【韓国レポート】

最近の韓国事情             梁 世 勲

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 最近の韓国事情を語るなら、先ず北朝鮮のミサイル発射と核実験、韓国初の女
性大統領朴槿惠政権の誕生である。それに新しい日本、中国の政権とアメリカ、
ロシアの政権誕生が朝鮮半島を巡る国際環境を如何に作り上げるかであろう。

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1.北朝鮮のミサイルと核

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(1)政権維持手段


北朝鮮は体制維持の為、核実験とミサイル発射をアメリカとの効果的交渉手段
であると信じているようである。3代目となる政権は一貫してアメリカに対し体
制を認めてくれるよう要請してきた。北朝鮮の戦略武器は体制維持の保障を求め
るための唯一の手段である。アメリカを含め国際社会が求めている国際社会の一
員としての責任とか開放、改革は、ライバルの韓国の経済、民主化に比べ、勝算
はともかくひょっとしたら体制崩壊に繋がる恐れがあるとして絶対に受け入れら
れないものである。

 したがって、北朝鮮は国際社会からのあらゆる非難、制裁を我慢しても戦略的、
戦術的武器開発を進め、核保有国家として認められ、国の安全を図る道しかない
と思う。

 金正恩は国連安全保障理事会決議案が採択された前後に、韓国に対し敵陣(韓
国)を草刈のように全滅させるとか、朝鮮戦争停戦協定の白紙化、核で韓国を
‘ブルバダ’(炎の海)にするなどの脅迫を継続する一方、南北衝突の接点であ
る延坪島対岸の北軍施設の視察を始め、挑発的言動を行っている。

 米国家情報局(DNI)ジェームス・クレッパー局長は3月12日、上院情報委
員会聴聞会で、‘北朝鮮の好戦的修辞は政治宣伝の性格はあるものの実際の意図
を反映するかは不明である’と言いながら、挑発の現実化の可能性を示唆した。
このような行動は、武力示威の強度を上げてアメリカを説得しようとする狙いが
あるのと同時に、国内的に政権争いを押さえ、政権の安定を図るという両面があ
ると指摘されている。

 金正恩は、内部葛藤が深刻な状態になるほど国内結束の為に挑発を敢行すると
予想される。

(2)金正日遺書


韓国に亡命した北朝鮮出身の李ユンゴル北朝鮮戦略情報サービスセンター(N
KSIS)代表は、元北朝鮮理学博士で、著書‘金正日遺書’の中にこう書いて
いる。一言で言えば、遺訓統治を強調しながら北朝鮮の生化学武器、核、ミサイ
ルは朝鮮半島の平和に必要なものだと主張。

 他に、次男金正恩を後継者に指名
 反対勢力は漏れなく処罰、除去すべき
 長男金政男は悪いやつではない、よく面倒をみること
 遺書は妹の金敬姫の夫の張成澤ではなく、妹金に直接送った
 遺書の作成時期は、2010年、金正日の健康一次ショックあたりに始め、2011年
の二次ショック直後と推定
 宗派主義を警戒し、対内的結束を図る
 (これは反対派、系派間葛藤があることを証明)
 原油発掘推進を必ず解決すべきと強調
 歴史上一番朝鮮をいじめた国は中国である

 遺書により後継者金正恩はミサイル、核を絶対に放棄出来ないことが伺える。

(3)挑発記録


金正恩の上記行動までの挑発の経緯を纏めてみる。

①韓国軍艦天安艦沈没攻撃と延坪島砲撃
②核実験3回、ミサイル発射数回
③国際社会に対する挑発
 ・2.19 ジュネーブ国連軍縮会議
  北代表:“韓国の変な行動は最終破壊(Final Destruction)を招くだけ”
  と脅迫。
  米英代表達:“国連加盟国に対する破壊可能性に言及した表現を絶対に容認
  出来ない”と強く非難。
 ・ミサイルの精度を高める為、弾頭模様を円筒型から三角型に変更。ミサイル
  2基を同時組立できるように工事。
 ・韓米軍事練習と国連安保理事会の北朝鮮制裁決議案を通す動きに備え、総合
  的軍事訓練展開と共に停戦協定の無効を宣言すると放送。
 ・実際に韓米軍事訓練キーリゾルブ作戦練習の開始前後に、停戦協定の無効と
  反撃軍事作戦の体制を整える。
 ・キーリゾルブ開始日11日から停戦協定効力全面白紙化宣言。
 ・国連決議通過後11日、南北不可侵合意の全面無効化宣言。
 ・金正恩は、軍砲台部隊等を連続視察し、軍の戦闘意識を促す。
 ・3月20日、韓国の放送局2ヶ所、銀行3ヶ所にサイバーテロを起した兆しが現
  れた。
 ・南との全面戦争状態宣言。米ロに対し、ミサイルはホワイトハウスと国防総
  省を狙うと言明。

(4)予想される挑発方法


北朝鮮は、核兵器使用とか全面戦争に突入すれば国の崩壊に繋がることを承知
していることから、特に核兵器使用は避けると判断される。アメリカは核弾道ミ
サイル発射能力を持つB52-戦略爆撃機による爆撃訓練を朝鮮半島上空で毎日行
っている。首脳部攻撃可能なステルス戦闘機飛行や、イージス艦および迎撃ミサ
イルを配置。

 これを避けた局地的挑発、即ち都心テロ、地下鉄、原子力発電所、政府庁舎、
産業施設等国家主要施設攻撃、サイバーテロ等を決行する可能性があることに注
目すべきである。

 また、1951年10月27日付米CIA報告書によると、北朝鮮は韓国軍捕虜達に対
しゲリラ訓練を施し、故郷に帰還させた。これは韓国内ゲリラ戦と親北朝鮮派の
種の一つとなった。
 アメリカとの直接交渉を目指す北朝鮮の出方を見る限り、世界の注目を集める
戦術武器の放棄とか中止を期待するのは現実的に無理。

