【オルタ広場の視点】

復興五輪にノー 福島県民の回答 安倍内閣支持3割の意味と背景

仲井 富

◆東京五輪ノーを突きつけた福島民報世論調査 安倍政権支持30%
◆福島県民を置き去りにした冷温停止という民主党政権第一の大嘘
◆第二の大嘘 安倍首相「アンダーコントロール」IOC総会で発言
◆参院選9万票差で自民候補完勝の福島で安倍政権支持率3割の意味

●はしがき

 私は2011年の福島原発事故後、何度か福島、宮城、岩手を訪れた。昨年の仙台行きでは、駅前のホテルに泊まったが、街には中国人を含めて外人観光客が溢れていた。その帰途一泊した福島駅前には、外人観光客の姿はほとんど見かけなかった。安倍総理はオリンピック誘致演説で声高らかに「アンダーコントロール」と叫んだが、肝心の外人観光客や旅行社は信用していない。福島は安全ではなく危ないと観光ルートから外しているのだ。

 もう一つ、四国歩き遍路の友人を岩手県宮古町に訪ねた。大震災の津波に襲われたが奇跡的に助かった彼女に、東京五輪の感想を求めた。曰く「東北は捨てられた」。企業も労働者も安全で金になる東京五輪工事に引き寄せられた。そして復興の象徴ともいうべき巨大な20メートルの堤防を指差した。あれこそゼネコンの発想、私たちは津波の来るのを見ることができない、というのだった。復興五輪なるものの実態は安倍内閣の東京中心主義の象徴だった。東北は捨てられたと感じているのだ。

◆東京五輪ノーを突きつけた福島民報世論調査 安倍政権支持30%

 鳴り物入りで復興五輪を謳った東京オリンピックは、いまやコロナ騒ぎで開催自体が危ぶまれている。しかしもっとも明確に東京五輪にノーを突きつけたのが福島県民だ。1月29日、福島民報社は福島テレビと共同で県民世論調査(第二十八回)結果を発表した。
 安倍内閣を「支持する」は30.3%で、昨年9月の前回調査から11.1ポイント低下した。一方、「支持しない」は53.9%で、前回より13.6ポイント増えた。これを男女別でみると「支持する」としたのは男性が32.2%、女性が28.4%。「支持しない」は男性が57.8%、女性が50.0%だった。

 同じ時期の共同通信世論調査と比較すると、かなりの差がある。2020年1月12日の共同通信調査では、安倍内閣支持率は、支持する49.3% 支持しない36.7%。2019年9月1日の調査では、安倍内閣支持率は、支持する55.4%。支持しない38.2%である。なにがこれほどまでの安倍内閣不信任に等しい結果を生んだのか。周知のように東京五輪は二つの大嘘によって推進された。

◆福島県民を置き去りにした冷温停止という民主党政権第一の大嘘

 まずは民主党政権の福島原発冷温停止宣言だ。これは当時の野田政権の細野原発担当相である。政府・東電は2011年12月16日、爆発、放射能漏れ事故を起こした福島第一原子力発電所の原子炉が「冷温停止状態となった」と発表した。細野豪志・原発事故担当相は「オンサイトの事故は収束した」と高らかに宣言した。
 これに対して田中龍作ジャーナルは以下のように怒りのレポートを書いた。

 ――2011年12月17日 03:41「冷温停止」 最後の合同会見で世紀の大ウソつきが遂に居直った。政府・東電は16日、爆発、放射能漏れ事故を起こした福島第一原子力発電所の原子炉が「冷温停止状態となった」と発表した。細野豪志・原発事故担当相は「オンサイトの事故は収束した」と宣言した。
 破損した燃料棒がどこにあるのか定かではないのに、なぜ「冷温停止」を宣言できるのか。圧力容器の厚さは16センチ、格納容器は3センチ。両者とも鋼鉄製だ。数千度までに熱せられた燃料棒が、ぶ厚い圧力容器を突き破ったのであれば、薄い格納容器も突き破ったと考えるのが妥当だ。国内外の多くの専門家は、「燃料棒は格納容器を突き破って原子炉建屋の底から地下にめり込んでいる」と指摘する。地下で燃料棒がマグマのように煮えたぎっているのだ。地下にめり込めば地下水脈に流れ込む。地下水脈は海にコンコンと湧き出て、海洋を高濃度の放射性物質で汚染する。農地も同様だ。収束どころか、これから果てしのない凄まじい放射能汚染が始まるのである。地獄の入り口に差し掛かったと言ってもよい――

