■【東アジア連帯】

日韓社会企業セミナー                柏井 宏之

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  日本のNPO法人共同連と社団法人韓国障碍友権益研究所は、「第2回日韓社会的
企業セミナー」を11月20日~24日、大阪と東京で開催した。これにはNPO共生型
経済推進フォーラムと東京実行委員会が主催に加わり、共催には近畿労金地域共
生推進室、大阪市立大学都市研究プラザ、京都大学GCOE親密圏と公共圏の再編成
をめざすアジア拠点、財団法人大竹財団が協賛した。

 昨年ソウルでの第1回セミナーは、前日に在野の社会的経済連帯会議が歓迎セ
ミナーを開いたが、大阪の全体会議には韓国と中国延吉市の市民を含む60人が駆
けつけ日本の法制化運動のスタートを激励した。


■大阪セミナーに韓国・中国から60名が参加


  1日目は20日、大阪市大の学術情報総合センター10階ホールで開催され、基調
報告は 日本側は斎藤縣三さん(共同連事務局長、共生型経済推進フォーラム)
が日韓社会的企業セミナーの開催経緯、第2回セミナーのねらいについて報告の
あと、我が国における社会的事業所推進法の法制化を提起した。

 韓国側はキム・チョンヨルさん(韓国障碍友権益問題研究所長)が韓国の社会
的企業の概念、社会的企業の定義、韓国の社会的企業の現況の報告の後、率直に
社会的企業支援育成法はできたが、持続的に成長するための土台を備えていない
ので、相当数の社会的企業が苦労している現状に対する政策提言を行った。

 中国からの参加もあり、中国延吉市肢体障害者協会会長のイ・チュンジャさん
が挨拶した。全体報告として福原宏幸さん(大阪市大教授)が、日本におけるワ
ーキングプアと就職困難者の特徴と労働市場構造における位置を明らかにし、雇
用セーフティーネットや就労支援の必要性を官が差配する「中間労働市場」に切
り込んで就職困難者の支援を労働統合型社会的企業と公的セクターとの連携が極
めて重要であると指摘した。

 大阪で取り組まれている基礎自治体の就労支援事業の枠組みや労働統合型社会
的企業の活動事例を紹介した。
 
  韓国からチャン・ウォンボン(聖公会大学校 社会的企業研究所研究教授)が
韓国の社会的企業制度化の背景や歴史を辿ったのち、韓国での社会的企業の認証
条件、支援内容、支援政策の現状と評価の説明があった。依然として、社会的企
業には多様な認識が存在しているため、社会的企業が普遍化していないが、社会
的企業の原理(社会的目的、社会的所有、社会的資本)と特性(複合目的、複合
利害関係者、複合支援)が持つインセンティブ構造の理念型を説明し、それらが
現実にどのように作動しているのかを考察した。
 
  複合経済として社会的企業の課題と展望を「社会的企業の価値は、主流経済に
影響を与え、経済に対する社会の力量を強化するよい手段である」と結ばれた。
 
  2日目は21日、大阪市大の4会場で分科会がもたれた。第1分科会では「障害者
の労働参加」が議論された。キム・チョンヨルさんが「競争ではなく協調してい
く社会」の重要性が提案され、社会的企業育成法の3年目の課題と今後の展望に
ついて現時点的報告があった。
 
  エルチャレンジの丸尾亮好さんが総合評価入札制度を取り入れ、知的障害者の
就労訓練を実施するかたわら、メンテナンス業界における雇用を格段に進展させ
かつ、自由競争に名を借りた破壊的な価格競争に一定の歯止めをかけたこと、
大阪の先進性の普遍化の必要性を参加者は共有した。白杉滋朗さん(共同連ねっ
こ共働作業所)から共同連がこの間提案してきた社会的事業所制度が有効である
点を強調した。

 第2分科会では日本の「社会的事業所の法制化」をテーマにして、イ・ウネ(SE
EDS)さん、チャン・ウォンボンさん、斎藤縣三さんが発言した。イ・ウネさんは
社会的企業育成法の認証制度が社会的企業にとって参入しづらい点や今後は、政
府主導でつくられた制度を市民側のものにし、地域の課題解決のために市民と政
府が共に考えていくことが必要と述べられた。
 
  斎藤縣三さんは、社会的事業所促進法案の理念やしくみを報告。社会的排除を
受けている人が働く労働統合型であること、仕事の支援を制度の要とすること、
法人格を新たにつくらず事業内容で認証する、といった3つのポイントに絞って
紹介された。

 チャン・ウォンボンさんは社会的企業育成法の必要性、認証と登録制の違い、
支援政策の向かうべき方向性、韓国の社会的企業がどのようにうまくやっていく
か、この4点について報告された。韓国政府がSROI(社会的投資収益率)方
式で社会的企業を評価していることについて触れ、社会的企業が財政支援を受け
るためには、社会的企業が地域の問題をどう解決できるのかを明らかにしなけれ
ばならないと指摘した。

