参院選2013の結果を見る —民主党の今後を占う—    藤生 健

 第23回参議院議員選挙が終った。53%の投票率は私の想定を上回ったものの、戦後の参院選では下から3番目となった。「自民大勝」「民主惨敗」の報道が溢れているが、獲得議席の上ではそう言えるとしても、内実はそれほど単純な話ではない。全体の獲得議席と比例区票の割合を比較してみよう。

 自民  65(35%)
 民主  17(13%)
 公明  11(14%)
 維新  8(12%)
 共産  8(10%)
 みんな 8( 9%)

 票の割合は先の都議選の結果にほぼ近く、共産と民主が減って、維新とみんなが増えた程度だろう。そして、民主、維新、みんなの得票割合を足すと34%になり、ほぼ自民と同じになる。

 比例区票で35%しか取っていない自民党が全体の議席で54%を占めてしまったのは、選挙区の一人区で29戦27勝したからに他ならない(一人区での自民党の得票率は約6割)。逆に民主が二人区以上で意外と健闘できたのは、維新とみんなの選挙協力が破綻したためだった。仮に橋下発言が無く、順調に協力が進んでいたら、民主は愛知以外の選挙区でことごとく敗北し、議席数は10以下に終わったであろう。橋下発言は民主にとって「不幸中の幸い」だったのだ。

 比例区票の絶対数で見ても、自民党が圧倒的だったとは言えない。

 13年 自民党 1846万票(投票率53%)
    民維み 1823万票
 10年 民主党 1845万票(投票率58%)
    自民党 1407万票
 07年 民主党 2326万票(投票率59%)
    自民党 1654万票
 04年 民主党 2113万票(投票率58%)
    自民党 1680万票

 見れば分かる通り、二大政党の一方が大分裂し、自民党のみが一体を保持しているために相対的に「圧勝」しただけのことだった。逆を言えば、野党が分裂している限り、そして選挙制度が変わらない限り、自民党が圧勝し続ける形であり、自民党の戦略としては選挙制度に手を付けることなく、野党が分裂したままであるようにすることが望ましい。

 また、野党側としては自民党を過大評価することなく、徒に批判するのではなく、どのような形で野党を再編するかに力を注ぐべきだろう。野党さえ再編されれば、まだまだ自民党と戦えるのであり、絶望するような状況ではない。

 自民党本部は投票直前まで比例区で25人は確保できると踏んでいたようだが、実際には18人で終わった。それすらも、自民党の支持率急落という世論調査結果や福島原発における放射能汚染水の流出についての公表が開票後になされた上でのものだった。

 とはいえ、もはや民主党の看板で戦い続けるのは困難だ。大所帯ならばこそ路線や政策の違いも「多様性」で誤魔化せたところはあるものの、今日のように小所帯となった今も主要政策で合意が得られないと「何も決められない」「何も言わない」といった評価が固定化してくる。実際、原発やTPPについては具体的な方向性を定められないのに、「でも増税はやります」というのでは、誰の支持も得られないだろう。

 現場の秘書や運動員の視点で考えた場合、支援者に「民主党は原発についてどうなんだ?」と聞かれても、「2030年代に原発をゼロにできるように頑張ります」としか答えられないのでは、何も言わないに等しいし、むしろマイナスなイメージすらある。せっかく小所帯になっても、政策的に特化したものを打ち出せないのでは、むしろ存在意義を失ってゆくだけだろう。

 現実に最大支援組織である連合が出した組織内候補を見た場合、組合員140万人を誇るUAゼンゼンの候補は14万票しか集められず、同じく100万人の自治労は23.5万票しか出せていない。組合員本人すら4〜5人に一人以下しか投票しないのでは、「支援」と言っても全く内実を伴っていないことを示している。大企業や公共機関の正規職員からも支持されない、まして非正規は論外という「働くものの政党」が戦い続けることなど不可能だ。

 民主党は、連合の支援を受ける限り、同盟系と総評系が対立する中で原発についてもTPPについてもいかなる方向性も打ち出せないが、現実には比例区当選7人のうち6人が連合組織内になっており、党勢が弱体化するほど連合への依存が強まるが、労組依存が強まるほど政策上の限界が狭まるというスパイラルに陥っている。

 実のところ自民党が「圧勝」したこと自体は全体の流れの中では大した問題ではない。比例得票率が35%でしかない自民党が過半数を占めたのは、単純に一人区が多い選挙制度の問題だからだ。

 むしろ問題は投票率が53%だったことにある。これに得票率の35%を掛けると、全有権者のうちの約18%しか比例区で自民党に投票していないにもかかわらず、議席の上では過半数を占めていることこそが問題なのだ。自民党は現実的には必ずしも民意を反映していないにもかかわらず、「民主的選挙」の洗礼を受けたとして議会の主導権を握り、法案の生殺与奪をほしいままにできるわけだが、これはデモクラシーの形骸化を意味し、民意と立法府における判断の乖離を促進させる危険性が高い。

