【オルタ広場の視点】

大阪都否決 菅官邸・学会・橋下維新談合政治の敗北 最大の勝者は山本太郎

仲井 富

<はしがき> 11月1日の大阪都構想の住民投票の開票結果が確定した。賛成675,829、反対692,996 約1万7千票の僅差で反対多数となった。大阪市選挙管理委員会は1日、「大阪都構想」の是非を問う住民投票の投票率が62.35%だったと発表した。男性が60.25%、女性が64.29%。 前回2015年の住民投票の66.83%を4.48ポイント下回った。

 私は大阪都構想否決の翌日、千代田区役所の9階にある図書館に行った。そこで公明新聞と赤旗の11月2日版を見た。赤旗は一面すべて「大阪都構想反対派勝利」で埋め尽くされていた。しかし公明新聞には一文字も大阪都構想否決の記事はなかった。また創価学会は最終盤の10月27日に大阪市内で急遽、幹部会を開き、学会員に大阪都構想賛成を督励した。にもかかわらずが聖教新聞には今回の敗北について一文半句の記述もなかった。

 公明党の衆議院議席総数は、2017年総選挙結果で選挙区8名、比例区21名となっている。選挙区8名のうち常勝大阪で4名、兵庫で2名で合計6名を占める。大坂の4議席を守るために維新の脅しに屈したわけである。そして切り札は山口公明党委員長の大阪入りだった。
 だが最終日の31日夜、市内中心部の梅田で開いた山口公明委員長の街頭演説は盛り上がりを欠いた。同じ場所で同じ時間帯に約200メートル離れた場所に反対の山本太郎代表がマイクを握り、数百人の若者中心の人だかりつくたのと対照的だった。しかも演説会の終了後には学会員の女性が詰めより「あんたたちは創価学会を潰す気か。可決されて大阪市がなくなったら学会のせいと言われ、否決されても維新から学会のせいと言われる」と涙ながらに糾弾する一幕もあった。

 橋下維新と学会、菅官邸にとって、今回の大阪都問題こそ負けられない一戦だった。菅首相直々の創価学会本部との談合で学会支持を取り付け、完璧の大阪都構想賛成の布陣を作った。菅首相にすれば、大阪維新プラス公明党を前回の反対から賛成に寝返らせたことで、100%の勝利疑いなしとほくそ笑んだに違いない。2010年以降、橋本維新の時代から10年間営々と築き上げた維新与党化を完璧なものにする裏技師、菅首相の本領発揮の場面だったが、またも苦杯を喫した。

 日本学術会議問題などより更に重要な場面で、公明党支持者の半数以上が反対に回り、菅首相お得意の官房機密費を使った10年間の維新与党化工作も、世間に見抜かれて失敗に終わった。この敗北の意味は大きい。自公政権に維新を取り込むことで菅政権は限りなく安泰になるとの見通しだった。だがその思惑は狂った。以下に菅・創価学会・橋下維新敗北の要因を指摘したい。

① 出口調査に見る 1万5,000票差 公明票離反と維新票12%反対の重み
② 山本太郎のゲリラ街宣に数千票やられた 自民党関係者の発言
③ 維新支持者は橋下維新と菅の野合支持しない 滋賀県知事選挙の教訓
④ 動揺する学会支持層 東京・沖縄で起きた反乱が大阪でも起きた
⑤ 沖縄では公明・維新ともに比例区票減 野党過半数へ 維新は消滅危機
⑥ 小林節氏の苦言 立憲・国民の争いに強烈な批判 政権担当能力なし
⑦ おわりに 野党は一人区での公明、維新や少数派の貢献に敬意を
⑧ <資料>主要政党の2019年7月参院選比例区得票と維新比例区票

◆ 出口調査に見る 1万5,000票差 公明票離反と維新票12%反対の重み

 毎日新聞は11月1日、投票を終えた有権者への出口調査を実施し、投票行動を分析した。支持政党別では、2019年4月の統一地方選挙を機に反対から賛成に転じた公明の支持層は賛否が伯仲、無党派層は6割が反対した。支持政党は自民の25%、維新22%、公明4%、共産4%、立憲民主2%、支持政党なし37%だった。大阪市でも支持政党なし層が自民、維新をはるかに上回っている。

