【オルタの視点】

<座談会> 民進党に可能性はあるか

出席者 民進党衆議院議員  近藤 昭一篠原 孝阿部 知子 司会/北岡 和義


【北岡】 第二次安倍政権になってから、極端に法律も政策も、考え方としてのリベラリズムが非常に後退してきているというと感じています。昔、冷戦時代は、保革対立と言ったが、今はもう「革」のほうはなくなってしまっているという中で、今日の3人の先生方は、非常にリベラルなところを大事にしていこうという政策的な側面が共通しています。
 今日は政策も聞きますが、基本的にはこれから日本の国の中で、自由なものの考え方をするという言論も含めて、これをどう拡大し、力ある勢力にしていくかという難しい課題についてお伺いしたいと思います。3人のみなさんは政治経験も豊富でしょうし、いろいろお考えもあると思います。
 まず、阿部さんからお伺いしたいのですが、いまなぜこのような状況になってしまったのか。メディアが非常に後退しているという状況もあるが、民進党の中にも、リベラルな声が非常に小さくなってきているという状況ではないか。「いったい何なんだ」という現状認識からお聞きしたい。

【阿部】 ソビエト連邦の崩壊以降、55年体制の崩壊以降、何をもって保守と言い、何をもって革新と言うかも含めて、何がリベラルなのかが、そもそも見えなくなっているのかなあと思います。かつてだったら、保守の自民党、リベラル・改革派の社会党という、擬制の対立——徹底的ではなく、どこかで手を結びながら、しかし、自民党も社会党のいいところ、主張を取り入れながら、日本は擬似社会民主主義国家を運営してきました。外交においては、田中角栄さんも日中国交回復をしましたし、ある意味で、リベラルであったんだと思います。それは戦争経験というものが、やはり大きく影響していた。

 時代が2つの意味で変わって、戦争が風化する、記憶がとどめられない、若い議員が増える、そして、外的状況としては、大きなイデオロギー対立が崩れるという中で、いったい何が主要な問題なのか、ということが変わってきているからだと思います。私はこの要因がすごく大きいから、あえて言えば、あえて言えばですが、民進党にリベラルを求めるわけではありません。はっきり言えば、民進党はとてもコンサーバティブだと思います。分配の法則に則って、もっとよこせ、もっとよこせというのを、延長線上でまだやっているから、最もコンサーバティブだと思います。
 それに比べて政権与党は、人口は減るわ、働き手は少なくなるわ、金融資本主義になるわ、わけわかんない世界の中で、何とか政権運営をしていかなくてはならないから、もがきながら、しかし、実は答えは見出せず、従来の古い利権構造にしがみついている。おぼれかかっている。だけど、対抗する民進党の方がもっと古くて、自分たちは主流派から分けて取ろうとしている限り、これはかなえられない。私はそこにリベラルが消えた理由あるのではないかと。

【北岡】 主流派から分けて取るというのは?

【阿部】 主流派というのは政権与党です。権力を持った側、あるいは経済政策を打っていく側から、分配をもらうと。

【北岡】 分け前をもらいたいと。

【阿部】 そうです。ただ、そういうことはもうあり得ないんだと、あえて言えば思います。まだ、そういうところに残滓をもっている民進党は、私も含めてですが、勝てない。だからリベラルは消えるべくして消えているし、新しい軸が必要だというのが、私の「極論」です。

【北岡】 非常に厳しいというか、ある意味において、そうなのかなあという思いですが、それでは困るわけです。立憲フォーラムを立ち上げて、一生懸命、熱心にずっと院の内外で行動し発言しておられる、その代表である近藤昭一さんに伺いますが、私どもは近藤さんのおやりになっていることに、非常に期待をしているわけです。今のこの阿部さんのかなりデスパレートな、ネガティブな評価、現状認識に対して、近藤さんはどうご覧になりますか。

【近藤】 私もいろんな悩み、課題があって、それが複雑にからみ合っているといつも思っています。いま北岡さんのおっしゃったことで言うと、なぜ戦後71年たった今、安倍政権のような非常に大国主義的な、かつてアジア太平洋戦争の頃のような政治勢力が、非常に大きくなってきているのか、ということについて、私も「なぜだろう」といつも思っています。
 かつてはまだ、それに対抗する自民党内勢力があれば、非常に保守的な自民党内勢力があった。そこにさらに社会党、のちに社民党という社会主義を信奉する対抗勢力があったと思うんです。最近では、そうしたイデオロギー的な対立はよくないと言われますが、一方でそのイデオロギー的な対立が、ブレーキになってきたところがある。高度成長をしてきて、いろいろと厳しい状況は言われますが、やはり世界の中でも、今でも第3位という経済大国ですが、一方で、今の状況は非常に格差が大きい。そして、高度成長化、経済的に成長する中で、イデオロギー的な対立がいささか弱まり、ブレーキがききにくくなった。

 ところが一方の、安倍さんのような大国主義的なところは根強く残ってきていて、ここに対してリベラル的な勢力、リベラル的な勢力を推そうという、ある種の核が非常に弱まってきてしまった。ただ、先ほど申し上げたように、格差が広がってくる中で、やはりおかしいと、大国主義ではだめなんだ、ということがだいぶ起こってきているのが最近でしょう。
 特に昨年の夏、国会の周辺の10万人以上の人が取り囲んだ、それも組織ではなくて、ひとりひとりが自分の意思で来ていた。私がずっと政治の世界に入ったときから、武村正義さん、石橋湛山さんの小国主義、つまり軍事大国ではなく、世界の人々とおたがいの信頼感をもって、そしてその中で、貿易等々も進めて、おたがいの相互信頼、相互に頼り合って、ひとりひとりが発展していくという、その萌芽、兆しが出てきているのではないか。ですから、たしかにリベラル的なものが弱まってきた部分と、一方で、そこがもう一度根強く反抗し始めていると、押し返し始めているという期待と決意をもっているのが今のところです。

【北岡】 篠原さんは、私の印象では、旧来型の自社対立型、あるいは冷戦構造型の議員じゃなくて、非常に新しい意味での、官僚型の議員だという印象を持っているんですが、今のこのお二人の現状に対する認識について、どうご覧になっていますか。

【篠原】 簡単に言うと、今の混乱は民主党の政権、3年3カ月の政権運営がだめだったこと、これで失望感が広がっている、このことに尽きると思います。これがすべての混乱の原因だと思います。あれだけ期待されて誕生した政権与党が、期待に応えられなかった。そんなに簡単に期待に応えられるとは思っていませんでしたけれども、予想以上にひどかった、というか予想以下の度合いが相当ひどかったということですね。

【北岡】 その最大の原因はどこにあったと思いますか。私も全く同じ認識なんですが。

【篠原】 最大の原因は、これはあんまり言ってはいけないと、いろんな人から言われるんですが、菅・野田ですね。もうポピュリズムに本当に走って。われわれがせっかく政権を取ったんだから、政権を取って、われわれのさんざん考えてきた政策を、じっくり実行できる体制を、一番考えなくてはいけないんです。政権の維持を。ところが総理になったらはしゃいでしまって、ぜんぜんそこに目を向けず、自分がかっこいいことをしようと。『職業としての政治』に、「歴史に判断を委ねる」とか「歴史に名を残す」とか言ったら政治家はおしまいだと書いてある。そういったニュアンスで書かれているのに、そういうことを言って、いまそこに転がっている政策を、適当なことをやろうとして、かっこつけようとしたこと、これに尽きると思います。恐ろしいんですけれども、それを羽田孜さんが予想していましたよ。