 政局的には当面、自民党一強体制下で野党再編が進む流れだろうか。年内に最高裁大法廷の衆院定数に関する判決が出るが、違憲判決が出て安倍総理が解散に打って出ない限りは、3年後の参院選まで補選を除く国政選挙は行われないこととなる。

 だが、野党側はNK党を除いて、民主、維新、みんなと政府・与党に対するスタンスが曖昧な党ばかりで、対抗しようにも三党の足並みがそろわなければ大したことはできそうにない。野党側はそれを重々承知しているからこそ、内部で再編に向けた動きが進んでいるものの、そこでも様々な思惑が交錯して一筋縄には行きそうにない。

 民主党は、左派を切って党のカネと主導権を握りつつ野党再編の核とならんとする前原=野田派がいる一方、内実がどうあれとにかく民主党の一体性を維持しようとする左派と連合系の議員がいる。その連合系にしても、先の参院選では旧同盟系と旧総評系の対立が露呈するばかりで、全く足並みがそろわなかった。

 昨年の衆院選では、脱原発を訴えた民主党候補は電力や電機労組の支援を全く受けられなかったし、今回の参院選でも原発がある選挙区の候補者には「原発再稼働を訴えなければ一切支援しない」という圧力が加えられ、相当数の民主党候補が原発再稼働を訴える有り様だった。
 
 内部対立が深刻になる中で、党内的にも「もう次の選挙は民主の看板では戦えない」という見解が支配的になりつつあり、再編に懐疑的な左派・労組系の勢いは弱い。ただ、民主党内で野党再編の主導を担っているのが、先の野田内閣の枢要を担った「戦犯」であるため、これまた支持されているわけではないのがキモとなっており、再編のコンセンサスがすぐにも得られる情勢にはない。

 日本維新の会は参院選の過程と結果に伴い、橋下氏の威光が低下する中で分裂の様相を深めている。橋下系と旧太陽系と離党者組などがバラバラに行動し、離党者組を中心に「民維み」での再編に向けた話し合いが進められている。

 もともと彼らの戦略自体、衆院選と参院選で民主党を圧倒し、民主に替わって自民党に対抗する統一的野党をなすというものだっただけに、両選挙ともに民主を下回る結果は戦略の破綻を示した。そして、この戦略に替わる案を提示できない橋下氏は第一線を引き、大阪に引きこもろうとしている。

 橋下氏が不在の維新に価値は無いと考える離党組は再編を模索するが、これも維新内部でコンセンサスが得られているわけではなく、言うなれば潰れそうな会社に見切りをつけた社員が就職活動をしているような感じになっている。みんなの党も状況の本質は維新と変わらない。票を増やしたとはいえ、やはり渡辺氏の個人商店の域を出ず、内部に野党再編に積極的な議員を抱えたまま、分裂含みとなっている。

 現実的には政党再編には大義名分とタイミングと資金が不可欠となるが、現状はそのいずれも満たしておらず、当面はグダグダと話し合いが続く一方で、くだらない内紛が絶えないという情勢が続くものと見られる。それは自民党にとっても好都合だからだ。また、仮に再編が行われて「民維み」から相応の人数が合流したとしても、現状のままでは「自民党もどきの第四の野党」ができるだけの話にしかならず、政局に大きな影響を与えることはないと考えられる。

 いずれにせよ民主党は終焉の時を迎えつつある。ついこの間、政権交代して自分たちの代表として総理の座につけた二人を、「TVで売国的発言をした」「(民主党員の)無所属候補を支援した」といった理由で除名しようとしたわけだが、常識的に考えて「その二人を代表に据えた責任は無いのか」という疑問が生じるのは当然だ。

 つまりは、衆院選と参院選の敗北責任を両者に押し付けて少しでも人気を回復させたいという意図があまりにも見え透いており、公党として有権者からの信頼を回復させるような話からは程遠い。古来内紛を起こすのは敗者の側と決まっている。敗北が予想されると、「何とか自分だけでも助かりたい」と思うからであり、それは人間としてごく自然な反応と言える。

 野党が小党分立状態でかつ内紛を抱えている現状は、政府に対しても政権党に対してもチェック機能が十分に果たされないことが危惧される。投票率の低下に象徴されるデモクラシーの形骸化や解決のメドが立たない財政赤字を考慮しても、統治システムとしてのデモクラシーの制度疲労や機能的限界を論じるべき時が来つつあるのかもしれないが、それは別稿に譲りたい。

 (筆者は東京都在住・評論家)
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