■ 農業は死の床か。再生の時か。 濱田 幸生

民主党の有機農業支援潰しを許さない!

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 民主党は自民党より悪い、これが私の住む行方地域の有機農業者の判断です。
先日の行政刷新会議と称する民主党政権によって、私たちが進めてきた有機農業
支援事業は一瞬にして葬り去られました。


■一瞬にして、なんの議論もなく、なんの資格を持つかわからない人々によって


 「事業仕分けは、今まで密室でされていた予算編成を、国民に見える場所にひ
きずり出した。無駄を省いたのは大きく評価できる。しかし、有機農業まで削る
となると、ミスもあるのだろうと驚いた」。おおよその国民の意見の最大公約数
もこんなところでしょうか。 私は違和感を覚えています。それは単に今回たま
たま、「仕分けされる側」になってしまったからではないようです。

 この事業仕分けは、不況にくさくさしている国民にとって痛快な同時進行の政
治ショーでなかったのかと思います。裁判官と検事を兼ねた女性議員が弁護人ぬ
きで、ペンを突きつけながら早口で悪である官僚をやっつける。口ごもると、す
かさず、次の質問。答えようとすると容赦なく、言葉を被せる、話の腰を折る。
  そしてなんと「あなたがしゃべる場ではないのです」という言葉すら襲いかか
る。まさにサディスティックな場でした。
  このような空気の中で、私たち有機農業者が、30年の歴史の中で初めて国家
から得た支援法は、「無駄」としてゴミ畠に投げ捨てられたのです。そしてあっ
けないほどの短時間で終了し、「はい、要りませんね。廃止!」


■醜悪な政治ショー


  このような政治ショーは、今まで私の記憶にもありません。私には日本がまっ
たく別の国になってしまった悪夢のような気さえします。まるで古代ローマの五
賢帝時代が終わり、暗愚の皇帝コモドウスがしたという「パンとサーカス」の政
治のようです。コロッセオに甘いパンを籠にたくさん盛った美しい乙女が現れま
す。そして大観衆にパンを撒きながら、そして始まるのです、血なまぐさいショ
ーが。この「パンとサーカス」によって、古代ローマの愚民化政治はただならぬ
ところまで進みました。市民は、かつてのような共和制を思い出すことなく、政
治的に頽廃し、古代ローマは衰退への坂を転がり落ちていくのでした。

 「パン」を子供手当て、農家個別所得補償、高速道路無料化に読み替えてみれ
ば、「サーカス」とは何なのか、申し上げなくても、わかって頂けると思います。
私には、ここで仕分けられた事業のひとつひとつについて、知る立場にはあり
ません。ですから、私が今ここで問いたいのは、個々の事業の仕分け結果ではな
く、その「やり方」なのです。「切る」・「廃止する」という場面のみが国民に
強調されて、「なぜ」、「なにを」、「今後どうしていくのか」、あるいは「な
にが大事なのか」という議論がまったく不在のまま、鳩山首相は公開された国民
監視のもとの政治が行われた、これこそが民主主義なのだ、と言いきってしまい
ました。


■目隠しをされた国民


  国民はその場を共有しているようですが、実は大事なことは何も知らされてい
ません。有機農業支援事業が廃止となったことなど、100人の国民のうち1人
でも知らされていますか?モデルタウン事業が一律に廃止になりましたが、その
中で環境関係が多く含まれていることを知っている人が何人いますか?いや、事
業仕分けの中に入っていたことすら知っていましたか?

