■【北から南から】
大阪知事・市長選挙をかえりみて          

~これからの時代、大阪はどういう進路を取るべきか~  森田 桂司

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  大阪における課題についてこの間、私は次のような表題「関西21世紀戦略に
”経済首都構想を“」「関西財界とベンチャー」「自冶体における”職員厚遇”
問題の経過と責任の所在」「大阪における行政上の問題点」で4回に亘って問題
提起をしてきた。 
  その趣旨はかっての大阪は「水の都」といわれ、景色に恵まれた中之島を中心
にして金融や新聞、それに商事会社と大会社の本社が並ぶ商都に相応しい街であ
った。そこで働く人々もそれこそ何においても全国に先駆けて前進しようとする
気風に満ちていた。そのような中には、関西経済連合会でいち早く道州制を提唱
し、地方分権の推進力となられた宇野収さんのような人もおられた。こういった
気概の復活に賭けるリーダーこそが今の大阪に一番必要なのではないかというこ
とであった。
  ところが、今や横浜や名古屋にも抜かれる状態になっただけでなく、中央から
見て一地方都市に成り下がろうとしている。現在、大阪で指導者と称されて上に
立つ人は、役人出身者か規制に守られた企業の会長など、いつまでたっても進歩
的な革新派ではなく保守の姿勢に立つ人々で占められてきた感が強い。これらの
問題は今回行なわれた選挙に至るも未だ大きな問題として残されままになってい
る。
  そこで関西におけるこれからの課題を明確にし、真に大阪が発展していく道筋
をどう描いていくか朝日新聞に掲載された関西広域機構会長の元関経連会長秋山
喜久氏、大阪・神戸米国総領事館領事のカミングさん、雑誌「上方芸能」代表・
和歌山大学客員教授の木津川計氏など3人の論者の意見も参考にしながら私の持
論を発展させていきたいと思う。

 確かに理論的には経済が下部構造で地盤を動かしていくが、それと密接に連動
するように政治に変化を求めていかねばならないのに関西財界は政治に口出しし
ないことが美徳のように考えて「意見を云っても所詮しょうがないと中央には頭
を下げに行くなど、適当に付き合っておくだけでよいのだという目先の銭儲けに
目をやり、政治に深くタッチしないことで知事とか市長の絶大な権力・力を過少
評価、軽視してきた。そのことのツケがこの間の地盤沈下を生んでしまった要因
のように考えられる。
  それが関西で中心とならねばならない大阪市において市民を無視した庁内団体
談合の内輪市政を生み出し、市長も助役からの「天上がり」を持続させてきた。
一方大阪府では中央からきた官僚にお飾りの学者、タレント知事で行政は役人任
せとどちらも情報公開、経済や経営無視の役人中心の内輪行政が繰り広げられて
きた。
 
そういう意味では「関西は何かにつけて纏まりが悪い」と言われるように口で
は「一つに」なって考えねばと誰もが思っているようでも京都や大阪、神戸とそ
れぞれ個性の強い大都市を抱え,なかなか一つに纏まらない状況を表現するフレ
ーズによく使われてきただけでなく,現に空港問題のように纏まらなかったため
に後世に悔いを残すであろうものまで出てきている。
 
そういうことがあったにせよ漸く府県を超えて連携を目指す「関西広域機構」
が昨年発足することになったことは喜ばしいことである。関西は半世紀以上前か
ら先に紹介した関経連会長宇野収さんのように地方分権・道州制論議の先頭を走
ってきた。その背景には秋山さんが言うように「利にさとい」という商人的嗅覚
があったのは確かであろう。しかし,氏が言うところの歴史的にも中央に対して
持っていた独立心、それは今も持続されているかと言えば私の考えでは反骨の独
立心は一部京都にあっても関西全体では否と答えざるを得ない。それ以上に何事
においてもいち早く構想し、取組む姿勢は変わっていないが、その割に反面持続
性に弱い、逃げも早いと言う何か独特の体質があるのではないかとも考えられる

  東京一極集中と裏腹に関西の地盤沈下をいち早く見通し、東京の対抗軸として
「関西州」を立ち上げるという構想までは良かったが,対抗軸だけでなく反骨心
から出てくる自主独立と政治・経済・地域の分担論が必要であったのに,「中央依
存では、何れ行き詰まる」ということを知りつつ中央・東京への陳情姿勢に終始
していただけでなく、それに輪をかけてこの夢は政治の世界で理解が弱く、長く
沈滞を続け,顧みられることがなかった。このように関西がしっかりした形で方
向を示し、リーダーシップを取る力を発揮してこなかったことがこの国の将来図
をも歪にし、一極集中に拍車をかけた東京にまで迷惑を及ぼしたかも知れないと
思う。
  東京への集中は明治以降の近代化における一つの異常な特徴で、これは後れて
近代化した国が一つの都市を窓口にして西洋のものを取り入れてきたことからく
る宿命みたいなものかも知れないが、この場合、自然の成り行きに任せるのでなく
、政治なり、民間団体なりが逆の方向を目指してリーダーシップを発揮しなければ
ならない。
  一極集中の排除こそが地方の活性化と表裏一体であり、地方の崩壊を食い止め、
これからの日本社会を再生する課題をも同時解決する道なのである。
  そのため地方から自立を促進するリーダー、団体が出てきて、中央を包囲し、
官僚依存をやめること、極端な二分割思考を排し、物事を現実に即して多様な考え
と分析を試み、色々な方向から将来を構想すべきなのである。
  再びこの流を呼び起こしてきたのは21世紀に入り、今までの官僚主導の政治
・行政が行き詰まり、国・地方ともに財政危機に陥ってきたからだ。
 