 第3分科会では「社会的排除をなくす様々な取り組み」が豊能労働支援センタ
ーの新居良さんが箕面の障害者事業所の取り組み、釜ヶ崎支援機構の山田實さん
が戦後から現在に至るまでの釜ヶ崎の反失業の取組みを紹介した。前社会投資支
援財団事務局長のムン・ボギョンさんが社会的企業育成法の法律の成立までの支
援活動と現在の課題について報告した。
 
  韓国の参加者より箕面の独自の制度、「障害者事業所」助成金を受け、事業で
稼いだ収益と合わせて、最低賃金を保障する取り組みに共感しつつ、「健全者が
共に働くことがなぜ継続できるのか?韓国の政府の支援は簡単に切られることが
ある。

 今後制度を打ち切られ財政的にまかなっていくにはどうしたらいいと思うか」
などの質問が出た。
 
  ムン・ボギョンさんの報告では2006年、社会的企業育成法(支援期間:5年+
2年で最長7年(労働部が承認した団体))制定に向け準備している中で社会的
統合をどうするのか?という課題が見えてきた。また、「社会的企業」という取
り組みの経験があまりない中、法制化は時期が早いのではないかという声もあが
っていた。

 問題視された点が7つほどあった。
①法人が適用される法律であり、商業や民間の団体はどう適用されるのか?
②登録制と認証制を区分してくことについて。
③社会的企業を支援していく仕組みについて。
④労働統合型の社会的企業を求めていく。(労働部は現在受け入れられている)
⑤基金の設置
⑥⑤で集まってきたお金をベンチャー企業に流れるのを防いでいくこと。
⑦統合的な管理について。また、加えて会員制で40歳~50歳女性の低学歴の方へ
の仕事作り。労働部は労働力とみとめてこなかったが、新たな取り組みとして労
働統合型のモデルとなっていると。
 
  この報告に対して、山田さん、新居さんから意見が出された。ビジネス型でも
いいが、社会的ミッションを持っている組織は労働統合型は現時点で共同連が提
唱している社会的事業所としての取り組みであり、既存のサービス提供型には当
てはまらないので経済自立していくための取り組みを考えるよりも、社会に声を
上げ続け、粘りつよく活動してくことがいわれた。

 第4分科会は「社会的排除をなくす支援のあり方」をめぐって行われた。社会
的企業育成法の基本的な内容を理解するため、イム・スチョルさんに説明いただ
く形で始まった。 

 そのなかで、制度的整備は整っているものの、自治体の意識差による地域偏
差、また経営支援・ビジネス的な専門性を発揮しての支援、優先購買条項の実施
推進、認証手続きの改善、適切な評価基準の開発など、国レベル、地方政府レベ
ル、さらには社会的企業自身、それを支援する企業を含めた地域社会など、社会
的企業を活性化させていくための、各レベル(セクター)で「支援のための課
題」が山積していることが報告された。

 大阪希望館の沖野充彦さんから大阪希望館の開設に至る経緯、また労組や各宗
教団体、社会福祉団体、社会運動団体、学識者から成る「大阪希望館運営協議
会」と、さらに行政・市民・地域からの協力を含めた全体的な「支援の仕組み」
について報告された。印象的だったのは、「まちや地域を社会資源と位置づけ、
市民のちからでセーフティーネットをつくる」という基本的な姿勢が印象的だった。

 近畿ろうきんの法橋聡さんから「社会的企業を支える金融」について事業型
NPOなどの社会的事業所への社会的金融は、ろうきんを除けば一部の信用金庫、
信用組合で扱っているだけなのが日本の現状だが、韓国には労働金庫のような金
融機関がないためか、韓国からの参加者が大いに興味を示されたことが印象的で
あった。


■東京は国会、都庁など4企画


  東京では、11月22日から4企画が行われた。韓国側の日本の自律的社会事業の
事例を見るため、企業組合あうんを中心に「荒川フィールドワーク」が行われた。

 中村光男さんの案内、通訳に若畑省二代表理事で日本の困難な就労現場を理解
する上で野宿・ホームレス・生活保護を理解するだけでなく、特にこの地域の江
戸時代と明治以降の歴史貫通的な"貴あれば賎あり"の地域として、在日の人も多
い日本的格差社会のありようの説明があった。
 
  都庁では「自治体から排除をなくし就労作りの条例を~地域社会に育ちつつあ
る社会的包摂の事業的取り組みと行政との協同を議論する~」として開かれた。
司会は大西由紀子(東京・生活者ネットワーク前都議会議員)さん。「社会的企
業育成法制定以後の変化を現状について」イ・ウネさん(SEEDS常任理事、前ハ
ルケコルム事務局長)が報告した。

