【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(72)

最近のインド人の結婚事情

坪野 和子

 連休中いかがお過ごしだったのでしょうか。私は4月25日と5月2日に訪日していたインド人の教育コーディネーターさんやインドITの方々とお会いして、とても充実できました。「春のITウィーク」では目の前でAIをサクサクに使っているところを見せていただき(いや見せられたか?)コロナ禍以降、テクノロジーがいかに進化したのか、強く実感することとなった。また宿泊先の東京のインド人街周辺教育コーディネーターさんをお連れして散策したとき、初対面の人でもすぐにご縁ができたり、新しくできたアート専門学校に興味を持っていたり、なんでもない光景が外国人目線で新鮮に映ったりとほんの数時間でたくさんのことを得た。

 数日前、日本語学校を卒業した男の子から連絡があった。進学に失敗し、インドに帰国し、日本に戻るべく勉強しなおしたい。とのことだった。進学に失敗したのは、まずは日本で1年半勉強していたにもかかわらず、言葉がわかっていても、内と外の関係とか上と下の関係といった場面で使い分けできない言語文化が理解できていなかったことにあるのではないか?それともうひとつ、現地の日本語学校と日本の日本語学校が送ればいい・送ってもらえばいいといったコロナ禍2年目の事情や日本の学校は中退した学生に罰金を要求して問題になったので進学斡旋も難しかったのではないか。まだ若いのでN2合格させて大学に入れてあげたい。
 
 さて、今回はインド人の最近の結婚事情

 ◆インド人の結婚事情 富豪の披露宴
 ここは裏話ではない。昨年12月、インド人財閥アンバニ家の息子さんが結婚式を挙げ、世界のメディアがこぞって映像を中継していた。現地メディアのなかにはずっとライブで放映していた(新郎の親がスポンサーなのだろうが)披露宴ではボリウッド映画スター勢揃いのパフォーマンス、インド出身アメリカITの大物GoogleやマイクロソフトのCEOたちや各国のセレブ挙式出席。
画像の説明 
 https://www.youtube.com/watch?v=FctHuZSKR4k&t=47s 披露宴の様子
 これは長すぎるので、早送りしてご高覧いただければと思う。この披露宴と挙式による経済効果がものすごかったようだ。では、庶民はというと、新郎新婦の実家が近隣だったりすれば問題ではないが、それでも短くて4日間。新郎新婦の実家が遠いと旅行期間も含めた披露宴となる。インドは広い。いや最近はインド系同士の国際結婚もあってそんなもんじゃなくなってきた。

 ◆今でも見合い結婚が主流だが
 私の学習者はインド人にしては恋愛結婚率が高い。特に大学・大学院の同窓生や職場恋愛といったケースが多い。とはいえ、見合い結婚がやはり主流だ。ただし、最近の事情では見合い前にインターネットで電話したりビデオ電話で話したりして実はコッソリ知り合っているということも多い。いきなり会ってすぐ結婚ではないことが多い。さらに言えば同じお寺で供養に参加したりなど、結婚前の形式は見合いでもそう言い切れないところもある。まったく知らない同士でいきなり見合いするようなことは少なくなっているようだ。また今時の写真はいくらでも加工できるので、見合い前にビデオ電話で確認することも普通のようだ。本人たちは内緒にしているが、親たちも知っているが知らないフリをしている。出会いのキッカケが紹介で、しかもお酒はなくても合コンのような伝統行事もあり、親戚一同を納得させるためにはもっとも良い形式だ。

 ◆恋愛結婚のパターン
 まず、同窓生の場合。日本とよく似ている。いくつかの中レベル日本語テキストで男子学生が女子学生に「ノートを1日貸してほしい」と言われるシーンがあったりする。女性の学習者は笑い出す。独身時代に旦那さんに言われて何度もノートを貸した経験があるからだ。或いは理系なので同じ研究室の先輩・後輩がチームで取り組むことがある。先輩が女性ということも少なくなく、大抵旦那さんはイケメンだと思う。或いは副専攻の日本語クラスで知り合ったケースもある。また同じ科目で知り合ったのか、奥さん医学部、旦那さん工学部という組み合わせも少なくない。インドの医学部は女子を積極的に入れているのではないかと感じる。インドで下痢でもして診療所に駆け込むと女医さんが座っていることが多い。女性の場合、医師だけでなく、理学療法士・心理療法士も多い。そうして結ばれて旦那さんがITで日本に転勤してきて、日本語の問題で英語でも大丈夫な研究所で働く、専業主婦で家庭にいるなど、さまざまだ。
 職場結婚の場合、彼氏(旦那さん)が日本に転勤することにより遠距離恋愛となって、あまり意識していなかったお互いが真剣に結婚を考えるようになったというケースがある。
 恋愛結婚の場合、二人で盛り上がって…という訳にいかない。双方の親戚一同が賛成しなければならないからだ。

