■ 原発災害と闘う ― 被災県は負けない ―    濱田 幸生

    浜岡原発の停止要請 政局ではなく、もっと大きな議論をしよう
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 本来ならば素直によろこぶべきニュースです。菅首相は、浜岡原発の今稼働し
ている定期点検中の3号機に加えて、稼働中の4、5号機も含むすべての運転停
止を中部電力に要請しました。私はこの決定自体は支持します。妥当な判断であ
ると思います。よく知られているように、この浜岡原発は日本で5本の指に入る
危険な原発です。東海、東南海などの巨大地震をまともに受ける地域にあり、近
年は産業総合研究所活断層研究センターの調査で直下、直近に活断層があること
がわかっています。

 それに対して、中部電力が想定している地震の規模マグネチュード8、津波の
高さは8メートルです。三陸地方と地形が必ずしも同じではないのですが(リア
ス式海岸は津波が増幅されます)、この大震災で東海第2原発が想定していた5.
7mの津波にたいして僅か40数㎝まで波がきていた事実を考えると、その備え
は非常に危ういものを感じす。 ちなみに、今回の大震災での津波の高さは、宮
古7.3m、釜石9.3m、大船渡11.8m、石巻7.7m、相馬8.9m、
銚子2.4mでした。ちなみに、福島第一原発を襲った津波は15m以上で、防
波堤は5.6mでした。

 また浜岡原発は、今まで原子炉水漏事故、制御棒落下、破断事故などを起こし
ており、浜岡原発訴訟が起きています。提訴内容は、まさに今回の大震災による
福島第1原発を予知したような内容であり、あらたに目を通すとその正確さに慄
然とします。もし仮に大震災が東海沖で起きたとすれば、直後の大津波と活断層
の動きによって福島第1原発事故と同規模、あるいはそれ以上の重大事故になる
可能性があります。
  その場合、茨城県東海第2原発で起きた場合と同様に首都東京をも被爆圏内に
納めます。今後残る伊方、柏崎刈羽、東海、大飯などの危険性が指摘され続けて
いる原発の安全性の見直しや、原子力政策そのものをどう考えていくのかまで踏
み込んだ国民全体の議論が必要です。

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■東海第2は福島第1と首の皮一枚の差だった。
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  今回の菅首相の「英断」は原発の安全に対する判定基準をなにひとつ明らかに
していません。ただ東海地震の危険だけが理由にあげられているだけです。
  浜岡も危ないのなら、私のうちのすぐそばの東海第2だって伊方だって、美浜
だって、柏崎刈羽だって、みな等しく危ないと思います。その上、海江田経産相
は同時に開かれた記者会見で、「他の原発は安全だ」とまで言い切ってしまいま
した。これは監督官庁の大臣発言ですから、政府による安全宣言と受け取られま
す。
  危ないのは浜岡だけだと。浜岡さえ止めれば一件落着だと。これではなんのこ
とはない、浜岡の危険性の除去の身代わりに他の原発の危険性の点検が切り捨て
られたに等しいじゃないですか!今回の大震災で、4つの原発が試練を受けまし
た。福島県第1、第2、女川、そして東海第2です。今回の大震災時に福島第1
と首の皮一枚の差だったことです。このことは福島県の悲惨さの陰に隠れて地元
紙を除いてまったく報道されていません。3月11日、茨城県東海村ではこのよ
うなことが起きていました。

 2時46分の第1波に続き、3時15分に第2波が茨城県沖で発生したため
に、たてつづけに2ツの巨人のゲンコツが降り下ろされました。結果、原子炉は
緊急停止したものの、外部電源の3ツがすべて切断しました。外部電源の遮断、
まさに福島第1で起きた悪夢の事態が茨城でも起きていたのです。かろうじて非
常用電源3台が稼働したものの、海水取水ポンプのうち1台が故障して起動でき
ず、使用可能は2台のみ。しかも福島第1を襲った巨大津波ではなく、たかだか
といっては語弊がありますが、5M前後の津波で、一台が壊れたというわけです。

 なんという脆弱性!6つの電源のうち、主電源3つともが全滅、3つある予備
電源も2つしか生き残らなかったとすれば、なんと電源の生存率3割だったわけ
です。しかも予備電源ポンプがもうひとつ破壊されていたら、おそらくは充分な
冷却水の供給は不可能だったことでしょう。そうなったら・・・、福島第1とま
ったく同じシナリオが始まったはずです。津波は防潮堤のわずか40㎝下まで迫
っていたのです。もう少し津波が高ければ、東北各県を襲ったクラスの大津波だ
ったのならば、東海第2は間違いなく福島第1と同じ結果をたどったと思われま
す。その後、2台のポンプで冷却し、外部電源が復活した後に冷温停止に持ち込
ました。