 「都構想」が党是の維新の支持層は9割弱が賛成した。一方、自民支持者層の6割強、公明支持層の約5割強が反対。前回、2015年の出口調査と比較すると、無党派層の反対は5割弱から増え、自民支持層の反対も数パーセント増えた。だが、もう少し仔細に投票結果を分析すれば、維新支持者の12%が反対に回ったことがある意味で決定的だった。
 与野党各党の直近の2019年7月の参院選比例区得票から推計してみよう。以下は2019年7月の参院選大阪市における各党の得票数である。維新の得票数が約40万票弱と圧倒的だが、比例区票の12%で推計して、少なくとも約4万票の維新支持者の大阪都構想反対票が出た計算になる。これも大阪都構想否決の要因として見逃せない。

○2019年7月参院選挙 大阪市選管調べ 政党別比例区票 投票率51%
  大阪維新   386,440
  公明党    169,989
  自民党    207,658
  野党合計  約27万
   共産党   101,931
   立憲民主党  78,738
   国民民主党  36,735
   れいわ新選組 42,685
   社会民主党  6,915

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◆山本太郎のゲリラ街宣に数千票やられた 自民党関係者の発言

 8割くらい、賛成かと思っていたが、そうではなかった。想定外の数字だった。山本太郎はまったく影響ないと思っていたのに、やられてしまった。最後の演説で賛成票5~6千票やられた。大阪維新所属の市議は悔しそうにこう話した。「前回より投票率が下がったこと、若い層のらいが逃げた。逆にアテにしていた公明党が頼りにならんかった。ぜんぜんあかん。痛かったわ」。以下は『週刊朝日』の記事だ。

 維新に「まったく影響ない」と思われていたれいわ新選組の山本太郎代表は、住民投票がはじまった10月12日から大阪入り。本誌で既報した通り、大阪の歓楽街・道頓堀のグリコの看板前で反対の街頭演説を試みて、大阪府警と1時間以上に渡り、バトルを演じた。その後も山本氏は大阪にとどまり連日、演説会の告知をせず、ゲリラ的に反対の訴えを5、6カ所で繰り返した。

 住民投票の最終日の10月31日、大阪・梅田のターミナルの演説には大勢の市民が集まり、その6、7割が若者だった。集まった若者たちに話を聞くと、「山本太郎さん、生で大阪で見られる機会はそうないやんか」「れいわ新選組の山本さんと舞台になっているトラックの写真を撮ってSNSに投稿したかった」などと語った。

 山本氏は若者たちにこう訴えた。「維新のキャッチコピー、大阪の成長を止めるな、やられたと思いました。大阪の成長戦略、IR、カジノと言ってます。ふわぁ~として響きいい。日本語に直したら、大阪の成長戦略は博打場。これ汚い、空気悪そう窓開けようと思うやん」
 大阪が成長しているか? 橋下さんからはじまった維新のこの10年。数字を見てください。成長止まっとるやん。これ、デマやん。松井さん、めがねは格好いいが、言うてること格好悪いやん。日本で2番目の大阪、成長させられない方が間抜け」と批判した。(『週刊朝日』11/3配信 今西憲之)

 在阪の市民や、自民党大阪府連や立憲民主党、共産党議員が国政での壁を超えて反対の街宣を行った。ことも奇跡の大逆転との要因だ。れいわ新選組の山本太郎代表も、その1人だった。投開票2週間前から大阪に滞在して、連日ゲリラ街宣を繰り返していたのだ。

