海外論潮短評(68) 初岡 昌一郎
世界的に深刻化する若者の失業 ― 仕事と人生の目標が無い世代
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イギリスの代表的週刊誌『エコノミスト』4月27日号が、世界的に最も深刻な
社会問題となっている若年者の失業問題を国際欄「ブリーフィング」の解説記事
として取り上げている。無署名なので、同誌編集部によって書かれたものであろ
う。要約紹介する。
世界中で3億人の青年(15-24歳)が働いていない ― 失業という感染症
ILOのまとめた公式統計では、15-24歳の若者の6%にあたる、7500万人が
失業している。しかし、教育も受けず、働いてもいない若者の数は、実際には遥
かに多い。OECDは加盟先進国におけるニートの若者を2600万人と推定してい
る。世界銀行のデータベースは、開発途上国で2億6000万人以上の若者が“働い
ていない”ことを示している。本誌は、世界の若者の約4分の1にあたる、2億
9000万人が就労も就学もしていないと推算している。
これらの数字は、女性が労働力と見做されていない国の若い女性を含んでいな
い。富裕国では若い女性が男性よりも就労率が高い国もあるが、南アジアでは女
性が労働力の4分の1を占めるにすぎない。
さらに、就労している若者の多くが、インフォーマル・セクターや断続的な仕
事に“雇用”されている。先進国では、平均して、若者の3分の1が臨時的な仕事
に就いており、これが技能の習得を困難にしている。世銀によると、途上国では
4分の1の若年者が無給の家族労働か、インフォーマル経済で働いている。総体的
に見て、世界の若者の約半分が、フォーマルな経済に参加していない。
若者は長い間労働市場で粗末に扱われてきた。この問題が現在緊急な課題とし
て浮上したのは、金融危機とその後の影響が彼らに異常に大きな影響を与えたか
らである。多くの使用者が新規従業員から順次解雇していったので、若年失業者
を不応分に増加させた。ギリシャとスペインでは、6分の1以上の失業者が若年で
ある。OECD諸国の若年失業者数は、2007年当時よりも3分の1以上増加した。
最大かつ最速で拡大している開発途上国労働市場は最悪の管理状態にある。世
界の若年者の約半分が南アジア、中東、アフリカに住んでいる。これらの国では
若年者雇用でインフォーマル・セクターが最大のシェアを占めている。アフリカ
では15-24歳人口が2025年までに3分の1以上増え、2億7500万人に達するとみら
れる。
富裕国では手厚い福祉国家が納税者に重い負担を課している。2011年の計算で
は、ヨーロッパにおける若年失業者による経済的損失は1530億ドル、GDPの
1%以上になっている。若年者の失業は今日の成長率を引き下げているだけでな
く、明日の社会を脅かす。
日本の若年者失業は1990年代初めの金融危機以後に膨れ上がり、労働力総数が
減っているのにもかかわらず、高止まりしている。家族に依存して外に出てゆか
ず、労働市場から退出した“引きこもり”も多くいる。
ダメージは新興経済諸国でより少なく、逆にスペイン、イタリア、フランス、
ギリシャなどの地中海諸国のように失業が長期にわたって続いている諸国で最も
大きかった。経済の停滞が主原因である。南アフリカの失業率が非常に高いのは、
経済成長が失速してアフリカで最低水準になっているからである。硬直的な労働
市場もそれに劣らず寄与している。
若者の雇用をパーツの調達と同一視する企業
エコノミストがそれら以上に強調している、もう一つの重要な要因はミスマッ
チである。若者がもつ能力と使用者が要求する技能が大きく食い違っている。求
職者は溢れているが、求められる能力を持つものがいないと使用者は苦情をいっ
ている。
コンサルタント会社「マッキンゼー」がアメリカ、ブラジル、イギリス、ドイ
ツ、インド、メキシコ、モロッコ、サウジアラビア、トルコの9か国を対象に調
査した結果、43%の使用者だけが十分な技能レベルを持つ労働者を雇用しうると
回答した。従業員50-500人の中小企業は、平均14人の欠員を抱えていた。