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2.韓国朴政権の課題

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(1)‘韓半島信頼プロセス’


韓国の新しい朴政権は‘韓半島信頼プロセス’を通じて対北政策を実行しよう
と思っているが、当選直前の北朝鮮長距離ミサイル発射と第3次核実験が実行さ
れたことにより、発足時から困難となってしまった。

 韓半島信頼プロセスとは、対話と交流を通じ信頼を重ねていけばその信頼を基
に北朝鮮経済を支える様々な援助を行うことが出来るというもの。
 国連安保理事会決議により対北制裁は避けられない状態であり、必然的に南北
関係の冷却は暫く続くはずである。

 朴政権は出発点から壁にぶつかった。
 特にこの信頼プロセスにおいて、信頼という前提条件自体が実現し難いもので
あることは今までの南北関係で証明されている。言葉の正餐に過ぎない。

(2)国際協力


中国を仲介にした新しい南北関係の構築は、中国の影響力の限界を見せた今回
の北の核実験で根本的再検討を求められている。
 今までの6者会議は、10年間北朝鮮に時間稼ぎと代価を支払っただけであり、
また中国には外交の場を設けさせただけで、まったく効果の無い手段であること
が分かった。

 アメリカも、ブッシュ政権時代の強行的手段と対話を繰り返し、何らかの解決
の道を探ろうと試みたが、結局失敗に終わった。
 オバマ政権は第2期を迎え、何らかの糸口を探ろうと努力する中で、ケリー国
務長官は対話を優先する動きを見せている。

 一方、在韓米軍司令官シャーマン大将は、北朝鮮の停戦協定白紙化宣言に対し
‘停戦協定署名当事者が相互合意に違反する公式声明を発表したことに憂慮を表
明する’と異例な声明を発表した。声明は大韓民国を守る万全な態勢を保ってい
るとしながら米韓共同対応警告メッセージを付け加えた。

 中国も、外交部スポークスパーソン華春〓の3月6日のブリーフィングを通じ、
‘停戦協定は朝鮮半島の平和、安定に重要な役割を果たしてきた’と、協定白紙
化宣言に、明白な反対の意思を表明した。
 国連は今までの制裁決議案よりさらに強力な制裁措置を取る決議案を採択した。

 中国が過去の態度を変え、決議案賛成にまわったことは注目される。賛成だけ
ではなく、実際制裁に動く行動も見せている。李保東国連大使は記者団に対し、
安保理決議は北の核問題を解決する重要な一歩で全面的に実行すべきであると述
べた。中国政府は傘下機関全体に決議の厳格な執行を指示した。また、北朝鮮物
資の厳しい税関検査、関連銀行口座の確認に取り組んだ。中国の単独制裁の動き
も見せている。

 これは、中国の説得にも拘わらず北朝鮮が拒否したことに対する中国の強い不
満と屈辱感の表れである。

 このような展開にも拘わらず対話を求める声も出始めた。今までのパターンは、
‘危機向上に新しい対話’である。過去20年の経験がこれを証明している。
 アメリカのケリー国務長官の対話優先発言は上記の通りだが、グレン・デービ
ース対北政策特別代表は3月7日の上院外交委員会聴聞会で‘平和的方式による朝
鮮半島での検証可能な非核化の目的を達成する為には北朝鮮との意味ある対話と
開いた姿勢が必要だ’と米朝対話の意志を表明した。

 韓国の新しい統一部長官は3月6日、国会聴聞会で、‘今のような厳重な局面に
は実質的緊張緩和の方向に対話を模索しなければいけない’と言いながら‘朴新
政権の対北政策は対話の門を何時も開いておいている’と付け加えた。

 今までの6者会議や対話で解決したものは一つもない現状を見る限り、これか
ら新しい対話を開いても北朝鮮政策に巻き込まれ、過去の繰り返しにしかならな
い恐れがある。
 国連決議に基づく制裁はある程度効果はあるものの、北朝鮮の孤立した経済に
鑑みその効果には限界がある。

 残念ながら、幾ら国際社会の動きがあっても今日までの経緯を見る限り、また
独自的経済を維持して来た北朝鮮は結局自分の道を歩んでいくだけだと考えられ
る。北外交官達がいかに巧く偽造ドル(スーパーノート)を交換しているかは想
像を超える。

 元北朝鮮工作員は最近大量の麻薬を東ヨーロッパ駐在大使館等に送り、4月15
日の金日成誕生日前までに一人当たり30万ドルの忠誠資金を献金するよう指示し
たと証言している。年間3,000キロの麻薬で2億ドルを調達するという。

(3)韓国外交の均衡感覚


国際的協力を求める為に韓国外交が目指すところは均衡感覚にある。脱冷戦体
制の下で米中日ロの4大国の力を如何に利用するかが最も重要な課題になってき
た。
 ここで現大統領の父、朴正熙元大統領の教えを参考にすることが必要かも知れ
ない。それは次の3点。

1)同盟外交の再構築
  アメリカの対韓防衛維持の為に対米外交に主な力を注ぐと共に、重化学工業
  化に日本と密接な経済協力を進めアメリカからの支援減少を補充しようとし
  た。

2)自主外交、国防の基盤作りの為の国力強化
  ベトナムの共産化を目撃しながら、アメリカだけに依存することは危険と判
  断。経済、国防に自立性を向上する政策を取った。

3)韓国の外交的地平を拡大
  今まで北朝鮮を認めなかった政策から脱皮、‘二つのコリア’政策を取った。
  これは共産圏との外交に道を開くことになる。

 ここで娘の朴大統領は、米中G2時代に韓国迂回戦略を取る北朝鮮と対峙して
いる状況の中、韓国の国益をどう定めるか、それを実現する為強大国の力をどう
均衡的に利用するのか等が、新政府外交の当面の課題である。

