労働映画のスターたち(76)

小池栄子

《仕事も家事も「全部やる」 八面六臂な今どきの「才女」》
 
 月曜は紀行バラエティ『クレイジージャーニー』(TBS)。水曜はドラマ『新宿野戦病院』(フジ)。そして木曜は経済ドキュメンタリー『カンブリア宮殿』(テレ東)。現在3つの番組で司会や主演を務め、平日夜のテレビを賑わす小池栄子さん。明朗なお人柄と、当意即妙なコメントを繰り出す明晰さで、幅広い世代から「カッコいい」と支持されている。
 
 7月スタートのドラマ『新宿野戦病院』は、現代社会を巧みに諷刺した快作が続く宮藤官九郎のオリジナル脚本。新宿・歌舞伎町の救急外来病院を舞台に、貧困や高齢化から「トー横キッズ」まで、様々な問題が搬送されてくる「泣き笑い群像劇」。仲野太賀、濱田岳、橋本愛ほかイキの良い主演級スターが揃う中、「アメリカ国籍の元軍医」に扮した小池さんは一座の「座長」格。ドラマかコントかわからなくなる、ハイスピードな台詞の掛け合いを悠々と演じている。ドラマの「女優」、バラエティの「タレント」に舞台の「俳優」としても経験豊富な小池さんに打ってつけな作品となってきた。どんな最終回を迎えるかが楽しみだ。
 
 1980年生まれ。地元は東京・下北沢。高校1年生のとき、渋谷でスカウトされ芸能界へ。女優を志すが機会に恵まれず、まずは雑誌のグラビアを飾る水着姿で注目される。この後、テレビのバラエティ番組に起用されるが、彼女をスカウトした芸能プロ社長が 《受け答えが明快で、頭の回転も速い》と証言していた通り、的確な発言で「オンエアに残る」仕事ぶりを見せる。『ウリナリ!!』(2002年・日テレ)の人気企画「芸能人社交ダンス部」で活躍、さらに『爆笑問題の検索ちゃん』(2005年・テレ朝)などでの司会進行が評価され、2006年に始まった『カンブリア宮殿』で、作家・村上龍と共に政治・経済界のキーパーソンと対談する「インタビュアー」に抜擢された。このとき、満25歳。
 
 お堅い番組の「女性キャスター」といえば、従来は男性キャスターのアシスタント的な役割が求められたが、毎回ゲストとして登場する一流企業のトップや大物政治家を相手に、小池さんは等身大の視点からキチンと質問を投げかけ、時にはささやかなツッコミも交えながら議論をリードしていく手腕を発揮する。女性キャスターとしては同じ苗字の小池さんもかつて人気を博していたが、栄子さんの方は対談相手への思いやり、おもてなしの要素、即ち「ホスピタリティ」が抜きん出ていることが大きな特徴だと思う。番組は今年で19年目を迎えたが、小池さん(栄子さんの方)が確立した女性キャスター像は、その後のテレビでの「男女対等」化に大きな影響を与え、「女性主導」の路線も切り拓いた。
 
 放送10周年記念の会見(2016年)で、一番緊張したゲストは小沢一郎センセイだと語り、《結構気に入ってくれていましたよ》《今ごろ百合子さんみたいに立候補していたかもしれない》と冗談めかした栄子さん(頭良すぎる…)だが、彼女の本領はここからで、『カンブリア宮殿』に出演し続けた18年の間に、「本業」の俳優として見事に大成した。
 
 2004年の映画『下妻物語』(中島哲也監督)では、田舎町の女の子たちから尊敬される暴走族の総長。2005年のNHK大河ドラマ『義経』の女武将・巴御前、WOWOW『巷説百物語』の旅芸人と、時代劇での鉄火肌のヒロインも得意とするようになる。2008年の映画『接吻』(万田邦敏監督)では、テレビに映る殺人犯(豊川悦司)に一目惚れした女性の破滅的な純愛を演じ切り、毎日映画コンクール主演女優賞を受賞した。
 
 演劇にも年1本ペースで出演し続ける。太宰治の絶筆小説を基にしたケラリーノ・サンドロヴィッチ・作『グッドバイ』(2015年)ではコメディエンヌ=喜劇女優として高く評価され、読売演劇大賞・最優秀女優賞を受賞。2020年には成島出監督により映画化もされた。
 
 テレビドラマでは『リーガル・ハイ』(2012年・フジ)、『ヘッドハンター』(2018年・テレ東)など、数多くの作品で有能かつ強気な女性役を歴任。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)でとうとう尼将軍・北条政子に。一方で、翌年のホームドラマ『コタツがない家』(2023年・日テレ)では、仕事も家事も「全部やる」スーパーレディが、不甲斐ない夫(吉岡秀隆)、父(小林薫)、息子(作間龍斗)に手を焼きながらも円満に暮らしていく姿を演じ、今を生きる「才女」の心模様を巧みに描き出した。
 
 「(将来の夢は)朝ドラのヒロイン」(2024年8月12日・『クレイジージャーニー』)と語る栄子さん。『芋たこなんきん』(2006年・NHK)で主人公の作家・田辺聖子役を演じた藤山直美さんは当時47歳だったので、十分にチャンスはあります。ぜひ実現してほしいです。
 
 参考記事: 《小池栄子 運命を変えた知られざる「高1水着写真」》 週刊文春 2022年5月5日・12日号
 《小池栄子、小沢一郎氏に食事誘われていた 「今ごろ立候補していたかも」 》 オリコンニュース 2016年7月16日
 
 (しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

(2024.8.20)
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