 もし残りの2台の非常用電源が無事でなかったのならば、私も今頃は家畜を野
に放って、避難所暮らしをしていたはずでした。かろうじてギロチンの落下する
刃から逃れたのは、東海第2が福島第1と違って補強策をしていたからです。
津波対策としては、メーンの建屋を海面から8mにし、高さ、3.3Mの従来の
防潮堤に加えて昨年9月に側面にも2.8mの側壁を設置しています。側面から
の津波対策を不十分ながらしていたということです。今回の大震災の茨城県を襲
った津波が5.4mと記録されていますから、まさに首の皮一枚という比喩が大
げさでないとお分かりになるでしょう。

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■電力会社の地域独占を見直さないと脱原発は不可能だ
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  さて、私はこの菅首相の浜岡停止要請は、本格的な原発の安全性確認と、今後
のエネルギー政策に向けての国民的な議論に蓋をする防潮堤になってしまったと
思っています。よく復興後のビジョンが唱えられますが、その中に現在の電力供
給体制が含まれていたことを見たことがほとんどありません。暗黙の了解でもあ
るか、はたまたタブーなのか、電力会社の地域独占という歪んだ体制までをも視
野に入れた視点は少ないように思えます。国民の半数は、原発を恐怖しています
が、その代替エネルギー源のみにテーマが限られています。

 太陽光、地熱、風力、メタンハイグレード、オーランチオキトリウム(藻
類)、バイオマスなど多くの代替エネルギー源が登場していますが、かんじんの
そこで作られる電力は誰が、どのようにして配電するのでしょうか?それが東電
のような公共事業体という、超独占を国家から許された地域独占事業体ならば、
本質的になにが変わったのでしょうか?私たち国民はあいもかわらず蚊帳の外です。

 日本の電力供給体制のゆがみは、今回の東日本の電力不足に対しても、周波数
の違いで西日本から電力融通が効かないことです。馬鹿な話です。開化期の横浜
と神戸から輸入された電力規格が違っていたことが、一世紀たってもまだ修復さ
れていず固定化したままになっています。なぜでしょうか?それは地域独占企業
である電力会社が「進化」を止めたからです。自らの管内だけ供給量を満たして
いれば、安閑として巨利を得られるという仕組みが、普通の企業ならば当然備え
ているはずの柔軟なイノベーションを止めてしまったのです。

 だからいつまでたっても電力融通については調査費から先に行かず、わずかな
電力しか融通ができないでいます。今年こそ西日本からの電力融通があれば、計
画停電などせずにすんだはずでした。それを恥じる様子もなく、政府は国民の汗
を搾るようにして節電のみを強要しています。電力不足がいかに復興の妨げにな
っているのか政府・東電は真摯に考えたことがあるのでしょうか。あげくは、無
駄の完全な見直しもできない内から、東電救済のためのスキル作りだ、電気料金
値上げだとか言いだす始末です。

 馬鹿も休み休み言っていただきたい。なんの自助努力もしないで、そのツケの
みを国民に回すのが政治ですか!脱原発を言うのもよし、代替エネルギーを語る
のもよし。しかし、その前に今の電力地域独占体制のままで、電力会社がそれを
しますか?絶対にしませんよ。なぜなら、一基5千億からの原発を放棄できない
からです。しょぼいわが家の屋根に乗っている3.3キロワットの太陽光発電で
すら、東電は大いにいやがったのです。

ましてや、政府の国策に乗って巨額な投資をしてしまった原発を絶対に廃棄す
ることはあり得ません。つまり、いくら脱原発を叫ぼうと、この地域独占という
仕組みそのものを見直していかないと絶対に自ら変わっていくことはないので
す。多様なエネルギー源を実用化するためには、発電所と送電網を切り離すこと
です。発電所は複数の会社による多様なエネルギー源からのものを可能とし、送
電網は東電などから売却していったん国が買い取り、それを補償金に回して、希
望する新たな新電力会社に売ればいいのです。

 配電網の売却で7兆円を捻出できるという試算があります。補償の大きな財源
になるとおもわれます。とうぜん代替エネルギーに必須のスマートグリッド(注)
もいるでしょう。この米国であたりまえとなっているスマートグリッドの普及が
遅れているのも、原発依存を大前提にした今の既存の独占的地域電力会社がネッ
クだからです。この大震災と不幸な福島第1の重大事故がなければ、政府も東電
も聞く耳をもたなかったはずです。今こそが、今だからこそ、日本から失われた
安全・安心、そして活力を取り戻す百年に一度の機会なのではないでしょうか。

