【コラム】中国単信(97)

中国茶文化紀行(34)茶と花の薬用

趙 慶春

 花茶の紹介本には、たいてい花茶の薬用効果についての記述がある。茶と花(特に乾燥した花)は共に漢方薬の原料となって利用され、薬として活用されている。
 「漢方医薬」という名称は日本でも知られ、馴染みある言葉だが、「漢方」と聞いただけで不信感に包まれ、敬遠する日本人は決して少なくない。一方、中国での「漢方医学」(中国語では「中医」)は庶民生活と密接であり、西洋医学以上に庶民に利用され、信頼されている。「中医院」(漢方医学病院)や個人の「漢方医診療所」が町中に林立し、辺鄙な田舎でも漢方医が必ずと言っていいほどいるのがそれを証明している。

 日中両国のこの「漢方認知度」の差は多くの要因が考えられるが、なんと言っても長年の伝統文化の積み重ねが庶民の漢方受容度の差になっている。日本人にとって、「漢方医学」のイメージは十人十色だろうが、背中にたくさん針を刺す「針治療」と、ボール状のガラス容器と直火で背中や頭に数センチの赤黒い痣を残す「灸治療」などを知っている人は少数派だろう。同じように本格的な「漢方薬」の作り方や煎じ方法を知る日本人も少ない。

 筆者は幼い頃、親の手伝いでよく「漢方薬」を煎じたことがある。湯沸かしポットより一回り大きい陶器壺に、乾燥したさまざまな草の葉、樹の根(勿論すべて漢方薬)、その他に正体不明の物を入れて、水を満杯にしてじっくり煮込む。数時間後、茶碗一杯ほどの煮汁を残して完了である。この煮汁が漢方薬なのだが、真っ黒で一部植物の滓も残ったままで、しかも非常に苦くて飲みづらい。大人は我慢して飲むが、子供には砂糖も用意して、薬一口、砂糖一口といった具合に、あの手この手でごまかしながら飲ませるのが常だった。もっと苦痛なのは、この苦い汁(薬)を最低でも二、三週間飲み続けなければならなかったことだ。

 このような漢方薬はよほど信念がなければ飲み続けるのは難しい。近年、この調剤しにくい、飲みにくい点を改善するために、錠剤や顆粒状にして成果をあげているが、まだ一部に過ぎず、漢方薬全体に応用するまでには程遠い。
 しかし、「調剤しにくい」「飲みにくい」と言われる欠点はすべての漢方薬に当てはまるわけではない。手軽に調達でき、飲みやすく、しかも健康的な、副作用もない漢方薬としては、茶と花を主な原料とした物が意外に多い。下記に簡単に利用できる茶と花の漢方薬を処方箋様式で紹介しよう。

