされ、殆んど使われていない。ただし、製茶段階での「香料入り」の習慣は欧米では散見される。また、喫茶段階での「香料入り」の習慣は中国の少数民族地域で見られる。ただ、いずれも主流ではない。

画像の説明
  香料入りのドイツ製の花茶。
  原材料名:白茶、6%ローズ花びら、香料

 (大学教員)

                             (2021.07.20)
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