■【北から南から】
台湾・花蓮便り(4)

東アジアの高齢社会における持続繁栄と共存の道―その2

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●台湾の看護と介護の現状

 台湾の老人介護は1997年の老人福利法の改正からタートして間もない。老
人介護保険はまだない。台湾の町中に見られる介護施設は、ほとんどが小規模単
機能型の49床スペースの看護・介護センターである。近年総合クリニックビル
の1階を急性期外来の診察と治療に当て、2階以上を養護中心や安護中心にして、
複数の事業体が同居する運営方式もある。現状としては49床規定の介護機構が
60床まで増して稼動するケースが多い。そのほかのサービスとして訪問看護や
居家介護、通所サービスなどもある。

●台湾の看護・介護人材の日本語教育の必要性とその課題

 2003年、内政部と衛生署は「照顧服務員訓練計劃」の共同実施を発表した。
座学90時間、実技40時間の訓練コースで修了証書を取得すれば、介護施設で
介護サービスを行うことができる。訓練課程の講師はほとんど看護師である。こ
の訓練コースは日本のホームヘルパー2級に相当する。ちなみに日本のホームヘ
ルパー2級受講費は10万円だが、台湾は3000元から4000元前後である。

 台湾大学、政治大学などの国立大学研究チームのデータによれば、台湾では長
期介護に係わる介護人材が大量に不足している。そのため介護政策の最大の課題
は介護人材の育成だと明確に指摘している。長期介護と老人介護システムの早期
構築が望まれる現在、長期看護・介護に関わる老人の目線に立った、人に優しい、
質の高い専門人材の育成は、台湾が最優先する国家発展政策である。

●看護・介護日本語人材育成の優位性

 アジアも西欧諸国と同様に、医療専門人材の国際大移動が始まっている。東京
都はその人材確保として、東京都の「アジア人材育成基金」を捻出し、東京都が
助成金を提供し、アジアの人材育成を進めている。

 また日本語教育新聞社が関東の介護施設(東京・千葉・神奈川・埼玉)527
施設に緊急アンケートを行い、24施設から回答を得た結果によれば、英語圏日
本語学習者にとって国家試験が難しいという回答が1番多く、介護の現場では、
日常の生活介助が必要な高齢者を相手にするため、若干の文化的相違からコミュ
ニケーションがスムーズにいかないとある。

 台湾は日本の植民地だったことから、50年間日本文化と日本語を受継いだ時
代もあった。台湾であるが故のフィリピンやインドネシアなどに比べて、漢字を
含む日本語学習がスムーズである事と、生活習慣も日本に近いため、日本での観
光医療・医療看護介護人材の育成では、東南アジアの輸出国より遥かに優位であ
る。従って観光医療専門人材の育成とインセンティブを持っている。

 蛇足ながら、2010年日本観光庁は医療ツアーを本格的に始めるとして正式
発表した。ターゲットは中国人富裕層である。この医療ツアーは検診や治療、そ
して観光を組み合わせ「医療観光」の商品である。所が日本の高度な医療技術を
アピールした健康診断や治療の現場である診察室やレントゲン室などで、医療の
専門用語が判らないため、ガイド通訳が役に立たなかったというハプニングが続
出したという。

 台湾も近年になって、観光医療協会を立ち上げた。東アジアにおける中国語と
日本語の観光医療通訳のニーズは急増するであろう。

 また、漢字圏人材が医療看護、介護の日本語を学習することで、日本の医療介
護経験を積み、日本の看護・介護環境で経験を積で台湾の看護・介護の現場に戻
り、台湾の介護福祉のセーフティネットの構築に貢献するまで、日本語教師の社
会的責任と教育への情熱が今必要とされている。

 2012年2月末、初岡教授と加藤氏が花蓮に来られ、2日間の慈済見学、花
蓮の大自然、美味しい野菜鍋、林田山(日本時代の林業の地)を訪れた。そして
ゆっくり介護人材育成と、国を超えた協力体制の必要性について、大いに語った。
21世紀はモノ作りから、人間づくりの社会へと進むことで、社会弱者をこれ以
上産出さず、雇用の産出につながると思う。
 慈済基金会は今も、花蓮の原住民部落の復興と文化づくり、産業生産の指導と
ボランティアを続けている。その代表的な成果として、秀林郷の景美駅を訪れて
みるとよい。そこには竹の回廊と文化センターが建設され、お酒を断った原住民
たちが、芳しいお茶と踊りを用意して観光客を待っている。私の自宅の近くにあ
る慈済基金会の精舎のそばにある原住民部落では、1人住まいの高齢者のために、
慈済ボランティアがバリアフリーの坂や手すりを取り付け、世話をしている。

 私たちが率先して高齢者問題に取り組むことで、私たちが人間として救われ、
生き菩薩として、若者に未来を示しながら、善行の修行を若者と一緒に歩むこと
ができるのです。20世紀の経済本位のつけを、子孫に残すのではなく、もう一
度私達の手で労働の尊厳を取り戻せる社会を作る喜びを一緒に味わいませんか。
ご連絡お待ちしています。
              (筆者は慈済大学副教授)
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■新潟県行政書士会新春講演会資料
 文責 王珠恵  2012.01.13

演題 東アジアの高齢社会における持続繁栄と共存の道
副題 台日産学協同推進と持続可能なNGO平和運動
講演内容:
(1)経済成長と人間の代価、社会の価値観は慈悲の心より生じることを一緒に
  考える。
(2)東北大震災の見舞活動を報告する。
(3)21世紀の老人社会は大きな津波である。東アジア型外国人介護従事者を
  早急に養成する必要性を説明し、数字と写真から、台湾と日本の関係を説明
  する。現在進行中の東アジア介護研究会などのプラットフォームへの参加を
  呼び掛け、物作りから、人づくりの新たな産業おこしとして、地域介護交流
  プランを提起する。
※ 講師プロフィル
   ・学歴 昭和薬科大学卒、日本と台湾の薬剤師免許
・輔仁大学翻訳通訳大学院卒、専門通訳師免許、専門翻訳師免許
・兵庫県立大学環境人間学科博士課程満期修了
   ・現職 慈済大学東方語文学科・医学部副教授・天理大学中国語コース
集中講座副教授・花蓮縣長期介護發展協會監事・・東アジア介護研究会発
起人・ 二言語国際人材育成・・中日介護人材育成研究と実践
・職歴 国立高雄第一科学技術大学副教授・国際会議通訳士30年、社会運動家
30年

・学術専門領域・応用言語学、通訳学、ネット教育、老人介護人材育成
2004年 通訳と認知 大新書局出版・その他多くの研究プロジェクトあり