*注 スマートグリッド(次世代送電網) 電力の流れを供給側・需要側の両方
から制御し 、最適化できる送電網。専用の機器やソフトウェアが、送電網の一
部に組み込まれている 。

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■風評被害は人災です。その人災をおこしたのは政府です
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  風評被害を考えてみたいと思います。昨日、JA茨城は東電に18億4600
万円の風評被害による価格下落による損害を請求しました。これの内訳は、野菜
関係が約14億4700万円、生乳が約3億9900万円となっています。これ
には3月25日までの集計で、現在もまだ風評被害による被害は続いているため
に5月末に再度の請求が立てられます。またこれには出荷停止分は含まれておら
ず、またJAを通さない農産物も多いために、おそらく最終的に茨城県だけで5
0億円ちかい巨額な請求となると思われます。
 
これにわが県以上に品酷な被害を受けた福島県、そして品目数においては茨城
をしのぐ千葉県の補償請求がされるとなると、もはや天文学的な請求が東電にな
されることは間違いありません。この風評被害は政府によって作られたいわば官
製の風評被害です。「菅」製と言い換えてもいいでしょう。3月中旬、農水省と
厚労省は農産物に対して今回の原発事故による放射性物質飛散による影響がある
のかを調べていました。そしてそれへの対応を協議していたところに、官僚の頭
ごなしに官邸からの直接の指示で、暫定規制値を急遽作れという命令が下りまし
た。これがいまだ福島、茨城、千葉の農民を苦しめ続けている暫定規制値の誕生
です。

 この暫定規制値は大慌てで作られた「政治主導」の産物でしたから、もうめち
ゃくちゃな内容でした。東京近県の暫定規制値のための検体数は、福島県が23
5件、茨城県が121件、この両県だけで356件で、総計667件の半分強を
占めています。他の県の平均検体数は40から50で、なかには5検体という県
もあります。たしかに福島県、茨城県は福島第1原発の被害を直接に受けている
ことは確かですが、検体数が他の県の2倍から6倍では検出されて当然です。こ
れは原発立地県として、福島、茨城両県は他県にない放射線量測定システムを完
備していたからです。しっかりした測定システムを持っていたから損をしたので
す。

 もし政府がまともな規制をしようとしていたのなら、国の責任において均等な
検査システムを作り、土壌検査なども合わせてから数値を公開すべきでした。土
壌検査は一見大変そうにみえますが、現在文科省が行っているダストによる検査
ならリアルタイムの測定車による観測が可能です。山梨や群馬、新潟などまで手
をのばさず、福島、茨城、千葉、栃木の4県ていどに絞り込めばそれは充分に可
能だったはずです。また、検査対象も市町村単位までの絞り込みも可能だったは
ずです。県単位で×〇とは、杜撰にもほどがあります。

 巨大な風評被害を招くことが分かりきっている暫定規制値を、的確な情報も与
えずに数字だけポンと出せば、検体を多く取った、しかもそれを馬鹿正直に素早
く出した福島と茨城が巨大な風評被害に叩かれまくって当然でした。他県は検査
システムがない上に、この2県の惨状を見ていますから、たったの5検体でお茶
を濁す県も現れたのです。今回の原発事故対応は、原子力災害において「こうし
てはいけない教科書」のような対応でした。初動は遅く、指揮系統は分裂し、し
かも抗争をくりかえしていました。

 なにより悪いのは、自分の失敗を隠したいために、ひたすら小規模にみせよう
とする姑息な情報隠匿を何度も行ったことです。SPEEDIによって3月12
日の事故時点で飯館村に高濃度の放射性物質が飛来していたことを知っていなが
ら、いつまでたってもそれを公表せず、半径20㎞、いや30㎞、いやリング状
じゃなくて計画的避難区域だ、今度は警戒区域だ、もうハチャメチャです。この
ような後手後手で振り回され続けた地元住民や、放棄されて殺処分になる家畜を
考えると胸が痛みます。

 飯館村、川俣町、南相馬の一部は、一カ月以上前から飛散が判明していたので
すから、素早く避難区域に指定すべきだったのです。警戒区域指定の判断もすば
やい対応が必要だったでしょう。一カ月の余裕があれば国を上げての避難支援態
勢が組めたはずです。それを情報隠匿の発覚を恐れてのっぴきならないところま
で状況を放置しているから、このように一カ月以内でめいめい勝手に逃げろとい
うような「計画的避難」となったわけです。この暫定規制値も、しっかりとした
調査システムを作って、検体を農産物や土壌から採取して、放射性医学の専門家
の知見を集めて規制値をつくればいいものを、例によって焦ってやっつけ仕事を
するから被災県にこのような天文学的2次被害を与えてしまいました。