【北岡】 それはどういう場面ですか。

【篠原】 私がさんざん政界入りを口説かれたときに、「今度の政権交代したときに、一番大事なのは、一回目の総選挙を勝ち抜いて、10年近く自民党を野党に置いておかないといけない。そのためにはあなたの力を貸してほしい」と言われていたんです。私は何を言われていたのか当時はわからなかったです。「細川・羽田政権が10カ月しか続かなかった、これはよくなかった。責任ある野党、政権交代できる野党を作ろうと一生懸命やってきたのに、しかし、政権運営をしたことがないから、はしゃいでうまくいかない。だから都市部の浮気っぽい有権者はすぐ離れる。1区現象である限り、絶対にうまくいかない。2区以上、複数区以上の選挙区で、多くの同僚議員を作る必要がある。

 民主党だからというのではなくて、その議員だから、という体制にしなければならない。いずれどうせだめになって、悲惨な選挙になるけど、そのときでも議席を維持できる議員を作らなければならない。それには、一番律儀な、浮気をしない有権者に、支えられた議員を作らなければならない。
 では一番律儀な人は誰か。それは農民だ。ところが1区現象では、農政をできる人がいない。こちら側には、羽田孜と鹿野道彦と田名部正己の3人しかいない。あっち側には4人いる。だけど質はこちら側のほうがいい。若手に農政をできる人はいなくて、中堅に小平、堀米、鉢呂、この3人しかいないと。だからあなたに農政を任せると。農政がわかって、農民の心を引き止める政策を作って、同僚議員をいっぱい作ってほしい」と。そのときは意味がわからなかったです。

 そして、実際に政権交代したときに、「ああこの次の選挙は大変だなあ」と思いました。私が一番まともだと思っているのは、みんなだめだと言いますが、鳩山さんですね。鳩山さんは普天間の件で失敗して、さっと降りたでしょ。そして、政権存続のために小沢さんにもやめてもらって、菅さんに引き継いだ。菅さん以降ははしゃぎ回って、自分の業績を残すとか、消費増税、TPPという流れになりました。

【北岡】 篠原さんが羽田さんに口説かれたのはいくつのときでしたか。現役官僚の時でしょ。

【篠原】 40代後半だったんですけど、嫌だったので逃げ回っていました。8年間、「ストーカー行為」をされたという状況でした。

【北岡】 口説かれて出たわけですか。

【篠原】 そうです、そうです。私は地元の長野県中野市の市長にはなっていいと思っていましたが、だけど国会議員というのは全然念頭になかったです。

【北岡】 もう1点、篠原さんにお伺いしたいのですが、民主党政権になってからすぐに、簡単に言うと、官僚否定がありました。官僚は悪いことばかりして、自分のことしか考えていない、という。これもちょっと行きすぎたのではないかと。官僚に頼らなければ政権運営はできないと思うのですが。

【篠原】 そうですね。本来は官僚を使えばいいんです。私も選挙に出たときに、マニフェストの表紙に「脱官僚の時代」とありましたから。だから私は選挙区で聞かれました。「篠原さん官僚なのに、なぜこんな脱官僚の党に行くんだ」と。「いいや、私こそ脱官僚で政界に来たんだ」とか冗談言っていましたよ。

【北岡】 いま3人の現状認識は、まことにそれぞれおもしろいと思いましたが、ネガティブな部分を掘り出していくと、いろいろあるのかなと思うのですが、近藤さんがおっしゃったように、ポジティブな部分もたくさんあるんですよ。要するにメディアがきちんとこれを報道しないと言うことが大きな問題で、近藤さんがおっしゃったように、安保法制をめぐる運動というのは、非常に大きなものがあった。
 私は1960年に大学に入りまして、60年安保の世代ですが、国会を取りまいたのは20数万でした。しかし昨年のものは、根源的な怒りというものがあったと思うので、それをもっと結集していくというか、やはり政治は力だから、力を結集してパワーになっていかないといけないと思うのですが。

【阿部】 ひと言で言うとそこは民進党に期待できない。近藤さんがいみじくも言いましたが、近藤さんはリベラル派で、民主党の中で憲法を守るとか、護憲ということばを出すのも、以前は何となくはばかられるという状況でした。しかし、今回の安保法制をめぐる外からの圧力で、いま民進党は曲がりなりにも、勝手に憲法は改正させない、立憲主義を守るというところまで、ある意味で良いほうに変わったと思います。
 私はすごく忘れられないのですが、今までなかった光景なんだと言われたときに、私などは頑固護憲政党にいたから、大変びっくりしました。私のいた社民党にあっては、私なんかは護憲派の端にも入れてもらえないような、私はもともと憲法は主権在民で、民が選ぶんだから、その人たちに委ねるべきだ、という考え方だったので、ずっと護憲を張ってきた社民党の中では、ちょっと異端ではあったわけです。

 でも近藤さんは反対に、憲法、護憲と言うことを、何か「古めかしくて、そんなこと言ってらあ」といわれてしまうような民主党の中に長いこといらして、それが合流して、民主党の中からも、立憲主義で新たな潮流ができたというのが、この間の、安保法制をめぐる動きだったと思うんですね。もちろんそれを触媒したのは市民だし、SEALDs の学生さんたちだし、「民主主義って何だ」「これだ」というのは、「これだ」は同時に「おれだ」ということだと思いますけれど、主権者だと言っていて、ある意味で、憲法論争もフェイズを変えた。だから、政党は各々そういう流れの中で、立場を立憲主義という軸をもとに、安倍さんがあまりにも強引で、ゴーイング・マイウェイで憲法を改正したいから、「いやちょっと私たちに返してよ」というところまでは戻したのだと思うんですね。

【北岡】 新しい潮流というのはどういうものを意味していますか。SEALDs の話ですか。

【阿部】 SEALDs だけじゃなくて、今の民進党の旧民主党の中にも、例えば、私が岡田さんを党首に選んだ唯一の理由ですが、安倍政権のもとでは、憲法改正はさせない、ということなんですね。憲法を貶める人間のもとで、憲法を改正してもろくなことにはならない。岡田さんは別に護憲派でも何でもないですね。だけど、これってすごく重要なんですね。憲法って国民が作ってきたものだから、国民を卑しめる考えで、「こんなもの屁でもない」と思う人の手のもとでは、憲法を改正させないと。岡田さんは他の点は私とずいぶん考え方は違うけど、この1点においては評価して、私は「おじゃまします」と言って民主党に入りましたけど、初っぱなの党首選で岡田さんを推したわけです。それは、民主党の中でもある種、変わってきたし、SEALDs の活動も影響している。

