【北から南から】■北の便り(15)

北海道で馬を飼おう~一口馬主は如何ですか? 

  南 忠男
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◇存亡の危機にある~ばんえい(輓曳)競馬~新年の出足好調

 帯広市が単独で開催を継続することになったばんえい競馬は新年早々好調なスタ
ートを切った。元旦から4日までの「正月開催」は好天にも恵まれ、入場者が前年
同期比42,9%増の8,800人。売上も同5,0%増の6億500万円だったと新聞が報
じてる。

 農耕、物資の運搬など北海道の拓殖を担ってきた馬文化とその名残であるばんえ
い競馬は2004年に北海道遺産に選定されたものの、累積赤字40億円を抱え存亡の
危機にあった。

 私の子どものころの村祭りのだしものといえば、子どもの相撲とばん馬競争と決
まっていた。農耕馬が、馬橇に重い砂袋を積んで学校の屋外運動場を走り、速さを
競う競技である。1900年代初頭から農家が農耕馬を持ち寄り、力比べをする草ばん
馬が盛んになり、現在でも続けられている町村ある。

 47年に地方競馬法に基づく初めての公営競馬が旭川・帯広の両市で始まり、53年
には北見、岩見沢と4市に拡大された。36年後の89年に運営の効率化を図るため
上記の4市が「北海道市営競馬組合」を設立して共同開催となったが、91年度の馬
券売上げ322億(利益1億3500万)円と好調に推移したものの、バブルの崩壊で
馬券販売額も低迷し、95年度から赤字の連続で、4市で構成する競馬組合の抱える
累積赤字は40億円に達している。

 夕張ショックもあって、昨年の10月旭川市と北見市が事業からの撤退を表明し、
帯広、岩見沢両市による二市開催の枠組みで存続の可能性を検討してきた。しかし、
11月24日、岩見沢市議会の議員協議会で撤退を促す意見が多く、二市開催も不可
能となった。

 最後は帯広一市による単独開催にむけて、帯広市民はもとより、十勝管内の住民
による強い存続運動が続けられてきた。ばんえい競馬は世界でただ一つの競技であ
り、馬文化は北海道の貴重な文化遺産であるが、「馬文化を守れ」といっても、「ギ
ャンブルに血税を投入してよいのか?」という意見も他方にあり帯広市単独の開催
も危ぶまれていた。

 現に私の住む旭川市では競馬組合の抱える累積赤字40億円の半分を背負い込む
ことになり、新年度の予算編成が暗礁に乗り上げている。旭川市は昨年度も職員給
与・諸手当のカットを実施しており、その他事務事業の見直しも行っている。新年
度からゴミの有料化も始まりこれ以上の市民負担も事務事業の見直しも困難である。
これは旭川市だけの状況ではなく競馬組合を構成していた4市とも共通している。

 2000年、ばんえい競馬を舞台にした小説「輓馬」(ばんば)」が帯広市生まれの
作家・鳴海章氏によって発表され、これを原作にした映画「雪に願うこと」(監督・
根岸吉太郎)が05年、第18回東京国際映画祭でグランプリ、監督賞など4冠を獲
得した。この映画が話題になり、一時は馬券の売上げも好調になったが、話題は「風
とともに去りぬ」で、一過性のものに終わり、先に述べたとおり06年暮れに4市に
よる競馬組合は今年度を最後に解散することとなった。

◇「ばん馬は稀有な文化」「馬文化を消すな」の運動

 ながびく不況の影響に加えて、レジャーの多様化の流れのなかで、競馬そのもの
が苦境にさらされているようである。「年末年始の売上げ次第で存亡の瀬戸際に立
たされていた高知競馬(高知市)は、大みそかからの四日間のレースが好調で、2006
年度第三・四半期までの累積で黒字を確保、当面は廃止を免れることが決まった。」
(1月6日・北海道新聞)と報じられている。

 「ばん馬は稀有な文化」「馬文化を消すな」の声は、帯広一市での開催に最後の
望みをかけた帯広市民から十勝全管内、全北海道して全国へと拡大し、ついにIT
業界大手ソフトバンクの関連企業、ソフトバンクプレイヤーズが支援の声をあげた。
同社が設立する新会社に帯広市が馬券の販売や払戻金の支払いなどの業務を委託す
ることになる。

 同社は現在12の地方競馬のインターネットによる馬券販売を行っており、ネット
を利用してばんえい競馬の全国規模でのフアン拡大が期待される。しかし、さきに
も指摘したように、レジャーの多様化という流れは将来に亘って否定しがたく、ギ
ャンブルという側面はフアン拡大にも限界がある。

 「北海道遺産」としてのアピール、北海道の自然や食文化と連携した「観光資源」
としての売り込みなど「競馬・馬券」だけにとらわれない、新しい発想が必要では
ないだろうか。

 「北海道市営競馬組合」は今年度で解散となるが、「8年連続の赤字・40億の累
積債務」を放置してきた責任は重大である。市単独でばんえい競馬を継続すること
とした帯広市の勇気には敬意を表すが、帯広市とて4分の1の責任があることを自
覚し、事業失敗の原因を徹底的に追究して再出発しなければならない。
 
 ◇今年は「しれとこ100平方メートル運動」30周年記念
 
 北海道には知床・旭山という「日本に只一つ」という経験がある。ばん馬の帯広・
十勝が知床、旭山につづく第3極として成功すれば、北海道の可能性はさらに拡大
することになる。
 
 今年は「しれとこ100平方メートル運動」がスタートして30周年になる。知床の
開拓者離農跡地に対する私企業の買占めと乱開発を封ずるため、全国から出資者を
募り、森林を再生するナショナルトラスト「100平方メートル運動」の成功によっ
て「世界自然遺産・知床」が生まれた。
 
 ばんえい競馬を守るにしても、馬券を買うことに興味もないし、されとて、馬主
になるブルジャー趣味にも無縁の人たちの力を結集して、馬文化を守る~「北海道
で馬を飼おう」という運動は如何でしょう。映画「雪に願うこと」の監督・根岸吉
太郎さんも、「一口馬主」運動を提唱している。
 零細なお金で多数の馬主を募り、馬主はネットで自分の馬の成長記録と競技での
奮闘を観戦したりするのは如何でしょう。
 
 「しれとこで夢を買おう~100平方メートル運動」は当時の斜里町長藤谷豊(故
人)氏の提唱によって始まったのである。当時、道東(知床・釧路・十勝管内)(衆
議院旧第5区)には、同氏のほか十勝ワインを開発した丸谷金保元池田町長(のち
に参議院議員を2期勤める・現在88歳で健在)吉村博元帯広市長(故人)のいわゆ
る「アイデア首長三人衆」(いずれも当時の日本社会党に所属)がいた。
 
 カーリング、パークゴルフなどは何れも北海道の十勝が発祥の地である。この十
勝が「馬文化」の再生を期して頑張ってもらいたい。まず、帯広・十勝が頑張れば
全道・全国に支援の輪が広がるのは必至である。
 ニセコを中心にしてオーストラリア等からスキーの観光客が増えている。ばんえ
い競馬が「世界文化遺産」に指定され、世界から観光客を呼び寄せる日もあながち
夢とはいえない。(筆者は旭川市在住・元旭川大学非常勤講師)

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