 細野氏はその後、環境相となり、あの悪名高い2012年7月の「福井県大飯原発一・二号機」再稼動のため、野田首相、枝野幹事長とのタッグで福井県知事を説得、再稼動に踏み切らせた。この日から国会前の再稼動反対デモが始まり、今日なお続いているのだ。その後は小池東京都知事、大阪維新の橋下前代表などと組んで新党「希望」を画策したが、彼自身の発言で失敗。いまや自民党幹事長の二階派師水会の一員となった。かかる男を原発担当相として重宝した菅・野田両首相の責任は重い。

◆第二の大嘘 安倍首相「アンダーコントロール」IOC総会で発言

 安倍首相は2013年9月7日、ブエノスアイレスのIOC総会で東京をアピールする五輪招致演説をした。首相官邸ホームページにその和訳が掲載されている。福島について言及したのは、開始直後だった。
 「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。……」英語では「アンダーコントロール」と言った。

 立ち並ぶタンクのあちこちから汚染水が漏れてくる。地下水は山側から容赦なく流れ込み、それが汚染されて港湾に流れ出る事態も続く。汚染水はいま、「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」ではないか。福島原発事故からまる9年。今なお汚染水はダダ漏れ、大量にたまったタンクの処分方法は決まっていない。
 福島県の集計では県内の死者・行方不明者は計3,835人。そのうち関連死が半数以上を占め、地震や津波による直接死を上回っている。震災関連死は、遺族の申請を受けて市町村の審査会などが災害と死亡の因果関係を判断し、認定している。

 当面の問題は福島原発に留まり続ける汚染処理水タンクの海洋放出だ。政府は3月12日、東京電力福島第一原発で増え続ける処理水は海や大気に放出するのが現実的だとする小委員会の報告書について、福島県浪江町の町議会で説明した。議員からは「(海洋)放出すれば地域経済、社会が崩壊する」などと激しい反発が相次いだ。汚染処理水の海洋放出か、あるいは原発サイト内にタンクを増設して処理水を貯めるか。立憲民主党の阿部知子議員は、以下のように主張する。「環境放出意外に方法がないわけではない。大きなタンクを建設し、長期間保管すれば、放射線量は半減期によって減っていく。政府などは30年~40年と言う廃炉期間を持ち出すが、この期間は関係閣僚会議が策定した中長期ロードマップに記されているだけで、閣議決定も経ていない。40年でタンクを空にしなければならない法的根拠はない」(毎日新聞 2020年3月15日)

 第一原発から近い県沿岸部に位置する浪江町はかつて漁業が盛んだった。高野武町議は「海洋放出で魚が売れなくなれば、生活は成り立たない。後継者もいなくなる」と指摘。16人いる議員のほぼ全員が「帰還する住民が減るのではないか」「政府は風評対策を講じるとしているが、具体性がない」などと海洋放出に反対を表明した。(共同通信 2020年3月14日)

◆参院選9万票差で自民候補完勝の福島で安倍政権支持率3割の意味

 2019年の参院選で東北6選挙区(改選数各1)の全てで、自民党現職候補に野党統一候補の新人が挑んだ与野党対決は、自民が岩手、宮城、秋田、山形の各選挙区を落とし、2勝4敗の惨敗に終わった。岩手、宮城、山形は前回(2016年)に続く敗戦で、参院の選挙区議席をすべてを失った。統一候補を擁立した立憲民主、国民民主、共産、社民の野党勢力は4議席を奪取し、勝利した。いずれも接線で2、3万票差の野党勝利だった。敗れた青森選挙区でも票差は約4万票。

 唯一完勝したのが福島県選挙区である。自民現職の森雅子445,547票に対し野党統一候補の水野さち子は345,001票と約9万票の大差だった。しかも県知事はすでに再選されている内堀雅雄知事だ。内堀知事に対するする県民の支持動向も調べた。「支持する」と答えたのは77.7%で、前回調査を2.0ポイント下回った。「支持しない」は9.4%で1.3ポイント上昇した。
 どこから見ても東北唯一の自民最強の福島県で、安倍内閣支持率が全国最低の30%に下落したのをどう見るか。ここに福島県民の原発事故とその収束に対する違和感が存在する。復興五輪と騒いでいるのは東京のマスコミと安倍政権と小池都政、ゼネコンのみ。福島は復興五輪に利用されたという深い絶望感を汲み取らなければなるまい。