【北岡】 このあたりのことを近藤さんに聞きたいのですが、民主党の中における「護憲」と言うんでしょうか、あるいは今の岡田さんの言っているような、安倍政権のもとでは改憲は反対であると言うことと、冒頭に申し上げたように、基本的に憲法というのは、理想的で素晴らしいものなんだ、これを守っていくんだ、本来は武力も放棄しなければならないんだ、ただ、いろいろな歴史的な経過で、今の自衛隊があるわけだから、そういうところをきちっと大事にしていこうという勢力は民進党の中にあるんでしょうか。

【近藤】 いろんな切り口があって微妙なところもあり、どういうふうに言っていくかという点も課題です。憲法によってわれわれ国会議員は縛られているわけですし、民主主義で多数であってもそれが必ずしも正しいわけではない、多数によってある種の真実が曲げられて言ってしまうところもある、だから憲法でたがをはめるんだと。でもたがをはめると言っても、この憲法だって、ときの権力者がものすごい力をもってしまえば、昨年がまずはそうだったと思いますが、ねじ曲げることができてしまう。やっぱりこれは国民自身が、この憲法を守っていかなくてはならないと言うことだと思います。
 ですから、戦後71年たって、経済成長してきた中で、やはりあの戦争でいかにひどいことが起きたか、いかに問題であったかということが、いささか記憶が薄れていく中で、善意的に考えれば、憲法は変えてもよいのではないか、という気持ちが国民の中にもあるんだろうと思います。
 それは良識的な部分で言うと、かつての民主党の中にも、とにかくかたくなに9条を守る、憲法を変えてはいけない、というのではなくて、時代に合わせて、いい意味で変えていかなくてはいけない、という気持ちはあったんだろうと思います。そしてそういう中で、9条はいささか古いのではないか、それは先ほど申し上げたイデオロギーの対立みたいなものではないか、という捉え方の中で、やはり「護憲だ護憲だ」というのはよくないという気持ちが、民主党の中にあったんだと思うんです。

【北岡】 それはかなり否定的な発言ということですか。

【近藤】 そうですね。ところがやっぱり昨年から、大国主義的な安倍さんのような考え方がずっと出てきている。これはひとつの大きな課題をはさんでの対立だと思います。つまり、ものすごい格差が広がってきて、課題が大きくなってきたときに、改めて大国主義的なものでこれを解決しようと。世界的にもそうではないかと思うのですが、安倍さんのような勢力が大きくなってきた。
 一方で、そうではない声が出てきた。そして民主党の中でも、それに気づいた、感じたというところで、民主党の中、民進党の中でも、憲法は守っていかなくてはならない、記憶が薄れていく中で、またイデオロギー的な対立をしてきた中で、護憲というのは古くさいみたいに思ってきたけれど、やっぱり憲法というのは、ときの権力者が大きな力によって、憲法さえ悪く変えてしまうことがあり得るんだという危機感を、やっと持ったのではないかと。

【北岡】 篠原さんはどうですか。いわゆる憲法問題というか、護憲か改憲か、というばくぜんとした質問ではなくて、現在、安倍がやろうとしていること、秘密保護法だとか解釈改憲だとか、安保法案だとか、かなり強権で通してきた。それに対する認識はどうですか。

【篠原】 憲法改正なんてできっこないと思いますよ。日本人はそんなにやわじゃないというか、すぐ気がついて、安倍さんや政治家をそんなに信用しませんから、政治家が趣味を出しておせっかいやり出したら、「何を言ってんだ」となって、安倍さんがいくら憲法改正を言ったって、言えば言うほど国民は離れていくと思います。だから言わないと思います。
 安倍さんからはいつも出てきますからね、憲法改正は出だしが悪くて、4日でつくったとか5日でつくったとか、日本が作ったら、アメリカが1週間で作ってきたとか。私は誰が作ったって、権兵衛が種をまいたって、烏が種をまいたって、育てばそれでいいので、実を結んでいるのならそれでいいんだと。その後で、憲法9条や他の条文も、びた一文変えてはならないとまで、言う必要はないと思います。

 憲法改正のことを言えば、私はもっとウルトラリベラルだと思いますよ。お二人にも話したことはないんですけど、私は憲法を改正してもいいと、一番最初に話したんです。だから護憲勢力からさんざんたたかれたんです。今でも講演会に行くと、「いいこと言ったけど、あなたの履歴を調べたら、憲法改正を是とするからけしからん」ということを言われますよ。私の憲法改正論は、憲法9条を改正してもいいんだ、自衛隊も自衛のための軍隊として認めればいい。その代わり、どんなことがあっても、海外に自衛隊を派遣しないと、国連の決議があったとしても、国連だっていかがわしいことをするんだから、日本の国家の意思が働くという状況での軍隊の派遣は一切なし、と言っています。
 これと同じようなことを行っている人はいるのかと思ったら、岩國哲人さんがもっと格調高く言っていました。インド洋での給油とか、災害救助とか、そのレベルなら出して貢献したらいいけれど、しかし日本が行って居座ってと言うことは、国家の意思が働くからだめです。四川大地震の時に、中国は一切援助を受け入れない。居座るからですよね。だから警戒して。日本には4日目にいいと言いましたけど、私は一切派遣してはならないと憲法に明記するべきだと。国連が決議したとしても派遣すべきではないと。

【北岡】 政治勢力として、今の民進党が負わなければならない任務、発言、政治的な発言が必要でないですか。

【篠原】 必要です。だから国民の声を聞けばいいわけです。憲法改正なんかだめだって言いますよね。原発もだめですよ。TPPも、都会の人はどのくらい知っているのかわかりませんけれど、一定程度は反対でしょう。それを吸収しようとするところが、欠けすぎていますよ。

【北岡】 今の憲法改正、原発、TPP、それから沖縄、普天間の移設問題ですよね。今の日本の国家が抱える大問題、大方針、これに対して、われわれはきちっとした方向を見据えていないのではないか、と感じているんです。意外とTPPってピンときていない。特に都市生活者は。

【篠原】 それはそうですよ。全然。

【北岡】 「何かよく知らないけど、わからないけど、世の中の流れだろう、グローバル化だろう」と。

【近藤】 だからそれはやっぱり、TPPは漠然と自由貿易というか、戦後ずっと日本が貿易国家として、ものを作って輸出してきた、そのなかで日本が経済成長をしてきたという感覚の中で、やっぱり自由貿易は重要だという感覚と、TPPが結びついていると思いますよ。ただ、TPPはそうではなくて、ギャンブル資本主義とか、さらにもっと違うもので、対等に自由にものをやりとりしていくと言うよりも、大きな資本が市場を支配していくという点、そこに対する警戒感がいささか弱い、弱かったのではないかと思います。でも最近、TPPの問題点についても、かなりの人が注意を払うようになってきたんではないかと思うのです。

【篠原】 それは簡単なんですよ。国会の質問で安倍さんも困っていましたけどね。憲法はアメリカに押し付けられたから、ぜったい自分で作るんだといいながら、TPPのアメリカのルールを進んで受け入れるなんて、矛盾しているんじゃないかと。「日本はちゃんとルールを作って、日本のやり方でやっていくんだ、文句あるか」というのが安倍さんの姿勢なのに、なぜそうなるのか。聞いても黙って答えない。

【北岡】 それは国会で質問をされたんですか。安倍さんの答えは?