 この外交の成功の是非は‘均衡感覚’にかかっている。日本の安倍政権の対応
に伴い状況は変わるかも知れないが、朴政権が均衡感覚を生かし日本と絡む歴史
問題を管理し、対北、対中政策の戦略的共通点をどう引き出すのかが注目される。

(4)韓国国内問題


1)国内世論分裂
今回の大統領選挙における各党候補者の得票状況は次の通り。これは国が二分
されたことを示し、結果に承服しない韓国人独特な性格により、この分裂が政治、
社会などにそのまま反映されていくと思われる。

   朴槿恵 (セヌリ党)    1577万3218票(51.55%)
   文在寅 (民主統合党)  1468万2632票(48.02%)

 2月25日大統領に就任して以来国会与野党の対立により、新政府はまだ完全に
発足出来ない状態である。

2)韓国内従北勢力
韓国内には北朝鮮政権を支持する国民が少なくとも5-10%存在し、それを代表
する統合革新党は6名の議員を国会に送ることが出来た。この政党はあらゆる党
内行事に国旗を揚げず、国歌を歌わない勢力である。この存在は北朝鮮の判断間
違いを招くと共に韓国社会を揺さぶる勢力になる恐れがある。

3)‘我が民族同士’と言う国民情緒
韓国は民族意識の高い国で、同じ民族のことを言われると直ぐ同情的になる人
が多い。
 北朝鮮は特に最近になって‘我が民族同士'を前面に出して、言わば記事、論
評、テレビ放送局、ユーチューブ、ツウィッターなどを通じ宣伝している。

 実は北朝鮮の言う‘民族’は‘韓民族'ではない。北朝鮮は2009-2012年憲法
と党規約を改正し、‘カンミンゾク'は‘金日成民族’を意味すると定め、北朝
鮮を‘金日成朝鮮’と名付けた。‘今日我がミンゾクは首領を始祖とする金日成
民族だ、現代我が国は首領が立てた金日成朝鮮だ’と主張している。

 これを知らない韓国民の情緒に訴え対北支援を引き出すつもりであり、排他的
民族主義感情を促して米韓の保守勢力に反対する統一戦線を構築しようとしてい
るのである。このような罠に落ちないよう気を付けるべきであるが、知らないま
たは無関心な人達が多すぎるのが現状である。

4)核に対する国内認識の問題
北朝鮮が核を絶対放棄しないことは先述の通りである。このように北朝鮮の核
武装を止める方法がないと言うことを前提にすると韓国の対応策は何であろうか。
方法が無いことに問題がある。
 これに加え、統一すれば韓国のものになるからほって置け、と云う世論もある。
このような無邪気な国民がある限り北朝鮮の脅威に対応する国民意識はばらばら
である。

 北朝鮮の核とミサイルはアメリカを狙ったもので、アメリカとの交渉に使える
カードに過ぎないものだ。したがって韓国に行使するものではないと決めつける
シンプルな考え方には手を上げるしかない。実際脅威の下に置かれているのは韓
国であることを承知しなければいけない。

 いろいろ云々される南北対話継続、中国を通じた北朝鮮説得、米ミサイル防衛
網(MD)体制加入、戦術核再配置、独自的核武装等、一つとして成功確率が高
くない、またはそれに支払うべき対価が高い意見ばかりである。
 結局、韓国は北朝鮮の核脅威の下に無防備状態に置かれている。

 3年前の天安艦事件は世界に類の無い攻撃を行い、世界海戦史にも前例が無い
が、これを北朝鮮は実行した。したがって、北朝鮮がもし核攻撃を決めたなら通
常の飛行体かミサイルではなく、予想外の時点に想像外の方法を使うと予想され
る。北朝鮮は予想不可能な集団が大量殺傷武器を持つ国であることを承知しなけ
ればいけないが、韓国は不感症の段階になっている。

 他方、国民のカッとする短気が物事を間違えるかも知れない。
 香港のTV評論家何亮亮は、‘韓国と北朝鮮は同じ民族で好戦的で勝負欲が強
い共通点がある’とし、北の挑発があれば今回は韓国が大人しくいるはずないと
言い切った。

 40年ほど前、米中は同じ考えを持っていたことが伺える。キッシンジャー・周
恩来秘密対話緑によると、1972年、毛沢東、ニクソン、キッシンジャー、周恩来
の4人の会合中、ニクソンは‘北・南はともかく、コリアンは感情的で衝突的な
人間たちだ。このような人達が事件を起こし我が米中を驚かすことがないよう影
響力を発揮すべきだ’と伝えられた。
 世界の目には、朝鮮半島には何時でも戦争が起こり易いと映っている。

5)韓国民の暮らし
丸山茂樹(日本協同組合総合研究所<略称JC総研>、参加型システム研究所・
客員研究員)氏はメールマガジン「オルタ」110号(2013.2.20)に寄稿した‘
朴槿恵大統領の誕生とこれからの韓国’の中で次の統計を載せた。

・自殺率は最高(OECD加盟国、以下同じ。人口10万人中、日本22.2人、韓国
 33.8人)
・高齢者貧困率(65歳以上で可処分所得が中央値の半分以下。日本22%、韓国
 45.1%)
・若年就業率(15~24歳の就業者数/人口。日本38.8%、韓国23.1%)
・政府の社会保障支出率(社会保障支出がGDPに占める比率。日本22.4%、韓
 国9.4%)
・国民1人当たりGDP (日本3.04万ドル、韓国2.75万ドル)
・学校教育費(公的支出と私費負担の合計の対GDP比。日本5%、韓国7.5%)