 福島県、茨城県、千葉県は大震災の被災県ですよ。政府が復興を遅らせるよう
なことをしてどうしますか。そしていまや日本製の工業製品までもが国際的風評
被害で、放射能フリーの証明書などをつけねば出荷できなくなってしまいました。
風評被害は人災です。その人災をおこしたのは政府です。このことをはっきりと
福島県、茨城県、千葉県の農民は心に刻んでおくべきでしょう。

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■千葉県の出荷制限野菜事件を考える
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  まったくイヤな事件が起きたものです。私の立場上、書くべきか書かない方が
いいのか微妙なのでやや迷いましたが、書くことにします。出荷制限のかかって
いる千葉県産のホウレンソウがパルシステム生協連に出荷されて大騒ぎになりま
した。その前にはイオングループに同じ千葉県産のサンチュが出ています。
【出荷自粛】
-自治体が生産団体などに自粛を要請するもので、明確な法的根拠はない。
【出荷制限】
-原子力災害特別措置法に基づき、国が都道府県などに指示を出すより強い措置。

 当初に暫定基準値を上回った野菜や畜産物に対してだされていた「出荷自粛」
は法的な根拠のないいわば政府からの「お願い」でした。それに対して、今問題
となっているのは「出荷制限」です。これは原子力災害特別措置法26条の「原
子力災害の拡大防止を図るための措置」のうち、「応急対策の実施のため必要な
ときは、行政各部や地方公共団体(今回の場合は4県の知事)に対し、必要な指
示ができる」とする条項を法的根拠にしています。

 マスコミ報道はほとんどが「危険な野菜が出荷されていた」ということで自治
体流通団体を批判しています。まるで食べると即危ないかのような印象操作が行
われています。ルール違反は明らかですが、では実際に危険なのでしょうか?千
葉県が検査数値を出しています。今回のホウレンソウを出荷した多古町の数値
  数字の左がヨウ素131、右がセシウム134と137の合計です。

●暫定規制値(野菜類) 
・放射性ヨウ素:2,000ベクレル/KG
・放射性セシウム:500ベクレル/KG
13 多古町 4月14日 ほうれんそう 260 14.6
14 多古町 4月14日 ほうれんそう 290 27
ヨウ素は基準値2000ベクレル/㎏に対して、検出値が260、セシウムは5
00ベクレルに対して146ベクレルでした。まったく問題になりません。ヨウ
素に至っては一桁少ないほどです。
実際出荷されたほうれんそうの数値もP生協連が検査した数字があります。

●検査結果
・放射性ヨウ素 70ベクレル(暫定規制値2000ベクレル)
・放射性セシウム 28ベクレル(暫定規制値500ベクレル)
このどこが「危険」なのでしょうか?このなにが問題だと言うのでしょうか?私
には理解できません。そもそも暫定規制値というシロモノ自体が、首相官邸から
丸投げされた厚労省がいかなる農業関係者とも、いや農水省とすら相談もせずに
した一夜漬けの仕事だからです。私の批判の要点は次のことです。

①出荷制限(当初は「自粛」)の対象が県単位とあまりに広大であり、実情にそ
ぐわない。たとえば茨城県は県北と県南は150㎞近く離れているが、制限は同
時にかかってしまう。
②放射性物質のうちヨウ素、セシウムは共に揮発性が高く、風向きや地形で一カ
所で検出されても隣が検出されないことがある。それを県の一カ所で出れば一切
出荷不可というのは暴挙に等しい。
③土壌の放射性物質検査は義務づけられていないために、ひとつの畑である品目
が検出されても、他の品目は出荷制限とならない。これは厚労省が食品衛生法的
発想で農産物を斬っているからである。

このように暫定規制値自体に問題があるために、消費者はいったん出荷制限が出
た県全体の農産物を忌避する風潮が生まれてしまいました。これでは暫定規制値
-出荷制限自体が風評被害を作り出す原因となったに等しいではないですか。現
在の都市部、特に東京の消費者の動向はあまりにもナーバスに過ぎます。水道で
出たといえばスーパーでペットボトルを買い占めます。その中にはバナジウムと
いうれっきとした放射性物質が入っているものすらあるというのに。

