暴力と政治の結びつきに警戒が必要

前島 巖


・不満のはけ口としての排外主義と暴力

 ドイツはナチスによる反ユダヤ主義やホロコーストへの反省のもとに、民主主義を否定する思想には思想の自由を認めないと憲法で定めている。またナチスを正当化する言動やナチス用語の使用、「かぎ十字」などのナチスマークの使用、ナチス式挨拶なども法律で禁止している。

 それでもヘイトスピーチや排外主義がドイツで全く無くなったわけではない。
先月(10月)26日にケルン市で「外国人は出て行け!」「トルコ人は出て行け!」などと叫び、警官隊や商店への投石、破壊などの暴力行為を行った約4,000名のフーリガンのデモがあった。警官44名が負傷し、20名余が逮捕された。

 このデモはもともとアルカイダと結びつきのあるイスラム過激主義者グループ「サラフィスト」に反対するフーリガンのデモとされており、せいぜい1,500名くらいが参加するだろうと予測されていたが、しかしフーリガンたちはフェイスブックなどのSNS(ソーシャルネットワーク)を使って広範囲の若者に呼びかけを行い、予想をはるかに超える4,000名ものデモとなり、大混乱になった。

 このデモには実は暴力的サッカーファンであるフーリガンだけではなく、NPD(ドイツ国家民主党)などのネオ・ナチ組織の人間が多く参加していたことが確認されている。フーリガンとネオ・ナチグループとは背後でつながっているとの懸念が強まっている。

 ドイツでは近年トルコ系住民(ドイツに約400万名在住)や、外国からの避難民に対する排外主義的なデモ、いやがらせ、暴力、さらには殺人事件さえもしばしば起きているが、そうした事件の背景には、若者たちの失業、貧困、格差拡大などへの不満があると言われている。そうした不満のはけ口として特定な人々へのヘイトスピーチやデモ、いやがらせ、暴力が行われるようになった。

 実はこうした暴力的な排外主義はドイツに限らず、英国をはじめヨーロッパ全体に広まっているのが現状である。しかし特にドイツでは社会的不満を背景にした暴徒と、排外主義的な政治的過激主義との結合がナチスの初期と同じような兆候だとして、極めて危険との懸念が強まっており、ネオ・ナチへの一層厳しい対処が論議されている。

・暴力と政治的排外主義が結びつく芽を早期に摘む必要がある

 暴力と政治的排外主義の危険な結合を放置すればナチス時代と同じような取り返しのつかないことが起こる。そうした危険な結びつきの芽は早期に摘み取る必要がある。
 ドイツではそれゆえに例えばNPDの非合法化など、ネオ・ナチに対する一層厳しい対策が検討されているが、社会政策の面でも、失業、貧困、格差拡大などの問題に一層きめ細かく対応する必要性が叫ばれている。社会政策が不満のはけ口としての暴力行為を抑える鍵であるとも言われている。

 また、ソーシャルメディア対策も必要との意見も出ている。排外主義的なデモではフェイスブックなどのSNSが利用され、参加者動員の手段とされているので、その方面の有効な対策も必要だとの意見も出ている。しかしどうするか具体的な方法はまだ議論されていない。
 日本とドイツの事情は異なる面もあるが、同じ側面もある。
不満のはけ口としてのヘイトスピーチやデモが暴力化し、さらにそれが政治的排外主義と結びつくことには強い警戒が必要である。そうした動きは早期に芽を摘む必要がある。 2014・11・16

 (東海大学名誉教授)


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