■ モーダルシフト
『東海道物流新幹線構想』~ハイウエイトレイン~
東海道物流新幹線構想委員会 委員長 中村 秀夫
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◇◇1 背景
先般のIPCCの報告を待つまでもなく、温暖化ガスの蓄積による地球環
境の変化は紛れもなく現実となりつつある。また地球的規模で環境問題改善に
向けた具体的な骨太の取り組みが始まろうとしている。こうした動きを背景に
本年7月の洞爺湖サミットに向け、議長国日本の動きに世界の注目が集まって
おり、その具体的な肉付けが急がれている。
気候変動問題に対する解決策は個人、企業、自治体、国家それぞれがその
界を越えて全知を傾け、CO2削減に総力を挙げることに尽きると考えるが、と
りわけ化石燃料の消費削減については、自動車への過度の依存をどう転換する
かが必須の課題であり、運輸部門においては、人流、物流の両面から大幅な排
出削減を実現すべく大胆で革新的な政策転換が求められている。
◇◇2『東海道物流新幹線構想委員会』の発足
そこで、わが国において、人流のほか物流部門においても大動脈であり、
一大混雑区間である東京~大阪間のいわゆる東海道メガロポリス区域において、
世界に例を見ない画期的なモーダルシフト施策の実現に向け、有識者10名で構成
する『東海道物流新幹線構想委員会』が本年2月に発足した。
◇◇3 東海道物流新幹線(ハイウエイトレイン)の概要
東海道物流新幹線(ハイウエイトレイン)とは、現在の東名・名神高速道
路に並行して計画されている「新東名・新名神高速道路の中央分離帯や既着工の
使用未確定車線」などを最大限活用し、物流の大動脈である東海道ルート(東京
~大阪間)に、最先端の技術を駆使した「物流専用鉄軌道」の開設を目指す構想
である。
道路と鉄道、両者の利点を生かし、鉄道の特性(大量・定時性、低環境負
荷・省エネルギー等)をベースに、トラックの特性(機動性、利便性等)を取り
入れた、「環境にやさしい、利用者のニーズに対応できる新しい幹線物流システ
ム」を構築する。
◇◇4 期待される効果
この構想による主なメリットは、
(1)エネルギー消費量の削減
(2)CO2発生量の大幅削減
~「地球環境問題の改善に資する象徴的プロジエクト」~
(3)トラックドライバーの人手不足解消、就労環境の改善
(4)大型車の事故の減少、乗用車ドライバーの安心感の増大
(5)日本発の技術・システムの展開による世界へのアピール
等々であるが、加えて、道路敷地内に軌道路線を導入することによって、
自動車専用の社会資本である道路空間を多機能・多用途化し、幅広い国民的財産
としての新しい位置付けを可能にする。
このことは、道路の持つ社会的価値を高めるとともに、環境政策への寄与
という側面からも評価されるべきもので、大量輸送が可能な専用軌道への見直し
が進む世界の情勢に一歩先立つものとして、国家的意味も大きいと考える。
◇◇5 最後に
猛暑と暖冬。あるいはその連鎖、反動で起きてくる様々な異常気象、地球
温暖化が現実のものとして我々に迫っており、解決の動きはまさに世界を挙げて
緊急性を要するものである。
こうしたなか、京都議定書を策定したCOP3の議長国日本は、2050年、
CO2半減というメッセージを世界へ発信しているが、環境元年である本年に遅
れている運輸部門において、省エネ・温暖化ガス削減の具体的モデルを提示し、
世界に範を示すことも一策である。また、少子高齢化による労働力を考慮すれば
、将来の総合交通体系、物流システムについて真剣に検討していく必要がある。
国土の狭い日本だからこそ、「道路と鉄道の一体化」を実現できるこの"
物流新幹線構想"は、その大きな力になると確信している。
◆1)基本コンセプト
・ 新東名、新名神の中央分離帯や既着工の使用未確定車線など活用
・ 環境にやさしく、大量輸送に適した、貨物専用・軌道系システムの導入
・ 自動運転、無人運転とする
・ 複線電化(第三軌条集電方式)
◆2)諸元(案)
・ 運行距離 :600km
・ 速度・所要時間:平均時速90~100km、東京・大阪6時間30分
・ ターミナル箇所:東京、名古屋、大阪の3箇所のほか数箇所
・ 軌間 :狭軌(JR等の在来線と同一)
・ 列車編成 :5両1ユニットを複数連結、1編成最大25両程度
輸送需要によりフレキシブルに対応
・ 駆動方式 :動力分散駆動、急勾配区間はリニアモーターに
よる支援システムを採用
・ 輸送力 : 三大都市圏相互間で、約20万トン日を想定
・ 積載貨物 : コンテナ(45ftから20ftまで)方式
◆『東海道物流新幹線構想委員会』・委員名簿(2008年6月現在)
委員長 中村 秀夫 武蔵工業大学学長・東京大学名誉教授
副委員長 横島 庄治 特定非営利活動法人環境システム研究会理事長
委員 井口 雅一 東京大学名誉教授
枝廣 淳子 (有)イーズ代表取締役・環境ジャーナリスト
岡部 正彦 (社)日本物流団体連合会会長
金田 好生 ジエイアールエフグループ経営者連合会会長
杉山 雅洋 早稲田大学商学部教授
鳥野 良三 (社)東京都トラック協会会長
松尾 稔 前名古屋大学総長・名古屋大学名誉教授
三村 光代 (社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント
(計10名・50音順)
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