【コラム】風と土のカルテ(38)
医師は認知症者の「パートナー」になれるか?
4月上旬、「認知症当事者研究会」というグループが都内で開催した勉強会で、 「初期」認知症であることを公表されている丹野(たんの)智文さんと、彼を「パートナー」の視点で支えている医師、山崎英樹さん(清山会医療福祉グループ代表)の話を聞いた。
仙台市在住の丹野さんは2013年、39歳のときに「初期」認知症と診断された。 丹野さんのことは日経メディカル Online などでも報じられているので、ご存じの方も多いかと思う。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201702/550208.html
自動車販売会社のトップ営業マンだった丹野さんは、「これでクビになるのでは」と不安に苛まれる。
区役所や地域包括支援センターを訪ねて支援メニューを聞くが、これといったものがない。
幸い会社は営業職から事務職に配置転換して雇用を継続してくれた。
「初期」認知症当事者として丹野さんは声を上げ、もの忘れの総合相談窓口「おれんじドア」の実行委員代表を務めている。
丹野さん自身は、記銘力、想起力の低下を、日常メモをとることで懸命にカバーしておられる。
山崎医師は、2014年に丹野さんと出会い、ずっとバックアップしている。
勉強会で山崎医師は、「(認知症の)本人は、客体でなく主体である」と何度も繰り返した。
「他人ごととして理解しようとする」ことを越え「『自分ごと』として共感する」、さらには「医師として認知症の患者に対し何ができるのか」を越え「人として認知症の人と一緒に何に取り組むのか」に思い至る――。
そんな、様々な発見と気付きがあったという。
認知症の人にとって当事者同士や良き「パートナー」との出会いがいかに大切なものなのか、丹野さんと山崎医師の体験談からひしひしと伝わってきた。
各自治体は、認知症の状態に応じた支援や医療・介護サービスの内容を記した「認知症ケアパス」を作成しており、山崎医師は仙台市のケアパスづくりに携わった。
その際、認知症の人や家族に対して手助けをする「認知症サポーター」の養成に関し、「支えるというサポーターの視点ばかりでなく、一緒に行動するパートナーの視点が必要」と再認識されたという。
仙台市の認知症ケアパスの「はじめに」では、「不安を背負わないように、あなたに知ってほしいこと」として次の3つを挙げ、冒頭で「社会とのつながり」の大切さを強調している。
(1)認知症になっても社会とのつながりの中で生活が続けられること
(2)早めに病院に行き、相談することが大切なこと
(3)相談窓口がたくさんあること
今回の勉強会を通じ、「医療モデル」で治療の側面から認知症の人に関わるばかりでなく、一緒に新しい現実をつくりあげていこうとする「市民モデル」として手を携えることの重要さを痛感し、反省した。
日々の診療の中で、当事者の方々と「水平な出会い」の機会を持つことがいかに大変なことであろうとも、、、
先月京都国際会館で、日本では13年ぶりとなる国際アルツハイマー病協会(ADI)国際会議が開催された。
(長野県・佐久病院医師)
※この記事は日経メディカル2017年4月28日号から著者の許諾を得て転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201704/551117.html
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