【篠原】 答えはなしですよ。信じられないと思いますけど、私の質問に対しては、きぃーっとなってぎゃあぎゃあと言ったことはありません。そう言えないような質問の仕方をしてますけど。これが典型的ですけどね。だから安倍さんは矛盾だらけですよ。TPPはアメリカのルールを押し付けるものですよ。だから、東南アジアや他の国は、怖がって入らなかったですよ。通貨危機で、フィリピンもインドネシアもタイも。

【北岡】 ところがそのアメリカでも、TPPは反対の声が非常に根強くて。

【篠原】 まともな人はみんな反対ですよ。

【近藤】 アメリカの中でも、みんな肌で感じているからではないですかね。アメリカとどこかの国、国対国と言うよりも、国の中でも人々が分断されて、それぞれが違うわけですから。特にふつうの人々にとっては、国としての数字がよくなっているかもしれないけれど、そこにいる人たちには決してよくはなっていないと。TPPの合意文書は何千ページもあると言いますが、結局その中に書かれているのは、大きなところの権益をどう守るかと言うことが細かく書き込まれているわけでしょ。

【篠原】 企業のいいなりに作り替えようというのがTPPで、だからアメリカ国民も内容はあんまり細かく知らなくても、そういう得体の知れないものに、自分たちの生活を脅かされるのは嫌だという、漠然とした不安でみんな反対している。日本はそこは全然情報公開がされていないから、能天気になっているんです。

【北岡】 アメリカの今の大統領選挙の大きな争点でもあるんですよね。アメリカは白人の国だと思ったら、徐々にマイノリティが多数派になってきているという状況で、2048年頃には逆転する見込みです。カリフォルニアなんかはすでに逆転しているんですね。この「自由アメリカ」で成長していけるはずが、とれるものはみんな上の1%とか1割が取ってしまって、あとはみんな貧しい生活を強いられているという状況です。アメリカンドリームはなくなってきているということは、いまの篠原さんのお話もそうですが、アメリカでも現実なんですよね。阿部さんはこの2人の議論をどうご覧になりますか。

【阿部】 アメリカで、例えばトランプさんが、日本に対しても、アメリカの金を使うのはけしからんとか、アメリカの兵隊の命を使ってやってるんだからと、国家を前面に出してくる。同じようにTPPにも反対していると思うんですね。サンダースさんは国家以上に、格差が国民の中にも広がって、それが世界中に広がって、世界格差現象というものがTPPの本質なんだと言っている。2人とも反対しているけれども、反対の理由に国家をもってくる場合と、国内外においても勝ち組負け組ができているという点に、着眼するのとは違っています。

 このことについて言えば、日本もTPPでグローバル経済で、世界のルールができたらいいじゃん、と言いますが、どんなルールかというと、一部の金持ちの金持ちによる、金持ちのためのルールなんだから、誰も幸せになれないよ、普通の人は豊かになれないよ、ということなんだと思います。
 TPPは難しくて、私の選挙区では都市農業が盛んですが、それでもよくわからない。農協は反対しているけれど、市民は自分たちが困らなくて、食べものが安くなればいいのでは、という考えすらあるという状況。でもそうではないんだと。
 医薬品も働き方も、あなたが普通の暮らしができなくなることなんだよ、ということがどこまで伝わっていくかですよね。ただ、民進党の中では、やっぱりこのグローバル・ルールはいいんじゃない、という声も決して少なくなくて、まだ経済成長に幻想をもっていたり、反対に、それが何か新しい世界を作ってくれるかもしれないと思っている人もいる。

【北岡】 そういう期待感がある。

【阿部】 ええ、自民党の中より民進党の中に多いのではないかと思うくらいです。どちらかというと、田舎から出てきている自民党の議員は、根っこにおいてTPPにはやはり本当は賛成できないと思っていると思いますね。自民党でも例えば、安倍チルドレンみたいになって、一気に議員が生まれるでしょ。その方たちは都会型になり、なんか浮かれて、いいかもしれないと思っているかもしれない。
 先ほど冒頭で、ある種分配の政策が終わったと言ったのは、結局人間にとって一番大事なもの、生きていく上で一番大事なものは、ものを生産していくこと、命を再生産していくこと、そういうことに一番の価値を置いた政党が必要なのであって、これまでの工業化社会で、たくさんの富を生んで、その分配とか、トリクルダウンとか、そういう時代が終焉して、世界は高度経済成長にはならないし、それでも人が生きていくときに、何が足元なのか、何が大事なのか、ということをもう一回考えた政治と政権が必要なんだと私は思っているんです。

【北岡】 まさに今日、伊勢志摩で世界のトップ7の指導者が集まって、国際経済をどうするかという議論をしているわけですが、どうもヨーロッパ、EUが抱えている問題も、難民やテロなど、かつてない大規模なEUのど真ん中で起きていて、それを阻止できない。100万という難民がドイツに来ている。そして、みんな命からがら逃げて来たものを、人権的に考えれば受け入れざるを得ないけど、いったいどうなるんだという大問題になっている。それに対して、今日のサミットでも、世界経済を云々言っているが、世界の政治経済のリーダー自体も古くなってしまっているんではないかと思います。

【近藤】 G7ですから、すごく大ざっぱに言えば、「勝ち組」の国というか、そこだけで話し合うことの構造的な問題があるのではないかと思います。もちろんそういうところに難民の人たちが逃げて来ていて、受け入れる側の国々が抱える課題があるわけで、それを議論することになると思うのですが、G7だけで議論していくという問題もあると思うんですね。ましてや野党の人間から見てみると、安倍首相はその中でひとつのテーマとして、財政出動みたいなことを、ドイツにも提案しようとしている。議長国が投げかけるテーマ、問いかけがおかしいのではないかと感じています。

【篠原】 サミットはかつての輝きを失っていて、形式的になっているのではないですかね。主催国だから一応やっていますけど、一番最初に三木さんが出た頃やそれから数年は、首脳同士が語り合って決めていくということはありましたけれど、今は事務方がそろえた宣言文をまとめて、ということになっていて、サミットは国際政治には影響はほとんどないと思います。リーダーシップがない。混乱状態だからますますわからなくなっているんじゃないですかね。今までやってきたルールが働かなくなってきているという。

【北岡】 こういう状況に対して、今のメディアがどう報道しているかと言うことは、民主主義においては非常に大事だと思うんですね。メディアがネガティブな報道をすれば、大衆もネガティブな反応をするし、今なんかは、みんな政権にこびているというか、政権の宣伝機関みたいな報道が特に目立つ。特に公共放送と言われているNHKの問題とか、私自身も不満があるんですが、メディアとはやはり、対権力との関係で、きちんと権力批判をしていく、少数意見を取り上げていく、それから声が上げられない人たちの問題を、取り上げていくというベーシックなことが、非常に後退してしまっていると思うんですが。

