■写真紀行 東方快車の旅       田島 正

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祁連山脈を超え河西回廊を渡る列車の旅-2
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 翌朝、豪華列車で最後となる「早餐」の食卓に向かう。

 「冷盤」(ロンバン)と称して肉や魚の身をほぐして佃煮風にしたものに茹で卵など加わってお粥にあわせて食べると中々の味なのだが回を重ねる毎にこの献立にはいささか食傷気味になってきていた。

 しかし今朝は違っていた。

 「銀耳湯」と早餐のメニューに書かれていたスープに続いて目の前に現われたのは日本流の「おにぎり」だった。

 一瞬のこと目が釘付けになった皿にはなんと憎いことに海苔巻きにした寿司風のものと細く切った海苔を鉢巻き状に巻き付けた2種類の握り飯が花びらの様に奇麗に盛り付けられていた。

 「ふん、中々やるじゃないか」と感心して食べる味に悪いわけがない。

 引き続いて「肉糸湯」というスープが現われたがこちらの方は塩味で野生味のある青い葉っぱが浮かんでいたが今日の食卓の王者は何と言ってもこの2種類の「おにぎり」だった。

 最後が素晴らしかったせいかこの夕餐車で食べた食事全部が急に豪華でなつかしくさえ思えてきてしまった。

 「終わり良ければ全て吉」の格言を忠実に実行したこの列車のコックの憎い程の心尽しに大いにしびれてしまった早餐だった。

 夕方近くの西安駅に降り立つ。

 相変らずの雑踏の中になにか砂っぽい色彩と臭いが全体を支配している感じがしてきた。

 思いだせば嘉峪関でも莫高窟でも皆砂の中の遺跡だったし黄河の川面も黄土一色だった。

 それなのに西安に来てより一層砂を意識してしまうのはなぜなのかそんな疑問を持ったまま駅頭から街に足を踏み入れることになってしまった。

            (筆者はスポーツ・辺境専門写真家)