 あるいはひとつひとつの商品がほんとうに危険かどうなのかの目を養わない
で、福島県産、茨城県産、千葉県産とあるだけで忌避します。私たち茨城の農民
からみれば、なんという身勝手な人たちだという気分にさせられます。今、私た
ち福島、茨城の頭上に覆い被さっている放射性物質は、どこに電気を送るために
作られた原子力発電所から来ているのでしょうか?かつては東海村原発から、そ
して今は福島第1、第2原発、柏崎刈羽原発からです。その送り先は東京を中心
とする首都圏です。(東電HP参照)
http://search.jword.jp/cns.dll?type=lk&fm=127&agent=11&partner=nifty&nam
e=%a5%e4%a5%d5%a1%bc&lang=euc&prop=900&bypass=2&dispconfig=
 
これらの原発は事故の常習犯であり、そして隠蔽の常習犯でした。地元自治体
にすら報告を怠ったことも度々ありました。それが今回の大事故を導いたので
す。もし仮に東海村2号機で事故が起きれば、茨城県ほぼ全域が現在の福島県と
変わらない状況になります。12年前の東海村臨界事故もそのような東海村原発
の付属施設で起きた人為的災害でした。このように東京の人たちは、福島県、茨
城県、新潟県の人々のリスクの上に文化生活を送っていると言ってもいいのです。

 にもかかわらず、いったん事故が起きれば危険は私たち地方住民が背負わせ、
福島、茨城の農産物、水産物であっただけで買わないとおっしゃる。乳飲み子を
抱えるお母さんたちにとっていたしかたがない面は認めます。東京などを選んで
住んでいる方ばかりでないことも理解しています。しかし、こういう言い方はし
たくはありませんが、被害者は私たち農民です。それをあたかも「加害者」であ
るかのように見ないで下さい。もし、ほんとうに「がんばろう、日本」と願うな
ら、自分の目でものを選び、自分の頭で判断して下さい。被災地を応援するとい
うことは、義援金を送ること以外にもたくさんあるのです。それを考えること
が、なによりも大事な復興支援です。

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■つくば市の福島避難者に対する軽挙は恥ずかしい
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  ようやく先日出荷解除になったのですが、出荷時期を1カ月も逃してしまった
ために徒長してしまい廃棄せざるをえませんでした。県全体を出荷自粛(実は強
制)にするという無茶苦茶な政府方針により、ひとつの県丸ごとが出荷不可能に
なりました。そしてホウレンソウ、牛乳、かきなに止まらず、ありとあらゆる農
畜産物が風評被害の嵐に投げ込まれました。10分の1までの落ち込みは、さす
が初めての経験でした。
  そして放射性汚染水を大量に海水に通告なしに放出するという前代未聞の政府・
東電の行為によって茨城の漁業は 未だ出漁すらできない状況に追い込まれまし
た。

 わが県は「放射能汚染の県」として刻印されたのです。このことは茨城県民は、
農民でなくとも屈辱として記憶に新しいはずです。そのわが県のつくば市が、同
じ原発事故に苦しむ福島県からの避難者にスクリーニング証明を出せと要求しま
した。このつくば市の動きには、茨城県からの指示がありました。茨城県の指示
はこのような内容です。
①福島県からの避難民を受け入れる各自治体に対して放射性物質が付着している
ことを想定して、脱衣や除染を優先的に行うように指示した。
②スクリーニング検査(*)を受けるかどうかは避難民の自主的判断とした。
*スクリーニングSCREENING・ふるいわけ・適格審査・この場合は被曝
検査を指す。
③ただし、福島第1原発から半径20km以上に住んでいた人はその対象としない。

 一読すればわかるように、至ってまっとうな内容です。むしろ県の意図したこ
とは、20km圏内からの避難者への健康不安に対する健康サービスの提供と思わ
れます。またスクリーニング検査(被曝検査)も「どうしても心配な方は受ける
ことができますよ」といった配慮であって、義務ではありませんし、ましてや転
入処理の前提ではありません。ところがこの受け入れ県としてはしごく妥当な県
指示が、つくば市に行くとこうなります。

①つくば市は、福島県からの避難者に対して20km圏内であるか否かを問わず無
条件にスクリーニング検査を受けることを要求した。福島県からの人に限らず、
仙台からの転入者にも要求した。
②このつくば市の要求は、スクリーニング検査を受けなければ通常の転入手続き
に入れないために事実上の強制的検査である。

 つくば市の措置は過剰な逸脱です。県は市に対してこのような20km圏外の人
たちにスクリーニング検査をすることなど義務づけていません。あくまで「それ
でも心配な方は受けられますよ」という配慮にすぎません。スクリーニング検査
を避難者や県外者の転入にまで義務づけていた(*現在は批判を受けて廃止)と
なると、つくば市の常識を疑いたくなります。とうぜんのことながら、万が一被
曝していたとしてもそれによって他の人に被曝を感染することなど絶対にありえ
ません。被曝は感染症でないことなど放射性医学のイの字ではないですか。
  研究学園都市の名が泣きます。放射性医学の専門家など山ほどつくば市にはい
るでしょうに、なぜ彼らの意見を聞かなかったのでしょうか。たしかに避難区域
では衣服への付着の可能性がわずかではありえます。しかし仮にあったとしても、
それは既に福島県で既に脱衣、除染されているはずです。それまるで感染症の流
行と同一視して、スクリーニング検査を福島からの避難者すべてに義務づけるな
ど差別を助長すると言われても、つくば市は返す言葉がないでしょう。

