【オルタのこだま】

日本にカジノはいらない

稲村 公望
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 一昨年の中間選挙のさなかに、米国ネバダ州ラスベガスを訪れた際、露骨な売春の広告を目にした。ラスベガスでは売春が合法化されているから、宣伝車が徘徊するのである。カジノはたんなる賭博場ではない。カネ、カネ、カネ、そして人身売買の阿鼻叫喚の巷・修羅場でもある。日本でも2014年、人材派遣業の関係者による現職閣僚をも巻き込んだ薬物中毒・色仕掛け接待事件があったが、この人材派遣業関連事件の度が過ぎた形がラスベガスにある。

 ラスベガスの一部が移った一党独裁の大帝国に返還された、マカオのカジノにあるホテルの最上階の部屋がどうなっているのか。日本にカジノを主張する方々は国民にちゃんと説明しているのだろうか。漢字で書くと「魔窟」になっているのではないか。筆者は、その昔、共産国と称したポーランドの崩壊直後に、首都ワルシャワのインターコンチネンタルホテルのカジノで、共産主義の徹底した不平等と腐敗の光景を見たことがあった。広場の大通りにある昔は名門飯店の一部が下卑たキンキラキンに改装されて、特権幹部の社交大夜会総会(キャバレー)になり果てて、往訪する日本の議員がご接待される場所となっていたことも承知している。

 東南アジアの首都には、「金魚鉢」と称する品定めのできる特殊浴場が繁栄している。筆者の政治学の恩師に、貧富の格差の典型を見せて欲しいと所望されたので、そのひとつに案内したら、ガラスの鉢のまばゆさを確かめられただけで、足を踏み入れることはなかった。

 2005年、拝金の若造の成り上がり者が、衆院選広島6区に立候補して、カネで愛情も買えると豪語して、亀井静香候補を蹴落とそうとした政治事件が発生したこともあったが、これは最近の新自由主義の「流行の半纏(はやりのはんてん)」の話だ。選挙戦の最中、その若造が天皇制に言及し、日本の国家体制について「大統領制か共和制の方がいい」と発言したと、夕刊紙にすっぱ抜かれたことがあった。この記事が選挙区で配布されて、選挙演説会に集まった選挙民が「君が代」斉唱という意思表明を示すというハプニングがあった。若造の不規則発言は、格差を固定しようとする人材派遣業の横暴と薬物中毒事件にも底流でつながっているに違いない。拝金・カネ万能の異形の国際謀略が背景に見え隠れする。

 カジノに名を借りた人身売買と売春の復活を許してはならない。現代版の吉原も、五番町夕霧樓もいらない。昔は、国内での地域格差による人身売買であったが、現代は、国際的な広がりをもった人身売買になることは間違いないから、日本がアジアを含め世界の拝金の強者に与して、被害者ならぬ加害者になる可能性は高い。

 シンガポールでも、建国の父リー・クアンユーが逝去すると直ぐに、堰を切ったようにカジノが解禁された。シンガポールは単なるマネー洗浄の都市国家になったのであろうか。マレーシアでは、ゲンティンハイランドの山頂にカジノがある。イスラム教徒のブミプトラ(土地の子・マレー人)の出入りするところではないから、ソドムとゴモラのような頽廃にイスラムの規律がタガをはめている。

 韓国では、ギャンブルの街・ウォーカーヒルがあり、釜山にも済州島にもカジノがあり、外国から飛行機で乗り込む客がひきもきらないから、綺麗事でパチンコの射幸心を規制しても焼け石に水になっている。まだ、中国人観光客が爆買いで外国でカネを使うことなど可愛げがあり、日本にカジノを作らせて酒池肉林の放蕩を期待するのであれば、日本国家と国民からの強烈な反発を招くだけだろう。

 ちなみに、ラスベガスとは、沼という意味である。花のお江戸はもとより、万民の国大日本でカジノという底なしの沼はそもそも不適格であり、要らない。

 (中央大学大学院客員教授・元日本郵便副会長)

※この記事は月刊日本社の許諾を得て『月刊日本』2016年12月号より転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。


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