 投票日も、投票箱が閉まる1時間前の19時過ぎまで団地の前でマイクを握り、「投票に行ってください。行った人は、投票に行っていなさそうな人に声をかけてください」と訴えた。「維新が言う『大阪の成長を止めるな!』。その数字を見たら大阪の成長、維新が知事・市長をやってから全国レベルでは(平均以下で)止まったまま。いや下がっている」と繰り返し訴えた。
 また山本代表は、維新が「大誤報」と批判した10月26日付の『毎日新聞』の記事(見出しは「市4分割 コスト218億円増」)を“援護射撃”するような街宣を連日行っていた。モニターでデータを見せながら説明する山本代表の街宣が、反対派の大きな戦力(そして賛成派からすれば大きな痛手)となったことは間違いないだろう。(『週刊朝日』11/3 今西憲之)

 反対多数が確実になったことを受け、れいわ新選組の山本太郎代表は取材に対し、「大阪で10年間にわたって進められてきた新自由主義的な社会実験のなかで、大阪市を廃止し、分割することでとどめを刺すのが都構想だった。私たちにできることは都構想に賛成を求める側の説明不足を補うことだけだった。有権者のなかには政治にあきらめがあった人もいたと思う。でも、取り返しのつかない事態になることに多くの市民が気づき、動いた。それが勝因だ」と語った。

◆維新支持者は橋下維新と菅の野合支持しない 滋賀県知事選挙の教訓

 橋下維新と安倍・菅政権のつながりは深い。橋下氏が府知事時代の2010年4月に大阪維新の会を旗揚げした際、当時首相退陣後の無役に甘んじていた安倍氏を党首に迎えようと打診したことが、両氏の親密な交流のきっかけとされる。これと並行して、橋下氏とタッグを組む松井氏も地方議員時代に菅首相と意気投合し、党派を超えた盟友として連携を強めてきた。

 第2次安倍政権が発足した2012年暮れ以降、安倍、菅両氏と橋下、松井両氏は年末などに定期的に4者会談を続け、安倍1強時代の自公政権の補完勢力として維新は存在感を示してきた。維新の国会議員も「我々は与(よ)党でも野(や)党でもない『ゆ』党」と自任してきた。引退しても大阪維新の実質的な代表は橋下氏なのだ。

 だが維新支持者の大半は橋下維新の与党化にくみしない。その兆候は2014年7月の滋賀県知事選挙に現れていた。2013年7月の参院選挙比例区票で見れば、三日月氏の劣勢は明らかだった。小鑓を推薦した自民(208,451)公明(59,127)維新(84,776)で合計352,354票。対する民主出身の三日月は、不人気の民主の98,946票のみ。共産は比例区で60,560票を得ていたが独自候補を立てた。

 自公維新は石破幹事長を先頭に業界団体を中心にして知事を奪還しようという強引な「絨毯爆撃のような権力選挙」を行った。選挙は7月13日投開票の結果、嘉田由紀子前知事と武村元知事などが全面的に支援した三日月大造氏(連合推薦)が13,076票の僅差で勝利した。
 勝利の要因は、朝日新聞の出口調査で明らかになったが、自公維新支持者からの離反票(自21%、公8%、維新59%)と無党派層59%の支持が三日月を勝たせた。当時は人気絶頂の橋下市長も最終日に応援に駆けつけたが、維新支持者の6割が三日月に投票していた。橋下維新が官邸の走狗となろうとも、維新支持者は一貫して野党統一候補に投票する傾向が滋賀県でまず起きていた。その後も各地の維新支持者は一人区の野党統一候補へ過半数以上が投票するという流れで一貫している。

 2019年参院選一人区で野党共闘が成立した秋田、岩手、宮城、新潟などでは、野党統一候補に維新支持層の6割から10割近くが投票している。菅総理の出身地秋田県では、イージス・アショア反対の女性候補、寺田静が2万票余の差で勝利した。安倍総理、菅官房長官らが最優先地区として二度三度応援にかけつけたが、維新支持者のほぼ100%が野党統一候補の寺田静に投票していた(下図参照)。

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  出口調査からみた県内投票行動~支持政党別の得票率(「秋田魁新報」2019年7月22日)