しかし、関西によほど確固たる理論武装と全国に発信出来る自らの実践行動の
積み重ねがないと難しいし、下手をすると中央官僚との戦いに勝てないどころか
国の歳出削減・中央集権の強化に利用されかねない。関経連地方分権担当副会長
の奥田務氏も一極集中解消には地方分権、道州制しかないと断言するが、自分の会
社はと云うと言い訳になる。「これは本当に難しい。昭和初期までは政治は東京
、経済は関西と言われたが、今はヒト、モノ,カネが政治、官庁と協働して動く、
官庁との接触が多いメーカーや金融はその影響を受け易い。何より情報量が桁違
いだ。海外の取引先,マスコミも先ずは東京と、東京だと発信が同じでも1が2
にも5にもなる」のだと言葉を濁す。
 
だが、今のままだと関西も一地方にされてしまい捨て去られるという危機感を
抱いているのも確かである。明治以来の体制を引っくり返すのだから,長年築か
れてきた政治や省庁の壁は厚く,官僚は「均衡ある国土発展のためには中央での
コントロールが必要」と抵抗を強め、自らの権限を離そうとしないので、そう簡
単にはいかないが,待っていては自滅するだけと語気を強めることも忘れない。
  だから遅ればせながらでも関西広域機構を設立して現行法の枠組みの中でも行
政サービスの一部を「広域連合」が共同で担い,実績を積み重ねることによって
将来的には道州制の受け皿にしていこうとしているのだと云う。私の以前からの
提起では私的な意見として同じように道州制を目指すものとしながら,その前に
政治首都東京に対して経済首都大阪とし、防災時の二眼レフの確立を行い,大阪
も大阪市と周辺都市の合併で大阪都に、各区における区議会には多様性と競争性
を植えつけ、新しい行政機構の先進性を全国に発信し,存在価値を上げていけば
というものであった。
 
それには中央に寄りかかっていれば安心と考えている首長・議員を始め、自冶
体関係者の意識改革が必要なことは論を待たないが,マスコミや経済人など国民
にも関心を高めてもらわねばならないし、先ず出来るところから率先して踏み込
んでいく以外にないという思いであった。
  そういう足元からの構想と行動を着実に進めるとともに、グローバル化する世
界に目をやって東京や地方都市と一味違う魅力をどう創造し,発信していくかで
あろう。その発信材料は木津川氏が指摘する自冶市民による都市の経済力アップ
と文化力の再建であり、その集積と活用能力の向上であろう。
大阪は元来経済的先進地でありながら政治的には特異な存在と見られてきたが、
今回の選挙前には共通項として「旧態依然を排して変革を」という新鮮さを求め
る気運が大きくなってきた。有権者は行政内部の事情を深く知らないのでマスコ
ミなどの影響が大きく表面的,感性的に判断し易いところがある。
 
特に大阪は目先のことに流されやすい風潮が続くので,外から「大阪のおばち
ゃん」と揶揄される行動からの脱皮が必要でそれこそ品格の問題である。ここは
情緒的行動を早く克服し,情より理の方向へ頭を切り換える風土つくりを進め,
物事に対しては自主的立場に立ちじっくり考える文化水準の高い市民度を向上さ
せていく必要がある。これについては関西におけるマスコミ報道のあり方につい
ても猛省を求める必要があろう。
  平松市長は民間人出身として毅然とした態度で臨まないと周りの関係者に飲み
込まれてしまうかも知れないとの危惧があるし、橋下知事は何も知らずに独断的
な態度を取る弱点を抱えている。しかし、行政改革断行にはお金の蛇口を一回止
めることが必要であるので始めに思い切ったことを云うのは正解である。唯、何
事も一人で出来るものでないので、そこはどう味方を増やし運動にしていくかの
戦術・戦略の立て方の問題であろう。
  大阪が向かうべき方向は道州制を念頭に置いた関西の中心としてのリ-ダーシ
ップを取った宇野さんに継いで再び関西財界から地方分権推進委員会で旗手にな
っている伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長を盛り立て,その中で関西における成果を
実証して見せてほしいと思う。
              (筆者は元八尾市助役)

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