【阿部】 医療問題から言うと、メディアはなべて国民健康保険に冷たいんですね。メディアは大企業で、自分たちは組合健康保険のすごく恵まれたところにいるんですね。国民健康保険は農民とか自営業とか、昔から「国民」とつくものは、一番本当に困っているので、そこを国として何とかしなきゃ、というところが国民健康保険だったわけですよ。でもメディアは、このことひとつをとっても、知らない知ろうとしない。医療保険は命の基盤ですけれど、ここですら感覚はずれているなと、昔から思ってきたんですね。

 今だったら、地球温暖化ですよね。多くの人が飢えるかもしれない、異常な気象ですよね。日本のメディアって、ほとんど温暖化を取り上げませんね。これだけ美しい国で、いろんな生物多様性があって、それがもろともに失われていこうとすることも、伝えませんね。ひと言で言うと、見識がないというか、やっぱり何が危機なのか、ということについて、すごく近視眼的だから、本当に大事な命とか環境とか、そうしたことにはとんと疎いと思いますね。
 かつては戦争があって、報道の自由が抑制されたり、捕まってしまったりしたと。それを理由にしていたけれど、いまのメディアの感性の鈍磨は、何も安倍政権がニュースキャスターを外したかどうか以前に、やはり現場主義じゃないし、批判精神ないし、生きることに寄り添っていないし、と私は思っていますね。

【北岡】 にも関わらずやはり、政治はメディアと一体とまでは言えないとしても、裏表があって、メディアのバックアップがなければ政治は動かないのではないかと。今の政権与党である、安倍自民党に対して、メディアは一生懸命やっているけれども、それに対して、野党側の意見が非常に出ていない。SEALDs の動きにしても、やっていると言えばやっているが、例えば30秒とか1分とかであって、一方では、1時間も総理大臣に勝手にしゃべらせるようなことをやっている。そんなのおかしいよね、という点もあると思います。アメリカのメディアはもう少しヘルシーと言うか、ちゃんとずけずけものを言うし、逆にそれに対して批判したら叩かれるようなところもあります。

【篠原】 アメリカと日本とはやはり仕組みが違うと思いますね。アメリカは新聞はすべて基本的にはローカル紙ですよね、日本は5大全国紙がありますね。ドイツはヒトラーとゲッペルスが結託してしまったという反省から、放送法で国家がメディアを統制することは絶対に禁止していて、みんな州に任せて、国家の権限はないんです。フランスは、与党だけではなくて、野党の部分を対等に放映しなくてはいけないということで、分数・時間数を合わせているんです。それだけ気を使って、反対意見も一緒に放映するようになっているんです。日本はそれがない。

 日本について言えば、原発はまだ5大紙では主張に違いがありますよね。産経や読売はいけいけどんどんですが、毎日と朝日は原発に対しては否定的です。東京新聞は絶対反対です。だけれども、TPPに関しては、5大紙が全部最初から推進していたわけです。これは狂っていると思いますね。TPPの内容がわからない頃から、太平洋版FTAとか言っていた。これに対して、全地方紙はTPPに反対している。地方が壊れると言っている。こういう愚かな図式があるんです。

 だからメディアをしっかりさせるんだったら、アメリカも法律でやっているわけではないですが、ニューヨーク・タイムズはニューヨーク、ワシントン・ポストはワシントン、ロサンゼルス・タイムズはロサンゼルスなど、すべて州単位でやっているんです。そうすべきだと思います。
 国鉄を解体したように、全国紙を解体して、全部地方紙にする。国家はメディアに対して統制をしない。玉音放送で大本営発表でさんざん失敗したんだから、ドイツは失敗に懲りて、国家はメディアに介入せずと言う自らルールを作って、自制しているんです。日本は自制は一切なしで、変な方向に行っていると思います。知らず知らずのうちに。

【北岡】 近藤さんはいかがですか。近藤さんのやっていらっしゃる立憲フォーラムも、ある意味メディアがバックアップしている。報道してくれるから、大衆的に知られる。国会に集まる人たちもそれを見て集まってくる。そういう意味でのポジティブな側面もあるのではないか。

【近藤】 立憲フォーラムに関する報道も、「こんなにやったのに、あれ、翌日の新聞見ると出てない」ということは結構多い。東京新聞には出ている、でもそれでも、名古屋の中日新聞には出ていなかったりして、東京新聞も中日新聞も編集権を持っていて、やっぱり少し違うところがありますね。基本的にはベースは同じですけどね。去年の8月30日の国会周辺を取りまいた12万人の報道も、どこが1面で取り上げていたのか、全面で取り上げていたのか、半分ぐらいなのか、自分で分析もしました。あれだけのことが起きていたのに、もっとマスコミが全般的に取り上げるべきだったと思いますね。なぜ1面で取り上げないところがあるのか、と思いました。

 新聞というのは、どうしても広告収入にかなり頼るところがあって、やはり広告を伸ばすためには、発行部数を競い合うようなところがある。どうしてもそこにある種の資本主義的な競争原理が入ってしまうので、課題だと思いますね。テレビとか雑誌と比べれば、新聞はまだがんばっているという気はしますが。

【北岡】 篠原さんが先ほど、全国紙はTPP賛成だけれども、地方紙はほとんどが反対だと。この状況というのは、今の日本の状況を考えると特に、おもしろいというか、非常に重要なことではないか。地方紙のほうは、私も静岡新聞にずっと5年ぐらい書いていますが、もう少しまともな人がいっぱいいる感じがしますね。

【篠原】 自由にできるからでしょうね。静岡も相当遅れてきた高度経済成長の恩恵を、今も浴し続けている太平洋ベルト地帯ですが、やはり考えてみると、静岡だってTPPは嫌だとなると思います。そういう意味では、東京一極集中が一番激しいのは政治家だと思います。どこで生まれ育った政治家が多いかと言えば、東京生まれの東京育ちで、その次に集中が激しいのは、マスメディアで、5大紙は地方ではそんなに強くないですからね。長野県では信濃毎日新聞が圧倒的です。茨城県の南の方は全国紙ばかりで、首都圏支部になっています。5大紙が国民の声だとなってしまっていて非常によくないと思います。

【北岡】 今の日本の政治状況、思想状況について、もう少し公平・公正、権力に対してもきちっとものを言う政治勢力を増やす、高めていく必要があると思うんですが、7月10日に選挙があるのだから、目の前、近視眼的に言えばそこで勝たなければならない。篠原さんは全野党結集しろとおっしゃっていて、まさにその通りで、そこで戦って、今の政権の議席を少しでももぎ取らないといけない。やはり、われわれがこういう状況の中で、もっと何をやらなければならないのか、ポジティブに、未来志向で議論を進めていかなければならないと思います。阿部さんはいかがですか。

【阿部】 私は先ほどから、悪態をさんざんついていますが、それでも民進党にいるわけです。私の個人履歴を言うと、社民党に12年いて、社民主義という分配の時代ではないだろうといって、環境政党を作りたいと思って、未来の党を立ち上げて、しかし失敗して、そのあとみどりの風というのを作って、これも失敗して、結果、日本における二大政党の中で、何とかあがくしかないんだと、自分でかじを切ったわけです。
 本当はすごく残念だし、私の本当にやりたいことにあった器ではないなと思いながら、でもやはり、現実政治家をやっている限り、それは国民の付託に負ってやらなければならないことがあると思って、そのためには、2つしか選択肢がない。自民党か民進党か、公明党と共産党には行けないし、そうなると、民進党の中でできるだけかったつな議論をして、どうやって民主主義を定着させていくか、ということだと思うんです。