 これは韓国社会が抱える深刻な問題が近い内には解決できない複雑なものであ
ることを物語っている。新政権が直面する問題は山積している。

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3.国際協力の条件

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(1)韓米同盟


韓国の前政権李明博政府は北朝鮮に対し不援助に一貫し、ある程度北朝鮮を教
育させた成果がある。
 中国とは戦略的同伴者と言う一段階上げた関係を構築し、円満な関係を築きあ
げた。只、北朝鮮の様々な挑発に対する韓中協力には限界があったことは承知の
上である。

 日本との関係はあまり上手くなかったことが伺える。歴史問題の中、特に慰安
婦問題に拘り、天皇の謝罪を強く求めた上、独島(竹島)に自ら上陸したことは
日本の猛反発を招いた。
 アメリカとはオバマ大統領との個人関係を生かして親密な同盟関係を保つこと
が出来た。これが北朝鮮に対する強い姿勢を見せる底力になったことは否定でき
ない。

 今回の朴政権は李政権に継ぎ、アメリカとの同盟関係を韓米両国関係に留めず
より幅広く上次元の世界的イシューに協力する段階まで発展させる政策を取ると
予想される。

 アメリカは今まで積極姿勢を見せている。オバマ大統領は北朝鮮問題に集中し
ているとホワイトハウスが明らかにしており、また、米国防長官は地上発射型迎
撃ミサイル(GB1)14基の西海岸配置と核兵器使用可能な爆撃機B-51の実験
飛行を実行した。

 3月22日、アメリカは‘米韓共同局地挑発対備計画’に署名すると共に実際挑
発があった時は在日米軍の支援も明言するなど積極性を見せている。
 これで韓米間の軍事面では全面戦争に備えた作計(作戦計画)5027、北朝鮮内
部の急変に対応する作計5029と共に全面的韓米共同計画が完成した。

 これを逆に言うと、北朝鮮問題がアメリカと中国の懸案問題となり、北朝鮮が
敷いた舞台に米中が乗った形。北朝鮮問題がこの3ヶ国交渉になると韓国の立場
が直接当事者中心から離れる結果を生む可能性が出てきた。その意味では北朝鮮
の作戦は成功した。

 問題は北朝鮮に対する戦略をいかに調整して行くのかが焦点になる。アメリカ
の国内世論、上下両院の出方、ケリー国務長官等の対話優先の考えが北朝鮮の核
保有を既定事実と認めた上の政策を採る可能性が常にあるところ。

(2)米中関係と日中関係


米中関係は一言でいうと競争的、戦略的友好関係である。互いに無視できない
存在でありながら相手を乗り越えようとする関係である。

 今回の国連決議も米中協力が生み出した物だが、制裁実行に入るとは断言出来
ない。韓米は5年間にわたり金正恩統治資金と見られる40-50億ドルの口座数百
を中国、ロシア、スイス、オーストリア、ルクセンブルグ、リヒテンシュタイン
などで見つけ中国に通告したが、中国が実際制裁に取り組むかは疑問である。

 米中は北朝鮮問題に関わると協力を前提に競争をしなければならない状況であ
る。これが時には国連安全保障理事会の決議を生み出すと共に東アジアでの影響
力行使の争いを招いている。互いの警戒心はこれからも避けられない状態が長く
続くと思われる。

 オバマ大統領は3月13日、ABC放送で、‘中国は政権崩壊を恐れ北の過ちに
我慢してきたが考え方が変わりつつある’と述べた。最近の安保理での米中協力
は低い次元の対北協調システムを構築中かも知れないことが伺えるが、これは東
アジアの安定を望む両国の利害が一致するからで一時的に過ぎないかも知れない。

 日中関係は、領土問題で対決姿勢は避けられない。特に中国は力で押さえよう
とする態度を見せ、日本の怒りと対決対応姿勢を呼んでいる。両国国民感情も最
悪の状態にある。これは政府同士が幾ら妥協案を出しても上手くいかない条件と
なる。

(3)日韓関係


1)日韓関係は根本的に歴史認識が壁になる。
 一言でいえば、日本は韓国が求めているような歴史を永遠に絶対認めないであ
ろう。幾ら韓国が正しい歴史認識の上で未来志向的関係に向かおうと訴えても無
駄である。日韓関係を発展させる為には韓国が先ずこの要求を捨てるしかない。

 日本は独島(竹島)の問題を取り上げるのが国際的に有利だと思うはずである
し、韓国は日本軍慰安婦問題を持ち上げるのが国際的に有利だと思い、互いに捨
てるには未練が残るカードである。本当に止めようとするはずのない永遠の争点
として存在するであろう。

 今の韓国にとっては難しい問題である。政治的に、社会的に、教育的に不可能
な状態である。今の若者達が成長して日本を見る目が変わってくる日を待つしか
ない。歴史を遠い昔のこととし、今さら取りあげるのは意味がないと問題視しな
い時代が来るまで待つしか外に方法がない。

 現在、韓国には登録された慰安婦234名中、生存者は58名である。彼女たち全
員が亡くなるまで待つしか方法はない。
 では、このような状況の下で選択筋は何であろうか。
 先ず現在の日韓を比較してみる。

               日 本       韓 国

----------------------------------------------------------------------

 人 口:          2.5倍          1
 国 土:          3.8倍          1
 国内総生産(GDP):    5倍           1
 Fortune 誌選定500企業:  68社(5倍)        3社
 金融産業3大銀行      約7兆863億ウォン  4大銀行4232億ウォン

      海外事業純利益:   (16倍)       (日本の6%)

 海外インフラ:   1銀行(MUFG)120店舗  銀行総計134店舗
 新車占有率(東南アジア):  80%          5%
 国際機構:          270(7倍)       43

