【コラム】中国単信(100)

中国茶文化紀行(37)茶の心身健全効果と薬効③

趙 慶春

 茶の「病気治癒・改善」効能については唐代以前にすでに「酒酔い解消」「目の疾患の治療(目機能向上を含む)」「解毒」「食欲低下改善」「胃麻痺改善」の五つが知られていた。
 唐代、宋代になると、茶の薬用効能はさらに見いだされていくのだが、ここでは先ず唐、宋の茶詩史料に基づいて紹介しよう。

<1>「肺渇」解消
 肺渇とは体内に熱が籠って喉が渇き、水分を欲する病症である。
 資料例:白居易の『東院』。
 「……老去歯衰嫌橘醋,病来肺渴覚茶香。」(老いると歯が衰えて橘の酸っぱさを嫌うようになる。病気で肺渇の症状が現れ、茶の香に魅かれる)とある。

<2>「消渇症」療育
 消渇症とは多飲、多尿、多食、痩せ、疲労感などの病症で、恐らく現代の糖尿病だろう。
 資料例:黄庭堅の『用前韻戯公静』。
 「偶逢携酒便与飲,竟别我為何等人。兔月龍団不当惜,長卿消渴肺生塵。」(偶然酒を携えている人と出会い、ついでに一緒に飲むことにしたところ、意外に私がどのような人か分別できた。兔月龍団茶は惜しむべからず、司馬相如は消渴により肺に塵が生じたようだ)とある。

<3>肺を清める
 資料例:徐集孫の『賦雪』。
 「漫天飄瑞圧囂塵,一夜西湖幻出銀。煎入茶鐺清肺腑,吟帰詩句爽精神……」(満天の瑞雪が漂い、かまびすしい塵埃を圧し、幻惑のように一晩で西湖を銀の世界に変えた。茶鐺に入れて茶を煎じると肺を清め、詩句を吟じれば精神を爽快にさせる)とある。

<4>「肺石病(肺結石)」和らげる
 資料例:貫休の『冬末病中作』。
 「胸中有一物……唯疑是肺石……教洗煮茶鐺,雪団打隣壁。」(胸の中に一異物があり、ただ肺石と疑われている……童に煮茶鐺を洗わせたが、腕白で雪ボールで隣家の壁を打ったりして遊んでいる)とある。

<5>肺・肝を清め、益する
 資料例:呂陶の『答岳山蓮惠茶』。
 「春芽不染焙中煙,山客勤勤惠至前。洗涤肺肝時一啜,恐如云露得超仙。」(春芽茶は焙の中の煙に染み込まず、山客が慇懃に私の前まで贈ってきた。時に一啜りをして肺と肝臓を清め、恐らく雲露の如き得度を得る)とある。

<6>肝臓脾臓を清め、益する
 資料例:黄庶の『家僮来持双井芽数数飲之辄成詩以示同舍』。
 「……不信試来与君飲,洗出正性還肝脾。」(信じなければ君が試して飲んでみよう、清めて肝脾を本性に戻す)とある。

<7>胃腸を清め、益する
 資料例:郭祥正の『招孜祐二長老賞茶二首』。
 「昔人多嗜酒,今我酷怜茶。軟玉裁成餅,軽雲散作花。石泉助甘滑,腸胃涤煩邪……」(昔の人は多く酒を好むが、今、私は大いに茶を愛している。軟玉のような蒸した茶原料を茶餅に裁き、軽雲のような茶末が広がり花を作る。石泉が茶の甘さと滑らかさを助け、胃腸の煩邪を洗い落とす)とある。

<8>胃の調子を整える
 資料例:黄庭堅の『謝王炳之惠茶』。
 「家園鷹爪改嘔冷,官焙龍文常食陳。」(故郷の鷹爪茶で胃寒症を改め、よく官焙の龍文茶の古いものを喫する)とある。

<9>「消脂解膩」(脂肪やあぶらをとかして流しだす)

 資料例1:趙鼎の『蒲中雑咏・建安堂』。
 「瀟然一枕北窓涼,唤取樵青発嫩香。净洗西州羊炙口,要看妙語落冰霜。」(ゆったりと北窓の涼しいところに一睡して、女奴を呼んで茶をいれてもらう。西州で羊のあぶらで汚された口を洗い清めて、素晴らしい言葉で高潔さを表しているものを見ようとする)とある。

 資料例2:釈宝曇の『茶香』。
 「繞甌翻雪不須疑,到歯余香亦解肥。」(茶甌の中心を回してひっくり返している雪のような茶沫を疑う余地がなく、歯の到るところ香を残してまた肥脂を解かす)とある。

 資料例3:岳珂の『胡羊二首』。
 「……酪腻正需茶」(酪の脂っぽいしつこさにまさに茶を必要とする)とある。
 これら3例に見られる「消脂解膩」の効能は肉によるもの、乳製品によるもの、口感的なもの、内臓のもの、すべてに茶が効く。

<10>消化を促進する

 資料例1:曾几の『衢僧送新茶』。
 「斎腸得飽又逐去,午夢欲成還唤回。定是僧家不堪此,满匳青箬送春来。」(斎戒のため断食したお腹が満腹を得たところ、新茶でその満腹感はまた消えた。昼寝して夢を見ようとしているところ、新茶でまた呼び戻された。きっと僧家がこれに堪えられず、青箬で包装してこの春のシンボルになる新茶を送ってきただろう)とある。

 資料例2:曾几の『煎茶』。
 「……飲罷妻孥笑,枯腸百転鳴。」(茶を飲み終わったところ妻と子供が笑い出して、枯腸はこだまがするほど鳴る)とある。

<11>痩せる効果
 資料例:趙師秀の『喜徐道暉至』。
 「嗜茶身益瘦,兼恐欲通仙。」(茶を嗜好してますます痩せていき、あわせて仙に通じようと望むことを恐れている)とある。

<12>「熱毒」を取り除く
 資料例:楊衡の『経端溪峡中』。
 「……逍遥一息間,糞土五侯栄。搴茗庶蠲熱,漱泉聊析酲。」(一息の間に逍遥して、五侯の栄華を糞のように軽視する。茶を摘んで大いに熱毒を取り除き、泉を啜って聊か酒酔いを醒ます)とある。
 漢方医薬では精神的なイライラがもたらす熱を「熱毒」と称し、毒の一種だと考えている。ここの「熱」は恐らく平温を超える体温の熱ではなく、「熱毒」のことだと思われる。

<13>腹部の腫瘍を抑える
 資料例:梅尭臣の『答宣城張主簿遺鴉山茶次其韻』。
 「……嘗聞茗消肉,応亦可破瘕。飲啜気覚清,賞重嘆复嗟。」(嘗て茶が肉を消す効能を聞いたことがある。したがって腹部の腫瘍を潰すのも可能だろう)とある。

<14>暑気払い効果
 資料例:衛宗武の『和野渡雪消二律』。
 「……待駆炎暑煮春茶」(炎暑を駆除したいなら春茶を煮る)とある。

<15>瘴気(山川に生じる毒気)抑制
 資料例:李綱の『飲修仁茶』。
 「北苑龍団久不嘗,修仁茗飲亦甘芳。誇研闘白工夫拙,辟瘴消煩気味長。」(北苑の龍団茶を味わえなくなって久しいが、修仁茶はまた甘くて芳しい)とある。

<16>偏頭痛を治療する
 資料例:劉跂の『舍弟寄茶』。
 「……四两应爲蒙顶仙。病子头风如得药……」(四両の茶は蒙頂の仙茶だろう。偏頭痛の病身は薬を得た如く)とある。

 (大学教員)

(2022.2.20)
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