 私が非常に残念なのは、民進党が政権与党病になっていて、一度与党になったことから、やっぱりきちんと対案、対峙する哲学を提示し得なくなっていることです。沖縄にしろ、TPPにしろ、原発にしろ、外交にしろ、「政権を取ったら、次こんなこと言ってたら、また失敗しちゃうよね」という恐怖感にとらわれて、本当に成熟した野党になっていないと思うんです。私はここは、しっかり民進党はやっぱり野党として立つ、それは、「今の自民党に吸収されない声の全てをこの党は受けて立つぞ」という覚悟なんだと思います。
 第2自民党だったら、民進党はいらない。そう思っているので、民進党の中でも絶えず造反分子で言いたい放題を言い、私は原発政策なんかもこの前も再処理法案に反対しまして、しかし、それは民進党にとって大事だと思うので、悪いことをしていると言うよりは、私こそ、民進党を鍛え、変えるぞ、という強気なものなんです。

 ただ、今ひとつ、反吐が出るほど悲しいのは、なぜ沖縄で女性が暴行され殺されたことに対して、民進党が、民進党こそ、日米地位協定の改定を、真っ先に掲げて、この女性の死を本当にもう起こさせないぞ、ということを言っていくべき時に、なぜそう言わないんだろうと。人の死をそんなに軽んじているのかと。私は実はこれが一番悲しいですね。つらい。嫌になってぶち切れてしまう。オバマ大統領と安倍総理が握手したって、あの手の中には、女性の死があるんだぞって思いますね。何の同盟なんだと。命殺して同盟もへったくれもあるものか、と強く思っているので、いまそういう感覚を、民進党が持てていないことが悲しいですね。だけど、悲しんでも始まらないから、やり続けますけど。

【北岡】 民進党はこの地位協定に対しては変えるとは言っていないの? 言っているんじゃないの? 安保条約に関しては、問題は地位協定で、細かいことは全て決まっていて、そこに手は出せない、やられっぱなしみたいなところがある。だから、冗談じゃないよ、それを変えなさいと言う、対米交渉をしないといけないと思いますが。

【篠原】 そう思います。軟弱な態度は取ってはいけないと思います。だけど、いまこういう問題が起きているから、われわれのマニフェストも明確に書いてやっていくべきだと思いますけどね。だけど、沖縄では軍があっても、本土の人はそんなに感じないから、しらばっくれて何にも書かない。

【北岡】 マニフェストには入っていないの?

【阿部】 「あり方を検討する」となっています。ただ、実際には日米地位協定の「改正」ということは、かつての3党連立政権で決めたんですよ。民主、社民、国民新党で、改正案まで作ったんです。でもそれは、政権を取った民主党がやらなかったことなんです。この件は、私自身と当時の民主党の幹部、国民新党と3党で形にまでしましたから。私は日米安保を廃棄とは言っていませんよ。日米安保は堅持です。だけど、この地位協定が結果として、治外法権の基地で、女性たちが幾度となく蹂躙されている。これを起こさせている本質なんです。

【北岡】 今回の事件は、1995年に起きた事件以来の関心はあると思うのですが、やはり基地がある限りはそういう悲劇が続く。

【阿部】 それだけじゃないと思います。基地がある国でも、とりわけ日本とアメリカの関係は。韓国だって暴行事件の後に変わっていっています。ドイツでも改定が行われている。一方、日本の奴隷根性というか、それが女性たちを血祭りにして、犠牲にして、殺している。私は本当に眠れないくらい。私自身は自分の立場、ネクストキャビネット男女共同参画担当なので強く言いましたけれど。

【近藤】 日米地位協定で言うと、米軍に対する除外規定、例外規定を設けていて、入管に関することもそうですが、阿部さんがおっしゃったような隷属するような、アメリカには法律を適用しませんよとか、そういう構造が根本にある問題だと思いますね。そういう意味ではまさしく、今こそというか、ずっとですが、改めて日米地位協定を改定する、改めるんだという行動を、安倍さんこそ、日本を取り戻すというなら、取り戻してほしいと思いますね。

(*その後のマニフェストの討議の中で、「日米地位協定の改定を提起する」ことが書き加えられることになりました。)

【北岡】 明日、オバマさんが広島に行くことになっています。私自身、オバマさんの本もずいぶん読みましたけど、政権ができたときに、任期中に必ず広島に行くぞ、行く可能性があると、私は学生にも言ったこともあります。日本のリーダー、日本の総理大臣が真珠湾に行って、慰霊に行って、アメリカの大統領が広島に来て、長崎に来て、慰霊をすると言うことが、歴史的にこの問題を解決する第一歩だと、40年くらい前に書いたことがあります。
 それが、今回先に、アメリカが一歩先んじて、オバマさんが広島に行くという。見ているとわかるんですけれど、ルース前大使が行っているときから考えているんです。オバマさんが関心を持って見ているんです。ルース前大使が行って反応を見て、ケネディ大使を出して反応を見て、最後に国務長官まで出して反応を見て、行けると思ったから、最後に本人が行くと。政治だから当然国内にはいろんな意見があるから、大統領だけが突破していくわけにはいかんと。ついに今回、そういう時代を迎えたと。ある意味では歴史的に大きな意味のある動きじゃないでしょうか。

 歴史はいい意味でも悪い意味でも動くんですが、今日本は、非常に大事なところに来ている中で、リベラルの人たちの考えについて言えば、政治的な動きが少し少ないのではないかと。一方で国民の中には横溢していると思うんですが、どうでしょうか。

【篠原】 アメリカは何かにつけて国家戦略があって、長期戦略があって、オバマさんは「核なき世界」のプラハ演説をした頃からも、彼のレガシーはここにあって、広島訪問は最初から織り込み済みだったと思います。来るというのは大統領になって、8年の任期の一番最後で、文句を言われなくなったころですが、相当いろいろ言われたって、来たと思いますね。8年間の中で、シナリオを作ってあったと思いますね、完全に。

【北岡】 戦略ですよね。

【篠原】 そうです。日本は何か起こったときに対応するだけで、長い長期的な戦略を作ったりしませんからね。TPPもそうですが、アメリカは、関税でどうこう言って、こんなのだめだと言ったとしても、ルールを押し付ける以外にないと判断して、それからずーっとやってきている。日米構造協議以降、年次改革要望書を通じて、あれ直せ、これ直せ、と言い続けてきている。それの条文化がTPPなわけです。25年、同じ路線に沿ってやってきている。日本は言われたら対応するということで、そこそこはうまく対応するのですが、アメリカは織り込み済みだと思います。

