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期待と失望

工藤 寛治


 国内的には明治の亡霊に憑依されたとしか思えない、時代錯誤と票が欲しいだけにしか見えないポピュリズムの政治を行ない、外交上はひたすら米国に追随し、財政状況を顧みずに米国の行う不当な戦争の戦費負担や、効果が疑問の途上国への援助を行ってきた政権に、長い間失望してきた。
 無論、失望は戦後長期にわたって政権を担ってきた自民党に対するものだけではない。あまりにも低い政策能力や、有権者の心理や行動を理解する能力が欠如している野党に対するものでもあった。

 このような政治状況を作り出したのは、とりもなおさず私を含めた日本人の状況の無自覚と政治家を選択する判断力の未成熟に原因がある。
 民主主義を基盤とした現体制は国民が戦い取ったものではない。国際関係の大きな転換期に戦勝国に与えられたものである。だから国民全体がこの体制を護り深化させようとするのではなく、その多くは無関心か観客席にすわっているだけである。

 これは放置しておいて自然に改善される問題ではない。正しい政治が行われるためには、先ずは学校や社会での教育、知識層による啓発、マスメディアの質的向上が必要である。そのためには、ニワトリと卵の話のようだが、失望をもたらした政党の変化に期待せざるを得ない。

 戦後のほとんどの期間、自民党またはその前身の政党が政治を動かした後、1993年に非自民連立政権が誕生し、間もなく自民・社会・さきがけの連立内閣に代わった。だが、思想信条と政治理念の異なる寄り合い所帯は、革新勢力を弱めただけで他に見るべき政治的成果を上げることなく自民党に政権を返してしまった。

 1996年民主党が結成され、党員たちの力が一つの旗の下に結集されず、理念・政策が有権者に対して強い訴求力を持たない状況の時、自民党政権の堕落が明らかになったことで民主党を中心とする社民、国民新党との連立政権が誕生した。
 しかし、閣僚の資質が問われる問題が続出し、消費税に関する発言が二転三転した挙句に自民党と野合し、力量もないのに政治主導と称して仕分けというパフォーマンスを演じたことなどで、統治能力不足を露呈してしまった。

 不幸なことに、第2次菅内閣時の2011年3月に東北地方太平洋地震に伴う原発事故が発生して、その対応をめぐって内閣に対するごうごうたる非難が連日続いた。だが、本当は菅首相も枝野官房長官も誠実に一生懸命、あの状況の中では余人にはできないほど立派な対応をしていたのであった。
 非難を巻き起こした下手人は、取材能力と判断能力のないマスメディアと、原発政策を進めながら安全対策が不十分だった責任も顧みずに政権を批判する自民党であった。

 そうした状況で民主党連立政権は結束を強め反対勢力と闘う力を持てなかった。そして維新の党のメンバーと組んだことで存在意義すらなくなってしまった。

 立憲民主党は希望の党の形成過程で生まれた。「排除」などといって仲間外れにされたことで久しぶりに純度の高い政党ができたのである。もし立憲民主党が勢力を増大することができるとしたら、小池都知事の功績である。

 ともあれ、立憲民主党が衆院選挙で予想以上の当選者を出したのは、有権者の政治の変革に対する期待である。安倍政権の不正と傲慢さに倦んだということもあるが、思想信条を同じくする力強い勢力が、憲法や原発、市民のための経済政策などに果敢に取り組んでくれることを期待したのが支持をした主因である。
 せっかくのチャンスを生かすため、立憲民主党は民主党結党以来、どうして離合集散を繰り返し滅亡に向かってしまったのか、支持者が何を考えているのか、日本のあるべき姿は何かなどを熟考して綱領や政策を定めて欲しいと思う。

 昨年暮れの報道によれば、基本政策の素案として外交・安全保障政策では「日米同盟を基軸と位置付け」とあったが、米国と北朝鮮が軍事力を背景として稚拙な威嚇の応酬をし、安倍首相がトランプと100%考えが同じという発言をして国際的に失笑を買い、国内の良識的な人びとから呆れられている時に、日米同盟を基軸と考えているとしたらあまりにも鈍感である。
 軍事力を持つこと、日米同盟を維持・強化することが「現実的判断である」との自民党とそれに追随する勢力による長い間のプロパガンダを支持するとしたら立憲民主党の存在意義はないのではないか。

 こんな姿勢で大丈夫かと、期待が大きいだけに心配である。間もなく直面する憲法問題については、既成事実を前提として条文の作り方を論議するのではなく、軍事科学の発展をよく理解したうえで、戦力が本当に国民を、そして国を護ることができるのか、専守防衛と侵略では軍備の何が違うのか、これからの戦争で抑止力とか一方の勝利ということがあり得るのかなど、根本的な理論武装が不可欠である。間違っても刀と鉄砲で戦っていた時代の戸締り論や、武力に優れた仲間と組めば身の安全が保てるとの妄想をもってはいけない。

 右翼的保守勢力がネットで、立憲民主党は、かつての民主党と幹部の顔触れが同じというキャンペーンを行っているが、顔ぶれがほとんど同じでも、いまは同床異夢ではなく考えが同じ仲間が結集している。

 私は3年ほど前から数人の民主党議員に解党を促す文書などを送ったがまったく反応がなかった。唯一ある議員の奥方から「おっしゃる通りです」という手紙を頂戴しただけである。この党の議員は支持者心理への配慮が不十分で、希望の党への合流騒動の時にリベラル派は残るべしとメールを送っても無視。入党手続きについて問い合わせても、ナシのつぶてだった。他方、政府への政策提言をする会議の座長から提言書への感想を求められて批判的な回答をしたにもかかわらず、今後の活動の参考にしますとか協力を願う趣旨のメールが送られてきた。この違いは無視できない。

 立憲民主党は、今後の政治状況を良い方向に変えることを期待されている。いまのところ、枝野党首の政治姿勢や考え方は十分評価できる。綱領や政策を熟慮して決め、有権者とのコミュニケーション技術を高めて頑張っていただきたいものである。

 (コンテンツ企画者)

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