加藤さんへの想い

竹中 一雄

 加藤さんは私より5年の年長の最も尊敬する先輩であり、いちばん大好きな、かけがえのない友人でした。昭和30年代に江田三郎さんととともに知り合い、以後60年、教えて頂いたことは山のようにあり、長い間の変わらぬ友情に、ただただ感謝するばかりです。追悼の言葉を書こうと思っても、私の気持ちは何とも文章には表現できません。言葉にならない思いがあります。それでごく短文でお許しください。

 私は加藤さんに誘われて、荒木重雄さんの主宰される「仏教に親しむ会」に参加していました。また私が加藤さんを誘って、能の会にもよく行きました。能は日本の土壌に生まれた最高の仏教芸術のひとつだと思います。それぞれの会の終わった後で、加藤さんと一献を傾けながらの談笑は、私にとって至福のひと時でした。

 私はかねてから、加藤さんのことを「宣幸菩薩」、幸せをひろく伝える菩薩様だと思っていました。人には仏教臭を全く感じさせないで、それでいて「利他」という大乗仏教の真を身につけている本当の菩薩様でした。加藤さんの数多くの立派の業績は、そこに根底があると思っています。

 私は遠く及びません。加藤さんという拠り所を失って、虚空を漂っているような気分です。いまは私と同年齢の久保孝雄さん以外に、加藤さんの年齢との間には、オルタ仲間は誰もいなくなりました。何とか気を取り直して、「生死一如」と思って加藤さんとの対話を続けながら、私の残り少ない人生、いましばらく少しは前に向かって歩かねばと思っています。合掌。

 (「オルタ」編集委員会顧問)

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