【コラム】中国単信(122)
中国茶文化紀行(59)
「代茶」、「代茶飲」と「代用茶」
趙 慶春
「代茶」、「代茶飲」、「代用茶」、似たような名称だが、この三つ、飲み物ではないもの、飲み物だがお茶が入っていないものがある。
「代茶」は「茶に代えて」の意味であり、宋代初期にはこの言葉が登場している。
邵雍の「飲酒吟」詩に
時時醇酒飲些些, 時々美味い酒を少々飲み、
頤養天和以代茶。 天和を養い、茶に代える。
とある。これは酒を茶の代わりに飲む例である。
また、蘇頌「和棁弟矮松寺留題」に
……数粒宜充酿, (松の実の)粒を酒醸造に充たすのは宜く、
收黄好代茶。…… 松黄を収集して茶の代わりにするのは好し。
とある。これは松黄を茶の代わりに飲む例である。
史鋳の「甘菊」詩に
苗可代茶香自別, (甘菊)苗は茶の代わりに利用でき、香は特別であり、
花堪入薬效猶奇。 花は薬として優れ、効果が群を抜いている。
とある。これは甘菊の苗を茶の代わりに飲む例である。
これらの「代茶」はいずれも「茶の代わりの飲み物」である。しかし、「代茶」という語句は言語構造的には「動詞+目的語」(茶を代える)で名詞ではない。一方、「代茶」が一つの単語として使われているのは、清代の小説『二十年目睹之怪現状』の二十四回で、「お茶代」(「車代」として渡す金一封)の意味である。したがって、「代茶」は飲み物そのものではない。
「代茶飲」と「代用茶」は今でも明確な定義がない。インターネットで検索してその使用例を集約すると、おおよそ「代茶飲」は漢方薬で、健康養生のためにお茶のように毎日飲むものである。漢方薬品一種類の場合もあれば、数種を混合、調整する場合もある。また、茶入りもあれば、そうでないものもある。
(写真1:中国福建省「小橋流水茶業」会社が販売している「福建土楼」マークの「代茶飲」である。名前は「肝臓を保養する」という意味の「養肝茶」である。原材料は金線蓮、鉄皮石斛花、千日紅、相思葉、羅漢果花、金銀花、老茶、菊の花びら、茉莉花などである)
一方、「代用茶」は食用可能な植物の葉、花、果実、根、茎などを茶のように加工した飲みもので、基本的に茶は入っていない。
(写真2:玫瑰花花草茶)
「代茶飲」と「代用茶」、この両者の主な区別は「漢方薬」か否かにある。しかし、茶を含めて多くの代用茶原材料は漢方医の処方箋でよく使われる漢方薬品である。また、漢方では健康維持、体調管理、養生は治療の一環であることから、その線引きは極めて難しい。
そのため「代茶飲」と「代用茶」を区別する必要はないと筆者は見ている。名称を統一しても併存させても構わないが、以下の条件を満たす必要があるだろう。
(1)茶が入っていないこと。茶入りは「添加茶」に分類すべき。
(2)「~~茶」とすること。そうしないと「代茶」の概念に当てはまらなくなる。
(3)飲み物であること。例えば、筆者の故郷である中国の東北地域に「油茶麺」(油茶とも)という食品がある。小麦粉にクルミやゴマ、砂糖などを加えて炒め、湯を注いで混ぜ、ドロドロにして飲む。食糧としても、おやつとしても、保存食品としても、さらには来客用に、また、軍糧としても利用されていた。確かに「油茶麺」と「茶」の文字が入っており、ドロドロなので「食べる」より「飲む」に近い。しかし、あくまでも「食品」なので、「代用茶」と見做さないほうがよいだろう。
(写真3:中国東北地方の「油茶麺」)
大学教員
(2023.12.20)
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