【コラム】中国単信(113)

中国茶文化紀行(50)

宋代の添加茶② 病気治癒と健康志向のパターン
趙 慶春                              

 「宋代の添加茶①」に続き、宋代のほかの添加茶様式を紹介する。

二、 瘴気退治の添加パターン。
 郭印の『夔州』詩に「人伝蚯蚓瘴、俗飲茱萸茗」(人々の言い伝えでは蚯蚓瘴があり、俗の対応法として茱萸(しゅゆ)茶を飲む)とある。
 釈了惠の『偈頌七十一首』に「始信茱萸茶苦涩、展眉人少皺眉多。」(始めて茱萸茶が苦くて渋いことを信じた。飲んだ人は眉を伸ばすほうが少なく、顰めるほうが多いからである)とある。
 釈居簡の『九日』詩に「瓦鼎松声漲苦荼、替杯中物汎茱萸」(瓦鼎から湯がよい具合に沸かしてあることを示す松声は聞こえて、苦い茶を膨らませ、杯の中身を替えて茱萸を浮かばせる)とある。
 「瘴気」とは林で腐敗した植物や動物の死骸による毒ガスのことであり、温暖な南部一帯の森では、人々を悩ませる当時の「自然災害」の一つだった。茶の解毒効果に早くから注目し、瘴気抑制に使われたのは当然だろう。茱萸も殺菌消毒の効果があり、旧暦の9月9日(重陽の日)に用いられる理由もここにある。こうして南方の瘴気にも北方の「重陽登高」(重陽の日に高みに登る)の習慣にも「茱萸茶」が用いられるようになった。また、「薬用」つまり薬としての茱萸茶は「美味しい」からは程遠く、誰でもが眉を顰める苦い添加茶である。そのため漢方薬とする以外、現在は茱萸茶の利用はほとんど聞こえてこない。
 「茶の薬用」と今回、紹介した薬効のある「添加茶」とでは、いったいどのような区別があるだろうか?確かに「茶の薬用」と「薬効添加茶」とは区別しにくく、同一視される場合もある。しかし、筆者は敢えて両者を区別するのだが、その理由は以下である。
 「茶の薬用」では、茶は処方箋の中の一品で、あくまでも茶を含んだ薬である。しかも日常の喫茶感覚で飲むわけではなく、あくまで病気治療のためである。一方、「薬効添加茶」は喫茶を目的とするもので、日常の飲み物であり、健康志向はあっても特定の病気治療のためではない。史料としても前者は基本的に医学書に記載され、後者は茶詩など文学作品に現れるのが一般的である。ただし、中国古代文人は多少とも医療知識があり、体調の管理・調整、慢性持病の改善、病後の療養等々で茶に漢方薬品を入れて、日々、飲むことは珍しくなかった。このような場合、使用する漢方薬品は基本的に穏やかな薬効で、体質向上を目的としていたので、基本的に「薬効添加茶」と見なすほうが妥当だろう。

三、健康志向の薬効添加茶パターン
「川芎」(センキュウ)を添加する。
 劉克荘の『衛生』茶詩。
 「小郡無医自処方。采下菊宜為枕睡,碾来芎可入茶嘗」(小さい郡のため医者がいなくて自ら処方する。菊を摘み来て枕にして寝るのが宜しい。川芎を薬研で挽いて茶に入れて味わうべし)とある。
 韓琦の『詠川芎』茶詩。
 「靡蕪嘉樹列群芳、御湿前推薬品良。時摘嫩苗烹賜茶、更従雲脚発清香」(靡蕪はよい樹として群芳譜に列挙され、湿気を駆除する薬品として良い。時にその若い苗を摘んで賜茶を烹って、更に雲脚に従って清香を発する)とある。
 「靡蕪」は川芎の苗である。「枸杞」(クコ)を添加する。
 楊万里の『清明果飲』茶詩。
 「絶愛杞萌如紫蕨、為烹茗碗洗詩腸」(紫蕨の如きクコを絶愛し、茗碗で茶を烹って詩腸を洗ってくれたように創作閃きを齎してくれたからだ)とある。
画像の説明
(写真1:枸杞茶。枸杞は現代中国でも健康食材として幅広く認知され、喫茶のみならず、多くの健康食品にも使われていて、愛されている)
  
「蓮心」を添加する。
 虞俦に『以蓮心茶送巩使君小詩将之』(二首)と『以蓮心茶送江倅報以剥蝦佳句』などの茶詩がある。(詩の本文は省略)
画像の説明
(写真2:蓮心茶。苦みがあるが、知名度の高い健康茶の定番である)

「薄荷」(ハッカ)を添加する。
  李綱の『次韻申伯上杭道中見示』茶詩。
 「淮舟昔共茱萸酒、閩館今同薄荷茶。」(昔淮河の船で茱萸酒を共にし、今は福建の館で薄荷茶を一緒に飲む。)とある。
 
「鶏蘇」(イヌゴマ類)を添加する。
  黄庭堅の『以小団龍及半挺贈無咎并詩用前韻為戯』茶詩。
 「鶏蘇胡麻留渴羌,不応乱我官焙香。」(鶏蘇やごまをよく渇く羌などの民族の民に譲ろう、我が官焙龍団茶の香を乱すべからず)とある。黄庭堅はこの詩で鶏蘇やごまなどの添加物が官焙茶(恐らく北苑貢茶である)の香りを乱すから使うべきではないと訴えているが、逆に鶏蘇やごまを添加する習慣がかなり一般的であったことを示している。

「菖蒲」を添加する。
 釈紹曇の『偈頌一百一十七首』。
 「苦渋菖蒲茶、胶粘青蒻粽。嗅著鼻頭辛、咬得牙関肿」(苦く渋い菖蒲茶と、粘々する青蒻で包んだ粽。よく嗅ぐせいで鼻が辛くなり、よく噛むせいで歯は腫れる)とある。

「蜂蜜」を添加する。
 趙蕃の『雪中読誠斎荆溪諸集成古詩二十韻奉寄并呈吴仲権』茶詩。
 「甘能膏歯頬、清且醒肺腑。詎須割蜂房、底用煎茗乳」(甘くて歯頬を保養することができ、且つ清らかで肺腑を醒ませる。蜂の房を切り出し、それを用いて茗乳を煎じるべし)とある。

「薄荷」、「鶏蘇」、「菖蒲」、「蜂蜜」など、いずれも健康によいと言われている。

 大学教員

(2023.3.20)
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