 これを見ると、グローバル化はガラパゴス(外部と断絶した島)韓国がより閉
鎖的であることが伺える。このような韓国が過去の歴史から脱皮して日本を含め
国際社会と開いた心で協力を図ることが出来るかどうかは疑問である。

2)新日韓関係学術会議
 2月28日、ソウルで開催された‘日本新政権の登場と日韓関係展望’学術会議
には両国から30名の専門家、学者、言論人が参加した。その場で議論された内容
は下記の通り。

・日本政治が総体的保守化を見せる(朴チョルヒソウル大教授)
・日本のナショナリズムは長期不況等経済に対する不満露出によるもので、他国
 でも現れる現状 (野中尚人学習院大学教授)
・日本政治圏と市民社会を分離する必要がある。一緒くたに右傾化云々するより
 両国の協力の糸を探るべき(李シュクジョン成均館大学教授) ・朴槿恵政権
は領土、歴史問題等懸案ばかり考えず、安定的地域秩序構築の観点
 から相互戦略的協力を探る同伴者関係にいかなければいけない(ジン・チャン
 ス世宗研究所日本研究センター長)
 このように有職者達は前向きな見解を持っているが、問題は一般国民にある。
周囲の所謂多文化家庭(外国人と結婚した家庭)に対する閉鎖的態度は、政府の
国際協力外交に障害となる。折角新政府が韓国出身のアメリカ国籍を持つ有能な
人物を未来志向の新政策の担当者として招聘したにもかかわらず、排他的世論に
耐えかねた彼は辞任の決心をし、アメリカに戻った。

 開放、包容力で世界帝国を作ったローマと宗教寛容で人材を集めた現代オラン
ダの教訓はともかく、華僑を追い出した韓国は真の隣人精神を持って仲良く協力
し合う可能性があるか疑問である。

(4)東アジア政治情勢


 2013年になって東アジア3国には新しい政権が誕生した。中国は習近平、日本
は安倍晋三、韓国は朴槿恵、全て保守派が政権を握った。

 各々の国が全て保守的になると外交には強硬的姿勢を見せるのが一般的である。
ここで領土問題を含め国益を守る為に軍事行動を辞さない動きも見せる恐れがあ
る。
 日中両国の対決の中で、朝鮮半島を巡る日中両国の不調和は北朝鮮の核問題を
複雑なものにする可能性を生み出す。

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4.北朝鮮核問題に対する有効策

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(1)国際協力の限界


 これまでの6者会議が北朝鮮の時間稼ぎと代価支払いに終わったことは既に述
べた通り。
 3月7日に採決された国連安保理事会の決議案も、強制性を含む強いものにも拘
わらず実効性は疑問である。それは、中国が決議案に賛成して実行にもある程度
強硬な態度を見せているが、実際上どの程度実行に移せるかは分からないからで
ある。

 また、世界には北朝鮮に同情的な様々な国も多いからである。
 世界的連携を図るにはアメリカ、日本、ロシア EUくらいで、イラン、サウ
ジアラビア、エジプト等アラブ諸国の核開発を止めようとするイスラエルと協力
する体制を整えることが望ましいかも知れない。

 朝鮮半島の安定を求める米中両国の利害が合致し、韓国の独自的対北朝鮮挑発
対応に差し支えが生じる可能性もあることから、優れた外交力が求められる。

(2)北朝鮮内部事情


 韓国に亡命した元北朝鮮外交官高永換の意見には耳を傾ける価値がある。

1)金正恩は政権初期、父金正日の‘先軍政治’を祖父金日成の‘先党政治’に
戻そうと努力すると共に‘6.28経済改善措置’など一部変化を試みた。これに軍
部が反発し、昨年12月長距離ミサイル発射、今年2月核実験に成功して軍部が主
導権を握ったように見えるが、党の勢力も弱くないところで権力争いが著しくな
ってきている。最近、革新派の人物を首相に任命した。

2)生活に苦しむ住民の不満を沈静化しながら体制安定に効果的なものが対韓国
挑発であるが、政権崩壊に繋がる全面戦争は避けたいのが北指導部の本音である。
‘世界で一番幸せな人達’金正恩とその幹部達が既得権を守りたいのは当然であ
り、挑発は局地的に留まる可能性が高い。

3)北朝鮮が最も大事に神聖視するのは金氏一家の愚想物であり、そこが北のア
キレス腱である。韓国の反撃をそこに集中させると宣言すれば、北軍部は金氏一
家の名誉に傷をつけることにつながる挑発に決心を迷うことであろう。
 実際韓国軍は北朝鮮軍の挑発がある場合3万5千余りの金日成親子の銅像を精密
打撃する計画を立てた。既に北朝鮮は敏感な反応を見せ始めている。

 一言で言えば、北朝鮮内部事情は複雑で微弱な体制に過ぎないことが伺える。
これを充分利用する必要がある。軍部と党の反目を起こす戦略か、一方を支援す
る作戦を実施するか、国際的支援も背景に多様な手段を動員することも考えられ
る。

(3)非合法的手段


1)韓国がこれまで実行したり止めたりした非合法的手段がある。それは合法的
手段に限界があることを承知の上で北朝鮮の合法空間を逆利用する嘘と、非合法
の上手には非対称手段を使うのが効果的であるからである。

 非対称的手段とは、核放棄対策が現実上ないところにかえって体制崩壊の手段
を取ることが根本的解決に向かう実現性があるとの意味である。具体的には、戦
略武器、MDAなどハードウェアも抑止力として効果があるはずだが、それとは
別にソフトウェアを行使することである。

