【「労働映画」のリアル】

第3回 労働映画のスターたち・邦画編(3)

清水 浩之


●労働映画のスターたち・邦画編(3) 山本 太郎      /清水 浩之

 2015年9月18日深夜、参議院本会議の「安全保障関連法案」採決でただひとり“牛歩戦術”を行い、日本中がその“歩みの遅さ”に注目した新人議員。議長席から投票を急かされ、採決を早く終わらせたい与党議員から嵐のようなヤジを浴びながらも、飄々とした表情で時間を稼ぐ姿は、歌舞伎なら大向うから「待ってました」「日本一!」と声がかかりそうな役者っぷりだった。そんな彼=山本太郎の独擅場を見ていると、俳優時代にもこれと似た場面をよく演じていたなぁ…と思えてきた。《崖っぷちの似合う男》、山本太郎の作品歴を追ってみよう。

 1974年、兵庫県宝塚市出身。高校1年生の時に、日本テレビ『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の視聴者参加企画“ダンス甲子園”に出場。競泳用のパンツ一丁でキレのある踊りを見せる“おもろい兄ちゃん”はたちまち人気者となり、ドラマや映画にも出演するようになる。オシャレな若者が増えた1990年代、彼の無骨なキャラクターはかえって重宝されたようで、『突然炎のごとく』(1994)『ゲロッパ!』(2003)など、井筒和幸監督作品での気のいいアンちゃん役をはじめ、NHKの朝ドラ『ふたりっ子』(1996)、深作欣二監督の『バトル・ロワイアル』(2000)などで重要な役を演じる。竹内力・主演の人気シリーズ『難波金融伝 ミナミの帝王』(1999〜2004)でも、借金の取り立て人として『悪名』の田宮二郎を彷彿とさせる軽妙な味を出し、“悪い奴らをやっつける悪い奴”になりきってみせた。

 一方で彼は、マイノリティとしてたくましく生きていく役柄も多い。『夜を賭けて』(2003/金守珍)での、大阪の砲兵工廠跡から夜な夜な鉄屑を盗んでくる在日朝鮮人“アパッチ族”の中心人物。『歌舞伎町案内人』(2004/張加貝)の、日本社会に馴染めず“裏社会”に潜り込む中国人留学生。そして『EDEN(エデン)』(2012/武正晴)では、20年前に故郷を捨ててゲイ・コミュニティで生きてきたショーパブ店長と、一癖も二癖もある役を堂々と演じ切っていた。職業体験ルポの連載をまとめた初の著書『母ちゃんごめん 普通に生きられなくて』(1998/ぴあ)のタイトル通り、「普通に生きられない」境遇こそが彼の本領という気もする。

 俳優・タレントが海外でホームステイ体験をする紀行番組『世界ウルルン滞在記』(毎日放送)では、リポーターの代表的存在として活躍。「子どもの頃にテレビで見て以来、ずっと憧れていた」というニューギニアの裸族と共に暮らし、伝統的な正装「コテカ(ペニスケース)」を身に着けることを認められて大喜びする天真爛漫さには、見ているこちらも思わずニコニコしてしまった。

 もしも40年早く生まれていたなら、高倉健や菅原文太のような大スターになっていた気もするのだが、彼のスケールを受け入れられる舞台は、今の日本では永田町くらいしかないのかも知れない。これからも、国会をはじめ様々な“崖っぷち”に立つ山本太郎の雄姿を見続けていきたい。
(NPO法人働く文化ネット「労働映画百選通信」No.03より)

 (しみず ひろゆき 映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎「労働映画アンケート・あなたの注目労働映画は?」/Webアンケートにご協力ください。http://hatarakubunka.net/ または、「労働映画事業」で検索!/12月末まで受け付けています。

◎働く文化ネット第25回労働映画鑑賞会〜交通安全の最前線にて〜/上映作品:『ドキュメント 路上』(1964年/54分 監督/土本典昭)交通地獄の中で、違反や危険なしには働けないタクシー労働者の過酷な労働実態に迫る。/2016年2月4日(木)18:30〜/ (18:00開場)神田駿河台・連合会館2階201会議室<http://rengokaikan.jp/access/>/参加費無料・申込不要

◎働く文化ネットでは、日本映画百年の歴史が産んだ「労働映画」の中から100本を選び、日本の労働映画の豊かな世界を明らかにする作業を進めています。詳しくは働く文化ネット・労働映画スペシャルサイト <http://hatarakubunka.net/> 参照。

◎【上映情報】労働映画列島! 2015年12月〜16年1月 <http://goo.gl/cw1Jxv>
※【労働映画列島】で検索!

◇新作ロードショー
『ア・フィルム・アバウト・コーヒー』《12月12日(土)から 東京・新宿シネマカリテで公開、全国順次公開予定》ニューヨーク、シアトル、東京など5つの都市で活躍するコーヒー店オーナーたちの仕事を追ったドキュメンタリー。(2014年 アメリカ 監督/ブランドン・ローパー)

『ひつじ村の兄弟 』《12月19日(土)から 東京・新宿武蔵野館ほかで公開、全国順次公開予定》アイスランドの村を舞台にした人間ドラマ。40年間にわたり不仲だった兄弟が、疫病から羊を守るために力を合わせる。(2015年 アイスランド、デンマーク 監督/グリームル・ハゥコーナルソン)

『ヤクザと憲法』《1月2日(土)から東京・ポレポレ東中野で公開、全国順次公開予定》東海テレビ製作のドキュメンタリー映画第8作。暴力団排除条例施行以降の、組員とその家族たちの人権問題に迫る。(2015年 日本 監督/土方宏史)

◇名画座・特集上映
【広島市映像文化ライブラリー】〜12/19 「映画による日本紀行」…馬/集金旅行/寅次郎忘れな草/他
【京都文化博物館】12/8〜27 「映画日本百景 北海道〜青森編」…馬喰一代/女ひとり大地をゆく/蟹工船/他

【渋谷 ユーロスペース】12/12〜18 「イスラーム映画祭」…ガザを飛ぶブタ/二つのロザリオ/他
【田町交通ビル】12/19 「レイバーフェスタ2015」…川柳人 鶴彬/アリ地獄天国(土屋トカチ監督新作)/他
【渋谷 ユーロスペース】12/19〜25 「ニッポン・マイノリティ映画祭」…リュミエール 明治の日本/コタンの口笛/他

【大阪 第七藝術劇場】12/19〜 『今夜、列車は走る』 …アルゼンチンの鉄道員たちを描いた人間ドラマ(2004年)

【ラピュタ阿佐ヶ谷】12/20〜2/27 「映画探偵の映画たち」…何が彼女をそうさせたか/電車が軌道を走る迄/土/他
【ラピュタ阿佐ヶ谷】12/20〜2/20 「東京映画地図」…都会の空の用心棒/明日は月給日/その場所に女ありて/他

【角川シネマ新宿】12/26〜1/15 「若尾文子映画祭 青春 アンコール」…閉店時間/四十八歳の抵抗/他
【TOHO日本橋/ほか全国55館】12/26〜1/8 「新・午前十時の映画祭」…アパートの鍵貸します/素晴らしき哉、人生!
【宮崎キネマ館】1/2〜8 「トラ祭2016」…男はつらいよ 奮闘篇/寅次郎真実一路/トラック野郎 望郷一番星


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