 また一人区で圧勝した愛媛県地方区では、永江孝子が自民党のらくさぶろうに大差で勝利したが、ここでも維新支持層のじつに86%、公明支持層の44%が永江に投票、無党派層は72%が永江支持だった。ちなみに維新支層の86%は、国民支持層の82%、社民支持層の85%より高い(下図参照)。

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  愛媛県 各党支持層は誰に投票したか(朝日 出口調査「朝日新聞」2019年7月24日)

◆動揺する学会支持層 東京・沖縄で起きた反乱が大阪でも起きた

 創価学会内部で公然たる自公政権批判が起きたのは2015年の安保法制賛成以降である。強引な憲法解釈によって、集団的自衛権を容認したことへの反発が原因だ。それまでの創価学会・公明党の内部対立や反乱は個人的なものだった。しかし安保法制に反対する学会内部の反乱は、まず創価大学・高校の教師や生徒などの公然たる集団的行動となった。それはたちまち、インターネットを利用することによって広がって行った。015年の安保法制反対のデモには、創価学会の三色旗がひるがえり、学会員が公然と参加するようになった。

 沖縄の辺野古基地については、沖縄公明は当初から反対だった。それを強引に賛成に変えたのは菅官房長官と大阪維新の橋下徹のコンビだ。橋下は当初は辺野古問題に反対のような態度をとっていたが、菅の意向を受けて沖縄に赴き「土下座してでも辺野古に御願いしたい」賛成に転向、沖縄維新の下地幹郎代議士もそれに追随した。

 自民、維新の工作で、民主党の辺野古賛成を批判し、辺野古反対を掲げて2013年の参院選挙で勝利した宮城出身の島尻安依子を転向させ、官房機密費をフルに使って、仲井真知事以下の自民国会議員全員を賛成に変えた。仕上げは2018年に急死した翁長知事の後継者、玉城デニー打倒のため公明党対策だった。
 菅官房長官と創価学会本部の取引によって「辺野古賛否に触れない」ということで、一貫して辺野古反対を掲げる公明党沖縄県本部を納得させ、全面的な協力関係を創り出した。この「知事選挙で自公合同選対を組む」方式を生み出したのは、菅官房長官と佐藤浩創価学会副会長のコンビである。

 沖縄県名護市長選、新潟県知事選など重要な選挙はこの方式を現地に持ち込んで勝利してきたが、沖縄知事選では敗北した。辺野古反対の地元公明を賛成に転向させたのも橋下維新と菅首相、創価学会本部の佐藤副会長のコンビだったが、見事に失敗した。
 それどころか、創価学会内に新たな造反の動きが顕在化した。東京周辺でも沖縄現地でも、期せずして「創価学会・公明党の変節は、池田会長の平和の理念に背反する」という創価学会員の公然たる本部批判が巻き起こった。学会員が実名を明らかにして公然と玉城デニーの選挙応援に学会の三色旗を翻して参加し、学会本部批判を展開したのだ。

 自公連立政権は、2001年の小泉政権から、民主党政権の3年間を除いて延べ17年、創価学会は推定資産1兆8,000億という巨大企業に成長した。平和の党の仮面を投げ捨てても連立政権から逃れられなくなった(『週刊ダイヤモンド』2018/10/13)。大阪のカジノ法、万博誘致など、公明党は自民、維新と常に同一歩調を取った。集団的安全保障法を境として創価学会・公明党の変質は止まらない。辺野古担当大臣は国土交通省だがそれは公明党の指定席となっている。歴代の大臣たちが辺野古圧殺の中心を担っているのだ。