●北に対する放送は有効な手段である。対北放送の存在自体が北には政権の不安
 を招くもの。

 北政権には現在二つの戦線がある。南向けは理念のライン、北向けは大量脱北
が続く生死のライン。もし対北放送で2000人位の北軍人が休戦ラインを越えると
したら北政権の最終要塞と言われる先軍政治に致命的な出来事となる。これは若
年の弱点を神格化で埋めようとする金正恩政権には耐えがたい災難になるはず。

 実際、北中国境での武装軍人12名脱北事件、兵士2名が上司を射殺して中国に
逃げた事件などが起こり軍の動揺が見られる。

 放送は韓国に協商価値のある武器となるし戦術武器になる。

●風船を飛ばす
 風が北に向く時を選んで20万枚の金政権の豪華生活を描いたビラとに1ドルを
付けた風船の束を大量に飛ばすと、北住民は必死でそれを拾うことが分かった。
今まで脱北者団体がやったことを再開する。
 北住民の民心を揺するにはこれ以上効果的なものはなかった。
 北朝鮮軍部はこれを止めようと必死であった。

●おばさん中心の闇市場経済を励ますこと
 北朝鮮政府の配給制が崩れて以降、北政権は暗におばさん達の闇市場活動を認
めざるを得なかった。この組織を通じ、様々な噂が流れ政権を揺さぶることに繋
がりつつある。既に韓国製品が中国製品を上回っているという。

●韓流浸透策を図ること
 各種韓国ドラマ、歌、踊りなどが収録されたDVD、CD を伝播させること。
特に支配層の若者達が中国から密輸で入手するのが流行しており、これを持たな
いと仲間入りが出来ないほど無視されるといわれている。

●人権問題を取り上げる、脱北者を支援する。
 北住民に対する北政権の弾圧、政治犯収容所などを直接取り上げると共に韓国
内の3万近い脱北者の支援を強化し、政権に対する抵抗を促す。

 国連のマルズキ・ダルスマン北朝鮮人権特別報告官は3月21日、スイスジュネ
ーブ国連人権理事会において、47カ国満場一致で採択された北朝鮮反人道的犯罪
調査委員会(COI-Commission of Inquiry)の新設決議につき、北朝鮮内人
権弾圧が国際法上反人道主義犯罪に当たるかどうか責任の所在を調査し公式文書
にすると共に証拠が確保出来たら国連手続きにより国際刑事裁判所(ICC)に
提訴することができると語り、最高責任者金正恩も例外ではないと述べた。

 国連は、調査委員会の入国が認められないことに備え衛星写真分析機関‘UN
OSAT’チームも稼動、北朝鮮内収容所などを調査する計画を明らかにした。

●秘密工作を試みる
 米CIAとイスラエルモサドの秘密工作は世界的に有名である。ピーター・シ
バイチャーの‘レーガンのソ連崩壊戦略’によると、ソ連の崩壊はCIAの秘密
工作が基因だとし、イスラエルが大規模なアラブ勢力を抑えているのはモサドの
工作が貢献していることは承知の上である。

 韓国は、金大中大統領後2代の左翼政権の下で数百人の要員が解雇され、秘密
工作能力が失われた状態にある。これを回復し直ちに工作作戦を行うべきである。

●安保教育を強化し国民の団結を図る
 現在、韓国の教育の半分は左派系の教育官と全教組が行っているといっても過
言ではない。最近出版された左翼団体編集による‘百年戦争’には韓国建国大統
領李承晩と経済発展を成し遂げた朴正熙大統領をバカに描いた内容が沢山含まれ、
これを学生達が学んでいる。

 これからでも正しい歴史観を持つよう教育を徹底し、国民の支持が固い政権を
維持していくことが大事である。

(4)中国内反北朝鮮世論を利用


1)中国観光客と中国軍人留学生
 2012年に韓国を訪問した中国人観光客は日本人観光客を越え283万、2013年1月
は16.8%増、2月は32%増を示している。増加する中国観光客が親韓派に回るよ
う働きかけるのが望ましい。

 伝統的に親北朝鮮である中国人の考え方が変化するようになれば、北朝鮮の無
謀な核開発に反対する世論作りが出来るはず。実際、中国内には北朝鮮に批判的
な人が増えてきた。

 2011年の韓中貿易が2,456億ドルであったのに比べ、北中交易は60億ドルにも
至っていない。韓中間の人的往来は700万、韓流ドラマを楽しむ中国人には北よ
り韓国の方がより身近に感じ、親しみを持つ隣同士になっている。
 特に、史上初めて中国軍将校3人が韓国合同軍事大学校国防語学院に派遣され
て来たことは今後韓中軍事協力の架け橋となるだろう。

2)中国国内反北朝鮮デモ
 徐琳氏は7日間の拘留処分にも拘らず数箇所でデモを行った。北京の弁護士童
朝平は“北朝鮮核実験に反対するのが拘留の理由になるなら自分もその処分を受
けたい。このような拘留は極めて名誉なことであろう”。ネチズン達は‘中国の
交番は金家の3番目の豚-金正恩-の為に働く所か’と皮肉っている。徐々に盛
り上がる、過去には見られなかった現状である。

 鄧津文中国共産党中央党教機関紙学習時報副編集長は“中国は北朝鮮を放棄す
る準備をするべきだ”とインタビューで話した。また2月27日のファイナンシャ
ルタイムズ(FT)紙に、“北朝鮮の核実験は中国が金氏王朝との長い間の同盟
関係を再評価する良い機会を与えた”“韓国と朝鮮半島統一を推進する方向に対
北朝鮮政策を調整すべきである”と語った。

3)中国内の二つの反応
・北朝鮮は同じ社会主義国家である血盟であり、アメリカのアジア戦略に対抗す
 るカードであるため、今のままの関係を保つこと
・北は既に中国の戦略的資産ではなく、負債になっていることから、中国の対北
 朝鮮影響力を発揮できない状態にあるため、放棄すべき

