■ 「成人年齢」は「18歳」か「20歳」か          今井 正敏

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 2007年5月に、憲法改正の具体的な手続きを定めた「国民投票法」
が成立し、3年後の10年5月から施行されることになった。この法律で
「投票年齢が18歳以上」と明記されたので、「18歳成人」が脚光を浴
びている。
  今年の2月には、法相が民法の成人年齢について「白紙」で法制審議会
に諮問、これを受けた審議会は3月11日から論議を始め、答申は09年
春ごろの予定という。
  党の基本政策に「18歳選挙権付与」と掲げる民主党の枝野幸男憲法調
査会長は、こうした政府側の動きに対して、「国会で方向性を決めている
のに、なぜ諮問が『白紙』なのか。引き下げが実現しなければ国民投票法
の手続きはいっさい進められない」と語っている。

 現在は、「20歳」が成人の目安になっているがその例が「成人式」で、
「20歳になると成人式を迎える」ということで、この成人式によって、「2
0歳成人」ということが定着している。選挙権の付与、未成年者飲酒禁止法、
同喫煙禁止法などの適用除外、教員免許取得年齢や弁理士資格取得年齢などか
らの制限解消等々「20歳」が基準になっている法令は数多くあり、朝日新聞
は、「20歳成人」を見直す場合、その対象になる法令は308に及ぶと報じ
ている。

 成人式は「20歳成人」の大きな根拠になっているが、1948年に制定さ
れた「国民の祝日に関する法律」の「成人の日」には、年齢の規定はない。
  ではなぜ「国民の祝日」である「成人の日」が、当初「1月15日」と決め
られ、(現在は1月の3週目の月曜日)、その日に20歳の人たちを対象にし
た「成人式」が行われるようになったのか。この成人式を、「国民の祝日」が
決められる前の昭和22年1月15日に、埼玉県の旧蕨町(わらびまち)で全
国で初めて行われた「成人式」がモデルだといわれている。
  この成人式をしたのは同町の青年団で、発案者は青年団長を勤めていた高橋
庄次郎氏(のちに町長に就任)であった。その高橋氏によると、当時は、敗戦
後の混乱が続き、青年たちに希望と元気をあたえたいという思いから、戦後2
0歳になって初めて選挙権を得て、「おとな」の仲間入りした団員たちに集
まってもらい、みんなでお祝いをしようということで、それを「成人式」と名
づけたという。
  その日を「1月15日」にしたのは、この日が、戦前から「薮入りの日」と
いわれ、商店などに勤めている人たちは、休みがとれ実家に帰れる風習があっ
たことから、気兼ねなくみんなが休日のとれる「1月15日」にした。
  これが新聞で大きく報じられ、蕨町青年団の成人式は広く知られるようにな
った。これがヒントになり、この翌年、「1月15日」が「成人の日」とし
て、「国民の祝日」に決められたという。

 このように「成人の日」には年齢規定がないのに、「20歳」が「成人」の
基準になったのについて、実践女子大学の広井田鶴子教授は、「江戸時代の日
本では、15歳以上を大人と扱うことが一般的だった。明治政府も当初は15
歳を基準としたが、1876年(明治9年)の太政官布告により成人年齢は満
20歳とされた。8世紀初頭に制定された太宝律令が満20歳以上に納税の義
務を課していたことや、フランス民法の規定などが参考にされた。
  当時の調査では、各国の成人年齢は、仏伊やロシアが21歳、米国は22歳、
スイスは22歳などであった、と述べられている(4月6日朝日新聞「耕
論」)」。

 この太政官布告とは別に、男子の場合は、1873年(明治6年)から実施
された「徴兵令」によって兵隊検査が行われ、この検査を受ける年齢が、「は
たち」(20歳)と決められたため、この検査を受ける年齢が、「おとな」の
仲間入りする目安になったという説もある。
  この説は、兵隊検査が毎年行われるので、「検査前」と「検査後」の生活基
準が明確になり、検査が終わると、「一人前」と呼ばれ、「おとな」の仲間入
りをし、酒やたばこなども制限なくなり、「おとな」としての生活様式に入る
ため、兵隊検査を受ける年齢が「おとな」(成人)になる基準になったとい
う。 1889年(明治22年)に衆議院議員選挙法が公布されたが、この選
挙法で決められた選挙権の取得年齢は、満25歳(男子のみ)だったので、こ
の選挙権年齢は、成人の基準にはならなかった。

 戦後、徴兵検査がなくなり、民法の中には20歳を明記した年齢制限の規定
があるものの、「成人」を明確に規定した条項はなかったので、青年たちに
は、「成人年齢」の空白期間が続いた。
  昭和20年12月17日に衆議院議員選挙法改正が公布され、この改正法で
、長い間の悲願であった「婦人参政権」が実現、選挙権も従来の25歳から2
0歳に引き下げられ、国会議員の選出方法が根本的に変わった。
  前記の旧蕨町青年団の高橋団長は、この大きな変化をプラスにしようと決意
し、青年団は男女合同だし、「よし、この20歳選挙権付与を、成人年齢の基
準にして、みんなで成人になるお祝いの行事を行おう」と「成人式」の開催を
計画し、実行に移したという。

 明年の春には、法制審議会から成人年齢に関する答申が出され、その翌年の
5月には、投票年齢を「18歳以上」と定めた「国民投票法」が施行されるの
で、この「成人年齢」が「18歳」になるか、「20歳」になるか、大きな注
目を浴びると思う。「オルタ」でも、識者による論述をぜひお願いしたい。
                  (元日本青年団協議会本部役員)

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