【コラム】
酔生夢死

少しはラグビールール見習えよ

岡田 充


 「(横浜の競技場は)割れんばかりの大歓声に包まれ、うれし涙を流す人もいた」― ラグビーW杯で、日本がスコットランドを破り、史上初の8強進出を決めた翌日の全国紙の記事。ターミナル駅前では、「史上初の快挙」と見出しが躍る号外が配られ、各地のファンゾーンでは、「ニッポン」コールで盛り上がったという。
 こう書けば、日本中が沸き立ったように見えるかもしれない。しかしそれは誤解。スポーツ音痴の上、大勢には与しない「へそ曲がり」のオレにとっては、「あるひとつの行事」に過ぎなかった。そんなヤツは周りに結構いるのに、「日本中が」と書かれるとカチンとくる。

 この手のニュースで気に入らないのは、多くのメディアが、試合内容以上に「ニッポンって、すごーい」にフォーカスし、サポーターや「街の声」を集めて編集するところ。テニスの大坂なおみや、海外メジャーで優勝した女子ゴルフの渋野日向子の場合もそうだった。

 でもちょっと待ってほしい。ラグビー日本代表選手は31人のうち半分の15人が外国出身者で、外国選手も7人いるんだ。ラグビーは、国籍にとらわれない独自の選考基準があるんだそうだ。日本国籍でないと代表選手になれない野球やサッカーとは違う。
 その基準は、①出生地が代表国 ②両親、祖父母のうち1人が代表国出身 ③代表国で3年以上継続して居住、ないし通算10年にわたり居住―の条件をクリアーすれば、メンバーになれる。イングランドで19世紀に生まれたラグビーは、やがて近隣のスコットランド、ウェールズ、アイルランドへと広がった。これらの国では住民の往来がひんぱんだったため、こうしたルールができたのだそうだ。

 日本代表チームの顔ともいうべき主将のリーチ・マイケルは、ニュージーランド出身だし、ジェイミー・ジョゼフ監督もそうだ。ラグビー向きの体格、伝統から編み出された戦略・戦術の構築は、たぶん「ラグビー先進国」で生まれ育った彼ら抜きには語れないだろう。
 その意味でラグビーは、人種や国籍、言語、学歴、宗教、価値観を越えた「多様性スポーツ」の代表とも言える。いや本来スポーツとはそういうものだろう。史上初の8強入りはメデタイのかもしれないが、「ニッポン・コール」で、スポーツナショナリズムばかりを煽るのは、お門違いじゃないのか。

 スポーツと国籍問題でがっかりしたのは、横綱白鵬の日本国籍取得。優勝42回、横綱在位73場所など多くの前人未踏記録を持つ彼だが、日本国籍がないと親方にはなれない壁は突破できなかった。あくまで想像だが、彼は前人未踏記録を更新し続けることで、ひょっとするとモンゴル籍のまま親方として協会に残り、「一代年寄」にもなれるという期待をもったことがあったのではないか。
 協会が、ありもしない日本人の「純血性」にこだわりたいなら、最初から外国人力士を受け入れず排除したらいい。大関になっても「団栗の背比べ」状態の日本人力士だけの角界がいかにつまらないかが分かるはず。少しはラグビーに見習え。

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  新聞号外を手に喜ぶファン(TV朝日画面から 10月14日)

 (共同通信客員論説委員)
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