【「労働映画」のリアル】
労働映画のスターたち(81)
菊池風磨
清水 浩之
《「旧J系」から現れた、令和ならではの中途採用ドラマ》
2024年9月からNetflixで配信が始まったドキュメンタリー・シリーズ 『timelesz(タイムレス) project –AUDITION-』、通称「タイプロ」。2011年結成の男性アイドルグループ「Sexy Zone」が、メンバーの卒業を機に「timelesz」へと改名し、新メンバーをオーディションで選考していく過程を密着取材する。うちの奥さんが見始めたのにお付き合いしていたら……見事にハマってしまいました。
オーディション番組といえば、昭和の 『スター誕生!』(1971~83・日テレ)や平成の『ASAYAN』(1995~2002・テレ東)を思い浮かべるが、従来のように芸能事務所やテレビ局の主導ではなく、timeleszのメンバー3人(菊池風磨、佐藤勝利、松島聡)が自発的に「仲間探し」というコンセプトでの募集を決め、事務所やメディアが連動するという、逆転の発想で始まったのが画期的だった。
グループ結成時の5人から3人に減った時には「解散」も予想されたが、自分たちが育ててきたグループで「より飛躍を目指したい」と考えた菊池さんが提案したそうで、その後のオーディションでも、3人で方向性を決め、スタッフや仕事仲間が選考をサポートし、そして会場を訪れた事務所の先輩タレントたちが助言を与えていく、という展開が面白かった。
菊池風磨さんは1995年生まれ。「嵐」に憧れて中学2年生で事務所に入り、16歳でデビュー。アイドルとしての彼を知らない人でも、P&Gの洗剤・ボールドのCMで「説明せい!」と叫ぶ“洗濯大名”は見たことがあるのでは。ドラマや映画、舞台への出演も多いが、近年はバラエティ番組『ドッキリGP』(2018~・フジ)や、「嵐」の二宮和也さんの主導で始まったYouTubeチャンネル「よにのちゃんねる」(2021~)などでの当意即妙な言動に注目が集まっている。
彼らが所属する大手芸能事務所は2023年、創業者による性加害問題を受けて経営陣が入れ替わったが、現在の所属タレントや、「ジュニア」と呼ばれるデビュー前の若者たちは、情勢次第で態度の変わる芸能ビジネスと、今までと変わらず熱烈に応援するファンとの間で揺れ動いている。そんな中で、いわば「営業の最前線」から発案されたこのプロジェクトは、再建を迫られた老舗企業で、若手社員たちが新規部門の立ち上げに奮闘する「お仕事ドラマ」の様相を呈してくる。
三次選考を見た先輩・大倉忠義さん(SUPER EIGHT)が、生え抜き(=ジュニア)と一般応募者との間のプロ意識の違いを指摘し、四次選考からは、ジュニア出身で現在は「俳優部」所属の3人が参戦。新人とベテランのチームワーク、業務の現場で共に働くグループとしてのバランスなど、世の中のあらゆる職場で課題になることが検討され始めると、一刻も早く次の回が見たくなる。
応募総数・約1万9千件。ダンス未経験の大学生から、ラストチャンスと位置付ける元アイドルまで、厳しいレッスンに取り組む候補生たちの群像劇に魅せられると同時に、選考する側の3人も「職場の先輩」として成長していく様子に惹きつけられる。最終選考のパフォーマンスを見終えて、「楽しかったなぁ」と語りかける菊池さんは、徹夜で準備したプレゼンの後の上司のように爽やかだった。今後、ドラマや映画で年齢相応の役柄を演じる時には、今回の経験がきっと役に立つと思う。
半年にわたって配信されたオーディションの結果、2月に5人の新メンバーが加入したtimelesz。令和ならではと言えそうな「現場目線の中途採用」が、旧態依然とした芸能ビジネスのあり方を変えていくきっかけとなるかも知れない。この春からの活躍を楽しみにしています。
(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信
◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
働く文化ネットでは、毎月「労働映画鑑賞会」を開催しています。お気軽にご参加ください(参加費無料・事前申込不要)。働く文化ネット公式ブログ http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/
5月の労働映画鑑賞会 第105回「美と夢と楽しさ 新しいライフスタイル!」
開催日:2025年5月8日(木)18時 (17時45分開場)
上映作品:『ファブリックの女王』
2015年/85分/フィンランド 監督:ヨールン・ドンネル
出演:ミンナ・ハープキュラ、ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン
内容:北欧を代表するファッション・ブランド「マリメッコ」の創業者、アルミ・ラティア(1912~79)の波瀾万丈な人生を描く。第二次世界大戦後のフィンランドで生まれた、カラフルで斬新なデザインのファブリックや、女性をレースやコルセットから解放したドレスは大人気となるが……。経営者としての悩みに直面するアルミを、彼女の役を演じる俳優の視点も交えながら展開していく。
会場:連合会館2階 203会議室(地下鉄千代田線 新御茶ノ水駅 B3出口)
◎【上映情報】労働映画列島!4月~5月
※《労働映画列島》で検索! https://shimizu4310.hateblo.jp/
◇新作ロードショー
青春 -苦- / 青春 -帰- 《4月26日(土)から 東京 渋谷 シアター・イメージフォーラムほかで公開》 子供服産業の一大拠点として知られる湖州市・織里。中国各地から集まった若い出稼ぎ労働者たちの日常を記録するシリーズの第2~3作。(2024年 フランス=ルクセンブルク=オランダ 監督/ワン・ビン)
