【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(69)

入管法から「難民」「避難民」「在留資格」を考える⑥

坪野 和子

 この1ヵ月。ガザ・イスラエル戦争の動画は日本メディアではあまり見られなくなった。パキスタンのメディアは自国の問題が増えているので日本同様報道時間が減っている。私の周囲も同じようだ。子どもたちが血まみれになって死んでいく姿ばかりだからだ。アルジャジーラのSNS投稿は閲覧できないものが増えている。アルジャジーラとWION(インドメディア)から見られるものでもうたくさんとしか言えない。
画像の説明
 イスラム圏の友人が私に送ってくれた画像。この頃はまだ現在ほどではなかった。

画像の説明
 インスタグラムのアルジャジーラ投稿はこのように見ることができないものが増えている。また私も敢えて見たいとは思わない。

 インド・タミルナドゥ州でサイクロンの被害があった。私の生徒は2家族被災地にいたのだが、マドライは大したことがなく、ウーディーは水・電気・ネットが2日間止まった程度だった。

 私がスピーチコンテストを指導した男の子、もしくは彼の弟が容疑者として拘束された。盗難された高価な自動車を埼玉県のヤードに隠した疑いだ。もう既にネットからこの記事は消えていて残ったのは私のブログ記事だけになっている。記録をのこしておく意味があったかなあと思った。
 https://ameblo.jp/amalags/entry-12829984948.html
 携帯電話で毎日写真を撮っているだけでも日記となり、便利な時代になったと思う。
 とはいえ、毎日詐欺やら何か求人やらアカウント凍結やら友達リクエストやら怪しいものが送られてくるのはかなわない。

◆UEA在住の新しい生徒さん 親友にそそのかされているのでは?
 ドバイ在住パキスタン人がオンライン授業の生徒として新しく加わった。関東在住のパキスタン人からの紹介である。職業は科学エンジニア。授業でわかったことだが、姉と妹がいて、医師、教師、弁護士。この国にあって、いや日本であっても、女性がこれだけ学歴が必要な仕事に就けるのだから、実家の家庭教育も資産もかなりのものだろうと思う。彼自身も中東で肉体労働の出稼ぎではなく、技術者なのだし。

 彼が日本語を勉強したいと考えたのは、今年6月、日本に観光ビザで3ヵ月滞在し、多くの日本在留の友人を訪問し、日本でビジネスをしたいからだそうだ。私はてっきり本職でのビジネスだろうと思っていた。授業がすすむにつれ、個人的なことも知るようになった。ある日のこと、今週は引っ越しするから休みたいと言った。よくあることだ。インド人もそうだが、引っ越しは大勢に手伝ってもらい、その日のうちに整理して、その晩は手伝ってくれた人たちと招待した上司とパーティーを行う。引っ越し後、新居をビデオ電話で見せてくれた。まあ広いこと広いこと。お屋敷は6階建てくらいになると思うが、2階。広さは日本の都市郊外一軒家の1.5倍だ(私が知るレベルで)。家賃は日本円にして月3.1万円。日本で家賃・管理費、持ち家なら固定資産税どれだけかかると思っているのだろうか?さらに話しを聞くとパキスタンの実家。それは日本では豪邸とまでいかないけれど、地方の大きな家のようなイメージだった。ああ、東京に憧れて高い家賃のマンションに住んで毎日コンビニおにぎりの若い子たちのイメージとも重なった。
 授業で「私は○○が好きです」という文型を練習していたら「私はアルコールを飲みません」「私は豚を食べません」が必要なのだが、やはり質問で出てきた。これは今までの生徒さんの中では一番しつこかった。ベジタリアンの場合は卵OKだと「私はゆるべジです」と、これを言うと笑ってもらえると教えると早速使ってコミュニケーションになったが、彼のように厳密だと、ただお断りしか教えられない。
 授業中お祈りの時間になると数分ストップしましょうと言うととても感謝してくれた。生徒さんの中には「ああ、後で(お祈りする)」とか「外でやっているだけだから(聞いているだけでお祈りだ)」と言ったりもする。彼はこんなに信心深いのに日本に来て金曜日に休めないだろうし、モスクやマスジトが近い場所に住まいか事務所を置くしかないんじゃないかなあと思った。次の課では「この辺にモスクはありますか」「ごめんなさい、わかりません」と追加フレーズを教えた。日本に来て困らないようにするために教えなくてはならないことが多い。

 日本でどんな仕事をしたいのかと訊いたらその返事に困惑した。自分の手に職がある人だからこの返事が返ってくるとは思ってもいなかった。パキスタン人あるあるだが、「日本でカー・ビジネスをしたい。ドバイに車を輸出したい」日本滞在中に友達(複数)を訪ねて、友達がいかにも儲けていて成功しているかのように見えたのだろう。実態としては個人差があるようだが、このビジネスをしている外国人・外国出身者が口をそろえて「日本は税金が高い」「日本は何をするにもお金がかかる」「日本は家賃が高い」「日本でなくともガソリン代が世界的に高騰しているけれど、元の物価が高い」。
 さらにこのビジネスでなくても「ハラルで食事するのに食材費がかかる」「年金や健康保険払いきれない」などとといった話しはしょっちゅう聞かされる。そこで彼の紹介者である親友さんに、授業料を代わりに支払うことになっていたがまだ入金がないのもあったので電話してみた(月2500円を3ヵ月分。ボランティアでも経費は貰っている、まあお試し期間で次は千葉県の最低賃金をいただくつもりだ。だがその前にまだ入金がない)。親友さんは「絶対、彼を日本に入れてビジネスできるようにする」と言った。ここで私は唆されていると感じた。管理経営の在留資格ビザは次のトピックでどのくらいハードルが高いか述べるが、これが唆しだと感じたのは、パキスタン人あるあるで「日本、いいとこ住みにおいで。お金は入るし、安全(これは本当だし)」これで親戚、遠い親戚、友人からブローカー行為を行っている。顔が似ていると思ったら親戚のようだった。ここで知り合った日系ブラジル人3世のおじさまから祖父が騙されてブラジルに入植した時代の話しを思い出した。「みんな出稼ぎのつもりでブラジルに行ったんだよ。給料、いくら貰える。それはウソじゃなかったけれど物価が違った。帰るだけのお金がなく定着した。帰れない人は日本の親戚を騙して入植させた。今、私は日本にいられてよかったと思う」まったく同じではないが似ている。同じではないのはパキスタン人、自分の国にいたくない、いられないと思うような政治経済を感じて機会があれば外国で暮らしたい、という選択肢が常にあることだ。また出稼ぎではなく、移民、定住・永住が目標だ。

 さてこの生徒さん、私は親友さんのブローカー行為の片棒を担ぐのはイヤだ。どう考えても今のドバイでの生活のほうが日本に来るより、より豊かな生活であると思える。もっとも彼が入国できたその後、同じようにブローカー行為で人を入れれば中古車転売より収益がありそうだ。彼の話しとは関係がなさそうなことを申し上げるが、これは所謂「インド料理レストラン」でも同じように、料理屋を出すことよりも在留資格のためにレストランを開くオーナーがいて、これは外国出身者だけでなく、日本人も含まれる。それだけ日本在留ジャパニーズドリームは魅力があるようだ。

 新潟在住の友人が言ったこと。「みんな日本で頑張ってなんとかしようと思っているけどなにも、なんとかならないんだよ、無理だね」

(2023.12.20)
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