【コラム】
酔生夢死

制裁緩和待つ中朝国境の街

岡田 充


 「おーい、釣れるかい?」と声をかければ、返事が返ってきそうな距離で、木造小舟に乗って川魚を獲る2人の漁民。約200メートル先の対岸では、3人の女性がおしゃべりしながら川で洗濯している。中国と北朝鮮の国境を流れる鴨緑江。中国側の遼寧省丹東市で遊覧船に乗ると、対岸の北朝鮮・新義州は目と鼻の先だ。

 トランプ米大統領と金正恩・労働党委員長の歴史的な米朝首脳会談から1年余り。北朝鮮は核・ミサイル開発の「先軍政治」を止め、経済建設へと路線転換した。しかし国連安保理による2年前の対北朝鮮制裁は残り、人道支援や観光を除き外国の投資や経済協力はストップしたまま。
 北朝鮮にとって隣国の中国は、対外貿易の約9割を占める経済の命脈であり、約7割の物品は丹東経由で輸送される。しかし制裁の影響で昨年の中朝貿易は半減した。「100年来の自然災害で1,100万人に影響が出る」という韓国側の推計もある。

 丹東の観光名所は、両国をつなぐ全長1キロの「鴨緑江断橋」。なぜ「断橋」と呼ぶのか。それは1950年、朝鮮戦争中に米軍のB29の空爆で、北朝鮮側部分だけが破壊され、橋を通じた中朝間の往来が断たれたからである。橋はもともと、朝鮮を植民地支配していた日本の総督府が1911年に完工した。

 9月の新学期直前だったせいか、遊歩道になっている橋は家族連れの観光客でにぎわっていた。中国人は対岸の新義州への日帰り観光旅行が認められ、結構な人気だという。費用は1人800人民元(約1万3,000円)。豊かになった中国庶民にとっては高くはない。
 北朝鮮観光が人気なのは、50歳以上の中国人にとってある種の「郷愁」を味わえるからだという。「政治闘争に明け暮れ、貧しかった文化大革命時代の自分の姿と、現在の北朝鮮を重ね合わせられる」とある観光客は話す。

 鴨緑江には、川の中洲の経済開発区や新しい橋が完成したが、制裁継続で全く利用されていない。金委員長が6月末、この経済開発区を視察したと報じられると、丹東の不動産価格は一気に上昇したという。中朝とも制裁緩和を「今か今か」と待ち望んでいる。

 対岸を見晴らす中国側岸壁に、鴨緑江の川魚や鴨料理を出すレストランあった。屋根の上には北朝鮮、中国、韓国、ロシア四か国の国旗がはためく。韓国とロシアの観光客を意識した店の配慮だろう。店の名前は「海鮮聯盟」。「聯盟」には中国で「同盟」の意味もある。東アジアの「4か国同盟」。米日 vs 4か国。なんとなく今の東アジアの政治地図を表すような風景だった。もちろん、勝手な思い込みに過ぎないが。

画像の説明
  対岸の北朝鮮を一望しながら、鴨緑江の魚料理が楽しめるレストラン「海鮮聯盟」

 (共同通信客員論説委員)

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