<参考資料>

・グラフ① 安倍内閣を支持しますか
・グラフ② 内堀知事を支持しますか
・防災強化を求める福島県民

画像の説明

●グラフ① 安倍内閣を支持しますか

 福島民報社は福島テレビと共同で県民世論調査(第二十八回)を行った。安倍内閣を「支持する」は30.3%で、昨年9月の前回調査から11.1ポイント低下した。一方、「支持しない」は53.9%で、前回より13.6ポイント増えた。
 男女別では「支持する」としたのは男性が32.2%、女性が28.4%。「支持しない」は男性が57.8%、女性が50.0%だった。

●グラフ② 内堀知事を支持しますか~知事支持率は77.7%

 内堀雅雄知事に対する県民の支持動向も調べた。「支持する」と答えたのは77.7%で、前回調査を2.0ポイント下回った。「支持しない」は9.4%で1.3ポイント上昇した。
 男女別では「支持する」は男性73.6%、女性81.8%。「支持しない」は男性11.8%、女性7.1%だった。
 内堀知事を「支持する」とした回答者の理由の割合は「震災復興対策」が19.7%で最も高く、「県外に向けての情報発信力」が19.1%、「県民の健康管理」が13.2%などと続いた。
 一方、「支持しない」とした回答者の理由で最も割合が高かったのは「放射能問題への対応」で24.2%だった。

●防災強化求める声~福島県民世論調査

 福島民報社が福島テレビと共同で実施した県民世論調査では、台風をはじめとする今後の自然災害への備えとして自治体に求める事項を聞き、「河川の堤防整備」が39.1%で最も多かった。昨年10月の台風19号と記録的大雨では、県が管理する23河川で堤防が決壊し甚大な被害が出たのを受け、県民が県土の防災力強化を求めている姿が浮き彫りとなった。

 今後の災害への備えとして自治体に求める事項を聞いた結果は、「避難情報の適切な発信」が22.7%、「水、食料の供給体制の強化」11.7%、「避難所の環境改善」7.6%、「その他」6.3%、「ハザードマップの改定」5.0%などと続いた。
 男女別ではいずれも「河川の堤防整備」が最多で、男性の36.5%、女性の41.8%が求めた。年代別で最も多かった事項は、五十代、六十代、七十代、八十歳以上は「河川の堤防整備」だった。一方、二十代、三十代、四十代は「避難情報の適切な発信」、十八、十九歳は「避難所の環境改善」となった。

 台風19号と記録的大雨発生時の河川堤防に関しては、阿武隈川など県管理の23河川49カ所で決壊が生じた。家屋をはじめ、商工業や農業分野で甚大な浸水被害が発生した。県のまとめでは24日現在、住宅の全壊が1,463棟、半壊は12,345棟に上っている。農林水産業被害は過去最大とみられ、636億2,277万円に上った。被災企業の中には工業団地から撤退する動きもある。

 こうした状況を受け、県民の中には今後の生活再建や産業活性化を推し進める上で、堤防をはじめとするハード整備が不可欠であるとの考えが根強いとみられる。
 また、台風19号を巡っては避難情報の発信、水や食料の確保、避難所での健康管理の在り方なども課題となった。調査の結果、行政による対応の改善を求める県民の意見が浮かんだ。

●備え「特にしてない」17.9%~意識高揚へ一層の啓発必要

 自宅での災害への備えについて聞いた質問では「食料や飲料の備蓄」が26.9%で最も多かった。一方、「特に何もしていない」としたのは17.9%で二番目に多く、県民の防災意識高揚に向けた啓発が課題として浮かんだ。
 回答結果は、「その他」が11.9%、「非常用持ち出しバッグを準備」と「避難所や避難経路を把握」がともに10.1%、「家族と安否確認方法を決める」9.3%、「家具を固定している」7.6%、「ハザードマップを確認」6.3%などと続いた。
 男女別ではいずれも「食料や飲料の備蓄」が最多となり男性22.7%、女性は31.0%が実施しているとした。
 県などは避難訓練や会員制交流サイト(SNS)を通じた情報発信を行い、県民の防災意識の向上に努めている。

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

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