【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(66)

入管法から「難民」「避難民」「在留資格」を考える③

坪野 和子

 現在私は夏休みの恒例のようになってしまった新潟東港でパキスタン出身の友人の介護、いやボランティア家政婦1ヵ月延長状態にある。実は本来、今頃はインドで日本語クラスの開講準備中のはずだった。3校のオファーいずれもマッチングできなかったので保留となってしまった。いや、バブル期の日本を思い出させる求人だった。当時のイヤな思いが甦ってしまった私の問題だ。理屈ぬきで現在のインドの経済発展が当時の日本と似た状況にあるのが体感として甦ってしまっていた。さて前々回の続きである。

0.クイズ
今回は大学講義のイントロダクションのようで申し訳ないが、クイズを2問出題させていただく。あまり目にしない統計だと思う。
【クイズ】
【問題1】表1 空欄を埋めよ。
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※正解は後述

1川口市クルド人が起こした事件は外国人自ら作る偏見の助長行為
 事件があったのは7月4日のことだったそうだ。私が報道を目にしたのは事件から2週間、さまざまなネット記事を読むようになったのはそれ以降のことだ。私は普通、こういう外国人が関係する事件や事故は報道より知り合いの口コミのメッセージで知るのだが、今回は産経の報道でやっと概要がわかった。「不倫した妻の夫とお相手との切り合いのようだが、両家の親戚がまるで何かの抗争のような騒ぎを起こした」

病院でクルド人「100人」騒ぎ、救急受け入れ5時間半停止 埼玉・川口
2023/7/30 13:30 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20230730-HM3RDJDY3ZIL7JBAUVPHGX7YSY/
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https://youtu.be/ax9RR4wB5pQ?si=PStY-7ThplPdUl-5

2つのその後の記事を紹介する。
1.埼玉新聞
乱闘…男女もめた結果、病院で100人大騒ぎ 救急車受け入れできず 批判の先は…誤解も 騒動を取材<上>
https://www.saitama-np.co.jp/articles/40494
迷惑あおり運転、100人が病院で大騒ぎ…暴走する一部外国人、相次ぐ苦情 問題の背景は 騒動を取材<下>2023/08/12/13:23
https://www.saitama-np.co.jp/articles/40495

2. 石井孝明 ジャーナリスト
7月4日の川口市内の騒乱、実情をクルド人に聞く(7日現地取材あり)
2023年07月06日 10:03
https://withenergy.jp/2857#%E8%BF%BD%E5%8A%A0%E3%83%BB7%E6%97%A5%E3%81%AE%E7%8F%BE%E5%9C%B0%E5%8F%96%E6%9D%90

 私自身はクルド人と直接の接触がなぜか皆無である。埼玉県に大学・語学学校・高校と20年以上勤務していたにもかかわらず、生徒・学生でクルド人と名乗った子はいなかった。また金曜日にモスクに行く人たちも地域的に違うためか見かけたことはない。交際交流会などで大勢のグループでの参加もこれまた地域違いだからか出遭ったことがなかった。高校進学説明会でも私が参加した年に限ってのことなのかクルド人生徒保護者の出席はなかった。こういった事件やそれによって普段から思われていた市民の不満不安が表面化されたのは地域に入りこんでいないからなのではないかと感じる。川口市の団地で中国人が大勢住み始めた頃、ゴミやどこでもトイレの問題が取り沙汰されたことがあるが、今では住民は地域に溶け込んでいると伝えられている。
 またこういった騒ぎやかつての暴走族のような行動は1970年代の外国ルーツの若者の不良行為にも似ている。この人たちのほとんどが難民申請中の在留資格である。多かれ少なかれ、普段から素行が良いわけではなかった人たちが心の底に「入管法改正」「3回以降退去」がひっかかって問題につながったのかもしれない。クルド人とすべてくくられているが、民族が同じであっても全て仲間ということではなさそうだ。部族の違いや長年住んでいる人たちとの乖離もあるように感じる。いずれにせよ、こういう記事や動画のコメントを読み、嫌気がさす。クルド人たちは送還されたくないのであれば、もう少し日本出身者や他国の在日外国人にも理解されるような行動を取るべきだろうと思う。しかし、クルド人にかぎらず、迫害等による精神障害であるとか、同胞のコミュニティでフォローしあう関係がないとか、支援者の目が届かない人たちには難しいことかもしれない。
 いずれ在留資格問題から離れたところで大なり小なりの迷惑行為・万引きに近い犯罪にならない窃盗など観光客を含めてその感性の違いについて述べたい。