 私は差別事件と仰々しく叫ぶつもりはありませんが、12年前の東海村臨界事
故の時に、「水戸」ナンバーをつけているだけで他県から「放射能がうつる」と
言われたことをもう忘れたのですか。よしんば感染症であったとしても、それが
感染を移すかどうか、いかなる対策をとればいいのかの判断には、長い時間と多
くの知見が必要なことはハンセン氏病やHIV対策での苦い経験でした。市民か
らの不安の声があったと言い訳しているようですが、そのような風評を許さず正
しい放射性医学に対する知識を広めるのが市当局の仕事ではないですか。それを
市当局が率先して軽挙してどうします。

 このようなつくば市の心ない行為は、共に原発災害と闘っている福島県民の心
を傷つけました。私は茨城県民のひとりとして大変に申し訳なく思います。
私たち茨城県と福島県は、程度の差はあっても同じように大震災を受け、その後
の原発事故と余震で苦しめられ続けています。その意味で兄弟県のようなものだ
と思っています。私たちはたいしたことは出来ませんが、避難されてきた方には
最大限のことをするつもりでおります。一緒に歩きましょう。

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■つくば市スクリーニング事件は、「差別」か「誤報」か?
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  さて、私はこの事件を、一部で見られるような「放射能差別問題」だとは思っ
ていません。そして逆にこれを「誤報」として逆手にとって、この事件の教訓ま
ですべて流し去ろうとすることにも反対です。というのは、この事件は福島第1
原発の避難に際して起きたことであり、今後もっと大量に出る可能性が高い避難
民の流入に対して、隣接するわが県で起きたことを見逃すわけにはいかないから
です。
これへの対応を誤れば、わが県は避難民を傷つけたかもしれない間違った行政の
あり方を肯定してしまうことになります。
  現在わが国では、残念ながら福島県民に対しての宿泊拒否、福島からの転校生
へのいじめなどの明らかな「差別」ととられてもしかたのない事件が連続的に起
きています。このような流れはここで断ち切らねばなりません。さもないと「が
んばれ、日本!がんばれ、東北!」という国民的スローガンがただの看板にすぎ
ず、身近になればエゴをむき出しにするのだということになってしまいます。も
うひとつ付け加えるのならば、この事件をもってしてつくば市民や茨城県民総体
までもが「差別的」であるかのような言辞を吐く人が絶えません。私のブログコ
メントにも「茨城県民はけしからん」というようなものが来ました。

 あえて反論する必要もない低次元な言い方ですが、とうぜんのこととして私は
つくば市民を批判するべきでないと思っています。行政と市民はまったく別の存
在です。ただ、これが「誤報」ではなく事実だとした場合、それを長期に渡って
放置しつづけていたとすれば、倫理的に如何なものかとだけは言えるでしょう。
さて、この事件で問題となったことは要約すればこのようなことです。

 県が福島からの避難民に対して、スクリーニング検査(被曝検査)を20㎞圏
内以外を任意の保健サービスとしたことに対して、つくば市がそれを転入に対す
る義務として強制した。この報道は全国紙などで複数あり、私はそれを信用しま
した。複数情報が同じことを報道した場合、それの確度は飛躍的に高まります。
それを受けてつくば市長名で「謝罪文」が提出されました。これは以下です。

①つくば市は福島県からの避難民に避難所を提供するなど積極的に受け入れてき
た。②その際に従来は県が運営していたスクリーニング検査を、市が受託して運
営することになった。それに際して各種の専門機関に協力を依頼した。③国から
の情報がないために、市民からの不安の声が上がり、避難所の避難民だけではな
く、福島県からの一般転居者にもスクリーニング検査を「お願い」した。
④このスクリーニングの「お願い」は、3月17日からすべての避難民、転居者
とし、3月24日からは20㎞圏内のみとすることにした。⑤市はこれを転居届
けの義務とはしていない。

 以上は当事者である市が市長名で出した公文書であり、これを否定する証言が
上がらない限り事実に則していると思われます。大事なことは、つくば市は福島
県からの避難民や転居届けに対してスクリーニングを「義務」づけしていないと
いう部分です。だとすれば、報道はあたかもそれを「義務づけ」しているかのよ
うに書いていますのでその部分は事実に即していません。しかし、ここからがや
っかいなのですが、市長みずからこう書いています。

