日中間の不理解に挑む:(1)

春節報道に思う

李 妍焱

 1月31日は、中国では旧暦のお正月。「春節」と呼ばれるこの日。春が近づいてくるよと人々に知らせ、喜びをもたらす日でもある。

 春節について日本のメディアが報道するのは、国民大移動と、大気汚染。大移動に関しては、豪勢に海外旅行を楽しむ層と、帰省する余裕のない出稼ぎ労働者がそれぞれ報じられた。大気汚染については、爆竹と花火に関する自粛要請の話。春節の話題ならもっとおもしろい視点の報道があってもいいと思うが、例によってワンパターン。

 中国国内では、たとえば大学生がヒッチハイクで11日間かけて帰省する話が報道されている。お金の節約もそうだが、身をもって社会の義理と人情を体験しようとする若者の初々しさと勇ましさが刺激的だった。春節前に行われたある実験も話題を呼んだ。新浪ネットの記事によれば、突然親に電話をし、「愛しているよ」と子供たちが伝える実験を行ったという。親たちの反応がさまざまで、すっかり取り乱して「おまえ、妊娠したのか」と娘に問い詰める親も。「ストレートな言葉による愛情表現は我が国民になじみがなく、愛情表現まで西洋化するのはおかしいのでは?」とネット上で議論を呼んだという。いまの中国社会を理解する上では、大気汚染よりずっとおもしろい話題だと思う。

 中国の反発必至と分かっていながら刺激するような言動を政治家が繰り返し、それに対する中国の反発ぶりを報道すれば、当然日本国内で中国に対する反感が増幅する。直接関係のない話題、たとえば春節の話題でも、格差や混雑、大気汚染など、マイナスイメージにつながる報道をすれば、「政治的に」だけではなく、日常的にも「嫌な感じ」の国という烙印が押されるようになる。そうやってしっかりと中国を対立面に据え付けることによって、対抗の必要性を人々の意識に植え付け、本来人気のない、賛同が得られないような政治的方向に、特定の政治家もしくは政党が誘導しようとしている。今のところ、それが大成功しているように見える。

 日中間の問題は、日中間の問題ではなく、本来は日本のなかの問題だったのかもしれない。「普通の国になる」と願う勢力が、見事に中国を利用して、自らの政治的野心を実現する推進力を、手に入れてしまったのかもしれない。

 (筆者は駒澤大学教授・日中市民社会<CSネット>ネットワーク代表)

※この記事はCSネットマガジンから許諾を得て転載したものです。


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