◆沖縄では公明・維新ともに比例区票激減 野党過半数へ 維新は消滅危機
 自公維新連合軍で闘った沖縄だが、その代償は大きい。2018年の沖縄県知事選挙は惨敗。2019年参院選沖縄地方区でも惨敗だった。直近の2019年沖縄県の参院選地方区選挙は、社民、立憲、共産、国民、れいわなどの野党が推す高良鉄美が298,813票で、次点の与党候補安里繁信234,928票を破って当選した。投票率は49%と前回より低下した。
 この結果、沖縄県の国政選挙では、参院選では2007年から辺野古反対の候補者が5回連続当選した。ただし2010年の参院選では、自民党の島尻安以子が民主党政権が投げ捨てた辺野古県外海外移転の旗を掲げて当選した。しかし2013年の辺野古賛成の裏切り行為により、2016年参院選では沖縄国政選挙史上最大の10余万票差で惨敗した。

 2019年の沖縄参議院地方区の最大の特徴は、従来、与党系が比例区票では優位に立っていたが、野党系が比例区票で逆転した。以下に沖縄県の比例区得票数の変化を示した。沖縄公明党が中立的態度から、明確に辺野古賛成の立場に立ったのが、前回2016年の参院選だった。それ以降比例区票は減少傾向だ。
 2016年7月の参議院選挙 沖縄県比例区得票率は、自由民主党、公明党、おおさか維新の会で、与党計50.57%だった。

 <沖縄県の比例区得票数の変化>
  党名   2016年   2013年
  ------  ---------  ----------
  自民   160,169   140,234
  公明   86,896   90,980
  維新   44,101   60,287
  共産   90,060   51,346
  社民   69,821   102,301
  民進   75,417   36,431
  生活   18,352   11,471

 だが2019年7月の第25回参院選では、自公維新の与党3党の比例区票は44.53%、野党5党の比例区票51.49%となり与野党逆転した(下図参照)。維新の前回比例区得票4万4千票は2万2千票と激減した。公明の比例区票は、2013年参院選90,980票だったが、2019年参院選75,000票と低下傾向にある。また沖縄維新は2013年の60387票から2019年21,542票と激減した。さらに下地幹郎代議士が中国の賭博企業からの献金問題で維新除名となったことで沖縄維新そのものが消滅の危機にある。

画像の説明
  2019年7月 第25回参院選 沖縄県の比例代表・党派別得票数

◆ 小林節氏の苦言 立憲・国民の争いに強烈な批判 政権担当能力なし

 保守リベラルの月刊誌『月刊日本』11月号が「菅総理を揺るがす負の遺産」という特集を組んでいる。主幹の南丘喜八郎氏は冒頭、学術会議105人のうち6人を任命しなかったのは、すべて菅総理の責任に在るとし、国会で圧倒的多数を確保して総理官邸を占拠し、権力を握りさえすれば何をしても許されるという傍若無人が横行していると強く批判した。
 また菅野完氏は同誌のなかで「私は命懸けで菅独裁と戦う」と題して、菅政権は下品で教養が無く程度の低い、腐りきった政権です、非常に危険な政権であり看過できない、と語った。これは菅政権の日本学術会議の6人の任命排除に抗議して国会前でハンガーストを行っている現場でのインタビュー記事だ。

 以下に紹介する小林節氏の論考は、同じく『月刊日本』11月号に掲載された要旨だが、痛烈な立憲民主党批判は正鵠を得ている。

――「堕落した与党」と「役立たずの野党」の選択という不幸  小林 節
 日本国憲法の下で、私達は、「誰であるかにかかわらず」人は法令の下で等しく扱われることが保障されているはずである。これが法治主義(73条1号)と法の下の平等(14条1項)である。普通、このような状況下では政権交代が起こるはずである。小選挙区を中心とした現行の衆議院選挙制度の下では、与党が失敗を犯せば、野党に民心が移り、相対的多数の票を獲得した野党に絶対的多数の議席が移り、政権交代が起こるはずである。ところが、今のわが国ではそれが起こりそうにもない。

 既に有権者は、かつての民主党政権の時に民主党(その流れを汲む立憲民主党)が国民にとって「役立たず」だと知ってしまった。かつて民主党は、政権を獲得した時に、単に「はしゃいでいる」ように見えた。その姿は、国家権力を預かるには未熟に見えた。大臣達の奇行、「政治が決める」と唱して事務次官会議を廃止して国が動かせると思っていたら恐ろしく幼稚である。また、中国や韓国に対して一方的に譲歩する姿勢には恐怖を覚えた。