 学術界は後者が主流だと言われている。

‘北朝鮮が米中間緩衝地帯(Buffer Zone)であるとの見解は冷戦時代の古い観
念。中国が北を同じ社会主義国家と見なすのも中国の一方的思考に過ぎない。北
は中国から離れるのを独立、自主だと考えている。習近平政権の下で北に対する
政策は微々たる調整が予想される。対北圧迫が厳しくなるだろう。北の改革、開
放は世襲が行う瞬間期待は消えた’

‘北は失敗国家で崩れるのは時間の問題で必然的。中国は韓国、アメリカと統一
過程に参加し、中国の戦略的利益を守るべきだ’

 このような世論に基付いてネチズン反発、デモ、批判論評などが中国政府に対
する批判に発展する可能性がある。

 反発の裏には
・国際社会の不良児北朝鮮を庇うのは21世紀責任国家を志向する中国の大儀名分
 にそぐわない。
・中国民の民生、民権、環境に対する自覚の反映だ。
・中国民は文化大革命時の飢餓経験を思い出し、民衆を餓死させる政権と指導者
 に許し難い怒りを持つ。

 このような中国内の動きは、核実験に反対し環境汚染を非難する普遍的価値観
を持つ新しい中国人の表れだと思われる。人権、福祉、勤労条件改善、環境汚染
防止などに関心を持つパー・リンホウ(八零後―1980年以降出生)世代の現れで
ある。

・アメリカが北と国交正常化をすると北は中国に対し何らかの措置を取る
・北を放棄しないのは虎を育てるのと同じだ
・北は連米反中の道を歩んでいる、いち早く捨てるべきであった

 官営環球時報は、中国の国連決議賛成の理由として、①北の核が中国の利益を
損なうことになる、②北政権崩壊の場合は大規模難民が流入し、多大な政治、経
済的負担を抱える、③北の核保有は韓国、日本等周辺国の核開発を刺激、核武装
国が中国を囲む、と3点を挙げた。特に北政権の崩壊云々は注目される。

 北朝鮮が韓米同盟に対抗する中国の戦略的資産と言う主張は、普遍的国際関係
を要求する世論に対抗することが難しくなってきたと言えよう。既に5億人の中
国ネチズンの百家争鳴を防ぐのは事実上不可能な状態である。

4)中国政府の反応
 羅照輝中国外交部亜州司司長(局長)は2月28日、新華通信インターネット版
に‘北朝鮮は国際社会の普遍的反対にも拘わらず核実験を強行し朝鮮半島の緊張
を高めた。しかし、朝鮮半島で混乱や戦争が起こるのは誰の利益にもならないこ
とだ’と主張し、関係国の自制を求めた。

 3月9日、楊潔〓中国外交部長は記者会見で‘中国は、制裁が関係問題解決の根
本的方法ではないと考える’と述べた。
 一方、中国政府は北中国境の地域で放射能検査を大幅に強化すると共に、北か
らの鉱物質の検査を通じ666トンを取り戻した。これは異例な措置である。

 中国政府は11の北中間連結橋に加え、新らに5本の橋の構築を開始した。専門
家達はこれを、経済的目的以外に北朝鮮の急変事態に備えて迅速な軍投入経路を
確保する為と見ている。
 これに対し面白いのは、北住民達は中国軍タンクが入った場合にどうするかと
心配していることである。実際、鉄道の建設を北朝鮮が迷っていることが分かっ
た。

 このように、北中関係は最近になってギクシャクすることが現れ、平穏ではな
い。国連で強制的北朝鮮制裁に賛成したのに加え、実行の措置を幾つか取ってい
るのも過去とは異なる現状である。このように現れつつある隙間を逆利用する方
法を探すべきであろう。

 もう一つ注目すべき出来事がある。
 中国の全国人民代表大会と両会の柱である人民政治協商会議(政協)委員でも
ある毛沢東の孫毛新宇少将は3月3日の記者会見で、‘北朝鮮は必ず非核化と平和
発展の道を歩むべきである’と語った。これを国営新華通信が報道した。

 このような代表的太子党(共産党元老子孫)の公的発言は中国人の怒りと不満
が相当なものであることを意味するとの北京の外交界の見解を伝えた。
 また、米オバマ大統領が3月13日に言い出した‘中国は北朝鮮政策に変化を見
せている’と言うことは、この国内世論を中国政府が気にした背景の現われかも
知れない。

 最近中国政府は複数の北朝鮮系銀行の不法営業の取締りに積極性を見せている。
 中国政府が国内世論から始まった普遍的、常識的基準に基づく‘合理的世論’
に背くことが難しくなってきたことは確実であるが、何処までかは予測できない。

 習近平体制の‘大国外交’宣言の方向が注目される。周辺国家との経済中心外
交路線から脱皮し、米中関係を中心に全世界的次元で国家利益と国際義務を共に
追求することを意味する。
 習近平は、3月20日朴大統領との通話で、北朝鮮を対話の場に引き出すよう朴
大統領が中国の協力を求めたのに対し‘説得は難しいが努力する’と答えた。両
者間の長い間の交友が役に立つかは分からない。

 元中国政府高官は興味深いことを伝えてきた。北朝鮮は中国に対し朝鮮半島、
即ち韓国じゃなくて日本を狙った行動だと説明した。これは日中関係悪化事態を
念頭に中国の圧力を避けようとする巧みだと観測される。

(5)日本の核武装可能性


 北朝鮮は、米にたいして核冒険をし次第滅亡に至る事を承知している。したが
って、アメリカに核兵器を行使することはありえない。狙いは韓国である。もし
北朝鮮が核武器を挑発すれば韓国は多大な被害を受けることになる。韓国は核の
対処に踏み切らなければいけないが、韓国が正面対決手段として核保有を図ると
すれば外交的、経済的苦痛を覚悟すべきで望ましくないことである。

