【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(65)

国内外国出身者との微妙なズレが浮き彫りに

坪野 和子

 今回は入管法の在留資格問題に関する記事はお休み、というより今回の内容もまた在留資格が絡んでいる。この1ヵ月、非常に興味深いいくつかのニュースや情報を外国出身者の友人たちと意見交換をすることがあった。自分自身が日本の社会で生活して感じている何かと重なるところとまったく無関係なところとがあって外国人と一括りにできないことがわかる。ある意味、多様な文化の共生でもあるが共存の黎明期というまではいかないと私は感じている。まだ日本のシステム・ルールとそれぞれの国・地域のそれとはかみ合っていないのだろう。

1.断片的な情報を繋げてみた
 まずは断片的に伝えられた二つのニュースから始めたい。どちらも、日本は外国人と共に暮らしていても、共生しているようで共存しているようで、まったく共存共栄とは関係ない空間をともにしているだけだと感じた出来事だ。
 ◆山手線「包丁を持つ外国人調理師」
 6月25日の夕方。“山手線車内に包丁持った男、避難の乗客2人けが…自称料理人「飲食店を辞め包丁持って乗った」”
 https://www.yomiuri.co.jp/national/20230625-OYT1T50126/
 読売オンライン 
 この出来事は、瞬く間にネットで拡散し、X(旧ツイッター)ほか国内のSNSや中国SNSウェイボなどで話題となった。あれこれ伝言ゲームが展開され、結局なんだったのか訳がわからなくなった。断片的な情報を繋げてみた。誤認もあるかもしれない。
 飲食店を辞め、山手線に乗って移動していた50代の料理人男性が職場から持ち帰った布に包んだ包丁2本を携えていた。車内でうたたねしていたら布から包丁がむき出しになってしまった。それを見た女性が大声を上げた。車内はパニックになった。途中下車して警察に通報した人がいて「刃物を振り回している男がいるらしい」と。その後、新宿駅で乗客が一斉に逃げ出し、2人が怪我をした。またどさくさに紛れて痴漢行為をする許しがたい様子の画像もネットに挙げられていた。
 ここまでが国内の情報。中国SNSでは「子どもいる、私が防ぐ、逃げなさい」と言った中国人男性がいたらしく、数日はヒーローのような人物として話題になっていた。この話題は中国系日本メディアに当日だけ掲載されていたが、翌日には削除されていた。
  ここで、うたたねした料理人の男性は「外国籍とみられる」と伝えられた。見た目がそうだからだったのか?すると外国人を怖いと思っていた女性が大声を上げたのだろうか?一瞬、私の関係する国・地域(主に南アジア)の料理人の外見だろうかと思ったが、いずれも自国ではテロ防止で刃物をそのように扱うことは習慣としてないと言い切りたい。鞄の中の包丁を国道や映画館の検問官がチェックすることは日常茶飯事だ。また包丁2本だけではなくナンの麺棒も持っていたはずだ。あるいは鉄板料理用の鏝。包丁ももっているとすれば、一般の人にそれとわかるものだけでなく、自国の料理で使う見たことがないような形状のものもあるのだが、また彼ら、包丁は自前でなく職場のものを使っている。♪包丁2本晒に巻いて…などということはない。また彼は在留資格「技能」調理ではなく、元留学生から就労の在留資格者または日本人配偶者「永住者」の日本食料理店の店員だったのだろうか?
 大声を上げた女性は中国人のようだった。そして「子どもいる、私が防ぐ」と言った男性の連れだったとも言われている。「子どもいる、私が防ぐ」は中国人にはヒーローなのかもしれないが、日本では「係員にお知らせください」「係員の指示に従ってください」と言うのが常識だ。一旦パニックになると日本出身者も係員の指示を待つことができないようだ。ひとつの車両に多様な外国人・出身者が乗っているのはすでに当たり前となっていると思うが。
  画像の説明  画像の説明
 南アジア料理人が渡るとき持つのは包丁ではなくベーラン(麺棒・伸ばし棒)
 
 ◆「出前館」下請け経営者 外国人配達員たちが給料未払いに怒る
 7月20日。「出前館」下請け経営者が逃げた。給料未払いの外国人配達員たちが抗議および支払い請求のため、歌舞伎町の会社事務所に押し掛けた。社長は逮捕されたと伝えられたこれもまた断片的な情報だ。後日、不法滞在就労者の雇用温床だったので逃げたとも報じられた。ただし、この不法滞在関係の情報は「噂」と明記されている。当事者とは無関係な外国人労働者の立場にある友人たちがTik Tokで挙げられた動画を私に送信してきた。送信してきた友人たちは、この抗議で押し寄せた人たちへの同情ではなく、外国人にとって不親切極まりない日本人でも分かりにくい日本語説明をしてまるで社長のガードマンみたいな態度の警察の対応に、ある人は疑問、こういった対応を受けた経験を持つ人の怒り等を動画で感じたのだ。

 まとめ記事
https://www.appbank.net/2023/07/21/technology/2516657.php
https://www.tiktok.com/@zarifmukhammadiye/video/7257918275382758664?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7261888819958875650
 https://www.tiktok.com/@damico7007/video/7257795890436427010?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7261888819958875650