(1)原材料:茶3g、菊の花9g。
    用法:喫茶と同じく、湯を注いで、その浸出液を少しずつ飲む。
    効果:夏季の倦怠感、頭や目の混濁感を取り除く。
       (『茶療薬膳』より)
(2)原材料:良質緑茶3g、枸杞の実10g、白菊花10g。
    用法:湯を注いで、10分間蓋をして蒸して、茶の代わりに頻繁に飲む。
    効果:肝臓腎臓機能不全による視力の衰退を改善する。
       (『茶療薬膳』より)
(3)原材料:茉莉花茶3g、菊の花3g、槐花3g。
    用法:湯を注いで5分間蒸して、茶の代わりに毎日複数回飲む。
    効果:肝臓機能を調和し、中年の精神不安定の改善。
       (『茶療薬膳』より)
(4)原材料:茶、茉莉花、胡麻、生姜、ピーナッツ適量。
    用法:胡麻をごま油で揚げ、ピーナッツを炒めて、ほかの原材料と
       ともに、臼で擂り潰す。毎回1匙分、湯を注いですぐ飲む。
    効果:長寿、健康維持に有効。
       (『茶療薬膳』より)
(5)原材料:緑茶2g、タンポポの花蕾(乾燥)6g。
    用法:茶のように湯を注いで飲む。1日1服。
    効果:解熱解毒、神経覚醒。長く机に向かっていたり運動量が少ない時、
       脳や目の疲労、めまい、腰のしびれと背中の痛み、気力後退、
       頭がボーッとする等々の症状。
       (『茶療薬膳』より)
(6)原材料:茶3g、山査子10g、菊の花5g。
    用法:茶のように湯を注いで飲む。1日1服。
    効果:消化を促進し、高血圧高血脂症の改善。
       (『茶療薬膳』より)
(7)原材料:茶適量、乾燥した牡丹の花びら
    用法:牡丹の花びら1gと適量の茶に湯を注いで飲む。
       1日朝と晩2服。凡そ20日で効果が現われる。
    効果:脱毛症状の抑制。
       (『茶療薬膳』より)
(8)原材料:茉莉花茶3g、桂花(キンモクセイの花)5g。
    用法:まず桂花に200㏄の水を加え、沸かしてから茶を入れる。
       再度沸騰したら喫茶のように頻繁に飲む。
    効果:口臭解消。
       (『茶療薬膳』より)
(9)原材料:緑茶3g、葛花(クズの花)10g、リョクトウの花10g。
    用法:濃く煎じて飲む。
    効果:酒酔い予防、酒酔い解消。酒を飲む時、同時にこの汁を
       飲むと、痛飲しても酔わないと言われている。
       (『茶療薬膳』より)
(10)原材料:緑茶3g、月季花(ロサ・キネンシス)6g、黒砂糖30g。
    用法:300㏄の水を加えて5分間煮込んで、三回分けて食後に飲む。
       1日1服。
    効果:生理不調生理痛の抑制。
       (『女性飲茶』より)
(11)原材料:使用済の茶の葉を水切って、包帯に使う材質の布袋に入れる。
    用法:目を瞑って、茶袋を10分~15分ほど載せておく。
    効果:目の疲労解消、クマの解消。
       (『女性飲茶』より)
(12)原材料:菊の花茶適量。白菊の花茶は黄菊の花茶より効果大。
    用法:綿棒など適宜な道具で茶湯を目の周りに塗る。
    効果:目の疲労と腫れ解消。
       (『女性飲茶』より)
(13)原材料:プーアル茶適量、乾燥した菊の花5粒。
    用法:湯を注いで喫茶同様に飲む。
    効果:消化を促進し、油脂を除去。(『女性飲茶』より)
(14)原材料:ウーロン茶と白菊の花適量。
    用法:湯を注いで喫茶同様に飲む。
    効果:安眠促進。オフィスなど電子機械の微量放射線除染。
       (『女性飲茶』より)

 上記の「茶」と「花」による「処方箋」を見ればわかるように、漢方医薬は中国人にとって、これほどまでに身近である。筆者は「漢方」にはまったくの素人だが、以下のような「漢方」に対する中国人共通の認識には同感である。

 1、西洋医薬品のような化学的調合が皆無で、純天然のもののみ使用。
 2、人間の身体を一つの「小宇宙」と考え、体の各部分は互いに影響し合い、連動している。さらに人間の身体は自然界の「大宇宙」とも連動しているため、病気の症状だけで考えず、関連する部分から病気の源を探し出して、「大宇宙」と関連する天然植物などを利用して治す。
 3、漢方医薬の根本的な方針とは、現れた病状を抑えるのではなく、「陰陽」、「寒暖」、「実虚」などの概念を利用して、あくまで全体を調整して正常状態に戻す。

 「医食同源」、「薬膳」、「養生」などの概念も上記の特徴から生まれたもので、その代表格が「茶」であり、「茶と花とのコラボ」である。最近の中国における「喫茶ブーム」、「プーアル茶ブーム」、「蔵茶ブーム」などはいずれもここに由来している。それは日本、いや世界の「発酵食品ブーム」などとも共通している。
 「茶香」という言葉があるが、「薬香」という言葉を聞いたことはおありだろうか。中国の漢方薬局では、壁一面が小さな抽斗になっていて、そこから漢方薬の独特の香りが漂ってくる。この「薬香」は「茶香」と同じく精神安定の効果、いや精神陶酔の効果があり、花屋の香りが足下にも及ばないほど「すばらしい」。

 (大学教員)

(2021.11.20)
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