 1997年の外貨危機から韓国の実質失業率は世界的にも深刻な状況となり格差社
会は広がり、さらに女性の経済活動の進出で、少子化、高齢化が進み、家族崩壊
への不安から代案的社会サービス提供モデルとして社会的企業育成法の必要性が
官と民両方から提起されたこと。

 危機的状況にある地域社会の雇用創出と生活問題の解決のために制度化された
という。社会的企業が自立した事業をできるようになるまでの一時的な財政支援
は「政府主導型」と特徴付けられているが、新しい働き口の創出と言う政策目標
においては短期間で社会的企業の量的規模の拡大を進めることができた。

 そして新設する社会的企業にとっても有効的な方法だったが、財政支援の期間
が終了する今後の支援については社会的企業の改定となる具体的な継続支援と社
会的企業の今後のあり方についての連帯の必要性があると強調された。
 
  次いで「社会的企業活性化のための国と自治体の支援内容」についてチャン・
トンヨルさん(共に働く財団社会的企業支援チーム長)が財団で中間的支援をす
る立場で社会的企業育成法の説明をした。

 社会的企業育成法の主たる目的は脆弱階層の雇用創出と社会サービスを拡充す
ることであり、労働を通して社会に参加すること。育成のためには、社会的企業
の特殊性に考慮した支援体系の構築、経営力の強化、持続可能性の向上、新たな
社会的企業の創出、をあげた。

 社会的企業認証制度により、認証された団体は現在406団体あり、社会的企業
の広がりによって市民社会に役に立っていることが具体的に紹介された。2007年
法制定から期間を決めていた人件費支援が2010年度に縮小後、それぞれの自立の
方法は今後の課題となっている、と話された。

 「総合評価制度と公的調達でつくる自治体にソーシャル・ファームを」の報告
を富田一幸さん(㈱ナイス代表取締役)が行った。大阪知的障害者雇用促進建物
サービス事業協同組合、愛称エルチャレンジの理事長でもある立場から「入札制
度に挑んだ障害者雇用」をテーマに報告。施設にコストをかけるより、労働市場
の中に施設のいらない就労システムを創った。「最初の給料で家族を甲子園に」
という呼びかけで働く意欲を引き出すようにした。

 働く意欲は訓練では産まれない。10年間で1300人の障害者の就労支援生を受け
入れ350人を雇用させる実績を作った。大阪府の総合評価入札は「価格だけでは
なく、技術と公共性を考慮し、障害者や母子家庭の雇用を後押しする形になって
いる。また、法定雇用率を守らなければ罰則という考え方ではなく、事業のため
に競うという考え方をしたい。エルチャレンジのような「中間労働市場」や総合
評価入札が全国に広がれば就労支援が広がることになると強調して注目された。

 「排除にあう人や若者の仕事を現場の中で訓練する就労起こしの試み」を岡田
百合子さん(NPO法人ワーカーズ・コレクティブ協会)が行った。1982年に日
本で最初のワーカーズ・コレクティブができて以来、もともと「共に働く」こと
が前提にあり、多種多様な業種で組織的に柔軟な対応が可能だということもあ
り、もともと障害者とともに働くワーカーズ・コレクティブがあった。

 2003年にイタリアの社会的協同組合を知り興味を持ち、排除にあう人たちの働
き場であるB型の社会的協同組合をワーカーズ・コレクティブ全国会議のテーマ
とした。現在、NPO法人ワーカーズ・コレクティブ協会で障害者や無業の若者
の「共に働く」ための就労支援やコーディネート事業の他、実際の働き場、訓練
の場として「コミュニティキッチンぽらん」を運営していると報告した。
 
  11月23日は「排除にあう当事者の声と就労支援の仕組み」がオリンピックセン
ターで開かれた。

 午前は基調報告が日韓双方からおこなわれ、午後から実践者報告がキム・チョ
ンヨルさんから「障がい者労働統合型企業の現状」、チャン・トンヨルさんから
「社会的企業の具体例」、中村光男さん(企業組合あうん)から「野宿者の会か
らリサイクルを中心とした就労事業へのあゆみ」、山下和子さん(NPOわくわく
かん)から「障がい者就労の現場からの報告」が当事者の真摯な発言も入って行
われた。

 最後に研究者報告がチャン・ウォンボンさんから「韓国における社会的企業育
成の展望」、北島健一立教大学教授から「日本で労働統合型社会的就労をすすめ
るための基本的視点」が発表された。雨の中、案内から撤収までわくわくかんの
たくさんの人たちが担ってくれたのに感謝の感想も多かった。
 
