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参議院選挙に向けて野党統一候補を推進する条件

無党派層と維新・公明は援軍
仲井 富

<はしがき> 最近の週刊朝日12月10日号に驚くべき予測が公表された。それによると衆議院選挙の得票数からみて、来年7月の参院選一人区42県で自公政権の28勝4敗となり、野党は衆院選に続いて大敗すると予測している。野党が勝利する可能性のあるのは、佐賀、長崎、大分、新潟の4県のみとしている。

 しかしここには大きな誤りがある。一つは、予測するのであれば、3年前の2019年7月の参院選を基準にして考察することが必然であり、衆議院選挙の比例区得票だけで予測するというのは、あまりにも雑に過ぎるということ。もう一つは、比例区得票は一つのメドだが、2019年の参院選で野党共闘が勝利した府県は、すべて一人区で、参院選の比例区得票では自公政権が多数を占めていた。にもかかわらず勝利できたのはなぜかという問いに答えていないことだ。その分析にこそ、比例区得票では圧倒的に不利な野党共闘が勝利した内実が明らかになるのだ。

 野党有利としている新潟県では、2019年の参院選比例区得票数は、自民44万、公明8万、維新5万で合計57万票、対する野党は立民20万、共産7万、令和4万、社民3万で合計34万票だ。圧倒的に自公政権有利な数字だが、野党統一候補の弁護士打越さくらが、4万票余の大差で自民現職を破った。それはなぜかという考察が必要なのだ。最大のテーマである新潟原発再稼動反対の民意が明確に示されたということだ。

 ◆ 野党一本化による波及効果 無党派層プラス地方維新・公明の投票

 2019年参院選挙の一人区における野党勝利のパターンは、いずれも野党一本化によって、無党派層の50%から60%が統一候補に流れた。さらに維新支持層の大半もこれに続いた。自民、公明からも流れている。そういう勝利のパターンをに学ぼうとしないのが枝野立憲民主党の敗因につながっているともいえる。
 橋下元大阪市長と現大阪市長の松井維新代表は、安倍・菅官邸の時代から自民党安倍政権の準与党として犬馬の労を惜しまなかったが、実際の影響力は大阪とせいぜい兵庫県のみで、同じ近畿圏の滋賀県でさえ、橋下氏の言いなりにはならなかった。

 その典型的なパターンが2014年7月13日の滋賀県知事選挙だ。菅直人・野田の消費税抱きつきと、辺野古への基地移設容認で民主党政権が崩壊した後のことだ。この滋賀県知事選挙は、わずか13,076票差で嘉田由紀子前知事と武村元知事、滋賀連合などが全面的に支援した三日月大造氏(連合推薦)が勝利した。元経済産業官僚の小鑓(こやり)隆史氏(47)=自民、公明、大阪維新推薦、共産党県常任委員の坪田五久男(いくお)氏(55)=共産推薦=を破り初当選した。三日月陣営にとっては、まさに薄氷の勝利であり、自民党にとっては、どうしても負けられない知事選挙での手痛い敗北であった。
 民主党衆院議員を4期10年半務めた三日月氏は、3選へ立候補を模索していた嘉田知事と政策調整の末、嘉田氏から後継指名を受けた。5月に離党し、無所属で立候補。隣接する福井県の原発の「被害地元」として、段階的に原発をなくしていく「卒原発」を唱え、再稼働の判断にかかわれるよう訴えた。

 ◆ 2013年参院選挙1人区における自公維新の比例区得票は三日月の3.5倍

 2013年7月の参院選挙比例区票で見ても、民主推薦の三日月氏の劣勢は明らかだった。小鑓を推薦した自民(208,451)公明(59,127)維新(84,776)で合計352,354票。対する民主出身の三日月は、民主の9,894票のみだ。橋下大阪市長の維新現役代表の時代だ。
 だが自公維新三党が圧倒的な比例区票を誇りながらも、比例区票では三分の一にも達しない三日月大造に敗れた。その勝因は下記の朝日新聞出口調査に明らかだ。最大の勝因は滋賀の維新票の約6割が三日月に流れたことだ。さらに独自候補を立てた共産党も27%が三日月に投票していた。橋下徹市長は、最終日も大津で街頭に立って自民候補を応援したが維新支持者は36%しか小鑓に入れていない。比例区票で換算すれば維新票84,776票のうち、★マルマル★票が三日月に流れた計算になる。無党派層6割と維新の票が三日月陣営勝利の原因といえる。

画像の説明
朝日新聞出口調査~滋賀県知事選、支持政党別投票先 
朝日新聞 2014年7月14日

 ◆ 2019年参院選秋田イージス・アショア反対の女性候補が圧勝 維新票100%

 2019年参院選でも同様のことが起きている。秋田イージス・アショア反対の女性候補が圧勝した秋田県でも、安倍総理と地元出身の菅官房長官や人寄せパンダの小泉進次郎など総動員したが、秋田1人区では無所属の寺田静が、自民の現職中泉松司に約2万2千票の差をつけて完勝した。

  寺田静  無所属・新 242,286 得票率 50.46%
  中泉松司 自民・現  221,219 得票率 46.07%
  石岡隆治 諸派・新   16,683 得票率 3.47%

 比例区票で見ると以下の得票数・得票率だ。
  与党系: 自民 204,018 公明 48,784 維新 20,562
    合計 273,364票。
  野党系: 立民 62,029 国民 39,645 共産 37,129 れいわ 15,282
    合計 171,402票。

