【オルタ広場の視点】

日韓関係を憂慮する

平良 知二


 日韓関係が険しくなっている。
 筆者の関係者が屋敷の補修工事をしている。その作業現場で一昨日(7月9日)、40歳代男性作業員が「韓国製品を買うな、とネットに流れている。スーパーなどの韓国製商品がチェックされていて、買わないよう呼び掛けている」と話してくれた。国際政治の問題に話が向くような場でもなかったのに、雑談が日韓のことに及んで少々びっくりした。

 韓国では、日本製品の不買運動が組織的に始まった、という。国民の間に、日本への反発が急速に高まり、市民レベルで日本製品ボイコットの声が大きくなっている。と同時に、日本国内でも、先の男性が言うように、ネットを通じて韓国への反発が出ているようだ。“反韓・嫌韓”の意図的キャンペーンかもしれないが、日韓の緊張が一般の人たちにも広がっている表れだ。対立の深まりが危惧される。

 慰安婦問題、自衛隊機へのレーダー照射事件、徴用工裁判などの懸案事項がくすぶっているなか、日本政府による韓国に対する半導体素材の輸出規制措置(優遇措置をはずす)が明らかになって、韓国による世界貿易機関(WHO)への提起・・・・・と事態はより深刻化している。韓国の文在寅大統領は非常事態とまで言い切っている。
 慰安婦問題での日韓合意による財団を、韓国側が一方的に解散し、徴用工問題では日韓請求権協定に基づく日本側の協議申し入れに無言を決め込む。韓国側の事情は乏しい情報でしか知らないものの、この間の事態は日本政府が怒るのも無理はない、と思わせる硬直化である。

 日本政府は協議申し入れを何回かしていた。
 韓国の文大統領は前政権時代に交わされた日本との合意にもともと批判的であったという。しかし、そうはいっても外交関係である。正面から日本に対応しなければならないと思うのだが、WTOへの問題提起で新局面を開けるのか、難しい状況とみられる。

 それにしても、韓国国民の反日感情の強さは普通ではない。先日、日本企業名の段ボール箱を5、6人の市民が足で踏みつける姿がテレビに出ていた。徴用工問題で沈黙を続けた文大統領がやっと「韓日両企業の出資による補償を」と打開策を発表したものの、日本政府はそれを即座に拒否。そして、今回の輸出規制措置である。韓国国民の反日感情は一気に燃え広がってしまった。テレビ画面は、その象徴であった。
 日本政府の拒否は、これまでの両国合意から見れば、それほど批判を浴びるようなものではないはずであったが、韓国側には有無を言わせない姿と映ったのだろう。一歩引いて打開の糸口にすべき道もあったのではなかったか。

 この有無を言わせない姿は、両国の“負の歴史”を振り返ると、韓国国民の意識の底に“日本の姿”として潜んでいて、反発を呼び覚ます要因になっている、と思われる。

 多くの日本人には、例えば李氏朝鮮の国母とうたわれた閔妃(ミンピ)暗殺事件は関心の外だろう。しかし、韓国国民にとっては、日本人による許しがたい暴挙として心に刻まれているはずだ。1895(明治28)年、日本軍・警察がソウルの朝鮮王宮に押し入り、王妃である閔妃を殺害した(他にも複数の官女を殺害)。有無を言わせぬ行動であった。しかも、のちに士官学校長、学習院長、枢密院顧問を務めた長州出身の公使三浦梧楼が、この事件に深く関与していたのだ。当時の複雑な政治事情が絡んでいるとはいえ、日本ならば皇居に外国(軍)人乱入し皇族を殺めるような大事件である。
 国民の無念、怨念が民族の血に沈み込まないはずがない。
 その後の日韓併合、その前の豊臣秀吉による朝鮮出兵(壬辰・丁酉の倭乱)はよく知られてはいるが、日韓関係の歴史を見る彼我の目に大きな差異がないかどうか。

 険しくなっている両国の関係を和らげるためにも、一度は相手の場に降りて事態を見ることも必要だろう。幸いにこの夏、日本人が行きたい外国の第1位は韓国、というニュースがあった。市民レベルの継続的な交流が互いを理解する太い絆となれば、と願う。

 (元沖縄タイムス記者)

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