2.[閑話] 「ねずみ駆除」で日本の組織の縦割りを実感
 話しは新潟に戻る。在留資格の話題ではない。数日前まで「ねずみ」に悩まされていた。3年前、2年前もねずみで家事に負担がかかっていた。2年前、猫がカエルとともに食べてしまったらしく昨年はねずみ被害がなかった。しかし友人がパキスタン帰省中、またねずみ出没!さらに私が来る数週間前からハクビシンもうろついていた。さまざまな対策をした。ねずみ捕りの籠。子どもたちは捕まった。公園や海の近くの林に逃がした。しかし、大きな親は籠を壊した。その後、ごきぶりホイホイのような粘着、忌避剤、殺鼠剤など私が知らなかった駆除方法だ。逆に東京在住の生徒さん達にはゴキブリ駆除を教えているくらいなのに。彼ら彼女らは最初に覚える害虫の名前はコックローチ=ごきぶりだったりもする。そして私がネットで新潟市の保健所で大きい籠の貸し出しがあることを見つけた。しかし、友人はなぜか市役所の電話し、「貸し出しはない」と言われ、業者の電話番号を教えられた。おおかた友人は市役所の健康衛生部に電話につないで貰ったのだろう。なぜそう思ったかというと友人は「保健所は市役所の中にある」と言っていたからだ。在日30年近く、小学校4年生レベルの識字があり、仕事の会話なら単に訛っている人としか思えないような友人であっても、わかっていないのだ。そして、市役所をはじめ日本の公共組織が縦割りで無関係だと通じない物事があることは日本生まれ日本育ちの人間にとっても経験しているはずだ。こんな小さい出来事と在留資格・出入国の問題の根っこの一部は同じなのだと感じさせられた。またそういった組織系統が自国や長期在留していた国と違うことは概念として知っていても生活ではズレや間違い・勘違いが生じるのである。

3.海外で勘違い動画が出回っていた 入管職員≠警官
 複数の国からメッセージで同じ動画が送られてきた。送ってきたのは日本在住経験者や日本に住む親戚・友人を持つ人たちだ。
Japanese police causes unnecessary harm to foreigner who refuses to get deported 日本警官、強制送還の拒む外国人に無用な危害を加える
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 以下のリンクは送られてきた動画と同じものだった。「私帰らない!」懇願する難民申請者を入管職員が集団暴行し嘲笑 アフリカ系男性 強制送還未遂事件https://youtu.be/Sgz8rQF7ioA?si=auIar7-Gq3295uGS

 1人を取り押さえるのにこんなに人数がいるのだろうか?そしてアフリカ系の男性は日本語で「イタイ、イタイ」と叫んでいる。どこの出身だかわからないが母語でもフランス領(英語?ポルトガル語?)でもない。日本語だ。私がこの状況ならチベット語なら「痛い!」と叫べるが、中国語やタミル語では絶対に叫べない。いかに日本の生活に馴染んでいるかがわかる。関西弁を発する職員がいたと思ったので大阪入管かと思った。
 このタイプの動画は、「入管 収容 or 強制送還 」といったキーワード検索をすればたくさん出てくる。外国人もペルー人とか(日系じゃないのか?)東南アジア、トルコ…意外な気がしたのがヨーロッパ人もだった。
 入管職員≠警官なのだが、海外では警察の仕事だと思われているようだ。実際は入管業務と警察はノータッチの関係にある。例えば盗難被害に遭った外国人のために犯人と思われる外国人の指紋を警察が入管に協力要請することはない。別々の仕事だからだろう。こういった縦割りを外国に暮らす人たちには理解も想像もできないのは当然のことだ。根っこの一部は縦割りであると考えている。