ミスマッチのもっとも明白な理由は基礎的教育の貧困である。先進国において
は、中等教育以下しか受けていない青年の失業率が大学卒の倍以上である。その
ほかに、二つのより明示的でない理由が存在する。
若年者の失業率が最も低い国では、教育と労働の間に密接な関係がある。ドイ
ツは高度の職業訓練と養成工制度の長い伝統を持っており、近年の低成長にもか
かわらず、これが若年者失業の軽減に役立ってきた。若者の失業率が高い国では、
このようなリンクが欠如している。
フランスでは学校を卒業するものが労働の経験をほとんど持っていない。北ア
フリカの大学は公務員養成に依然として主眼を置いており、民間企業のニーズに
応えようとしていない。モロッコでは大学卒の失業率が小卒者の5倍も高い。南
アフリカではアパルトヘイトの遺産が依然として存在している。黒人の子どもた
ちは仕事のあるところから遠く離れたところに住み、そこから学校に通っている。
企業はこのミスマッチのギャップを克服する努力を採用後に自ら行ってきたが、
最近ではあまりそうしなくなっている。企業は人材募集をあたかもパーツを調達
するように考えるようになった。1979年にはアメリカ大企業の若年者が平均2週
間半の訓練を受けていたが、2011年には僅か21%が過去5年間に新技能の訓練を
受けていた
アメリカやイギリスのように規制緩和された経済の国では、過去5年間、不況
で若年者失業が増加し、その後も高止まりしている。世界で労働市場が最も規制
緩和された国の一つであるイギリスでは、ニートが100万人に達し、若年失業者
はドイツ(3.9%)の2倍以上の11.5%になっている。
失業者増加を最低賃金引き上げのせいにする人もいるが、それがおもな原因で
はない。イギリスは伝統的に実用教育を軽視して得きた。2009年にイギリスの使
用者は約8%の労働者を訓練工として育成しただけだが、欧州大陸の先進諸国の4
分の1にすぎない。使用者は経験が極めて重要とみているが、こうした経験を得
る機会を持つ若ものは過去15年間、一貫して減り続けている。
起業家精神旺盛な企業が増えるほど問題を悪化させるのかもしれない。民間部
門において大企業従業員数の占める割合が低下しており、マイクロ・ビジネスの
従業員が増えている。小企業は訓練や経験を提供する機会が少ない。
積極的労働市場政策による訓練と就業の保障
多くの国は教育と労働のギャップを埋めるために、訓練学校の質的向上、学校
と地元企業との密接な提携、技能訓練の導入などを試みている。2011年、韓国は
ドイツ流の職業的“マイスター・スクール”制度を発足させた。機械工や鉛管工
の不足の解消を狙うもので、授業料や寄宿食費は政府負担である。
しかし、ドイツ・モデルの訓練や練修工制度を導入するだけでは十分ではない。
失業補償システムをセーフティネットから、再訓練と職業紹介を提供する踏み台
に転換させる動きがある。北欧諸国がこの先頭に立っており、「ユース・ギャラ
ンティー」制度を導入した。これは個人別プランによって、すべての若者に訓練
か仕事を提供することを目的としている。
ドイツは、2003-5年度に労働市場を自由化した際に、失業者を仕事に復帰さ
せる新しい方法を生み出した。長期に失業している人の雇用可能性を高めるため
に、新しい職に就いた場合に、最初の2年間は国家が賃金の大部分を負担する。
このような積極的労働市場政策を豊かでない国が採用するのには、実施可能性
が制約となる。富裕な北欧諸国でさえ、GDPの約2%を訓練に支出しても、経
済危機による失業の急増にたいしては対処がかなり困難だった。スペインやイタ
リアのような何百万の失業者を抱える国では、緊縮時代はもとより、ブーム時で
もこのような先例をフォロー出来ない。
雇用文化も問題である。イギリスでは労働党内閣が被訓練者数を拡大したが、
失業者数を削減するために訓練の質を薄めてしまった。現在の連立内閣は質を向
上させようとしたが、一部の企業は補助金を獲得するために、既存のプログラム
に名称を付け替えたにすぎない。
より深刻な懸念は、企業が創造的破壊のプロセスを進める場合である。新技術