 「しかし,この取扱いの変更が各窓口センターに周知されず,加えて,本件報
道の宮城県からの転入者の方については,窓口センター職員の錯誤により,転入
案内の対応の際に,配慮を欠いたものとなってしまいました。」これはつくば市
の受け付け窓口職員が、ほとんど「強制」であるかのような口ぶりでスクリーニ
ングを避難民や転居希望者、果ては宮城県からの転入者に対して言っていたとい
うことになります。

 つまり、つくば市はそのような方針はなかったが、事実上そのように受け取ら
れかねない行政執行をしていたということです。参ったなぁ。じゃあ一緒じゃな
いですか。そういう気持ちじゃなかったが、実際はそうやっていた。それは窓口
がミスったからだというのです。市原市長さん、このような言い訳は一般社会で
は通用しませんよ。避難民を受け入れる一番の窓口であるはずの転入窓口は、し
っかりと「このスクリーニングは任意です。20㎞圏内以外のかたは心配な方の
み受けて下さい」とアナウンスすべきでした。
 
それを怠って転入窓口がただ「福島県からの方はスクリーニングをしてくださ
い」とだけ言えば、転入者はそれを「義務」として受け取ります。当たり前で
す。このように考えると、私はこれは避難民受け入れに際しての失敗事例だと思
います。ただし「差別」うんぬんを問われるべき事例だとは思いません。一方、
このようなつくば市行政側の大きな手落ちがあり、宮城県からの転入者までにス
クリーニング要求をしたわけですし、市長自身も謝罪しているわけですから、こ
れへの報道を「誤報」というには酷です。

 今後、政府の目を覆うような不手際で原発事故の影響はいっそう拡大していく
ことでしょう。計画的避難避難地域や警戒区域の設定にともなって多くの避難者
が出ると思われます。原子力災害から避難してくる人たちに対して、何をしたら
いいのか、してはいけないのかがひとつ明らかになったことでこの事件は不毛で
はありましたが、ひとつの意義があったと思います。

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◎アピール文2つ
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★すべての命を救え!★
★避難区域の取り残された家畜を救え!★
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涙が止まらない画像がある。私たち農家に命を預けている牛や豚、鶏が見
捨てられ、苦しみ苦しみぬいて餓死していく。あるものは主人の帰りを待たずに
柵にもたれかかるようにして死に、主人が窮余の策で逃がしたものは無人の放射
能の町を駆ける。すべての家畜を救え!計画的避難区域だの警戒区域だの言って
いる場合か。家畜はわれわれと一緒の命あるものなのだぞ! ぶざけるな!

 なにがその時間的余裕がないだ。1カ月間丸々あったではないか!引き取る所
がない。冗談を言え。ほんとうに政府は八方手を尽くしたのか。必死に牛を避難
させ、引き取り手を探したのはJAと民間の篤志家だけではないか。すべてが遅
い。遅すぎる!避難民すらまともに対応できていない政府に家畜のことなど考え
が及ばないのはわかっているが、一体なにをしてきたのだ。
 
計画的避難区域に指定され、5月末までに住民の避難を終えるように一方的に
求められた葛尾村の幹部職員は、「村の力だけでは無理だ」と言う。当然だ。な
ぜか。人の避難で手一杯の町や村の行政にそのような余力が残っているはずがな
い。村の職員は言う。「国側から人の避難の具体策や役割分担すら示されていな
い。まったく白紙の状態だ。各々の自治体で対応するしかない」一切を地元自治
体に丸投げして期限だけ切る。これで仕事はお終いと考えているようだ。話にな
らない。

 人ですらこの扱いだ。ましてや家畜など勝手に死ねということなのか。農水省
は2万人もいるのだろう。MA米の保管などという暇つぶしをしていないで、福
島に来て人や家畜の避難の手伝いでもしたらどうなのか。全国各地の農政事務所
を使ったらどうなのか。福島県民よ、もっと怒れ!声をぶつけろ!怒りの声を東
電だけではなく、無策の政府にぶつけろ!農水省に厚労省にぶつけろ!福島県民
の怒りの声がないとこの政府は動かない。今一番大変な時なのはわかる。心身と
もに限界だというのは痛ましいようにわかる。しかし今声を上げないと手遅れに
なってしまう。

 政府は避難者の救助を最優先しろ! 政府はすべての家畜を避難させよ!
餌と水を警戒区域に搬入しろ! もうこれ以上命が消えていくのを見ていられな
い。すべての命を救え!4月28日記

