【視点】「国際論潮紹介」2023年1月

新冷戦は過去の冷戦よりもさらに重大な危険

―軍事増強と対決よりもコミュニケーション拡大と対話を

 国際政治問題専門のメール通信「カウンター・パンチ」新年1月6日号が、「第二次冷戦は第一次よりもシリアス」と題する、米ジョンズホプキンス大学メルビン・グッドマン教授(行政学)の論文を掲載している。同大学は多くの外交官や国際関係専門家を輩出している名門校である。本紹介の副題は論文の趣旨を汲んで紹介者がつけたものである。              (初岡 昌一郎

【論文の要旨】
 アメリカ国民の3分の2以上は1970年以後に生まれており、第二次大戦後の戦後のベルリン封鎖危機やキューバ・ミサイル危機を憶えていないので、現在の冷戦に関心が薄い。だが、現在始まっている第二次冷戦ははるかに深刻で、危険なものだ。
 アメリカで急膨張している軍事は超党派の支持を受けており、メディアも巨額に上るのに驚いてはいるが、根本的な疑問を投げかけていない。8,580億ドルにのぼる国防省予算とは別に、3000億ドル以上の軍事関係費が異なる省庁の予算に計上されているのも問題化していない。それは諜報・公安関係、核技術開発、情報処理、広報などの名目で計上されている。軍事費に含まれていない海上警備は世界第7位の海軍力を保持しており、さらに質量両面で拡充中である。

 アメリカと同盟関係にある欧州やアジアの諸国も歩調を合わせて軍備を拡大しているが、これらの諸国はアメリカの軍事費分担増額も行っている。さらに、NATO加盟31か国はロシア封じ込めを目的にいずれも軍事援助を増大させている。特に、中国を意識する日本、韓国は台湾海峡危機を名目に軍事費の巨大化を進めている。
 アメリカは世界最大の武器輸出国で、その他の国の兵器輸出総額合計を上回る金額になっている。アメリカ兵器最大のバイヤーであるサウジアラビア一国の軍事支出はいまやロシアのそれに匹敵する。アメリカの軍事支出の最大項目は核兵器の現代化である。その重点は、核兵器禁止条約の対象外であ助小型戦術核兵器の開発にある。
 アメリカは世界中に数百の軍事施設を配置しているが、中国はアフリカに1か所、ロシアはシリアに2か所持っているにすぎない。ロシアと中国の軍事力のほとんどが国内防衛向けである。なぜアメリカはかくも多数の軍事基地を世界中に保持していなければならないのか。その理由を議会は真剣に検討してもらいたい。
 旧冷戦中には、キューバ危機のような米ソ直接対決を回避するために、米ソ首脳間にホットラインを開設し、直接的コミュニケーションのパイプを開設、維持することに重点が置かれた。現在は、直接対話が著しく少なくなっている。我々の同盟国も、以前はそれぞれの直接対話のチャンネルを持ち、対話を継続していた。現在は同盟国もほとんどが対話を放棄している。

 アメリカはロシアと中国の両方を同時に国際的に孤立させる政策をとっているが、これが両国を以前に見られなかったほど密接に接近させた。台湾をめぐる競争が台湾海峡での衝突の危険を激化させ、ウクライナ戦争が黒海での衝突のリスクを増大させている。アメリカはウクライナ戦争に直接参加していないといっているが、提供している兵器が多数のロシア人兵士を殺傷しているので、相手は額面通り主張を受け取らなくなる。
 中東とアジアでも緊張が高まっている。バイデン政権はイランとの従来の核合意に立ち返るべきだ。再交渉を主張すれば、イランは当然それを拒否する。イスラエルは大変危険な右翼政権を最近成立させたのに、ペンタゴンはこれを「中核的な戦略上のパートナー」とみなしている。その反面、バイデン政権はサウジアラビアと手を結び、40億ドルの兵器売却交渉をまとめた。シリアとレバノンは無政府化しており、地域の不安定がますます広がっている。
 軍事増強よりも対話による紛争解決と安定を目指す時だ。
(国際関係研究者)

(2023.1.20)
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