【近藤】 アメリカが大きな意味でもっている大国主義は好きではないではないですが、民主主義を大事にしていこうというところはやはり、いいところがあると思うんです。よく私も言っていますが、沖縄の返還の時の密約でも、やっぱりアメリカはちゃんと公文書として出てきたけど、日本の外務省は、「いわゆる沖縄密約」という形で、正式には認めていない。
 最近だと、一部のマスコミには取り上げられましたけど、辺野古の新基地建設に関連して、当時の鳩山首相に外務省と防衛省が、米国の内部規定に65カイリ(120キロ)があるとして、辺野古しかないという文書を出したことがありました。このことも外務省と防衛省を呼んで、私も問い詰めましたけど、認めないわけですね。ないとも言わないし、あるとも言わないし、確認できないという本当に曖昧なことばです。つまりいろんなことに対して、記憶が薄れ、記録がきちんと残されていない、あっても表に出されない。こうした中で、より良いあり方、時には国も人も間違えることもあると思うんですが、それをどうカバーしていくと言うことが残念ながらない。すごく弱い。

 そういう中で、オバマさんが広島に来るというのは、アメリカの国内でも様々な意見があるし、様々な勢力があると思うんですが、そういうものをいかに乗り越えながら、自分の思っていることをやり遂げるかということですね。やっぱり戦略的にやってきたんだと思いますね。謝罪をするとかしないとか、いろいろと意見はありますが、やっぱり広島に来ることによって、ひとつ歴史を動かしていくことになっていくと私は思います。

【阿部】 沖縄の女性の暴行殺人事件があり、そのときのオバマの対応を見ていると、アメリカって、謝罪って本当にしないんですよね。日本人は簡単に「あ、ごめんなさい」ってすぐ詫びちゃうけど、アメリカにとって謝罪って、何につけても非常に重い。文化の違いもあると思いますけれど。非を認めた途端に、次の自分たちの行動が問われるものなんだと思います。その意味で、この核兵器の使用というのは、人類に対しても冒涜であるとオバマさんが心から思い、それを起こさせた、日本の当時の戦争における様々な問題もあったとは思いますが、戦争を起こしてそこで核兵器が使われたということについては、私はやはり犠牲者に謝罪をしてほしいですね。それが核廃絶の本当の道だから。謝罪がどうでもいいとは、私は実は思っていません。

 ただちょっと不安になるのは、例えば女性の暴行問題でも、最初から日米地位協定を変えないってオバマさんは言わざるを得ないのですよね。そういう態度で、あれだけの犠牲があり、亡くなっていった死者たちの死が、逆にごまかされたら、もっと私は死者は報われないと思います。これはオバマさんの心の中にあることです。本当に核兵器を二度と使わないという思いを持つか否かです。そこを確実にするような運動を、日本もしていかなければいけない。
 でも日本は、横畠法制局長官曰く「我が国の憲法は核兵器の使用を排除しない」。みんな二枚舌。死者の前にみんな二枚舌だと思ってしまうので、私は核廃絶、核を二度と使わないということは、全世界の人々が、本当に心からそう思えるような状況を今作っていかないと、すごく危険だと思います。核は拡散しているし、北朝鮮の問題もある。

【北岡】 核兵器、核弾頭の数は少なくなっているけど、核は拡散していますしね。
 今回はメールマガジン・オルタに掲載することを前提としてお話をいただいたわけですが、私もやはりメディアの人間として、もう少しメディアと議員・政治家がコミュニケーションをする、人間的にもっと付き合っていく必要があるなと思っているんです。私が国会で秘書をしていた頃は、メディア対策というか、メディアと付き合うことは、私の仕事の7割ぐらいだったです。議員の原稿はほとんど私が書いていまして、出す前に議員と相談しますけれど、今はメディアとの交流というか、そういう動きがあんまり見られないんですね。民進党には特に。
 正直私もびっくりしたんです。メディアのことを知っていると言っても、自分の地元の新聞記者の名刺を持っていると言うことぐらいです。メディアにもまともな人はいっぱいいるわけだから、メディアにきちんとした情報が流せることも大事だと思うんです。

【阿部】 でも話しても記事に出ないです。私なんか原発ゼロの会をこの4年必死にやっているけれど、本当に出ない。

【北岡】 ただそれは、ウェブ媒体にはよく流れていますから、知っている人は知っている。流れる道はあると思うんです。篠原さんもずいぶん一生懸命ブログをお書きになっています。

【篠原】 しつこいブログだと思っています。

【北岡】 大きなマスコミに頼るのではなくて、大きなマスコミと交流しながら、利用していくというか、それが肝要だと思います。いま私が小さな地方紙で書いているコラムも、やっぱり書くと反応はありますし。
 今日のお三方のお話の中にあった覚悟を、横にも縦にも、深化もさせるし仲間も増やす。それは保守でも革新でもいいのではないか。政策的には原発、憲法、沖縄、TPPといったものになってくると、向かい合って構えてしまうから、それはそれで議論の場でやればいいんだけれど、もう少し人間的な交流が必要がではないかと。

【近藤】 今日のメンバーは人間的な交流はずいぶんとやっているほうだと思いますが、他の人は足りていないところがあるかなあと思います。私自身は、いろいろなことが複雑で、単純なことではないので、そういう意味でも、ときに記者さんたちとか、背景などもゆっくり話さないといけないと思います。党のしばりもありますが、阿部知子さんは激しく党批判をされていますが、ここにいる3人は、党の中ではいつも戦っているというか、党の中でいい意味で議論をしています。ただ時には、「なぜここで戦うのか」と思うときもありますね。

【北岡】 私は社民党には批判的だったんです。原則論しか言わないし、現実論は言わないしということで。福島さんは激しく護憲だし、土井さんもそうだったんだけれど、そういう政治家もいてもいいのではないか。でも政治は、ふくらませていって大きくして、勢力にしていかないといけない。

【篠原】 そういう意味では、リベラル勢力は膨らませる能力が圧倒的に欠けています。私なんかは政権を取るためには、嘘を言って、すべてをかなぐり捨てて、とまでは言いませんけれど、そこは広い心でやらないといけないと思いますね。なかなかそうなれない人が多くて、結集する仕方がなってない。

【北岡】 それはどうしてでしょうか。

【篠原】 まじめな人が多すぎて、ちょっとでも自分と違うものがあると嫌だと言って、そういう人たちが多すぎるからじゃないですか。私なんか最初から意見は違うものだと思っているから、別に何とも思わない。だけど、意見が合わないと絶対嫌だと思っている人が多すぎる。

【北岡】 政治って言うのはもともとそういうものでしょ。意見が違い、利害が違うものを調整していきながら、国民のために、こうするのが最もいいんだということで、そこはもう人間力ではないかと。人を引っ張っていくようなパワーみたいなものが、最近の若い人にはないんじゃないか。

