民主党惨敗の原因と次期参議院選挙 仲井 富
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●民主党はうそつきを清算せよ 片山善博氏
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予想通りというか予想以上というか民主党は自滅的な政権運営で惨敗した。そ
れによって国会は憲法改正可能な政治勢力が三分の二をしめる結果となった。こ
のような政治状況をもたらした民主党は、その敗北の責任と結果についての深刻
な自己反省が必要だ。さまざまな指摘がされているが、もっとも説得力のある問
題点の指摘は、民主党政権の総務相を務めた片山善博慶大教授の指摘がもっとも
正鵠をえている。片山氏は以下のようにいう。
―民主党は高をくくっていた。3年前の衆院選で「消費税は上げません」といっ
て政権を取ったのに、まるでそんなことは言っていなかったような振る舞いをし
た。野田首相は「消費税引き上げは大義だ」とまで言い始め、世間の人は大うそつ
きだと見た。ところが、どういうわけか、民主党に残った議員たちは自分の中で
その問題を勝手に清算していた。党の再生はうそつきを解消する作業から始まる。
民主党を支えるのは当選した人たちですから、そんなうそは大したことてはない
と思っているかもしれないが。―(毎日新聞2012年12月18日三者座談会 選挙結
果と今後)
片山氏は世界2月号でも「世の中では、よほどの悪人でない限り、嘘をつく時に
作法がある。どうしても約束が守れなかったのか、その理由を言い募るものだし、
これだけ努力したけれど結果として約束を守れなかったと縷々言い訳するのが一
般的だ。しかし野田総理はそうではなかった。消費税引き上げは大義だと言い放
ったのである。お詫びも説明もないまま大義などというのはいくらなんでも脳天
気すぎる」。(世界2月号 政党政治の「希望」はどこにあるのか 『民主党大敗
とその教訓』)
しかも片山氏は民主党の大臣も議員もことごとに、野田首相と同じく消費税値上
げなどの公約違反にたいして脳天気だったことに呆れている。
民主党のうそを上げてみると、
①沖縄普天間基地の県外海外移転と日米行政協定改定、
②政治の透明性の象徴、官房機密費の公開法案の提出、
③コンクリートから人へ、八ツ場ダム等の中止、
④国会議員定員80人の削減、
⑤高速道路無料化とガソリン税廃止、
⑦消費税は聖域なき行革で4年間は上げない等々の約束をことごとく投げ捨てた。
さらに東北大震災と福島原発事故で、情報公開の要であるSPEEDIの情報を
隠ぺいし、高い放射能のもとに住民をおきざりにし、かつそのために山野にまで
放射能汚染を拡大する結果を招いた。
民主党政権は国民への約束事を、何らの説明も謝罪もなく平然としてふみにじ
った。片山氏はこれを「大うそつき」というのである。その結果として有権者は、
あまりのひどさに怒って民主党を見捨てて、やむを得ず自民党に回帰した。政治
に希望を失った人々は棄権に回った。
かつて自民党代議士だった父親を持つ女性に会った。「私は80年余の人生で初め
て棄権した。だれも投票したい人はいなかった。自民も二世ばかり、日本は滅び
る」と嘆いておられた。長年の自民党支持者でさえ、この政治状況を歓迎してい
ないのである。
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●消費税値上げで二度非自民政権崩、社会党消滅の歴史
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小沢、鳩山、菅、野田などは1993年の細川非自民連立政権のメンバーだった。
細川政権の瓦解は、小沢氏が突如として国民福祉税という消費税値上げ7%を持
ち出したことだ。社会、さきがけが反発し、ついに社会、さきがけは自民との連
立政権に走った。そして国民福祉税には反対していながら、自社さ連立政権では、
社会党の久保旦蔵相の下で消費税を5%に値上げした。
時の衆院議長は土井たか子氏である。野党時代に消費税反対の理論的指導者だっ
た久保旦氏がなぜ簡単に消費税値上げに同意したのか。久保氏は当初、社会党書
記長として自社連立にも反対だった。
かつての自社さ政権時代の議員や秘書の話によれば、自民党の最高幹部が久保
氏に提案した。「あんたがやっている間は鹿児島選挙区の定員2名は変えない。
しかし連立政権に反対なら一人区にする」。その最高幹部は社会党の連立派の国
対幹部に「案外簡単だった」と報告に来たという。
久保蔵相に、消費税値上げという従来の主張と正反対のこををやらせるために、
当時の自民や大蔵省はさまざまな手段を使った。久保旦氏の死後、家族の知らな
かった3億円の預金通帳が出てきた。それを知った関係者は、これこそ大蔵省と
自民の久保氏への贈り物だろうと話していた。久保氏は生前に『連立政権の真実』
(読売新聞社刊)なる自著を出版して亡くなった。不思議な事にそこには蔵相時
代の消費税値上げに関する話は一言半句もない。これも大きな謎である。
細川非自民政権は国民福祉税構想で崩壊した。自社さ政権に参加した社会党は
安保、自衛隊容認で党是を放棄し、さらに消費税値上げという役割まではたし
