■ 【私の視点】

 1.北方領土への外資流入問題を考える      望月 喜市
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  北方領土を管轄するサハリン州はすでに2010年4月の時点で韓国の首都ソウル
で北方領土を含む同州への投資説明会 を開いていた。北方領土について、レニ
ウムやチタンなどの希少金属が豊富だなどとし開発・投資を呼びかけた。 韓国
側は約140企業が出席した(A110118)。
 
  この州レベルの動きに呼応して国のレベルでも、ロシアは韓国企業に 北方領
土を含む千島列島の開発事業参画を求めている。韓国企業は建設、石炭、水産加
工、ホテル事業に関心を寄せ ているという(バサルギン地域発展相による)。2
月1日には南クリール地区が、国内外の企業などを対象に投資誘致 を目的とし
た初の説明会をユジノサハリンスクで開催した。韓国の領事やオランダのベスパ
ロフ名誉領事(ロシア人) が参加し、名誉領事は「オランダは関心を持って対
応すると思う」と話した(共同通信)。

 ロシア側は2011年1月下旬大連で中国企業を対象に「投資促進会」を開催し、
席上水産物の養殖や輸入、販売などを 提案した。ロシア漁業庁のサベリエフ広
報局長は2月16日、中国の水産会社が北方領土の色丹島でのホタテ養殖などの合
弁事業でロシアの水産会社と交渉中であることを明らかにした。同局長は、「中
国・大連の会社だけで3社が事業参加 を求めている」と述べた。

 北方領土への第三国企業の進出拡大で、日ロの領土交渉は一段と困難になりそ
うだ。2011年3月には北京で中国企業むけ投資説明会を計画している。中国企業
の4島への投資行動はすでに実現の段階に入っている。 国後島の水産会社「ボ
ズロジジェニエ」と大連の水産会社が国後島で、ナマコ養殖の合弁事業を開始す
ることで2月初めに 基本合意し覚書に署名した(2月15日:共同)。

 「ボズロジジェニエ」社長によると、国後島でナマコを養殖し中国向けに 輸
出する事業の提案が中国側からあり、環境調査などを踏まえ、今年4月から本格
的に事業に着手するという。社長は 「中国企業には資金力と技術があり、しか
も中国には広大なナマコの販売市場がある」と語った。ナマコは中国で高級食材
として取引されている。「ボズロジジェニエ」は過去に、北海道の水産業者と
の共同事業を検討した経緯もある。

 水産会社 「ボズロジジェニエ」のプロトニコフ社長は2月15日、「中国だけ
でなく、特に韓国企業は投資への関心が高い。毎日電話 で連絡を取り合ってお
り、投資意欲は水産分野に限定されない」と話した。今後も北方領土への外国企
業進出が続く可能性 がある(共同通信)。

  日本政府は、第三国による北方領土への投資はロシアの管轄権を認めること
につながるとして容認しておらず、菅直人首相は 2月15日「そういうことが
あるとすれば、わが国の態度とは相いれない」と強く反発したが、中国外務省の
馬朝旭報道局長 は「われわれはまったく知らない」と述べ、中国政府は無関係
との認識を示した。

 2月11日に訪ロ中の前原誠司外相と会談したラブロフ外相は、北方領土での共
同経済活動を呼び掛ける一方、中国や韓国からの 投資も「歓迎する」と述べ
た。 昨年(2010年)11月1日、国後島を訪れ水産加工工場を視察したメドベー
ジェフ大統領は、その後政府高官を次々に北方領土 へ派遣し、現地のインフラ
整備を進める一方、外国企業の誘致にも積極姿勢を示している。さらに大統領は
10年12月、 統一経済地域、自由貿易地域の創設に言及し日本の投資を呼び
かけた(D110226)。

 この外国投資の4島への呼び込みは、次第に本格化する兆しを見せている。う
した行動は、日本にもはや遠慮しないこと、 そして日本との領土対話を当分閉
じることをロシア側が決定したことの現れであるとみてよい。ラブロフ外相の北
方領土 での日本との共同経済活動の提言に対し、前原外相は「日本の北方四島
における共同経済活動について,日本の法的立場を 害しない前提で考える」と
述べた。 

 現在、日本の法的立場を害さないで4島での経済協力をする方式については、
佐藤優氏と、もう1人の専門家が発言している。佐藤氏の案は、「外務省発行の
旅券ではなく、内閣府発行の身分証明書を携行する日本人がロシアのビザを取ら
ずに北方領土にわたり、経済活動や観光を自由に行える仕組みを作ることは可能
なはずだ」(M110223)というものだ。しかし、韓国資本や中国資本が4島進出
の意欲を示している現在、このような変則的なルール をロシアが認めるとは思
えない。

 私の提言は、「平和条約締結までは、日本人・日本企業がロシアのビザを取っ
て入域し、経済協力を推進する行動をとったとしても、ロシアの領有・実効支配
を認知するものではない」、と日本政府がロシア及び 全世界に向かって声明する。
 
  平和条約で2島が引き渡されれば、その地域は日本の法律が適用され、あとの
2島への入国は ロシアのビザ取得で行えばよいのであって、この時点では外務
省の干渉はもはや皆無になる。ちなみに私の日ロ交渉に関する 提案は「2島+α
で一日でも早く妥結する」というものである(αの内容は、日本に有利な様々の
要求を盛り込んで、ロシア と交渉する)。(2月27日脱稿)

              (筆者は北海道大学名誉教授)

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