【近藤】 ただし、そう考えるとメディアの責任だけにしてはいけませんけれども、民主党の3年3カ月の政権運営のネガティブな面に、実態以上にスポットが当たっていたように思います。負の遺産として。いろんなことに時間がかかった。ばらばらになった課題ももちろんあります。しかし、国民のみなさんの中にも、いろんな意見がある、それを党内でもいろんな意見としてぶつからせてきたことを、ネガティブに報道しすぎた部分はすごく多かった気はします。もちろん政党ですから、ひとつの理念、政策で近いことは近い。が、右と左で違うところも多いじゃないか、という批判が正しい部分もあったかもしれないけれど、もう一方で、時間をかけて議論をしたりすることに対して、非常にネガティブなものが報道の中にあったんではないかと。もう一方で、国民のみなさんの受け止めの中にも、すごく早く決めてほしいとか、そういうものがあって、やっぱり民主主義って時間がかかって、あるときにはいろんな意見があって、ぶつかってきたほうがいいってことが、もう少し広く受け入れられてしかるべきだったのではないか。

【篠原】 具体的なことで考えてみると、野党統合というときに、大阪維新となんか絶対嫌だと言うわけですね。私はそういうことは言ってはいけないと思う。野党統合をして自民党を倒すという気持ちがあるんだったらいらっしゃいと。私が前原さんに「長島昭久さんと同じになったらだめよ。政権奪取のためには、社民党と一緒になってもいい」と言ったら、「いや違うんだ」と言われるから、「そういう風に言わなきゃだめだ」と私が言うと、彼はどこまで実行するかは知りませんけれども、「わかりました」と言っていましたよ。そういう度量というか、成熟してくるとそういうこともできるんだと思います。
 亀井静香さんが村山富市さんと組んで、政権奪取をするわけです。村山さんもそれを受け入れたし、亀井静香さんもやろうと言って、やれる、それを許すと。だけれども、わが党のみなさんの中の大半は、そういうことをあんまり許さないという人が多いんじゃないか。

【阿部】 右も左もね。

【篠原】 だから保守勢力のみなさんには、ぼくのほうがよっぽど保守だと。まあ保守とかリベラルとかよくわからないんですが、「何を言ってるの、安倍、石破ぐらいで」と。「われわれが政権を奪還したときは、右巻きでやったんだ。だから次にわれわれが政権を奪取するときは、左巻きしかないんだ。だから強く言わずにしばらくだまってろ」と言って、説教垂れてますけど。

【北岡】 左と言えば、社共と言って、共産党の問題があるじゃないですか。私も共産党に対して、ネガティブなんです。なぜかというと共産党が、70年の歴史があって、けっきょく何をやったのと言うと、中国もベトナムも、暴力的なこともあったし、政権以外の言論を封じるようなことをずっとやってきた。それとはだいぶ違う、アメリカ的なリベラリズムというか、みんな意見があるんだけれど、政権をみんなで担う、最終的には決めなければならないけれど、勝手に言われてもいいじゃないか。そういう度量が今の若い日本の政治家には、あんまりないような気がするんです。

【篠原】 今の自民党になって、安倍さんも独裁体制になっていて、やっぱりひとつには制度ですよ。小選挙区制がそうさせていると思います。生殺与奪権を全部、総裁・幹事長が握っていて、おまえこれやったらもう公認しないぞと。これはやっぱり非常によくないなあと思います。

【北岡】 最後に7月10日の選挙をどう戦いますか。

【阿部】 私は神奈川ですから、4人区です。過半数の3議席を共産党と民進党で取りたい。政党のことでひとこと言えば、私は首班指名以外は党議拘束はなしでいいと思うんです。首班指名はばらばらしたらだめだけど、他のことは度量を広く構えないと、二大政党なんかできない。
 もう民進党、民主党時代からの悪癖は、消費税問題で反対した誰かをポイ、原発問題で誰かをポイ、沖縄問題で誰かをポイ、このポイされるのはみんなリーダーなんですけれど、そんなことをしていたら、みんなせまくて、ものを言わない政党になります。闊達な議論をするために、私はあえてその役を担おうと思って、言いたい放題ですけれど、私、別に処分されても困らないし、党の中でポスト第一とも思ってないし、むしろそれよりもっと大きいものを得ようと思っています。

 でも若い人はなかなかそうなれないから、そうであれば、党の仕組みを変える。首班指名以外はいっさい党議拘束なし。それくらいだって溶解・融解しています、中身は。ただそこで、論議をちゃんとできるってことを担保していったら、いい政治家がちゃんと育ってくると思います。小選挙区制が覆せれば別ですよ。でも、選挙区制度を変えることほど大変なことはなくて、その過程でも政治は低迷するわけにいかないとしたら、そういう道しかないと思います。

【近藤】 どう戦うかというと、愛知県も4人区ですから、私は地元では4人のうち4分の3を、いわゆる野党勢力が取るべきという目標。1人区はひとりにしぼることで、野党共闘、野党連携が見えやすいわけですが、複数区では、野党はそれぞれの候補者が戦うわけで、野党同士といえども1票をいただくために競争をするわけで、その中で4分の3をとっていこうということを、できる限り見えるようにしていくことだと思います。相手は自民公明与党ですから。
 そういう意味では、全国的な動きは、はっきり見せていくことが必要だと思います。党として、野党が一緒になってがんばっていくっていうことを、しっかりと行動で表していくべきだと思います。そういう意味では、野党が一緒にやっている、野党が共闘しているという姿を、もっと民進党がリーダーシップをとって、岡田代表が引っ張っていくという状況を、もっともっと見せてほしいと思います。

【篠原】 長野は1人区で、杉尾ひでやさんという方で、落下傘ですが、知名度はあります。一番乗りの野党統一で、ちゃんと政策協定を結んで、ホテルで並んで記者会見をして、紙まで作って、民進党の大方針にはちょっと反するんですが、北沢俊美さんが代表でやっていることで、だれも文句は言えないという状況でした。
【北岡】 取れそうですか。

【篠原】 長野が取れなかったらどこもとれないでしょう。2013年と同じ結果になってしまうんじゃないですか。長野、宮城、山形、岩手あたりは非自民になると思います。今回の選挙のことなら、私は今でも遅くないし、大野党統合をすべきだと思います。選挙前の大野党統合は確実にプラスに票になりますし、社民党は割れなくてすむし、近藤さんの言うとおり、岡田さんが頭を下げて、いっしょにやっていきたい、ぜひいっしょになってくれと、いって歩くべきだと思うんです。

【近藤】 生活の党も今度は厳しいでしょうし。

【篠原】 これは私は秋から言っているのに、岡田さんが全然動かないんですよね。

【北岡】 前回の選挙で、安倍政権にあれだけ取らせたというのは、やっぱり野党側の力不足です。たしかにおっしゃるように、民主党政権に対する、失望感、絶望感もあったけれども、野党がばらばらになって、票を食い合ったら、もう絶対に自民党にはかなわないわけだから。私自身はやっぱり、鳩山、菅、野田という政権に対する、歴史的な戦犯的な意識を持っているんだけれども、これはもうしょうがない。そこにもう一回、基本を組み直すと言うことでは、みなさんに期待したいところです。

・出席者  阿部 知子 衆議院議員 6期  民進党
      近藤 昭一 衆議院議員 7期  民進党
      篠原 孝  衆議院議員 5期  民進党
・司会   北岡 和義 ジャーナリスト・前日大教授

※この記事は2016年5月26日に衆議院会館で行った座談会の記録を出席者全員に校閲を受け掲載したものですが文責はオルタ編集部にあります。


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