て、次の選挙では、さきがけとともに惨敗消滅した。そういう歴史を知っている
はずの菅や野田をはじめ、民主党の幹部らがなおも同じ轍をふんで、民主党政権
を消滅させた。
非自民政権に消費税値上げを容認させ、成立へのシナリオを書いたのは、すでに
周知のように財務省前次官の勝氏である。政権発足時の財務相は大蔵省OBの藤
井氏、野田は副大臣、自治労出身の峰崎は政務官だった。間もなく、野田も峰崎
も消費税値上げに方向転換した。そして副首相から財務相になった菅氏も消費税
値上げに転向する。その転向の仕方があざとい。
財務大臣のときは「いまこの連立政権において、まだ無駄使いが十分なくなっ
ていない段階で4年間消費税をあげることはしない」と明言した(2010.1.21
衆院予算委員会)。ところが首相になった途端、2010年6月21日の記者会見で、
「自民党の10%案を参考に値上げを考えたい」と豹変。参議院選挙を控えた党内
で批判が高まるや「議論をスタートさせましょうといっただけ」と弁明したが、
案の定、2010年参院選挙では大敗し与党過半数を失った。
にもかかわらず、財務省のシナリオに乗って、財務省・自民党の頭脳である与謝
野氏を担当大臣にまで迎えて「税と社会保障の一体改革」なるまやかしで強行し
た。2010年8月のあの時点で、民主党は財務省の脳みそを移植し、民主・自民党
となった。国民にはそう映った。だが政権を維持できればいいと考える、民主議
員と周辺の連合や学者評論家・旧社会党の面々は、この変節を容認した。
細川非自民政権は国民福祉是構想で崩壊し、自社さ連立政権では社会党が消費税
値上げで消滅。いずれも自らを犠牲にして自民政権の延命と回復に貢献した。そ
して国民からは、「大うそつき」民主の烙印を押された。
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●目前の参院選挙と惨敗民主党の可能性
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すでに政局は、7月の参院選挙を当面の政治決戦として動き始めている。民主
党の細野幹事長は、自公に三分の二の議席を与えないために、野党第三局の選挙
協力が必要を唱えている。だが、これだけのうそを固めて惨敗して、有権者から
見放された政党と組もうというところがあるだろうか。
まず、民主党は選挙協力などを言い出す前に、民主党政権の過去3年間の振る舞
いについて反省し謝罪するところから出発すべきだろう。戦後の総選挙で、前首
相、議長、財務大蔵など閣僚8人が落選するという未曾有の敗北に至った経緯を
きちんと総括すべきではないのか。頭を丸めて反省することなしに、選挙協力な
ど応じる政党があるはずはない。
小沢氏も同じく野党協力を言っているが、あれほど簡単に未来の党を自派の利
益のために解党して、340万人の比例区投票者を裏切ることを平然とやり、同じ
く民主党を崩壊に導いた責任大である。民主、生活の呼びかけに乗ってくる党派
は皆無と言っていい。うそつきの代償は大きいが、民主党には、それをきちんと
自覚して、沖縄をはじめとする国民に、できないことをなぜ約束したのか、なぜ
できなかったかを説明し謝罪しなければなるまい。だが民主党の海江田、細野執
行部には、そういう姿勢は全く見られない。参院選挙の展望は絶望的である。
03年からの国政選挙では、民主の比例区得票は、衆参ともにほぼ約2100万票、
保革逆転した07年の参院選挙でも約2300万票だった。しかし2010年の参院選挙で
は、比例区得票は与党民主約1800万票、国民100万票で計約1900万票、野党自民
は約1400万票、公明760万票の計2160万票だった。比例区ではなお自民を上回っ
ていたが、公明の比例区票のおかげで自民が勝利した。これは端的に一人区での
勝敗に直結した。民主は一人区では4議席しか獲得できなかった。
今回の衆院選で与党民主の比例区得票は約960万票で010年参院選の半分。野党
自民の比例区得票は約1660万票、公明比例区得票710万票で計2370万票。民主比
例区得票の2倍以上だ。自民は前回参院選よりも約260万票増えたが前回08年の衆
院選に比べれば約200万票少ない。これは今回の衆院選挙が戦後最低の投票率だ
ったという背景も考慮すれば自民は前回勝利した2010年参院選よりも増えたとい
うことに注目すべきだろう。
単純に比較しても、民主単独では960万票、どう考えても31になった一人区で
は自公に完敗という見通しになる。都市部は本来、民主の地盤だったが、11年の
地方選挙で仙台、大阪、福岡、東京、神奈川、名古屋、福岡など主要都市でこと
ごとく敗退し昔日の面影はない。都市部ではさらに今年6月の東京都議選で民主
第1党の議席はほぼ完敗と予想されており、それにつづく7月の参院選で民主の
敗退はまちがいない。
民主党は7月の参院選挙の完全敗北を受けてからでないと、本当の再スタート
はできないだろう。いまだに参院第1党の座に安住しているからだ。砂上の楼閣
のような衆院過半数の座に安住して惨敗したが、もう一度参院選で敗退して後、
再生再建が可能になるだろう。社民に続き民主も絶滅危惧種的政党に転落するか
どうかの境目にきている。
(筆者は公害研究会代表)