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★風評被害に対してのアピール★★
★風評被害とは、何も悪くない真面目な農家が被害を受けることです★
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茨城県は復興に向けてがんばっています。傷跡は深く、避難所で昨日だけで3
名の死亡が確認されました。ご冥福をお祈りします。避難民が帰ることのできる
仮設住宅や燃料、道路、食事などの手配も少しずつですが進んできています。待
ち望んでいた地域総合病院もようやく開きました。薬切れだった患者が長蛇の列
をなしました。どの顔にも安堵感があります。

 昨日、村の仲間と連絡を取り合いました。まだ集まって会議をする余裕がない
のが現状です。農業関係者はパニック状態です。
しかし風評被害は度止まるところを知りません。東京市場では「茨城県産」とあ
るだけで忌避されるというニュースも出始めましました。今や茨城県の復興を妨
げる最大の障害は、他ならぬ放射能風評被害です。ようやく地震の直接的被害か
ら立ち直ろうとした矢先に力一杯ぶん殴られたといった心境です。ともかく畑の
ものがピタリと動かなくなりました。

 東京の流通は政府通達を楯にして茨城県産のホウレンソウ、パセリ、水菜、牛
乳を出荷停止としました。そればかりか、関係のない野菜まで出荷を止めている
流通も多く、被害は甚大です。被災前に収穫したニンジンやサツマイモすら売れ
ません。本来はうれしい春の種まきの時期なのに、先行きを考えるとまいていい
ものか迷っています。まいても、売れなければなんにもなりません。ホウレンソ
ウは各地で一斉にトラクターで潰しにかかりました。手塩にかけた野菜をトラク
ターでひき潰していくのです。

 ある農家は、ひき潰すトラクターの上から携帯を地元の議員にかけて、「お前
らの親分に伝えろ。これが野菜の悲鳴だ!」と啖呵を切ったそうです。近所の牛
乳農家は、絞った牛乳を牧草地に捨てています。毎日絞らないと牛が苦しがるの
で、毎日絞りますが、引き取りのローリーは来ません。牧草地にいた放牧牛から
の放射能検出だったので、放牧を止める農家が増えました。「放牧地は自慢だっ
た。怖いと思ったのは初めてだ」と酪農の仲間。

 パセリ農家は、ハウス栽培なのに検出されたことで首をひねります。「喚起で
放射能が入ったというなら、もうどうしろって言うんだ。空気吸うなってか」
水菜はわが地域の特産品の筆頭なので打撃はすさまじく、これもこの時期露地で
はなくハウスなので、いっそう深刻に受け止めざるを得なくなっています。
 
露地でもハウスでも出たとなると、これと同じ条件の農産物や畜産物がほとん
ど、というかすべてですからわが地域は農畜産物は出荷停止とその潜在的予備軍
ということになってしまいました。空気から被曝ということになると、もはや私
の平飼養鶏にも遠からず放射能が忍び寄ることになるでしょう。それは今日かも
しれないし、明日かもしれません。毎日、続く余震(余震といっても震度5で
す!)と目に見えぬ放射能に怯えて暮らすことになってしまいました。

 風評被害とは、何も悪くない真面目な農家が被害を受けることです。風評被害
とは、人災です。震災は天災でしたが風評被害は人為的災害です。おいしく本来
なんの問題もない農畜産物が買ってもらえない、食べてもらえないという人災で
す。一方風評被害とは、被災した農家を支援しようとして通常通り商品調達した
流通事業者にとっても持ちきれない在庫を抱えてしまうかもしれない話です。

 消費者も震災以降の不足しがちな食が更にタイトになることです。だれひとり
得をする人はいません。繰り返しますが、風評被害は人災です。天災ではありま
せん。ですから人為的に起きた以上、人の知恵で抑え込む事が可能なはずです。
ぜひマスコミは正しい報道をしてください。制限品目以外の農産物では暫定基準
値以下の品目が沢山あって、まったく問題がないことを伝えて下さい。おもしろ
おかしく被災農家を取り上げないで下さい。

 私たち農家は自分たちだけのために作っているわけではありません。国の土と
水を守っているのです。しかしもう被災農家には力があまり残されていません。
この春の種まきを終えて、水田の水を張る力を私たちに下さい。消費者の皆さ
ん、私たちの農産物を食べて下さい。正しい被曝知識を知って下さい。大震災の
時、皆さんは私たちに「決してあなたがたは孤独ではない」と言ってくれまし
た。私たちはその言葉を信じています。がんばりましょう。亡くなった人のため
にも私たちは耕します。(3月25日記)

(筆者は茨城県行方市在住・農業者)

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