【コラム】
中国単信(77)

乳と茶とモンゴルの奶茶文化② モンゴル族の「早茶」文化

趙 慶春ウリジバヤル常宏(共同執筆)

 「早茶」の「早」は中国語では「朝」という意味である。ただし「早茶」は「朝のお茶」を飲むだけではない。食物も一緒に口にするので、「早茶」と言えば、朝の飲茶(ヤムチャ)を指す。中国でよく知られているのは、香港・広州を中心とする地域の「広式早茶」(「粤式早茶」、「港式早茶」とも言う)で、朝ごはんも兼ねている。
 この「早茶」、あまり知られていないが、中国のモンゴル族にも食生活の一部として定着している。しかも、その食材の豊富さ、飲み方の特異さ、茶と食物(朝ごはん)との融合などからは「広式早茶」に勝っているように思える。 

 そこで今回はモンゴルの「早茶」について紹介することにする。
 モンゴル「早茶」の主な食材を見てみよう。

 写真は私たちが中国内蒙古自治区の正蓝旗上都镇のレストランで早茶を飲んだ(朝ご飯を食べた)時の料理である。これで四人前。写真上部の半分だけ映っている円柱形のものは魔法瓶で、前回紹介したモンゴル奶茶が入っている。

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 (モンゴル「早茶」の料理)

 それでは、写真に写っている料理をそれぞれ拡大して紹介することにする。

【手抓肉】(shou zhua rou ショウ ジュワ ロウ)
 煮込んだ骨付きの肉である。羊肉が一番多いが、牛肉もある。各自のナイフで切って、そのまま食べてもよいし、奶茶の中に入れてしばらく浸けてから茶と一緒に食べてもよい。

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 (手抓肉)

【奶嚼克】(nai jiao ke ナイ ジアオ カ)

 搾った牛乳をそのまま1~2日置くと、その表面に膜状、あるいは柔らかい固体状の塊ができる。それが「奶嚼克」、または「奶嚼口」(nai jiao kou ナイ ジアオ コウ)と呼ばれるものである。この「奶嚼克」をそのまま茶の湯に入れ、混ぜて飲んでもよいが、一般的には炒り米と砂糖と一緒に混ぜて食べる。炒り米と砂糖と混ぜたものも「奶嚼克」と呼ばれるが、クリームケーキ風になる。これをスプーンで食べてもよいし、モンゴル揚げパンに塗って食べても、茶に入れて飲んでもよい。

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 (「奶嚼克」は食べるたびに混ぜ入れる食品である。写真の「奶嚼克」上の黒いものは黒砂糖)

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 (「奶嚼克」は家庭ごとに、混ぜ入れる人によって味も外観も異なってくる)

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 (中国内蒙古自治区のホテルの朝食での「奶嚼克」。一番下に写っているのが炒り米)

【奶皮子】(nai pi zi ナイ ピーヅ)
 搾りたての牛乳を沸騰させ、しばらく置いておくと表面に膜状のものができる。これを「奶皮子」という。この「奶皮子」を冷蔵すれば、アイスクリーム風の美味しいお菓子になる。そのまま食べるのが一般的だが、茶に入れてもよい。

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 (冷蔵した「奶皮子」は好みの形に切ることができるので、見た目も美味しそうである)

【鲜奶豆腐】(xian nai dou fu シエン ナイ ドウフ)
 搾った牛乳を長時間沸騰させ、水分をとばして、最後に残った柔らかいチーズのようなものを「鲜奶豆腐」という。これを型の中に入れて、固めると白くて四角い豆腐のようになり、「鲜奶豆腐」と呼ばれるようであるが、ほかの形もある。また、地域によっては型には入れず、手で握りつぶしたものもあるが、それは【奶渣子】(nai zha zi ナイ ジアヅ)と呼ばれる。
 「鲜奶豆腐」は蛋白質が主成分なので、健康食品でもある。そのままお菓子として食べてもよいし、茶に入れてもよい。

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 (いろいろな形の「鲜奶豆腐」)

【干奶豆腐】(gan nai dou fu ガンナイ ドウフ)
 「鲜奶豆腐」をさらに乾燥させたものが「干奶豆腐」である。「干奶豆腐」もさまざまな形に切ることができる。色や外観は「鲜奶豆腐」と大差ないが、大変硬いので、そのままでは食べずに茶に入れる人が多い。

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 (「干奶豆腐」は長期保存が可能で、祭日や行事の時にモンゴル族の伝統住居であるゲルの形に積み重ねて居室に飾る)

【黄油】(huang you フアンヨウ )
 「奶嚼克」を加熱して液状化エキス化したのが「黄油」である。「酥油」(su you スーヨウ)ともいう。「黄油」は茶に入れても飲むが、固形茶を煮込んで「奶茶」を作る途中で入れることが多いようである。その場合は茶と「黄油」をよく融合させるため、木の棒で茶の湯を搗く手法もあり、そのような「奶茶」は「搗茶」(dao cha ダオチャ)と呼ばれる。

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 (黄油)

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 (「黄油」はモンゴルの乳製品では高級品だが、ペットボトルなどに入れて自宅に保存するのがモンゴル人の流儀のようである)

【炸果子】(zha guo zi ジア グオヅ) 
 「炸果子」とは小麦粉の揚げ物である。モンゴル風揚げパンと言えば分かりやすいかもしれないが、さまざまな形がある。また、日本の揚げパンよりかなり硬めで、歯ごたえがある。
 そのまま食べてもよいし、茶の湯の中に入れてもよい。

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 (モンゴル草原では空気が乾燥しているため、「炸果子」は長期保存ができ、食卓にいつでもすぐに出せる食品となっている)

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 (上列の皿の食べ物は左から「炸果子」「鲜奶豆腐」「干奶豆腐」「奶嚼克」「炸果子(別の種類)」。中列の中央の小さい碗の中身は左から「砂糖」と「炒り米」。下列は「奶茶」。つまり上列と中列の食べ物を下列の「奶茶」に入れて食べる(飲む)のがモンゴル茶の流儀である)

 また、モンゴルの「早茶」の食卓に「餡餅(xianr bing シエンビン お焼に似ている食べ物)」、「包子(bao zi バオヅ 肉まん)」、「餃子(jiao zi ジアオヅ ギョーザ)」、「鶏蛋(ji dan ジーダン ゆで卵)」、「面条(mian tiaor ミエンティアオ 麺類)」などが出てくる場合があるが、これらの食べ物は茶の湯に入れずにそのまま食べる。ただ、「早茶」といえば、すでに紹介した茶(「奶茶」)と茶に入れる食べ物が主である。
 モンゴル族は一日二食が一般的で、昼食を食べる習慣がない。そのため昼や午後にモンゴル人の家庭を訪れると上記の「早茶」と同じ食べ物が出される。

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 (モンゴル族の昼食は「早茶」とほぼ同じ)

 モンゴルの「早茶」は肉、乳製品、小麦粉製品すべてを茶の中に入れて一緒に食べる(飲む)もので、モンゴル喫茶文化の一番の特徴が「茶と食品の大融合」であることをよく教えてくれている。

 (趙慶春:大学教員/ウリジバヤル:大学教員/常宏:大学非常勤講師)

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