【世論分析】
仙台市長選の野党勝利 ―無党派層と自民支持層の離反―
◆ 安倍三選反対任期内退陣6割超の読売新聞世論調査の衝撃
安倍一強体制が音を立てて崩壊している。読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所は、政治意識に関する全国世論調査(郵送方式)を共同実施した。安倍首相にいつまで首相を続けてほしいと思うかを尋ねると、「自民党総裁の今の任期が切れる2018年9月まで」41%と「すぐに退陣してほしい」23%と合わせ、総裁3選を望まず、今の任期内での退陣を求める人が6割を超えた。「党総裁の次の任期が切れる21年9月まで」は16%、「なるべく長く続けてほしい」は14%だった。総裁3選以上の長期政権を望む人は、自民支持層で56%に上ったが、無党派層では18%だった。一貫して安倍改憲内閣を支持してきた読売新聞が真っ先に「安倍三選反対」が国民世論だと言い切った。
政党支持率でも自民党の33%に対し、「支持している政党はない」が48%に上っている。「安倍三選を望む」ものは自民党支持層では58%に上ったが、無党派層では18%だった。読売新聞は2017年8月11日朝刊の一面で要旨を載せ、さらに同日の紙面8・9面の見開き2ページを使ってその詳細を報じた。一見に値する。(図1参照)
図1 <安倍首相にいつまで首相を続けてほしいか> 読売新聞 2017・8・11
この様な機運を生んだ一つの重要な要素が、国会における「忖度政治」批判と、昨年7月の参院選以降、新潟県知事選、仙台市長選などで自公政権が連敗するという、市民と野党の共闘による選挙戦での勝利が大きく貢献している。市民と野党共闘の成否が注目された仙台市長選は7月23日、投票が行われ、即日開票の結果、元衆院議員の郡和子氏(60)が会社社長の菅原裕典氏(57)、元衆院議員の林宙紀氏(39)、元衆院議員の大久保三代氏(40)を破り、初当選した。女性市長は2期目の現職奥山恵美子氏(66)に続き2人目。選挙戦は自民、公明、日本のこころの各党が支持する菅原氏と、民進、共産、社民、自由の野党各党が支持・支援する郡氏の与野党対決となった。
東京都議選の惨敗に続く東北最大都市宮城での敗北は、安倍政権へのさらなる打撃となった。投票率は44.52%で、過去最低だった前回を14.41ポイント上回った。自公政権にとっては、2016年の参院選挙で手痛い敗北を喫した東北地方の最大の市長選挙で連敗を喫したことは重い。また野党側は、なぜ自民最強の東北地方で、参院選に次ぐ勝利を勝ち得たのかを分析することが、次の総選挙に向けた野党共闘の必然性を認識する上で重要だと思われる。
◎仙台市長選/得票/選管最終 (()内は016年参院選地方区仙台市得票)
郡 和子 氏 165,452 (桜井 充 230,883)
菅原 裕典 氏 148,993 (熊谷 太 210,426)
林 宙紀 氏 61,647
大久保三代 氏 8,924
◆ 河北新報の出口調査結果 無党派層の45%自民支持者20%が郡和子に投票
河北新報は仙台市長選が投開票された23日、投票を済ませた有権者への出口調査を市内24の投票所で実施し、1,944人の回答を得た。
郡和子氏は支持や支援を受けた民進、共産、社民、自由各党を合わせた支持層の78.4%を確保し、どの政党も支持しない無党派層からも45.2%を得て初当選を果たした。菅原裕典氏は支持を受けた自民、公明両党と日本のこころの支持層の64.2%にとどまった。郡氏は民進の77.9%、共産の80.7%、社民の82.1%、自由の50.0%の支持層を固めた。