 ◆恋愛から結婚に至るまで

 まず、親・同居家族に紹介。紹介のために実家に同居していない家族が全員集合することが多い。大抵、祖父母・曾祖父母のどちらかも同居している3世代4世代の家に訪問するのだ。そして、親族の家を訪問。これもまた大変で、言語が異なるカップルだと、大抵は英語かヒンディ語で話しているが親族に通じないこともある。通訳しながら家族交流をして全員の賛成を得る。揃ってお寺へ。結婚の時期を占星術で大体決める。大体というのは、いくつか候補の日程を挙げて、それに沿って披露宴・挙式となる。挙式までゆうに二年はかかる。式は両家の故郷でそれぞれ数日間かかる。移動の旅行期間も長い。そこから解放されて?新婚旅行に行く。日本在住だと日本に戻って観光することが多い。また現地や他国在住で日本に来ることもある「花がロマンティックなおすすめはありますか?」と訊かれるが季節でおすすめが異なるので表を作っておこうと思っても忙しくてできない。

 ◆花嫁は結婚式の時だけ美しい??

 これは世界的にほぼ同じだろうと思っていた。形式的な略奪婚で泣いている姿も含めてだ。しかし、女性本人が「インド人の花嫁は日本よりも派手に元の顔やスタイルがわからないくらいメイクや着付けをされるからねえ、私の時も」と言ったので本人がそう思うのだからそうなのだろう。中国人(漢民族)も結婚メイク・衣装は本人とわからないくらいコテコテに飾られる。

 ◆結婚年齢は?
 「男は大体30歳前」と言われた。みなさん自分のことで答えているようだが、学歴を考えて、見合い・恋愛の期間から思うとそのくらいだろうと思う。女性も見合いであっても学歴のつり合いも加味されての紹介だから昔ほど早くなさそうだ。ほぼほぼ世界的に晩婚化傾向にあるのだろうと思う。

 ◆悪名高い児童婚は幼馴染婚の場合もある
 インドは世界で一番児童婚が多いとされている。ただし法律上は男女とも18歳を超えないと正式な結婚ができない。報道では人身売買のような児童婚もあるようだが私の周囲はそれほどでもないように思う。地域・学歴格差かもしれない。富裕層ではないので。親同士の仲が良くてお互いの子どもと結婚させる約束をして小学生でも婚約者がいて同級生だったりすることもある。少数民族は「僕は子どもの頃に決められた人がいる」と言った人が多かった。で、さらに小学生同士で婚約をさせている訳ではないが女の子が男の子を気に入っていることが親同士わかったら、自然にそう仕向けて他の子とあちこちするようなことがないようにしているように感じる。インド人ではないが、ブータン国王もこのパターンだ。現王妃が幼い頃から積極的だった。国・民族関係なく女の子のほうがおませちゃんだから。

 ◇インド映画を観ても女性のほうが積極的にサインを送って男性がサインを送るのを待ってそのまま男性が行動に出るというシーンがインド映画でよく見られるパターンだ。しかし男子が積極的でノートの貸し借りも何回か観たことがある(これは女子から平手打ちを食らったというコメディも含むが)でも、日本の漫画やアニメでも同じようなものがある。昨今のインドでは、いままで我々外国人からイメージされていたインド人の結婚が変わったのか、本来今のようなものなのか、貧しい人たちや下層(いわゆるカースト問題)の人たちのことしか目がいかなかった偏見なのか、それとも以前より離婚しやすい環境になったからなのか?私の学習者やIT関係者などの周囲からの話しからではわからない。貧しいことばかり強調されていた国の人たちの実態が発展によってこの多様性に対するステレオタイプがなくなってきたら、私自身も含めてもっとわかるのではないかと。
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 インドの花嫁イメージ(私)AI作成

(2024.5.20)
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