ロザリー 《5月2日(金)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 20世紀初頭に実在した「ヒゲのマダム」=カフェ経営者のクレマンティーヌ・ドレをモデルに、ありのままに生きた女性を描く。(2024年 フランス=ベルギー 監督/ステファニー・ディ・グスト)
ガール・ウィズ・ニードル 《5月16日(金)から 東京 新宿ピカデリーほかで公開》 第一次世界大戦後のコペンハーゲンを舞台にしたミステリー。工場のお針子として働く女性が、貧困から抜け出そうとするが…。(2024年 デンマークほか 監督/マグヌス・フォン・ホーン)
金子差入店 《5月16日公開(金)から 東京 TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 刑務所や拘置所への差入を代行する「差入店」を営む一家が、2つの事件の謎と向き合うサスペンスドラマ。(2025年 日本 監督/古川豪)
◇名画座・特集上映
▼全国
【東京 有楽町朝日ホール/他】 5/2から 「イタリア映画祭2025」…ロミオはジュリエット/隣り合わせの人生/戦場/ファミリア/にもかかわらず/ディーヴァ・フトゥーラ/動物誌、植物誌、鉱物誌/他
▼北海道・東北
【札幌 大通西17丁目 庭ビル】 4/26 「映画とごはんの世界旅行vol.12 ジョージア編」…ゴンドラ(2023年 ドイツ=ジョージア 監督/ファイト・ヘルマー)
【青森県立美術館】 4/20・5/24 「描く人、安彦良和 特別上映会+トークショー」…わんぱく大昔クムクム/機動戦士ガンダム/機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編
▼関東・甲信越
【大宮 OttO】 4月29日開館 4/29~5/11 キノ・ライカ 小さな町の映画館/他
【東京 丸の内TOEI】 7月27日閉館 5/9~7/27 「さよなら 丸の内TOEI」…網走番外地(1965)/仁義なき戦い 広島死闘篇/銀河鉄道999/動乱/鉄道員 ぽっぽや/レジェンド&バタフライ/他
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 4/27~6/14 「若尾文子映画祭-大映〈プログラムピクチャー〉の職人監督と」…東京おにぎり娘/勝利と敗北/女は抵抗する/鎮花祭/温泉女医/やっちゃ場の女/他
【鎌倉市川喜多映画記念館】 4/17~7/27 「映画雑誌SCREENの流儀―近代映画社の仕事」…マイ・フェア・レディ/エデンの東/地上より永遠に/クレイマー、クレイマー/レナードの朝/他
【佐渡 相川 ガシマシネマ】 5/1~ トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦(2024年 香港 監督/ソイ・チェン)
▼東海・北陸
【小松 團十郎芸術劇場うらら】 「ウィークエンドシアター in うらら」…5/16 巴里の空の下セーヌは流れる 6/27 愛のアルバム 7/18 麗しのサブリナ 8/8 波止場
【東海市創造の杜交流館】 5月1日から定期上映開始 5/1~15 マンガ家、堀マモル 5/9~15 わたのまち、応答セヨ
▼関西
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 4/26~6/13 「生誕120年 成瀬巳喜男レトロスペクティブ」…夜ごとの夢/乙女ごゝろ三人姉妹/女人哀愁/はたらく一家/めし/おかあさん/流れる/他
【神戸映画資料館】 4/26~29・5/3~6 「人生の幻影 ダグラス・サークの二都物語」…奇蹟/丘の雷鳴/ステキなパパの作り方/僕の彼女はどこ?/私を町まで連れてって/心のともしび/他
▼中国・四国
【岡山 シネマ・クレール】 4/18~24 「テレンス・マリック特集」…天国の日々/バッドランズ
【山口情報芸術センター】 4/19~5/6 「中原中也記念館連携上映」…ゆきてかへらぬ/眠れ蜜
【高松 ホール・ソレイユ】 4/25~5/8 「追悼 カルトの帝王 デヴィッド・リンチ監督特集」…ロスト・ハイウェイ/イレイザーヘッド/ツインピークス ローラ・パーマー最期の7日間
▼九州・沖縄
【福岡市総合図書館 映像ホール シネラ】 5/14~6/1 「アジアの女性映画監督再考 第5期:フィリピン篇」…貴女のためにたたかう/海に抱かれて/ムロアミ/アメリカンアドボ/ドバイの恋/他
【那覇 沖縄県立博物館・美術館 講堂】 「海燕社の小さな映画会2025」…4/27 ぜんまい小屋のくらし/西米良の焼畑 6/15 ふじ学徒隊/豊見城の戦争の記憶
▼海外
【ニューヨーク ジャパン・ソサエティ/メトログラフ】 5/9~31・6/5~29 「Mikio Naruse: The World Betrays Us 成瀬巳喜男 世界は私たちを裏切る」…浮雲/女人哀愁/妻よ薔薇のやうに/あらくれ/放浪記/妻の心/銀座化粧/秋立ちぬ/乱れる/他
◎日本の労働映画百選
働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。
『日本の労働映画百選』電子書籍版(2021.04更新)
https://drive.google.com/file/d/1WUUYiMwhdncuwcskohSdrRnMxvIujMrm/view
(2025.4.20)
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