 自公維新の与党系だけで過半数をはるかに上回る61%を占める。野党票は合計で39%に過ぎない。しかしここでも驚くべき結果があきらかになる。なんと維新票のほぼ100%が寺田候補に投票し、公明支持者も約40%が寺田候補に投票していた。(下図参照)

画像の説明
出口調査からみた県内投票行動~支持政党別の得票率 
秋田魁新報 2019年7月22日

 ◆ 苦節3年:選挙区をくまなく歩いた 愛媛永江孝子 8万6千差の大勝

 2016年の参院選愛媛県の1人区は、自民候補に約8,000差で野党候補の永江孝子が敗北した。しかし2019年参院選では、永江が自民党新人のらくさぶろうに約8万6千票の大差で勝利した。ここでも比例区票は、全20市町村の政党別得票で自民党がトップの座を守った。にもかかわらず、永江孝子がなぜ1人区で大差をつけたのか。沖縄県の1人区や知事選では5万票から10万票の大差がつく場合が多いが、本土の1人区でこれだけの大差がつくのは珍しい。以下は南海放送解説室のデータ解説である。

 ――参議院愛媛選挙区は、無所属で野党統一候補新人の永江孝子さんと自民党新人のらくさぶろうさんが与野党一騎打ちの激戦を繰り広げました。その結果、永江さんがらくさぶろうさんに9万票近い大差をつけて初当選を果たしました。
自民党は、2017年衆院選愛媛3区に続く敗戦で、県内衆参6議席のうち、2議席を明け渡すことになりました。

【2019参院選結果(投票率52.39%)】
  無・新 永江孝子   335,425票(86,809票差)
  自・新 らくさぶろう 248,616票

 3年前の参院選では以下の結果。
【2016参院選結果(投票率56.36%)】
  自・現 山本順三 326,990票(8,429票差)
  無・新 永江孝子 318,561票

 県内の比例代表得票数を与野党別に見てみます。
 【与党】自民 241,111票 公明 89,150票 維新 52,570票
    合計 382,830票
 【野党】立憲 68,700票 国民 46,206票 共産 33,522票 社民 9,426票
    合計 157,854票

 このように、自民党・公明党・維新の与党が、比例区得票では4野党に2倍以上の差をつけている。にもかかわらず選挙区では、この得票数が逆転して、与党の票が野党統一候補の永江に流れていた。(ニュースの深層 第21回「3勝17敗の衝撃 データで振り返る参院選・愛媛」南海放送解説室)――

 朝日新聞出口調査「愛媛県 各党支持者は誰に投票したか」(下図参照)で推計してみると、永江圧勝の原因が明確となる。まず自民比例区票約24万票のうち約7万票、公明の比例区票約9万票のうち約4万票、維新の比例区票約5万のうち約4万票の総計約15万票が、野党統一候補の永江に流れた計算になる。野党立憲、国民、共産、社民4党の比例区票合計が約17万票で、合計約32万票の永江の総得票と一致する。

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朝日新聞出口調査~媛県 各党支持層は誰に投票したか 
朝日新聞 2019年7月24日

 勝利したすべての1人区で大なり小なり自公維新の野党統一候補への支持が集まったことが野党候補の勝利につながった。これが2019年の参院選で自民の単独過半数を阻止し、改憲議席割れに追い込んだ。最大の要因は自、公、維新支持者と無党派層の6割以上の支持だった。野党候補勝利の最大の援軍は野党だけではなく、自公維新と無党派層の中に存在することを強調したい。橋下大阪維新は安倍菅政権の傀儡だが、地方の維新支持層は全く異なることを再認識しなければならない。

 ◆ 12/15 読売新聞社と早稲田大学先端社会科学研究所の全国世論調査

 読売新聞社と早稲田大学先端社会科学研究所は、全国世論調査(郵送方式)を共同実施し、衆院選を通じて見えた国民の政治意識を探った。今の政治に「不満である」と答えた人は「やや」を合わせて74%で、同様の質問を始めた2014年以降計6回の調査で最高となった。「満足している」は「ある程度」を合わせて25%だった。
 新型コロナウイルスを巡る政府のこれまでの対応を全体として「評価する」は54%で、「評価しない」の45%を上回った。今の政治に「不満」の人は「評価しない」53%が「評価する」45%を逆転した。

 ただ、「不満」の人の衆院比例選での投票先をみると、自民党の27%がトップ。政権批判票の受け皿となるべき野党への投票は、立憲民主党22%と日本維新の会19%に分散した。一方、強い野党を求める声は根強い。自民党に対抗できる野党が必要だと「思う」は82%に上った。衆院比例選で自民党に投票した人でも75%を占めた。政権交代がときどき起きた方がよいと「思う」は65%だった。その実現性については冷めた見方が多く、近い将来政権交代が起きると「思わない」は75%を占めた。

 衆院選の争点として有権者が重視した問題(複数回答)は、「景気や雇用」65%が最多で、「医療や年金、介護など社会保障」61%、「新型コロナウイルスなど感染症対策」50%などが続いた(読売新聞社と早稲田大学先端社会科学研究所の全国世論調査 2021年12月15日読売新聞)。調査は11月1日~12月7日、全国の有権者3,000人を対象に実施し、2,115人が回答した(回答率71%)。

 (世論構造研究会代表、『オルタ広場』編集委員)

(2021.11.20)
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