4.クイズの正解と私見的分析
さて、冒頭のクイズの正解。
①シリア②270③トルコ⓸パキスタン

クイズの正解URL https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2021 UNHCR日本

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ここで各表について。

◆難民の出身国トップ5
1位シリア。大学の授業では古代メソポタミア文明の土地だと教えていた。またアレッポの石鹸の生産地であることも話していた。2011年から空爆を伴う内戦が続いているので、まずは生命の危機、地震災害、そして民族・宗教・貧困・その他すべてを包括しての難民だ。国の人口の推定が2150万なので、国民の1/3が第三国に逃げているということになる。多くはトルコを経由していると伝えられている。

2位ベネズエラ。貧困・治安の悪さといった一見単純そうな理由による難民。世界では認定されているが、まず日本では認定が難しい理由だと思う。ただしベネズエラは日系人の少なくないので難民申請ではなく、3世とその子どもたちは「定住者」もしくは「日本人の配偶者」としての在留資格を持つこともできる。しかし在日ベネズエラ人の多くは就労系の在留資格であることが現実である。

3位アフガニスタン。これは説明がいらないどころか私より詳しい方々もいらっしゃるので割愛する。日本では令和4年の申請者は182人。それ以前はもっと少なかった。国の人口が4000万人なので国民の15%が第三国に逃げているということになる。多くはパキスタンを経由していると伝えられている。

4位南スーダン。内戦・洪水・食糧危機による。国の人口は1100万人なので国民の20%が第三国に逃げているということになる。ウガンダとエチオピアを経由している。日本では難民ではなく避難民という扱いになっているようだ。

5位ミャンマー。日本ではトルコとミャンマー出身者による難民申請がこの数年上位を占めている。令和4年はカンボジア、スリランカが上位に上がった。ロヒンギャだけでなく、政治問題・宗教問題(村の襲撃)なども加わった。令和4年2022年には多くの人たちが帰国できなくなっていた。特に技能実習生らだそうだ。しかも受け入れ先の労働環境が良いとはいえなかった場合、難民申請に踏み切るようだ。ただ定住の資格が比較的他国より緩いようにも感じるし、特定技能になれば、本当の難民であってもそのほうがいいので令和4年には申請が半数に減ったのではないかと考える。

◆難民の受け入れ国トップ5
 ドイツ以外は難民出身国と受け入れ国は近隣の関係にある。もちろん、近隣からの難民のみではない。トルコはアフリカからの難民、パキスタンはアフガニスタン人だけでなく、中東やロヒンギャも受け入れている。コロンビアとウガンダは、ベネズエラと南スーダンの受け入れだ。なぜ自国の経済が厳しいのに難民を受け入れるのかというと受け入れることで他国の支援を貰えるメリットがあるからだと考えられている。

[参考]次回さらに分析予定
https://www.moj.go.jp/isa/content/001393012.pdf 
令和4年における難民認定者数等について(日本)出入国在留管理庁のPDF

◆受け入れ国上位と日本の難民申請を思う
 先に挙げたトルコとパキスタンであるが、自国で難民が多く当たり前になっていて、日本では面倒くさいことになることが想像できない人たちもいるのではないかと。偽装でなくても偽装として扱われることになったり、ブローカーにそそのかされて気づくと偽装難民になってしまっていたりということがあるのではないだろうか。また世界のランキングには入らなかったが、日本で難民申請者をしているスリランカ人たちは昨年の国家経済破綻によって混乱している内情やしなくてもいい人まで申請するような流れになってしまっているようだ。カンボジアはインドシナ難民条約もあり、技能実習生で入国して難民申請するケースもあるようだ。ただどの国も今後は特定技能制度を利用して難民申請をしない方向に向かうのではないかと考える。
 …とはいえ、難民のみではなく全ての在留資格に関して審査の諸々、認定基準、認定方法、問題があると思う。

(2023.9.20)
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