■【視点】

報道は、真実を伝えているのか?

松田 智

 今回の能登地震をめぐって「志賀原発は大丈夫」とのニュースが流れ「デマに要注意」とのことだが、私の見るところ、こと原発・気候変動・新型コロナ・リニア新幹線等に関しては、どれが真実でどれがデマであるのか、非常に分かりにくくなっている。なぜなら、これらに関しては産・官・学・政・報の五者で強固な「利害共同体=ムラ」が形成されていて、一見科学的・中立的・公正な報道に見えても、実際は巧妙な宣伝だったりすることがしばしばあるからだ。

 今回の能登地震で、志賀町は震度7で揺れた。当然、そこに建っている志賀原発も震度7で揺れたはずだ。報道では、細かなトラブルはあったが大事には至っていない、となっている。しかしNHKの報道(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240122/k10014329711000.html)を見ると、北電の発表と実際に起きた現象の間には、結構な差がある。放射能の検知に関しても、モニタリングポストの一部が機能しなかった事実がある。

 私が特に注目するのは、発電所敷地内で最大35センチもの段差ができ、その写真が掲載されている点だ。発電所内で変圧器が壊れて電気が受けられない事態も発生している。これらを勘案すると、震度7の地震はこの原発にかなりのダメージを与えているのではないかと推測できる。なぜなら、通常、耐震基準の審査というのは、地面(や建物の基礎部分)に異常が無い状態で「震度○で動く」ことを想定したシミュレーションその他で判定するからだ。地面が隆起・陥没する、ずれ動く、などという事態は想定していない。地面が動いてしまったら、想定が、文字通り「根底から」崩れてしまう。ところが実際には、その「地面の上下左右運動」が観測されているのだ。

 原発は一般に、幾つもの建屋で構成されている。原子炉本体を収容する建屋と発電施設の建屋は通常別棟で、両者は多数の配管で繋がっている。この配管が短時間に35センチもずれ動いたらどうなるか? ゴムホースならともかく、普通の鉄管なら簡単にちぎれてしまうだろう。こんな事態も、原発では「想定済み」なのだろうか? 実際はどうなっているのか、ぜひ知りたい。

 また、ここの2機ある原発では、想定される地震の強さは600ガル、津波の高さは5mとなっている。今回の津波は最大約5.1mだったので一応セーフと見ても良いが、気象庁の観測では、志賀町の揺れの最大加速度は2826ガルである(https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1280005)。上のNHK報道では原子炉建屋地下2階で震度5弱相当となっているが、地上でどうだったかは出ていない。志賀町全体が震度7だったと考えるのが普通であれば、この辺も地上では2000ガルを越えていた可能性がある。600ガルの耐震強度では全然足りない。つまり、原子炉本体とその周辺部にも相当深刻なダメージがあったと考えるのが自然である。しかし、原子炉本体関連のニュースは全然見当たらない。これはどうしたわけなのだ? 実際に大丈夫なら、その証拠写真でも見せて、国民と地元住民を安心させたら良いのに。

 今回は、操業停止中の地震だったので難を逃れた、と言う面もかなりあるのだろう。もし通常運転中に建屋を繋ぐ配管がちぎれてしまったら、福島以上の大事故が起きていた可能性がある。何しろ、そんなことが起きたら福島よりずっと短時間で炉内水位が下がり、あっという間に空焚き状態になってしまうからだ。
 もしこのような事態が生じたら、避難計画はどう発動されるのか? 志賀町が策定した避難計画(https://www.town.shika.lg.jp/data/open/cnt/3/1867/1/gensiryoku-hinan-h29.11.pdf?20180530182558)によれば、対処法には屋内退避と避難があるが、今回は家の倒壊が数多く窓等の破損も酷かったし、津波と火災もあったので、そもそも屋内退避はあり得なかった。また計画では単に「避難する」とあるが、今回のように道路が至る所で寸断された状況で、避難など事実上困難だっただろう。現に、今回は孤立集落が多数見られた。

 元々、この原発は1999年に国内初の臨界事故を起こしながら、2007年まで明るみに出なかった曰く付きの施設である。そして、事故が明るみに出た2007年に一時運転停止になった。2011年の大震災以降、運転停止している。ついでながら、99年事故の3ヶ月後に東海村JOC臨界事故が起きて作業員2名が亡くなった。志賀原発の事故教訓が活かされていたら、防げたかも知れない事故であった。

 その後、この原発敷地内の断層が「活断層」かどうか、2012年以来議論されてきた。16年に1号機原子炉建屋直下の断層について「活断層と解釈するのが合理的」と報告された。もしそうであれば、1号機は廃炉、2号機も大幅な改修工事が必要であったが、23年3月に「活断層ではない」との北電の主張が通って廃炉は免れていた。今回の地震で、これらの断層は動いたのか動いていないのか、大いに興味のあるところだ。