がこれまでの操業を一新する嵐によって、これまでの熟練を陳腐化させてしまう。
企業は単純作業を自動化や外部委託で削減し、絶えず作業を再編成している。企
業の寿命や役員の在任期間も短くなっている。そのような急速な変化に政府の政
策担当者は速やかに対応できない。
一部の企業は自前で対応策を講じている。例えば、IBMはニューヨークで大
学のスポンサーになっている。マクドナルドは野心的な訓練計画を持っており、
マクドナルド・スクールを運営している。インド最大のIT企業、インフォシス
は年間14,000人の新規従業員を訓練している。
技術は問題を深刻化させると同時に、解決の道も提供している。技術が伝統的
に高い訓練コストを引き下げている。まじめな訓練ゲームが低費用でバーチャル
な経験を提供できる。マクドナルドはゲーム式のビデオで、現金出納機の使用法
や顧客との対応を訓練している。
しかし、多くの人の生活を明るくする可能性につて楽観視することは困難だ。
悲観的になるのを少しでも食い止められれば、よしとすべきだろう。政府当局者
は教育と労働の間に橋を架けるために技術をもっと利用しうる。新技術は強力な
武器を提供している。失業している若者を引き上げるために必要な投資と選択の
機会を実現することで、各国は将来の展望をドラマティックに改善できる。
◆◆ コメント ◆◆
若年労働者の失業問題が取り上げられるようになってすでに久しく、もはや目
新しく注意を惹かなくなっている。しかし、世界全体の経済活動の拡大が継続さ
れ、反対に人口と若年労働者数の減少の兆しが顕著になりつつあるのに、問題の
深刻さは緩和されていない。
この記事には、若年失業者率の国別比較も含まれているが、紹介では省略した。
失業統計の作成は国際的に異なった手法で行われており、単純な国際比較はミス
リードする。ヨーロッパでは、働いていても所得が一定の水準に達していなけれ
ば、失業者と数えられている国もある。スペインなどで、失業者が20%以上とな
っているのは、日本などと全く異なる統計手法がとられているからだ・
例えば日本では、内閣府統計局の聞き取り調査に基づいている。調査前の週に
1時間以上働いて報酬をもらっているひとは、失業者と見做されない。全く働い
ていない人でも、その週内に積極的な求職活動(ハローワークに行くとか、企業
に履歴書を送るなど)をしていなければ、失業者とはみなされない。ニート、ホ
ームレスはもとより、求職活動をしていないすべての無業者は、統計上、失業者
とはみなされない。つまり、失業統計に現れる失業者数は低く抑えられており、
氷山の一角を示すものにすぎない。
この記事で若年労働者の失業の深刻さが十分うかがえるが、実態はもっと深刻
なもので、社会の将来に与える影響は経済的レベルにとどまるものではない。か
つてわれわれの青年時代は生活水準が低く、はるかに貧しかったが、将来は良く
なるという期待感と前途に希望があった。今は、将来に対する期待感が若い人々
から失われている。未来が今より悪くなるとみている学生が圧倒的に多い。
この記事において示唆されている若年失業者を削減する方法はそれなりに当を
得ているが、そのような次元の対策では抜本的な問題解決にほど遠いだろう。少
なくとも先進国においては、名目的な経済成長によって失業問題を解決するとい
う道はもはや行き詰まっている。
労働時間を大幅に短縮することによってワーク・ライフ・バランスを回復し、
併せて仕事の機会を分かち合うこと、同一労働・同一賃金の原則を生かしたフレ
キシブルな雇用形態の採用、所得格差を広げない再分配政策の確立などが課題で
ある。
より長期的な展望に立つ価値観の転換により、画一的な消費刺激・拡大型社会
から、生態系に調和した人間性重視の社会に転換することが根本的な解決策をも
たらすだろう。生活と公共政策をこの方向に誘導することによって、より魅力あ
る将来に向けて若者の意欲とエネルギーが引き出せるのではないだろうか。
(筆者はソシアルアジア研究会代表)
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