■民主党の敗因とその再建 岡田一郎

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2005年9月11日に実施された第44回総選挙は、自由民主党(自民党)が単独で安定多数を上回る296議席を獲得する大勝利をおさめた。連立与党の31議席を加えれば、与党の議席は衆議院の総議席の3分の2を占め、参議院で否決された法案を衆議院で再可決できることとなった。一方、「政権交代」を訴えた民主は前回総選挙の獲得議席から64議席も少ない113議席しか獲得できないという大敗を喫した。

私は上記のような選挙結果は、自民党(ひいては小泉純一郎首相)の選挙戦術の巧みさによってもたらされたものではなく、民主党の自滅によってもたらされたものであると考える。小泉首相が衆議院を解散した直後、マスコミの報道は自民党より民主党に好意的であった。民心は、自分たちの内輪もめのために衆議院を解散した小泉首相に批判的であったからだ。解散直前、政治広報センターの宮川隆義氏が、次の選挙で、民主党で単独過半数を獲得する可能性があるという予測をたてるなど、民主党勝利を予測するマスコミは多かった。

その報道姿勢が変化したのは、郵政民営化法案に反対した自民党の代議士たち(造反議員)が、衆議院解散後も、自民党への残留に未練を残し、衆議院の解散に狼狽する態度を見せたころからである。そのため、造反議員たちの卑小さが目立つ結果となり、造反議員たちに厳しい態度で臨む小泉首相の姿勢を相対的に魅力あるものに見せてしまったと思われる。郵政民営化は小泉首相が長年、主張してきたことであり、それが否決されれば、衆議院解散に打って出ることぐらい、誰の目にも明らかであったはずである。にもかかわらず、なぜか造反議員たちだけがそのことを想定していなかった。

後に、小沢一郎民主党副代表が述べているが、もしもこの時点で、造反議員たちが自民党に離党届を突きつけ、新党結成に乗り出していれば、マスコミの関心は造反議員に向き、風向きはまったく逆方向に吹いていたであろう。私が疑問に思うのは、ここでなぜ、民主党が事前に造反議員たちと連絡をとっておかなかったのかということである。郵政民営化法案の参議院での否決が見え始めた段階で、民主党指導部が造反議員と連絡をとり、造反新党の結成と総選挙での協力を話し合っておけば、衆議院解散後、造反議員も民主党も小泉首相に対してもっと毅然とした態度をとることが出来たはずである。

民主党指導部の見通しの甘さは厳しく非難されなければならない。

このような政局の見通しに甘さが出た原因は、指導部にベテラン議員が欠け、ベテラン議員もまた指導部から距離を置いて、有効なアドバイスを与えようとしなかったことが原因であろう。これからは、指導部はベテラン議員にアドバイスをあおぎ、ベテラン議員もまた代表を支えるような挙党一致の体制を築く必要があるだろう。

総選挙では、民主党は郵政民営化をはじめとする小泉改革に明確に反対せず、「自分たちのほうがより良く改革できる」という立場をとったが、このような主張は有権者にはわかりにくいものである。1950年代、旧西ドイツで再軍備論争が巻き起こったとき、野党・社会民主党は「再軍備に賛成だが、与党案のこういう部分が良くない」という反対をして、有権者を混乱させ、総選挙での敗北を導いたという例がある。

※むしろ、民主党は小泉改革の非を訴え、小泉改革によって切り捨てられる社会的弱者や地方の救済を前面に出すべきではなかったか。

今回の総選挙では、反小泉内閣の姿勢を明確にした国民新党や日本共産党は公示前勢力を維持し、社会民主党(社民党)は議席を増やした。特に社民党は党消滅の危機すらささやかれていたにもかかわらず、2003年総選挙のときの得票数(比例代表区)約303万票を大きく上回る約372万票を獲得し、絶対得票率も2.96%から3.61%へと伸ばすことに成功した。これら小政党の健闘は、小泉改革に対して批判的な意見をもちながら、民主党の小泉改革に対するあいまいな態度にも不満を持つ層の一部が反小泉改革の旗幟を鮮明にする小政党支持に流れ込んだことを示唆している。

今後は、小泉改革に対する対決姿勢を鮮明にすることである。今回の総選挙での民主党のマニフェストを見ても、年金一元化とイラクからの自衛隊撤退を除けば、自民党の政策とほとんど変わらない。これでは、年金やイラク問題に興味のない有権者は積極的に民主党を支持することは出来ない。さらに、小泉改革の結果、膨大な失業者・派遣労働者、フリーター、ニートが発生しているが、いわゆる「負け組」と呼ばれる人たちをどのように救済するのかという観点も抜け落ちている。派遣労働者やフリーターが増加した結果、企業において技術の継承がおこなわれず、収入が安定しないため、結婚できない若者が増え、社会保険料が納付できない人も続出している。

派遣労働者・フリーターの増加という問題をどう考えるのか、この一点に絞っただけでも、有効な政策を打ち出せれば、民主党は大きな支持を集めることが出来ただろう。少なくとも、郵政民営化よりは国民にとって切実な問題である。まずは、民主党の国会・地方議員や候補者に「負け組」の人々とよく話し合うよう義務付けることからはじめてみたらどうか。政策を打ち出すには、まず実態を知ることである。

選挙戦が始まってからの岡田克也党首の主張のぶれも民主党大敗の理由のひとつであると思われる。昨年の参議院選挙で民主党が勝利をおさめることが出来たのは、政策を愚直に訴える岡田党首のひたむきさが小泉首相の言動の軽さに飽いていた有権者の心をつかんだからだと思われるのだが、今回の総選挙では岡田党首はマスコミ報道を気にしすぎたのか、主張を二転三転させ、頼りない印象を有権者に与えてしまった。確かに、小泉首相に迎合したマスコミの選挙報道は醜悪であったが、それに動じない姿勢を見せれば、マスコミ報道に嫌悪感を持っていたであろう多くの有権者の心をつかむことが出来たのではないか。

そのほかに、民主党がこれから考えていかなくてはならない問題として、新人候補の問題がある。これまでは、自民党には当選回数の多いベテラン議員が多かったため、年齢の若い候補や女性候補は民主党から出馬することが多く、有権者はそんな民主党に新鮮さを覚えて、支持してくれていた。しかし、今回の総選挙では、自民党はベテラン議員たちを「造反議員」として党外に放逐し、かわって若手候補や女性候補を「刺客」として投入し、民主党のやり方をそっくり真似てきた。若手候補や女性候補が民主党の専売特許にならなくなった今、民主党は新人候補の発掘をより慎重におこない、自民党より少しでも良い候補を得る努力をするべきである。

そして、新人候補に対しては民主党の理念と政策を徹底的に教え込む必要がある。民主党新人候補の中には、小泉首相以上の無邪気な市場原理主義者やナショナリストが多々、見受けられたように思われるが、このような自民党の候補と見分けがつかないような候補は出来るだけ少なくして、小泉改革に対して対決意識を持つ、民主党らしい候補者の擁立をはかるべきである。

小泉首相のペースに乗せられて、小泉首相と一緒に新自由主義的な改革を訴えている今の民主党の姿勢では、誰が新しい代表になっても、政権交代は望めないであろう。

※岩間陽子『ドイツ再軍備』(中央公論社、1993年)参照。

(筆者は日本大学経営工学部講