 北朝鮮の核の無力化手段を探るべきである。代案の一つが日本の核武装の可能
性である。

 日本は有事時核武装能力を50年前から持っている。1964年12月、内閣調査室
(佐藤栄作総理時代}に提出した若泉敬政策ブレインの報告書“中共(中国)核
実験と日本の安全保障”で、核開発に必要な科学技術水準等総合的国力を中国よ
り高める必要があると主張している。原子力の平和的利用、国産ロケットによる
人工衛星の打ち上げ計画を先ず検討するとも主張した。

 内閣調査室は1966年、“日本の核政策に関する基礎的研究”で日本はプルトニ
ューム原子爆弾を製造できると明らかにしながら、1969年“外交政策の大綱”と
いう秘密報告書で潜在的核保有能力の必要性を主張した。
 憲法9条、日米安全保障条約、被爆国家の国民感情などにより、核兵器保有は
難しいが核武器製造の経済的、技術的潜在能力は常時保有すべきだと結論を下し
た。

 佐藤総理は1967年非核3原則を発表、1974年にノーベル平和賞を受賞した。
 1970年、日本独自の技術による人工衛星発射成功、1971年に実験用高速増殖炉
“常陽”に着工、使用済み原料はプルトニューム大量生産が可能で、現在日本は
核兵器数千基を作れる約30トンのプルトニュームを保有している。世界最高水準
の固体燃料ロケットM-Vも保有している。

 これは先ず北朝鮮を牽制する方法として着目すべきであり、中国に対しても抑
止効果のある手段である。
 韓国は、韓米、日米同盟の三角関係を有効に活用し北朝鮮に対する抑止力を保
つ必要がある。

 昔、朝鮮半島には高句麗、百済、新羅の3国があり、互いに争った。高句麗は
武力、百済は文化、新羅は精神を中心に国作りに邁進したが、結局新羅が勝利し
た。羅唐同盟が支えた。武力だけでは役に立たない。
 この歴史的教訓を武力で行こうとする北朝鮮は真剣に考え、学ぶべきである。

*******

5.結論

********

(1)前提条件の国際環境


・北朝鮮は核、ミサイルを絶対放棄しない。アメリカを含む国際社会が認めた核
 保有国の地位を享有するまで頑張る。
・北朝鮮の狙いは韓国にあるため、局地的、非対称的戦略、テロを強行する。
・日本は韓国の求める通りの歴史認識を絶対認めない。安倍総理は最近の韓国言
 論との単独会見でも同じことを繰り返した。
・中国は、政策変更の兆しは徐々に見えるものの伝統的に北朝鮮支援を放棄しな
 いと共に、北朝鮮を自国の影響の下に置き、朝鮮半島統一は遠のく。
・中国が先進国のように国際義務を果たすようになるには300年はかかる。フラ
 ンスの歴史学者トックビル(Tocqueville)は著書‘アンシアンレジームとフ
 ランス革命’で、今の中国は1789年のフランス革命時代と似ていると断言。
・アメリカは韓国との同盟関係を重視しながらも北朝鮮と対話の道を選ぶ可能性
 が高い。
・韓国内の国民世論は何時も分かれており、一貫性のある対処は難しい。
・韓国が先進国になるにはこれから新しい教育を始めても100年はかかる。
・韓国の選択はこの状況下で選ぶことだけである。

(2)将来注目すべき展開


・中国習近平政権の外交路線
・日本の安倍政権のアベノミックスの成功如何と日本の世界大国としての役割復
 帰

(3)残る有効な方法


・アメリカとの同盟関係強化。核兵器は開発せず、米核傘下に残り抑止力を保つ。
・日本の歴史認識問題を棚上げし、北朝鮮に対する協力を求めること。特に核兵
 器の開発可能性を認めること。
・中国の世論を親韓国に回すと共に反北朝鮮の雰囲気を促すことで中国政府の政
 策転換を求めること。中国と友好的関係を保つこと。
・個別的国家政策とは別に国連とアメリカ、ロシア、EU、イスラエルなどとの
 国際連携を模索すること。
・北朝鮮には“飴とむち”を交互に使いながら挑発をけん制すること。
・北朝鮮国内に闇の自由市場経済、韓流、対人民軍放送、風船、人権などソフト
 な戦略を図り、反政権勢力を育てて政権崩壊を図ること。

(4)連邦国創設


・韓国を挟んだ東アジア勢力争いを防ぐ為には、韓国が周辺強大国と並ぶ国力を
 保つ必要がある。
・その為には、先ず韓国国民の一致団結力が要望されるが現実性がない。
・歴史、文化、国民情緒等共通点を共有する東の韓国、北のモンゴル、南のベト
 ナムが3国連邦を創設し、混血の新しいDNAをもつ1億5千万超人口の多文化
 国を作る。
・そして価値観を共有する日本と協力する。
・そうなると歴史的脅威の中国を北東南に包囲する大国として東アジアの勢力均
 衡を実現し、均衡的平和と安全を図ることが出来る。
・これは東アジアの平和志向の勢力として成長し、世界平和にも貢献させること
 になる。

 (筆者は韓国・ソウル在住・元韓国駐ノールウエー大使)

(注)この原稿は2013/03/05に東京で行われたソシアルアジア研究会での梁世勲
氏の講演を要約し、同氏に校閲して戴いたものを研究会事務局のご厚意により
そのまま掲載したものですが文責は編集部にあります。なお、梁世勲氏はかって
外交官として働かれておられましたが、現在は民間人として日韓交流拡大のため
に 活躍されておられ、この原稿は個人のご意見で当然ながら韓国政府の意向と
は関係ありません。

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