【沖縄の地鳴り】
国は私人ではない〜行政不服審査法は国民の権利救済が目的
朝日新聞は10月15日の朝刊で「辺野古奇策政府 不服審査防衛省が国交省に請求」という見出しで、防衛省が申し立てたとする行政不服審査法は、もともと行政庁による違法、不当な処分を受けた国民の救済手段として制定された法律だ。さらに、知事が取り消した埋め立て承認を規定する公有水面埋立法は、そもそも国と国以外が行なう事業を明確に分けているが、同省はこの法律を「私人」の立場で利用したと主張する」として、政府の対応に疑問をなげかけた。
同じ記事の中で「法治国家と言えぬ」という見出しで、行政手続法に詳しい元東京高裁判事の浜秀和氏の談話を載せている。濱秀和氏は「これ以上のごまかしはない、という印象だ。行政不服審査法の目的は第1条にあるように「国民の権利利益の救済」で、行政庁によって権利などを脅かされた国民が不服を申し立てる手段として審査請求がある。防衛省は行政庁にほかならず、どう逆立ちしても「国民」や「私人」ではない。国土交通相は防衛省の主張に沿った執行停止や裁決をする可能性が高く、それを沖縄県が覆すのは難しいだろう。政府がこのような手法をとるようでは法治国家とは言えない」。
朝日記事の要旨は以下の通り。
——防衛省は14日、辺野古の埋め立て承認を県が取り消したことに対して、石井啓一国土交通省に行政不服審査法に基づく不服審査要求を行った。防衛省職員が14日、関係書類を提出し受理された。不服審査請求の採決には通常数カ月かかるため、同局は取り消しの効力をいったん止める執行停止を同時に申し立てた。これを受けて、国交省は翁長知事に対し、執行停止の申し立てに対する意見書を今月24日までに提出するよう通知した。
国交省が執行停止を認めた場合、県は執行停止の向こうを求める訴訟を地方裁判所で起こすことを検討している。似たような構図は今年三月にもあった。辺野古沿岸の岩礁破砕許可をめぐり、翁長氏が防衛省に移設作業の停止を指示すると、同省は岩礁破砕許可を担当する農水省に不服審査と執行停止を申し立てた。同省は、同月末に執行停止を決定。移設作業を中断せず続いた。石井国交相は、「内閣の一員としてそういう(移設推進の)立場だ」と明言している。このため、今回も執行停止は認められるとの見方が大勢だ。
防衛省が申し立ての根拠としている行政不服審査法は、もともと行政庁による違法・不当な処分を受けた国民の救済手段として制定された法律だ。さらに、知事が取り消した埋め立て承認を規定する公有水面埋立法は、そもそも国と国以外が行う事業を明確に分けているが、同省はこれを「私人」の立場で利用したと主張する。ただ、国の行政機関である防衛省が行政不服審査法を使って申し立てをする妥当性には疑問の声がある。翁長知事は14日の談話で「辺野古が唯一」という政府方針の中で、防衛省が同じ内閣の一員である国交省に審査請求を行うことは不当だ」と強く批判した。
(筆者は弁護士)
※ この記事は15・10・15朝日新聞から著者の了解を得て転載したものです。