 志賀原発だけでなく、福島第一原発でも、耐震性が大いに危惧される事態が起きている。1号機の重い圧力容器を支える鉄筋コンクリート製の土台下部が、溶け落ちた核燃料(デブリ)の高熱によってほぼ全周にわたってコンクリートが崩壊し、鉄筋がむき出しになっていることが明らかになったからだ(https://www.tokyo-np.co.jp/article/246878)。
 この事実を基に、このままでは震度6強で圧力容器が倒れてしまうとの警告本( 『差し迫る、福島原発1号機の倒壊と日本滅亡』森重晴雄)が出されている。84頁ほどの小冊子であるが、原子力の専門家が具体的な数字を挙げて検証しているので説得力がある。数字がやや多いので、一般読者には少し読みにくいかも知れないが、本文を読むだけでも危険性は分かる。この本の第2章は「1号機の倒壊を防ぐ方法」であり、具体的な対処法を示してあるのに、東電も国も何もしていない。東日本大震災の余震でさえ、今後震度6強が起きる可能性は十分にある。対策まで示されているのに、このまま何もせずに放置するのだろうか?

 また、青木美希『なぜ日本は原発を止められないのか?』(文春新書)という本を読むと、日本の原発政策の現状が良く分かる。福島の「復興」でさえ、NHKその他で賑々しく報道されているほどには明るい現実でないことも。この種の「実態」報道は、情報が極度に少ない。
 実は、この本の存在を知ったのは、ネット上で、とある記事(メールマガジンオルタ 「新聞社で、何が起きているか?」(2023.12.20))を読んだからだった。この記事も、現在のマスコミ状況を知る上で非常に有益だった。なるほど、そういう状況なのだな・・と。

 大事な情報が少ないのは、原発関連だけではない。羽田の航空機衝突事故に関しても、肝心要の情報が抜けている。それは、両機内のボイスレコーダーの生データだ。報道では専ら、両機と管制とのやり取りが紹介されているが、実際の機内でどんな会話がなされていたのか、解明される必要がある。海保機が管制の指示を勘違いした可能性は指摘されているが、追突したJAL側に見落としがなかったのかどうか、全く何も検証されていない。ここがまず不思議だ。一般に、追突事故ならば、追突された側と追突した側を、両方詳しく調べるのが普通なのに。

 それに、夜間着陸の基本のキは、滑走路に何もないことをしっかり確認することにあり、夜間設定訓練の際、教官が侵入機等をシミュレーター画面に急に出して、被試験者が的確に応対できるかどうか、技量をチェックしさえしている。つまりパイロットたちは何度も夜間訓練を受けており、空港内を走る車が突然出てくるといった場面さえも想定した訓練を受けている。見逃したら今回のような事故になるから、パイロット失格になる。それ程の基本事項なのだ。
 しかも今回衝突した相手は自動車などではなく、全長約26m全幅約27mの中型飛行機である。かつ、飛行機には衝突防止用の白色ビーコンライト(一定間隔で点滅する高輝度のストロボライト)が両翼端と尾部についている。これが見えなかったら、パイロットとは言えないはずだ。

 それなのに、なぜ衝突してしまったのか? JAL機のコックピットには3人の乗員がいた。彼らは、何を見ていたのだろうか? 海保機が見えなかったとすれば、計器類しか見ていなかったのか? 報道にはJAL側乗員の名前も経歴も出ていない。普通、飛行機事故があれば機長の名前くらいは出てくるものなのに。その辺も、今回事故報道の異常さだ。
 この辺の事情を的確に伝えた情報は、私の知る範囲ではある女性週刊誌の記事(https://jisin.jp/domestic/2283901/)しかない。全国紙には全然載っていない。それはなぜ・・?

 私は原発にも飛行機にも直接的な利害はない一市民に過ぎないが、知る権利はあると思う。ネットその他から得た情報を基に、少し思考力を働かせたらこの程度の疑問点はすぐに指摘できる。一般市民として、マスコミ報道に無自覚的に流されないようにしたい。
 また、マスコミ記者等のジャーナリストたちにお願いしたいが、先の記事(メールマガジン「オルタ広場」「新聞社で、何が起きているか?」(2023.12.20))からも推察されるように、現場では真実を伝えたくても種々の圧力がかかる場面も多いと思われる。それでも、社会の健全性を守るために、どうかそれらに負けず、真実を伝えていただきたい。一般市民は、必ず貴方たちを背中から押して応援するであろう。

(元大学職員)

(2024.2.20)
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