画像の説明 
 https://www.youtube.com/watch?v=ipkV5jjZTcI
 動画を見て思った。
 ①外国人たち、日本語がうまい②社長、日本人?氏名をなぜ公表しない?③警察が「弁護士」と言っているが、労働基準監督署への訴えが本来。しかしどちらも外国人どころか日本人でもわかりにくい④外国人たちが多国籍のように見える。個々で応募したのではなく斡旋業者が存在するのだろうか?⑤この動画以降「不法就労の温床」と挙げている人たちがいるが、「不法滞在」「資格外活動」「資格外活動就労許可時間超過」と思われる。いずれも雇用した際に在留カードを精査する義務が会社側にある⑥歌舞伎町には犯罪者ではない訳あり外国人を人道的に匿う施設があるのだが、そことは全く関係はなさそうだ。そこは出入国の数日間しか宿泊できないからである⑦押し寄せた外国人たちを集めたのは誰なのだろうか?
 大手マスメディアはネット上ではこの問題を扱っていない。今後も同じようなことがある可能性が高い。様々な裏事情がありそうだ。
画像の説明 

2.在留外国人を狙う詐欺メール&郵便物
 まず、おそらく中国語がおできになる方は同じような経験があると思う。私自身だが、3年前、2度違う電話番号からロボコールで「中国大使館です。あなたの荷物をお預かりしています」という主旨の女性の中国語による電話を受けてしまった。
 https://ameblo.jp/amalags/entry-12582128508.html
 https://ameblo.jp/amalags/entry-12629867143.html
 その数か月後、ウイグル人の友人もまた同じ電話を受けてしまったらしい。中国領少数民族出身の方々は想像もつかないくらい恐怖を感じただろう。
 さて、最近である。なんと!今度は大使館ではなく、入管を名乗る不審な文章、電話が在留者に届いている。出入国管理庁のサイトに注意喚起が載るくらいだ。
 入管を名乗る不審な電話、文書にご注意ください(日本語)https://www.moj.go.jp/isa/publications/others/nyuukokukanri01_00142.html
 出入国管理庁サイトより
 
 どうも中国籍の在留者を狙っているようだ。これを他の国の外国籍の人に訊いてみた。
 「ああ、まだ来ないね。こういうの。いつ来てもおかしくないよ。特に友達が足止めされたとか、入管じゃなくて税関を名乗って荷物から不審物が出たから立ち会ってとか、言われかねないじゃん」なるほど彼らはこういうトラブルは想定しているのだとわかった。
画像の説明 

3.日本語学校の学生中退問題
 7月10日。仙台市の日本語学校「未来の杜学園」が過去に退学を申し出た在学生にたいする人権侵害や違約金請求に対して入管が5年間の学生受け入れ不許可の処分を出した。
 ”外国人留学生の人権侵害”入管が処分 学校”決定は不当” NHK宮城 NEWS WEB https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20230710/6000024076.html
 日本語学校、留学生から「100万~300万円違約金徴収」の誓約書…入管庁が処分https://www.yomiuri.co.jp/national/20230711-OYT1T50087/ 読売オンライン
 違約金の金額がとんでもないこと以外、私は、留学で来日したのだから卒業するのが前提だから在学期間の拘束はしかたがないと思う。表向きの目的は勉学なのだから。この学校は大学進学を目指したコースを謳っている。
  
 出入国在留管理庁 留学生に対する人権侵害行為について(注意喚起) https://www.moj.go.jp/isa/content/001365953.pdf
 
 この学校は知り合いのインド人(マラーヤーラム語)男子学生が1人在籍している。この男の子は私を「おばあさん」「おばさん」「おかあさん」と呼ぶ。なかなか日本語が上達しない。七夕・花火も楽しんだようだ。彼の場合、勉学は真面目ではなさそうだが、日本をエンジョイしているようだ。留学は「日本で仕事!」という人たちが最初の在留資格として選ぶようになって久しいが、日本政府、学校、母国、本人それぞれ違うようだ。
画像の説明 

4.「日本語できます。仕事がしたい」
 Facebookで「日本で仕事をしたい」若者がアピールするのだが…。
 ◆そのレベルで…
 日本語能力試験グループページだ。各国の日本語学習者と日本語指導している人たちのページ。ここに投稿があった。
 「私はパキスタン人です。N5合格しました。日本でなにか仕事はありますか」
 これについたコメントは…。
 まず、スタンプである。(^○^)に相当する爆笑マークがたくさんついていた。そしてコメントは…「N1合格してからにしたら」「もう少し勉強すべきだ」「N2合格しても就職先がみつからないのに不可能だ」「もっと勉強してN4合格してから(技能実習生・特定技能レベル/それでも日本では「言葉がうまくできない」とメディアで言われる)」「まだ不十分だね」などなど。
 日本に来たことがないからか?中東のような外国人労働者がたくさんいると思っているのだろうか?今までの彼の投稿から本当に日本語を勉強しているのはわかっているが。
 
 ◆就職を斡旋してほしい
 これもまたFacebookのグループページだ。在日インド人とインド関係日本人の交流ページである。
 「私は日本語学校で勉強しています。4か月経ちました。どこか就職したいのですが、学校はどこも斡旋してくれません。仕事を見つけたいのですが」
 これについたスタンプは(――〆)のような怒りのマークが多かった。勉強で苦労した在日インド人たちの当然とも言える反応だ。「学校をやめたいということですか?」「お話しにならない。もっと勉強しなさい」と中退に悩む若者だろうと思った人たちは優しかったが、怒った人もいた。「あなたは詐欺師だ。たった4か月で学校が就職をサポートするはずがない。実態を偽って不正行為をするつもりではないか」と手厳しいを越えて悪人扱いする意見もコメントされていた。
 
 今回は、日本で生活する人たちと日本という人的環境のズレ、そして在留資格が微妙に絡んだニュース・情報・SNSから考えさせられたことを述べさせていただいた。こういった話しは今後増える一方だろう。政府が望む外国人は「使える労働者」なのかもしれないが、私たちは「同じ空間に共存し、協働する人」と暮らしたいものではないか?

(2023.8.20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