【コラム】風と土のカルテ(49)
人手不足の病院に混乱をもたらした助っ人医師
医師数が激減し、診療に深刻な影響が生じている地方の自治体病院は少なくない。
A病院も、そんな病院の1つだ。
ベッド数200床未満のA病院は、特に外科系領域の診療で高い評価を得てきた。
しかし、内科では常勤医が大幅に減ってしまい、残った医師を疲弊から守るため入院を制限せざるを得なくなった。
幾つかの病院から応援医師が駆けつけ、どうにか地域の医療が支えられた。
医師が一挙に減ったのは、新専門医制度が大きく関わっている。
内科系領域は、研修病院の指定基準を満たしていないと判断された結果、若手医師が去り、存亡の危機に見舞われたのだ。
大きな病院の勤務医からは想像もつかないような苦難を強いられた。
加えて、その病院がピンチヒッターとして招へいしたフリーの内科医師の行状に問題があったようだ。
様々な病院を渡り歩いてきたベテランのフリー医師は、夜間、救急外来に駆け込んできた患者さんの症状が軽いとみるや、「なんでこの程度で来たんだ」と面と向かって言ったという。
限られた人員でやり繰りしている中、少しでも診療を効率化したいという気持ちは分からなくもないが、ものには言い方があろう。
不安で病院にきた患者さんは、頭ごなしに「なんで来た」と言われたら、縮み上がるだろう。
おまけに、患者さんの前で前医の処置を批判し、技量をけなす。
患者さんは不信感を募らせた。
フリー医師への不満の投書が病院へどっと寄せられた。
病院を救うために来たはずなのに、逆に作用し、内科は閉鎖寸前の危機を迎えた。
さすがに温厚な病院長も我慢の限界に達し、フリー医師を叱責し退職してもらったという。
この医師が去った後、別の応援医師が駆けつけ、常勤医師も新たに加わった。
内科の入院制限を解除することができ、ひとまず存亡の危機を脱した。
ただ、今も決して楽観できる状況にはないようだ。
私も最近まで、医師不足に悩む病院で助っ人として当直と外来診療に携わったが、そこでも、医師が入れ替わっていく中で様々なことを見聞きしてきた。
人と人が関わり合う病院にはいろんな側面があることを、改めて思い知らされた。
(長野県・佐久総合病院・医師・オルタ編集委員)
※この記事は著者の許諾を得て『日経メディカル』2018年4月30日号から転載したものですが文責は「オルタ広場」編集部にあります。
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