 ましてそしてその廃止理由が、単なる「効率的ではない」ということだと、何
人の国民が知りえたでしょうか。「効率」という経営的な裁断で、有機農業支援
という未来への投資が打ち切られたことを、誰が知っているのでしょうか。私た
ち国民は、ほんとうは、目隠しをされたままま観客席に連なる「客」にすぎない
のです。手には何の資料もなく、闘技場をテレビやネットで観覧することのみし
か許されない「客」にすぎないのです。私たちは、・・・この有機農業者である
私も含めて、事業仕分人の大袈裟なショーに、歓声を上げることしか許されない
ただの見物人なのです。
 
国民は、その手続きも、選ばれた理由すらあきらかでない仕分請け負い人をた
だ「見る」ことだけで、民主主義がなされたと思い込まされてしまったのです。
公開というトリックにだまされたのです。もしそんなに「公開」が素晴らしいの
なら、公開処刑も「密室で今までされていた死刑が、公開されて素晴らしいです
ね」と言うのでしょうか。


■大事なことは農業の未来を語り合う場をつくることではないのか


 ほんとうに重要なことは、たとえば私たちの有機農業支援事業ならば、目先の
効率ではなく、将来の日本の農業や環境を日本がどうしていくのか、国としてど
う考えていくのか、どのような政策を持つべきなのか、そここそを明らかにせね
ばならなかったはずです。少なくとも国が主催する事業ならば、それが大前提な
はずでした。
そのような議論が一切ないところで、効率とコストのみで仕分けすることを、国
民が「監視している」という理由で、それを「民主主義」と呼ぶならば、どこか
大きなところで踏み外していると私には思えてなりません


■■■仙谷行政刷新大臣への13の公開質問状■■■


  以下は私が仙谷行政刷新大臣に提出した公開質問状です。今に至るも返答はあ
りません。

■公開質問状■
拝啓 仙谷大臣殿

終了した事業仕分けについていくつかご質問いたします。私は、今回の事業仕分
けにおいて「廃止」を宣告された有機農業モデルタウン事業を受託した有機農業
団体の者です。

■さて、第1の質問ですが、この仕分け事業は、仙谷行政刷新大臣の指揮下にあ
る、「行政刷新会議」の、「事業仕分け」という名称の作業と理解しております。
この事業仕分けは民間事業ではありえない以上、これは政府事業ということに
なりますでしょうか?

■第2の質問ですが、この事業種分け主体である「行政刷新会議」についてお聞
きします。この組織は、いかなる国の最高議決機関たる国会の手続き、承認を経
て作られたものなのでしょうか?

■第3の質問です。国家予算を「廃止」、「縮減」に仕分けるということは、国
と国民、企業、あるいは地方自治体との予算に基づいた契約を一方的に国の側か
ら破棄、あるいは、変更することを意味すると思われますが、いかがでしょうか?

■第4の質問です。その、国の側からの一方的な契約の破棄、ないしは変更とは、
国権の発動そのもののだと思われますが、いかがお考えでしょうか。

■第5の質問です。この国権の発動たる国と国民、あるいは企業、地方自治体と
の契約を一方的に廃棄する権限を、国会の承認に拠らない「行政刷新会議」と称
する任意団体に付与したと解釈してよろしいのでしょうか。

■第6の質問です。このような国権の発動たる権限の付与を、誰が、いつ、どの
ような権限において発令したのでしょうか。その根拠をお教えください。またそ
れに関する文書名、その根拠たる法律、法令名、責任者名を開示ください。

■第7の質問です。このような「行政刷新会議」を法的に根拠づける法律、法令
がないならば、この「事業刷新会議」は、仙谷大臣の私的諮問機関であると解釈
することになりますが、その解釈でよろしいのでしょうか。

■第8の質問です。「行政刷新会議」が大臣の私的諮問機関であるならば、この
ような私的諮問機関が出した結論は、いかなる法的拘束力を持つのかお教えくだ
さい。

■第9の質問です。この「行政政刷新会議」は、「事業仕分けワーキング・グル
ープ」と称する一群の集団が完全に支配しておりますが、この仕分人はいかなる
基準をもって選抜したのでしょうか?それがいかなる理由に基づいた人選である
のかの基準、及びそれを選抜した責任者名を開示ください。

■第10の質問です。この人選についてお伺いします。今回の有機農業モデル事
業仕分けに際して、有機農業について知見をもった農業専門家が存在しません。
有機農業推進法に基づいて、既に「有機農業推進会議」という枠組みが作られて
おります。この生産と流通、消費まで網羅した枠組みをなぜ利用されず、まった
く別の人選をなさったのでしょうか。その理由をお聞かせください。