  最終日の24日は、新設なった衆議員第1議員会館国際会議室で正午から2時間行
われた。
「国会議員と当事者、日韓研究者との意見交換-日韓の法制度についての課題を
クリアにするトーク」と題して司会は大河原雅子参議院議員でおこなわれた。発
題者はチャン・ウォンボン(聖公会大学校研究教授 韓国社会的経済研究会員)
イ・ウネ(SEEDS常任理事)、キム・チョンリョル(社団法人韓国障碍友権益
問題研究所所長)、花田昌宣(熊本学園大学教授、障害者労働研究会)、石毛え
い子(衆議員議員、民主党就労議連会長代行)、斎藤縣三(共同連事務局長、
わっぱの会)の各氏。

 国会議員の参加者は、辻恵(民主党国会対策委員会副委員長)、中川治(民主
党自立就労議連幹事長)、近藤昭一(衆・環境副大臣)石毛えい子(就労議連会
長代行)、大河原雅子、京野きみこ、道林誠一郎、阿部知子、辻本清美さんと10
名を越える議員秘書が参加した。
 
  政府機関参加者は、山内健生内閣府大臣官房審議官(大臣官房担当、経済社会
システム担当)、高橋朋也内閣府政策統括官(経済社会システム担当)、湯浅誠
内閣府本府参与のほか一般参加者が円卓テーブルを囲んだ。議員と内閣府の発言
は主催団体内で公開されているが、全体のテープ起こしをまって公表したい。

 当日は韓国への北朝鮮砲撃のあった翌日の国会が緊迫した日であったが、「社
会的排除」にあう就労困難者を労働統合型の日本版社会的企業=「社会的事業促
進法」の法制化をめぐって議論するスタートとなった点で意義深いものとなった。

 第2回日韓社会的企業セミナー東京実行委員会は12月4日、【まとめと今後】
の議論を行い、要旨次のように今回の企画を総括した。


■社会的排除をなくす当事者を主体とする就労促進法へのスタートとなった


・日本の福祉と労働行政のパラダイム転換の必要性についてのイメージを韓国報
告は衝撃的に与えた。この認識の共有は今回のセミナーの財産である。

・「新しい公共」論議に、社会的排除にあう人たちと地域、脆弱階層への生活・
就労支援の制度施策が必要不可欠なことを浮き彫りにした。

・政権与党がかかげた「生活が第一」、「コンクリートから人へ」のメインスト
リートに座るべき社会的企業の必要性を官が差配する「中間労働市場」に切り込
むことを明確にしえた。理論的には福原大阪市大教授報告が、実態的には中川治
就労議連幹事長のURのフスマ・障子の張替え、高速道路花壇や河川公園、国立病
院についての組み変えで実現させるとの決意として国会内で議論ができた。

・内閣府が率直に、社会的企業についての考えを開示、そのことによって、実務
的に当事者とその中間支援組織の市民社会組織との協力が今後に期待される。

・「自己責任」言説で包囲されている関東で、当事者の野宿者・障害者・ニート
・ワーカーズ・コレクティブやNPOなど小さな主体のネットワークをつなぐ実行
委員会を形成し、研究者や在日の<知>の協力を得て、困難な4企画が実現でき
た。

・オリンピックセンターでのフォーラムは、社会的排除にあう当事者組織のアイ
デンティティの差異性がみごとに示された。企業組合あうん、NPO法人わくわく
かん、ワーカーズ・コレクティブ、その自律的・自主的労働の社会的な存在の仕
方はさまざまで差異性を踏まえて背中合わせにネットワークしていく連帯力が育
った。その根源にあるものはアソシエーティブな個と共同の創造的な振動力であ
る。

・都庁フォーラムは、地域主権が国家主権に先駆けて社会的排除される人たちの
具体的な就労促進策を地域の市民・住民組織と協力して描くことの重要性を明る
みにだした。入札に総合評価制度で知的障害者など雇用率を高めた大阪の事例は
もっと大胆に普遍化される必要がある。

・韓国発表者と若手研究者が参加した荒川フィールドワークは、日本の困難な就
労現場を理解する上で効果的な企画となった。現代の野宿・ホームレス・生活保
護を理解するだけでなく、特にこの地域の江戸時代と明治以降の歴史貫通的な"
貴あれば賎あり"についての日本的格差社会のありようの説明は感動的だった。

*なおこの報告は共催団体のおおぜいの記録を筆者が要約したものである。(な
お韓国側、日本側発題者の内容は冊子2冊に収められている。
  ご希望の方は800円、送料別)
申込み連絡先:ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン(WNJ)
        〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6  
         TEL:03-3325-3720  FAX:03-3325-7955
          メール:wnj_office@wnj.gr.jp

              (筆者はNPO共生型経済推進フォーラム理事)

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