年代・男女別では60代と70代以上の男性、30代以上の各年代の女性で首位。60代と70代以上の男性では支持が過半数となり、高齢者から厚い支持を受けた。菅原氏は自民支持層を62.9%と固めきれず、無党派層も28.1%と伸び悩んだ。公明は76.6%、日本のこころからは40.0%の支持を得た。現役世代の20~50代の男性では首位となり、女性は20代でトップだった。林宙紀氏は日本維新の会支持層の38.5%から得票した。民進、共産、社民、自由の支持層の10.6%、自民、公明、日本のこころの支持層の14.4%からも支持を取り込んだ。無党派層は23.2%だった。30代男性と10代女性が30%台と若年層の支持が目立った。大久保三代氏は全体的に伸び悩んだ。
安倍内閣への支持に関する質問では「支持しない」が56.2%で、「支持する」の40.7%を上回った。「支持しない」の55.0%が郡氏に、「支持する」の58.2%が菅原氏にそれぞれ投票したと答えた。学校法人「加計(かけ)学園」を巡る疑惑などによる安倍内閣への逆風が、2日の東京都議選に続き、市長選の結果にも影響する形となった。政党支持についても尋ね、自民33.5%、民進12.1%、共産4.5%、公明4.0%、社民1.4%、日本維新の会1.3%、自由0.3%、日本のこころ0.3%となった。「支持する政党はない」と回答した無党派層は39.4%だった。注目すべきは、投票した有権者の約4割が、自公候補でなく、野党統一候補に投票したことである。(図2参照)
図2 <有権者の投票行動> 河北新報 2017・7・11
◆無党派層の投票と自民支持者の自民離れ 共通する新潟と仙台
市民と野党共闘によって昨年7月の東北・信越の参院選の勝利に続いて、1年後の仙台市長選挙で連勝したことの意味は大きい。同じく昨年10月16日の新潟県知事選挙も、大方の予想に反して医師で弁護士の米山隆一氏(49)=共産、自由(旧生活)、社民推薦=が、前長岡市長の森民夫氏(67)=自民、公明推薦=との与野党対決を制した。両陣営はどちらも「接戦」と見立てていたが、実際の得票差は約6万3千票と予想以上に開いた。
市区町村別の得票を読み解くと、大票田の都市部での得票差が明暗を分けた。朝日新聞の出口調査では、自民支持層の73%が森氏に投票したが、25%が米山氏に流れた。無党派層は米山氏に63%で森氏の34%を引き離した。民進支持層は85%が米山氏に投票し、森氏はわずか14%。民進党が「自主投票」を決めたことは、支持層の意識とかけ離れていたと分析している。(メールマガジン・オルタ2016・11参照)
無党派層の政治参加がひろがり投票率が上がることこそ、安倍一強体制に風穴を開ける唯一の方法なのだ。民進党をはじめ野党諸グループはこのことを肝に銘じなければならない。民進党の前原元代表のように「共産党との共闘は従来の保守的な支持層を逃す」というようなもっともらしい主張が如何に現状を見誤っているか明らかだ。勝利した一人区では、無党派層の4割から7割が野党候補に投票し、新潟県知事選挙では自民党支持層の25%が米山知事に投票している。そういう実態を分析することなく、共産党との共闘は本来の保守支持層の逃がすなどと前原氏らは言う。だが旧来の自公民連合という既成政治勢力連合によって京都以西の関西、中国、九州では、大阪をはじめとして、まさに没落としか言いようのない政治状況となっていることをどう説明するのか。唯一踏みとどまって、市民プラス野党共闘で活路を開き、一人区で勝利した東北、北信越等の経験にまなぶことなくして次の総選挙の展望は描けない。
昨年7月の参院選で勝利した東北ブロックの状況を河北新報は以下のように伝えている。一言で言えば無党派層の投票行動による投票率上昇こそが野党統一候補への支持率拡大に繋がったということ尽きる。東北6県の中で秋田を除く5県の野党統一候補が勝利した要因を河北新報は以下のように分析している。
出口調査によると、東北6県の政党党支持率はいずれも自民党が第一党だが、秋田県を除いて5県で敗北した。野党統一候補はいずれも無党派層の7割から5割強の支持を獲得して勝利をおさめた。