■第11の質問です。今回の有機農業モデルタウン事業は、既に受託して2年に
なろうとしております。この段階で廃止を受けると、地域との関係などで多大な
被害を被ります。このような関係諸方面ぬきでの拙速な作業は、一方的かつ不当
なものだと思います。なぜ受託者代表を仕分けの場に招致しなかったのでしょう
か。

■第12の質問です。最大の疑問は、「廃止」の理由づけです。「新規性に乏し
い事業を含んでいるので、波及効果の高いものに絞って、画期的なモデルのみを
支援すべきである」とのことですが、あまりにも短いので私には理解しかねます
。有機農業モデルタウン事業も40数カ所に及びますが、そのどこが「新規性に
欠ける」のかお教えください。

■第13の質問です。前項を受けての最後の質問です。ならば「波及効果のある」
有機農業モデルタウン事業とはいかなるものなのか、「廃止」を宣告した責任
者としてご教示ください。以上、よろしくご返答いただきたく思います。
                                 敬具 

               茨城県行方市在住 農業者 濱田幸生 


■■■赤松農林水産大臣への要望書■■■


                        平成21年12月2日
農林水産大臣 赤松 広隆 殿
                              

      有機農業推進政策支援の継続を強く要望します
  11月24日の行政刷新会議の「事業仕分け」において、有機農業モデルタウン事
業に「廃止」の判断が下されたことに、たいへん驚いております。
  ご承知のように、この事業は2006年に制定された有機農業推進法にもとづき20
08年度から開始された「有機農業総合支援対策」の中核的事業であり、全国約50
ヶ所でおおよそ5年間の活動計画のもとに活発な取り組みが進んでおります。
 
  有機農業推進法は、国内有機農業の推進を目的に貴連盟が中心となり超党派の
議員立法で、衆参両院にて全会一致で成立した法律であり、同法の施行には、広
く国民の支持と期待が寄せられています。
  したがいまして、同法の趣旨をもっともよく体現し、かつ、有効な施策である
有機農業モデルタウン事業が廃止されることは、有機農業推進政策の趣旨に反す
るものと言わざるを得ない事態です。
 
「事業仕分け」を受け、これから具体的な予算編成が開始されますが、私たちは、
上述のような有機農業推進政策に逆行する予算編成は到底承服できるものでは
ありません。もしこれを許せば、モデルタウン事業をすすめる地域では、おおよ
そ5年の時間をかけた有機農業の普及・定着化の展望を切断されることになり、
全国的な有機農業推進政策にとって大きなダメージを受けること必至であると断
言できます。
  貴職におかれましては、有機農業のさらなる推進をめざし、モデルタウン事業
の継続・展開が可能となるよう、ぜひ、予算編成にかかる政府関係者、関係当局
へ積極的にご提案いただきますよう、ご尽力たまわりますよう、強く要望申し上
げます。
                   以上、よろしくお願い申し上げます。
    なめがた有機農業推進協議会


■■有機農業支援存続のためにお力をお貸しください!■■


  以上の文書を、民主党幹事長室、農水大臣、有機農業推進議員連盟等の関係諸
方面に送付いたしました。ご協力を賜りました皆様に心から感謝いたします。
  状況は予断を許しません。鳩山首相は、この事業仕分けを受けての予算復活は
基本的にない、復活するとすれば国民に説明責任があると言っています。むしろ、
ご自分の巨額の不正な政治資金疑惑に対して説明責任をとられたほうがよろしい
のではないでしょうか。
  各方面で不条理な廃止に対して怒りの行動が起きておりますが、国民の8割ま
でもが喝采を上げている状況下での苦戦は免れません。

 おそらく、国民は内容的にはまったく無理解なまま事業仕分けの「悪代官懲ら
しめショー」に拍手しているのではないかと思われます。したがって、国民の支
持なくしては、有機農業支援は断ち切られてしまうことでしょう。私たちは微力
ではありますが、この圧倒的な有機農業に対する逆風に抗して戦う所存です。
しばし、お力をお貸しください!

           (筆者は茨城県在住・農業者)

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