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有閑随感録(25)

矢口 英佑

 緊急事態宣言下の首都圏(千葉、埼玉、東京、神奈川)の飲食店の「営業時間 午後8時まで」が2週間延ばされた。感染者数が予想したより減少せず、病院の感染者受け入れ態勢も大きく改善されていないからだ。

 私の個人的な観測では2週間で著しく改善されるとは思えない。とはいえ、この自粛要請に応えている神保町界隈の飲食店では、昼間、食事を提供するほとんどの店舗で、客入りが減っているし、営業を控えている店舗も増えている。さらに再延長になって資金繰りがつかなくなったのか、閉店してしまった店舗も数軒ある。

 夕方から開店する酒類提供を主にする店舗も夜8時までの営業であるため、稼げる時間は短い。他人事ながら、収入が減少しているのだろうと思いつつ、時たま足を運ぶ店がいくつかある。店内を覗いて客数が少ないとなんとなく安心し、混んでいると寄るのはやめようかと思ってしまう。現在のこうした状況だからなのだが、我ながら勝手なものだと思う。

 こうした店舗の営業の様子を見ている限り、今回の緊急事態宣言での自粛対象が飲食業、特に酒類提供店に的が絞られている観があるのだが、これは正しい方策だったのか疑問を抱く。感染者数が高止まりなのを見てもわかるように、飲食店だけで感染者数を減少させられないのが明らかなってきている。

 先日、所用で東北のある地方都市へ出かけた。夜の食事をしていて、つい首都圏にいる習性が身についてしまったのか、20時までに店を出た。ところが20時を過ぎてもどこもすべて営業中。それでも気がつかない私は「あれっ、まだ営業していていいのかな」と思ってしまったのだった。
 営業自粛をしなくても、この地域の感染者数が増加しているわけではなく、飲食業だけが狙い撃ちにされたような今回の方針はどうかと思う。

 私が住む町のファミリーレストランは深夜まで営業しているようだし、スーパーマーケットもコンビニも喫茶店もファーストフード店もこれまで通りの時間帯で営業している。
 電車に乗れば、マスクをしていない、食べ物を口に運んでいる、アルコールのせいか大きな声で喋る、といった乗客をときどき見かける。最初の緊急事態宣言での自粛時にはラッシュの時間帯でも座れたことが、まるで嘘のような状況が現在は続いている。

 しかもここにきて変異ウイルスに感染した感染者が増え始めてきている。感染者数も下げ止まりどころか増加に転じ始めている。決して予断を許さない事態にあることを私たちはもっと真剣に受け止めなければならないだろう。

 たとえば大学だが、多くの大学が4月以降の新学期からは対面授業で実施することを決めている。1年間はオンライン授業でなんとかしのいでも、2年目もオンラインとなると、短期大学生などには、まともに大学にも行かず、学友の顔も知らないままに卒業ということにもなりかねず、これでは笑い話にもならない。
 それだけに大学側は対面授業に拘るのだろうが、これから多くの大学で行われるはずの卒業式や入学式が一つの判断を大学に迫ることになるかもしれない。

 私が気になるのは、学生たちは若いということから、たとえコロナウイルスに感染してもせいぜい風邪程度だと考えがちなことである。被害者的発想ならそれでもいいが、加害者的な立場にもなり得ることが欠落しがちなことだろう。また学生たちの多くがコンビニや飲食店などでアルバイトをしている。私などより不特定多数の人たちと接触する機会は多いように思う。

 このように考えると、大学での学生に向けたコロナ対策では具体的な予防対策を啓蒙し、実施することは無論だが、もっと重要なことは「精神的な自覚」を促すことが今は求められているように思う。
 ところがこの「精神的な自覚」を学生に浸透させることはそう簡単ではない。今まさに田村厚生大臣が国民に向けて「午後8時以降でなくても不要不急の外出は、なるべく避けてほしいというのが、われわれの思いだ。『昼間、お酒を飲んで騒いでもよいのか』という話があるが、よいわけがなく自重してほしい」と述べたそうだが、このお願いに国民はいったい誰が、どれだけ真剣に受け止めるというのだろうか。

 具体的な行動である「不要不急」のお願いの声でさえ国民に響かない現状で、コロナウイルス感染者数を抑え込むのは困難というのが私の判断である。いつの間にか第4波ともなりかねない。
 それならばどうするのか。
 全面的、強制的な施策を実行するか、ワクチン接種のスピードを今よりも数倍、上げるしかないだろう。しかし、いずれも今の政府にできるだろうか。

 (元大学教員)
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