【コラム】
酔生夢死

尖閣に郵便番号? ヤギに食べられるぞ

岡田 充

 混戦模様だった米大統領選挙は全米集計が終わり、民主党のバイデン氏の勝利が確定した。菅義偉首相はバイデン氏との電話会談(11月12日)で、「バイデン氏と女性初の副大統領に就任するハリス上院議員への祝意を伝えた」(全国紙)。
 この日の夕、出先で配られた日本最大の発行部数を誇る新聞の一面トップ記事の見出しを見て驚いた。「バイデン氏、尖閣は『安保条約5条の適用対象』と明言―菅首相と初の電話会談」とある。当り前じゃないの? バイデンがもし否定すれば、文句なく一面トップ記事だけど…

 尖閣諸島(中国名 釣魚島)への安保条約5条(日本防衛)の適用は、オバマ前大統領が2014年に米大統領として初めて明言。トランプ大統領も17年、安倍前首相との首脳会談で再確認しており「既定路線」。政府関係者によれば発言は「バイデン氏が自ら切り出した」。日本側が「言わせたわけじゃない」と言いたいのだ。

 しかし、「バイデン移行チーム」のメディア向け発表文を読むと、バイデンは「第5条に基づく日本防衛と米国の深い関与」と述べたと書くだけで、「尖閣」の文字は出てこない。5条適用を即「防衛公約」と受け止める向きがあるが、それは希望的観測である。中国の台湾への武力行使に対し、米政府が対応策を明らかにしない「曖昧戦略」と同じと言っていい。
 ここ10数年の日米関係の推移をみると、米国は島嶼防衛の一義的防衛は日本の「自助で」という意思を鮮明にしつつある。尖閣防衛などは米国益にかかわる重大事ではない。「尖閣」の名前を入れなかったのは、中国への配慮かもしれない。

 尖閣周辺海域では今春から、中国公船が領海外側の接続水域を頻繁に航行し、領海では日本漁船を追い回したとして、島を奪おうとしているかのような「緊張」を伝える報道が目立つ。しかし海上保安庁によれば、中国公船の領海侵入回数は昨年よりむしろ減っている。中国側は、日本の右翼が雇った漁船の活動家が尖閣に上陸するのを防ぐため、という理由がある。
 今年に入り沖縄県石垣市が6月、尖閣の字名を「字登野城尖閣」に変更。実効支配を強化するため現地調査を政府に求め、漁業施設を島に建設する決議をするなど、実効支配強化の活動を活発化させている。10月には、日本郵便が尖閣に郵便番号の設定(〒 907-0031)までした。

 だれもいない無人島に郵便番号ねえ。誰が誰に郵便物を出し、誰が配達するんだろう。島には80年代、右翼活動家が放ったヤギが繁殖しているそうだ。配達した手紙はヤギに食べられちゃいそうだ。

画像の説明
  魚釣島の写真~外務省パンフレットより

 (共同通信客員論説委員)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