【運動レポート】

介護保険制度改定を前に横浜市の現場から

        
(NPO法人W.Coオリーブ)宗形 初子


皆さんの身近に、ワーカーズ・コレクティブ(W.Co)で働いている人はいらっしゃるでしょうか? 出資し、運営し、働く、協同組合型の組織です。「たすけあい」から始まったところが多く、私たちW.Coオリーブは、介護保険の通所介護(デイサービス)と居宅介護支援(ケアマネジャーとケアプラン)、集いの場づくり、生活支援サービスなどに取り組んできました。自主管理基準をつくり、代わりあうこと、皆で話し合って決めることなど民主的な運営を心がけています。

 私たちが活動している金沢区は、横浜市の南端にあり東は東京湾に臨み三方向を丘稜に囲まれています。海の公園や金沢自然公園があり、公園面積は18区のなかでは断ト
ツです。豊かな海を埋め立て、丘を切り開き、戦後6万人だった人口が今では20万人を超える、東京へ通勤するサラリーマンの町となりました。しかし、21世紀に入りその人たちがリタイアを始め、65歳以上が4人に1人という急速に高齢化が進む町ともなっています。2025年には高齢化率が30%を超え、2035年には36.6%になると推計されています。1世帯を構成する平均人数は2.41人、周りの50~60歳代をみても子どもが家を出て夫婦二人暮らしが増えています。首都圏のベッドタウン典型の町といえるでしょう。

生活クラブ生協やネット横浜で活動していたメンバーが、2001年にデイサービスセンターNOAHを始めたのには二つのきっかけがありました。ご両親が住んでいた金沢区の家を「地域に役立てたい」と貸していただいたことと、横浜市が進めていた50人規模のデイサービスへの対案として普通の家で少人数の和やかなデイサービスをつくりたいと考えていたことからでした。持ち主の志しを受けて始まった事業なので、メンバーも少しずつですがW.Coオリーブへの寄付を続けています。定員は14人、週1日~3日利用されるので登録は常時40人~50人、13年間の延べ利用者は300人を超えました。大正生まれ中心ですが昭和二桁の利用も始まっており、ケアする側ももっと若い人に参加してもらいたいところです。

そして、介護保険制度が始まって15年。3年ごと、5年ごとの見直しを繰り返してきました。「予防重視」「自立支援」などキーワードがありましたが、十分な検証がないまま利用者、事業者双方に、サービスは狭まり負担は増えるという方向で動いています。2006年には、食事加算等がなくなりオリーブでも昼食代をいくらにするか議論になりました。2012年にはサービス提供時間が6-8時間から7-9時間になり、一方で労働基準法遵守が掲げられながら現場のワークはきつくなっています。

今年、地域包括ケアシステムを構築することを通じ、地域における医療、介護の総合的な確保を推進することを趣旨とする医療介護総合確保推進法が成立しました。2015年には予防給付が地域支援事業に変わります。しかし、日常生活支援総合事業開始には2017年まで猶予期間があるので各自治体は様子見で、今まで要支援だった人たちをどのようなセーフティネットで支えるのか曖昧なままです。特に横浜市では、地域ケアプラザが地域包括支援センター、居宅介護支援、通所介護を横並びに事業としているため、個別の利用者への支援は行なっていても地域をネットワークする力を持っていません。面で割って事業者任せでは、利用者の選択やサービスの充実なしに効率化だけが進むことになります。

最近では新聞、週刊誌、テレビが介護を特集したり、40代以上の人は親戚、知人から介護の話を聞くことも多いと思います。しかし、いざ自分のこととなると、どこから手を付けるか戸惑う人も多いようです。介護保険は社会保険ですから、サービスを受けるまでいくつもの手続きが必要です。本人・家族がケアプランをつくることもできますが、制度の決まりごとは年々分かりにくくなっています。その他、食事代や居室費は自費となるので、利用するサービスや事業所により違いがあります。ショートステイを個室でユニット型にすると、介護保険の1割はさほどの負担ではなくても、自費分が1万円近くかかったりします。

それになにより、介護保険だけで24時間365日の暮らしを支えることはできません。特に、一人暮らし・認知症などでは、介護度が低くても朝昼晩の食事、服薬、身支度、金銭の出入りなど、さまざまなケアが必要になります。別々の場でこの半年間に3回もケアマネジャー向けの成年後見制度に関する研修があったのは、今後のニーズの高まりを見越してのことでしょう。W.Coオリーブでは、「たすけあい はんど」という介護保険外の生活支援サービスで、窓ガラス拭きや庭の草取りなどの家事、買い物や通院に車で同行するサービスを行なっています。介護保険の訪問介護が対象・内容を縮小しているので、企業もこの分野を拡げていますが、近隣をみても株式会社は3,600~4,000円/時、社会福祉法人は2,300円/時、ワーカーズは1,200~1,500円/時とサービスの利用料には大きな違いがあります。

これからの10年、20年、30年を考えると、戦後生まれの人たちが自分が住み暮らす町のたすけあいの現場に出て、出資し、運営し、働き、利用するワーカーズ・コレクティブのような市民事業をきめ細かくつくることが求められているのではないでしょうか。そしてそれが、地域からこの国の在り方を変えることにつながったらいいなと考えています。

             NPO法人W.Coオリーブ                              

	   (介護プラン オリーブ  居宅介護支援専門員 宗形初子)

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