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【コラム】中国単信(112)

中国茶文化紀行(49)中国雲南省「布朗族」の「酸茶」

趙 慶春
     

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(写真1)
 布朗山は中国雲南省西双版納の勐海県に位置し、中国とミャンマーの国境に近い。古茶園が最も多く保存されている地区の一つである。「老曼峨」は1400年ほどの歴史を持ち、布朗山の最も古い集落で、布朗族の原籍と言われている。今の「老曼峨」は200戸あまり、1000人前後の人々が暮らしている(写真1)。

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(写真2)           (写真3)
 「老曼峨」は熱帯雨林の山間部に位置していて、険しい山道を辿って行く、静かで平和な山村である(写真2)。「老曼峨」では、住宅の傍、庭、路端、藪の中、どこでも古茶樹が見られる(写真3)。
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(写真4)           (写真5)
 「老曼峨」の茶王樹と茶后(きさき)樹。5年間の茶摘み権利はどこかの大富豪に38万人民元(約630万円)で買われたので、柵で囲まれるようになった(写真4)。筆者のインタービューを受けてくれたある布朗族の住宅兼茶加工場(写真5)。

 酸茶はお茶を食用とする代表格と言ってよく、以下ではその作り方を記しておく。
1、茶樹の古い葉を採ってくる。
 古い葉とは製茶用の1芯1葉、1芯2葉ないし1芯3葉4葉という若葉ではなく、一通り製茶が済んだ後、しばらくして摘むその年に生えてきた葉のことである。この地域には「烤茶」という喫茶様式も存在していて、数年から十数年経過した古い葉も使われるが、酸茶用の茶の葉はその年の葉を使うのが基本である。つまり酸茶用の茶の葉は烤茶より若く、製茶用の茶の葉より古いことになる。
また茶の葉の新鮮さを問わないため、小枝ごと摘むケースが多いようだ。

2、葉の選別、整理
 小枝や茎などを取り除き、元気な葉だけ集める

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(写真6)
 老曼峨の布朗族は茶摘みのコツは子どもでも分かっていて、今回の酸茶の製造原料の採集も真ん中の子供に手伝ってもらった(写真6)。

3、茶の葉を茹でる
 30分ほど茹でる。
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(写真7)           (写真8)
 三十分待つ間、女主人が布朗族の民族文化を紹介してくれた。山の奥で生活しているとはいえ、情報量が豊富で日本のこともよく知っていた(写真7,8)。

4、茹でた葉を冷やしておく。
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(写真9)
一般的におよそ三日間置いてから、竹筒に詰める作業を行う(写真9)。

5、詰める作業
茶の葉を一握り取って、指の力ですこし固めて、竹の筒に入れる。

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(写真10)           (写真11)
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(写真12)
 一定量を入れたら、箸や木の枝で茶の葉を筒の底へ押し込み、手の力だけで固める(写真10,11,12)。

6、竹筒が満杯になると、封をする。
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(写真13)
 芭蕉の葉を丸く固めて、筒の開口部に詰め込む。これは一重の蓋である。密閉用として現地の芭蕉の葉を使う。「就地取材」(現地で資材を調達し,現地の潜在力を十分に発揮させる)こそ布朗族の生活の知恵であり、酸茶だけではなく、日常生活で随所に見られる(写真13)。
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(写真14)           (写真15)
 封は二重にも、三重にもする。ラップは二重の封になる(写真14)。さらに紐で三重の封をする。紐も乾燥した植物の茎などを使う。紐を茶の葉を煮込む時に出る汁につけると、よりよい密閉効果が得られるようだ(写真15)。
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(写真16)           (写真17)
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(写真18)
ちなみに煮出し汁は暗い黄緑色で、我慢できないほど苦い。また、この煮出し汁に足を浸けて洗うと、水虫などの病気に効くという(写真16,17,18)。

7、完成と漬け込み保存
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(写真19)
 無造作に詰め込むのは中国東北の酸菜に似ているが、酸茶のほうは塩など一切入れず、漬けるのは茶の葉のみである。この竹筒をそのまま置いてもよいが、土に埋めたほうがなおさらよいと言われている。一か月ほどで、食べ頃になるそうだ(写真19)。

8、食べる時、好みに合わせて、唐辛子などの調味料を入れてもよい。
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(写真20)
食べるために開封したばかりの竹筒酸茶(写真20)。
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(写真21)
 雲南布朗山の茶は大葉種である。大きい葉は一か月漬けても、しっかり形を保っている(写真21)。

 布朗族の酸茶は秋に作られ、12月になると次第に作らなくなり、1月になるともう作れない。酸茶の味付けに「塩、生姜、葱、唐辛子、ニンニク」などがよく使われている。この点からは、酸茶も添加茶の部類に入る。

(2023.2.20)
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