宮城の桜井氏は党支持者の9割強、共闘した3党の支持層の8割前後を取り込んだ。熊谷太氏は党支持層の8割強を固めたが、無党派層は3割にとどまり、公明支持層の2割を桜井氏に奪われた。青森の田名部匡代氏は無党派層の6割、公明支持層の3割に食い込んだ。岩手の木戸口英司氏は民進、生活支持層の9割、無党派層の6割に食い込んだ。山形は舟山康江氏が民進支持者の9割、無党派層の7割を確保。自民、公明支持層の3割が舟山氏に流れた。福島は増子輝彦氏が無党派層の5割強に浸透した。(河北新報2016・7・11)
自公政権は14年総選挙で衆院過半数を確保し、さらに2016年の参院選挙で北海道、東北、甲信越ブロックでの一人区における健闘はあったが、西日本の総崩れで、衆参共に改憲勢力三分の二を超えた。民進党をはじめ共産、生活、社民の各党の比例区票では自公維新などに、いずれも圧倒的な差がありながら、沖縄をはじめとする各地の一人区でなぜ勝利できたかを分析すべきだ。野党三党と市民グループ連合などの統一選挙の方向が定まる。その状況が無党派層の政治意識を喚起し投票行動につながるのだ。それが投票率を向上させ、一人区の野党勝利に結びつくのである。(図3参照)
図3 <無党派層の東北6県選挙区投票先> 河北新報 2016・7・11
◆ 仙台市における郡和子各区別得票と桜井充参院選得票の比較
仙台市内5区のうち、昨年7月の参院選と共通しているのは宮城野区での敗北だけで、後の4区では郡・桜井ともに勝利している。もう一つは、投票率の違いはあるが、仙台市内の得票数は、野党共闘の桜井が2万票余の差で自公共闘の熊谷太を破っている。郡和子の仙台市の得票数は下図の通り、郡和子氏 165,452票、菅原裕典氏 148,993票で、正確には16,459票という僅差である。安倍一強体制が盤石だった、2017年参議院選挙の結果よりも郡和子氏の得票数、得票差ともに低い。市民と野党共闘なしには仙台市長選挙の勝利はなかったが、安倍政権の支持率が最悪を更新している中でさえ、ようやくの勝利だったという分析が必要だろう。
その要因は第一に、過去2回の市長選挙においては、自民公連合社民の既成政党連合で市長選挙を戦い、4年前は共産党のみ独自候補での挑戦となった。したがって勝負の見えた2013年の市長選挙への市民の関心は低く、30.1%と戦後最低の投票率だった。仙台市議55人のうち自民党議員団は21人の最大会派、公明議員は9人、合計で30人という圧倒的な議席を誇る。片や民進党側は市民フォーラム10人、共産7人、社民5人、民進1人など小会派が3人。民進党は、野党統一候補として郡を推したが、過去の社公民連合という既成政党連合の体質が、今後の市政運営で郡新市長の足を引っ張る可能性もある。また与党となった共産党との市議会における協調関係も郡市政の大きな課題だ。
県政与党と県知事・奥山前市長が先頭に立って、奥山後継として菅原氏を付ききりで応援するという、異常な肩入れも空しく敗北したのはなぜか。自民党幹部は、菅官房長官らがやって来たが、公然たる応援は自粛せざるを得なかった。地元自民党議員団などによれば「今回の敗因は、選挙を公然と応援もできないような状況をつくった自民党安倍政権の責任」と批判するのは当然だ。まともにやれば負けるはずのない仙台市長選挙で敗北したという思いだろう。参議院選、市長選と市民と野党共闘で連勝した民進党の安住淳代表(衆院宮城5区)は、以下のように語った。「しっかりとした枠組みで受け皿を作れば、自公に対抗できる。共闘は続けていくべきものだと確信した」(河北新報2017・7・25)。(図4参照)
図4 区別・候補者別得票数
(世論分析研究会代表・オルタ編集委員)
(世論分析研究会代表・オルタ編集委員)
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