 日米関係を対等にしたいという目標は正当だがその手順を全く心得ていなかった。そして、何よりも、党の政調で議論を重ねながらまとめて行く自民党と正反対に、議論を重ねながら分裂して行った姿は、「大人」でも「政治家」でもなかった。このように主権者国民にとって役立たずの民主党でも、当時の幹部は選挙に強かったために議席を維持して今でも立憲民主党の役員に居座っている。そして、その言動は「政権奪還」の掛け声とは裏腹に、万年野党でも議員特権を享受できれば良いと考えているように見えてしまう。

 本当に政権交代を果たす志があるならば、なすべき事は決まっている。
 まず、第一に幹部を一新すべきである。未熟を承知で若手を登用し、ヴェテランはかつての経験を真に反省してそれを助言者として活かすべきである。
 第二には、政策については、小さな議論は止めて、①新自由主義による格差の是正、②安倍政権下の権力の私物化の実態の情報公開、③対米従属の見直しと領土の保全―のような大きくてリアリティーのある柱だけを立てて、真面目に野党共闘を追求すべきである。
 第三には野党共闘について、これまでのように他党に対して(小さいほうがどけ)というような傲慢な態度を改め、大きいほうが譲る姿勢で真に互恵的な野党共闘を主導すべきである。

 堕落した自公政権よりも、これに変わるべきまともな野党が存在しないことが、主権者国民にとって何よりも不幸である。商売野党は一度潰してみたら良いかもしれない。――

◆ おわりに 野党は一人区での公明、維新や少数派の貢献に敬意を

 野党統一候補の地域では、東京・大阪など最大の選挙区で立憲民主など野党勢力は連戦連敗を続けている。それは一言で言えば、野党統一候補勝利の背後にある最大の支持層無党派層や自民、公明、維新支持者などの野党統一候補への投票に対する敬意の念が欠けかけているからではないか。

 2016年参院選の焦点となったのが新潟選挙区だ。ここは全国で唯一、小沢一郎と山本太郎の「生活の党」の候補森裕子が難産の末、統一候補となった。ここも二人区から定数削減で一人区になって初の選挙であり、110万票余を与野党が奪い合う大激戦となった。結果はわずか2,279票差で森裕子が自民現職の中原八一を制した。
 ここでも無党派層や維新、公明などの支持層が原発反対の森裕子に投票した結果が出口調査にはっきり現れている。だが小林節氏が自公の安保法に反対して、止むに止まれず「国民怒りの声」を立ち上げ、参院選比例区に立候補したのを記憶している人は少ない。見過ごせないのは、この党派は新潟県内で7,503票の比例区票を獲得した。

 森裕子当選の背景には与党支持者の公明、維新支持者の投票に加えて、小林節氏の「国民怒りの声」の7,503票の大半が貢献したのは確実だ。もし小林氏の決起が無ければ、森裕子の2,279票差の勝利はなかった可能性もある。森裕子の僅差の勝利があってこそ、2019年参院選では野党統一候補の打越さく良が521,717票を獲得し、自民の現職塚田一郎に約4万2千票差をつけ初当選した大勝利につながったと言える。

 独りよがりで勝った、勝ったという前に、その勝利の中味をきちんと分析して、それを都市部の野党共闘に活かして行く謙虚さが必要だ。野党指導者たちには、その謙虚さが足りない。それが小林節氏の「堕落した自公政権よりも、これに変わるべきまともな野党が存在しないことが、主権者国民にとって何よりも不幸である」につながるのだ。

<資料> 主要政党の2019年7月参院選比例区得票と維新比例区票

●2019年7月の参院選挙における主要政党の比例区得票

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●2016年参院選挙 一人区各党支持者の投票先 維新票46%が野党統一候補へ (朝日新聞 峰久和哲氏分析)

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 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

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